「キャラクター性よりも、原作に描かれている人間の業とか心情を表現することが、小説を演劇にするというこの舞台では大事なことかなと思うので、諸戸が蓑浦を愛する気持ちを真摯に表現したい」と語り、「江戸川乱歩が書いた美しい言葉も、その人間の気持ちを伝えるためのもの。“~したまえ”というような現代にはない言い回しもきちんと表現して、乱歩の魅力や作品の深さを感じていただけたら」と付け加えた。
蓑浦の恋人・初代が殺されたことに始まる物語は、事件の解明を委ねた友人・深山木の怪死を経て、やがて、予想もつかない事実を明らかにしていく。「人を愛するがゆえに壊れる、狂うというのは、誰にでもあり得ること。人間の強い思いに共感してもらえたら嬉しい」(藤森)、「普段の生活では蓋をしている部分が表出するような物語。怖いからこそ興味を持たずにはいられないと思います」(鯨井)と、藤森と鯨井がこの物語の魅力を語れば、「舞台を観ながらも本を読んでるような感覚になる。そんな世界を丁寧に作っていきたい」と崎山が決意を見せた。自らの心の奥底にあるものも放出しながら演じようとしている役者たち。
江戸川乱歩が描いた無垢で哀しい愛の世界は、真に迫るものとなるだろう。