日本人の母とドイツ人でナチス党員の父を持つカウフマンは親友のカミルを庇った為ユーゲント(ナチス党員養成所)に入れられてしまう。やがてヒットラーに傾倒していき、命令とあらば簡単に人を殺す男に変貌していく。成河は「カウフマンは自分が何者かもよくわからず、どこに属していいのかもわからない。彼のもつアイデンティティの曖昧さは共感できます。この物語は決して純粋で善良な市民が悪に手を染めていく話じゃない、“正義と正義の戦い”の話なんです」と語る。
本作を舞台化したいと思った理由を栗山に尋ねると「今の時代、過去があるから現在がある、当たり前のことなのにそこから遠ざかってしまっているでしょ」と言う。ホロコーストという苦い歴史もまた過去の事実だ。栗山は「国境を渡れば、民族、宗教、言葉、食べ物だって違う。
それをひとつにまとめることはできない。世の中には多様な価値観があるんだと認め合うことが健康な世界のあり方なんです。この作品を通して一番伝えたいことです」と力を込めて語った。現代史への無関心が広がりつつある昨今、アドルフたちが生きた時代を知ることで、現在のわたしたちがいる世界を改めて見つめ直す作品となりそうだ。