笑いながら息を呑む『物理学者たち』開幕、草刈民代ら緻密な役づくり光る
撮影:遠山高広
現在上演中の『物理学者たち』において、開幕2日目の公演を鑑賞した。
スイスの劇作家フリードリヒ・デュレンマットによる戯曲を、ノゾエ征爾の上演台本・演出で立ち上げる本作。とあるサナトリウムを舞台に、自らをニュートンやアインシュタインと名乗る精神病棟の患者と、院長をはじめとする施設スタッフらの会話で構成される。第二次世界大戦での原爆被害も記憶に新しく、ベルリンの壁建設や水爆ツァーリ・ボンバの爆発実験など世界情勢が緊迫した1961年に執筆され、時代背景にあった科学技術をはじめ、"核"をめぐる人間のモラルと欲望が描かれる。
──と説明すると一見難しい作品のように感じるだろう。しかしシリアスな内容の中にはふんだんに“笑い”の要素が盛り込まれており、130分(休憩含む2幕)の上演時間があっという間に感じられた。精神病棟の患者による看護婦殺しの顛末が明かされるサスペンスでありながら、浮世離れした各キャラクターのシュールな掛け合いに客席から笑い声が漏れてくる瞬間も。
草刈民代演じる院長はサナトリウムの責任者であるにもかかわらず、2度目の事件が起こっても悠然と警部(坪倉由幸)に渡り合う底知れない人物。