撮影:田中亜紀
6月4日(土)、『恭しき娼婦』(演出:栗山民也)が新宿・紀伊國屋ホールで開幕した。タイトルの"娼婦"は、アメリカ北部から南部へとやってきたリズィー(奈緒)のこと。彼女は、無実の罪を着せられて逃走する黒人青年(野坂弘)と出会うが、彼女に虚偽の証言をさせようと迫る街の権力者と、その息子フレッド(風間俊介)らが次々と部屋にやってくる。
リズィーの魅力が、物語をぐいぐいと引っ張っていく。くるくると表情が変わり、背筋がすらりと伸びてしなやかに動く。とびあがったり、頭をかきむしったりと、喜びや怒りを表現する。報酬を受け取るのに「いくらか当てる!」と目をつぶって足の指先までふるわせる姿はとてもチャーミングだ。奈緒の演じるリズィーから、動物的な生命力の輝きが放たれている。
また彼女は尊厳や意思を持っている。安く買い叩こうとする客には「受け取らない!」ときっぱりと拒絶する。自分を蔑んでくる相手には、毅然と立ち向かう。
尊厳を持つリズィーに影響を受けていくフレッド。社会的に地位ある家に生まれ、周囲の期待を背負うフレッドは、リズィーとの出会いで価値観がゆらいでいく。風間は、フレッドの戸惑いを、仏頂面のなかに声や動きで苛立ちを込めながら演じる。