が、カスパーの身体を動かしていく様子もまた、本人の意志とは無関係にコントロールされているようだ。新しいコミュニケーションを獲得していくようにも見えるけれど、がんじがらめな抑圧を感じ、苦しい。
それら身体表現によってカスパーの内面を描く演出を手掛けるのは、ウィル・タケット。長年、英国ロイヤル・バレエで活動し、最近では舞台『ピサロ』(2021年/渡辺謙、宮沢氷魚ら出演)でも、身体的な演出でダイナミックに表現した。脚本は、世界的にヒットした映画『ベルリン・天使の詩』の脚本家であり、2019年ノーベル文学賞受賞作家のペーター・ハントケの初期の戯曲だ。池田信雄の新訳により、今、あらためて「言葉」について向き合う。
誰もが、子どものうちに言葉を覚え、ルールを覚え、社会に出るための教育(調教)を受けてきた。それに順応できず、息の詰まる思いを抱える大人もいる。
また、生き抜く武器として「言葉」を手に入れても、ある部分では折り合いがつかない辛さは多くの人が経験あるはず。人間社会に馴染むための苦しみを、強烈に追体験する舞台だった。東京公演は3月31日(金)まで。
取材・文=河野桃子
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