岩松了作・演出の新作舞台。兄妹の謎めいた物語に翻弄される楽しさ。
しかし、そうはいかないのが岩松作品だ。
その鍵となるのは、銀座の街を浮遊している若い浮浪者のとみ(青木柚)とのぼる(櫻井健人)の存在。とみによればイズミたちは自分の作った兄妹の物語の登場人物であり、そのとみはイズミにしか見えていない、という不思議な状況が展開する。のぼるがイズミ以外の人に見えたり見えなかったりするのも、どういうことなのだろうと頭を動かすことになる。彼らは一体何者なのか。いや、彼らばかりではない。イズミとアキオ、アキオと葉子、葉子と田宮の会話を聞いていても、人の心や人と人の間にあるものはやはりミステリーだと思わされる。何とか読み解こうと、観ているほうはセリフに集中していくほかない。
そこにふとカモメが飛んだりするのも、謎めいていて楽しい。
そんな入り組んだ話の中を頑ななほど正しくまっすぐ突き進むイズミだが、フレッシュに演じる黒島結菜の姿が物語に切なさを増す。アキオの井之脇海は揺れる男を誠実に見せ、葉子の松雪泰子、田宮の岩松了からは、大人の危うさがこぼれ出る。クールな青木柚とコミカルな櫻井賢人のやりとりにも引き込まれる。この役者陣が確かに連れて行ってくれる、現実と夢想が混在するような世界。