賭博の対象“ムエタイ”がセレブを魅了するスポーツに変貌
ムエタイのステータスを変えたスター、ブアカーオ
だが、タイにおけるムエタイのステータスは、実はこれまでそれほど高いものではなかった。競技が賭博の対象とされてきたことや、貧困層のスポーツというイメージが強かったためだ。貧しい家庭に育てば、「女は売春婦、男はムエタイ選手になるしか生きていく術はない」などとも言われてきた。国技とはいえ、尊敬や憧れの対象にはなっていないのが実情だった。
その状況が近年、大きく変わり始めている。きっかけは日本の格闘技ファンにもよく知られるタイ出身のムエタイ王者、ブアカーオ・ポー・プラムック選手の出現だった。世界に認められるスーパースターがムエタイ界に登場したことで、ムエタイを取り巻く状況は一気に好転していった。
写真提供:タイ国政府観光庁
ブアカーオ選手は1983年、カンボジアと国境を接するタイ東北部のスリン県に生まれた。
多くのムエタイ選手たちと同じく、家庭は貧しかった。8歳でムエタイを始めると、タイ国内でタイトルを次々と獲得。2004年、21歳の時に日本で開催された「K-1 WORLD MAX」に初出場すると、圧倒的な強さで勝ち進み、決勝戦では前年のチャンピオンだった日本の魔裟斗選手を倒して優勝を飾った。