株式会社実業之日本社は、作家・恩田 陸さん『いのちのパレード』の文庫新装版を2023年10月6日に刊行いたします。本書は、2010年に実業之日本社文庫の創刊ラインナップとして刊行。短編の名手としても定評ある著者が、ホラー、SF、ミステリ、ファンタジーなど、小説のあらゆるジャンルに“越境”し、読者を幻惑する摩訶不思議な作品集として話題になりました。新装版では、旧版の表紙に使用されたジョセフ・クーデルカの写真作品を斬新なデザインで再構成。パッケージの奇想度合いもバージョンアップした「ジャケ買い」必至の一冊です。さらに、今回初めて本作品の電子書籍も制作。紙版発売と同日に配信がスタートします。紙版または電子版、お好きなスタイルで、恩田 陸さんが描く壮大×芳醇×クレイジーな奇想の世界を堪能していただけます。『いのちのパレード 新装版』書影デザイン 坂野 公一(welle design) 写真 (C) Josef Koudelka/Magnum Photos/アフロ【恩田 陸さんのメッセージ】密かにとても愛着のある短編集です。これを入口に、めくるめく奇想短編の世界に足を踏み入れてもらえれば嬉しいです。恩田 陸【商品詳細】商品名 : 『いのちのパレード 新装版』発売日 : 2023年10月6日価格 : 定価869円(税込)判型 : 実業之日本社文庫 A6判 384ページURL : 指や手の形をした巨岩があちこちから生える奇妙な村に、妻と私はやって来た(「観光旅行」)。後期ロト7の当籤通知が届いた。まさか、この俺が?(「当籤者」)。大人なんだから不用意な発言はやめてほしいよ。だって僕らは…(「夕飯は七時」)。恩田ワールドの原点<異色作家短篇集>への熱きオマージュ。小説のあらゆるジャンルに越境し読者を幻惑する15篇。【作者プロフィール】恩田 陸(おんだ・りく)1964年宮城県生まれ。早稲田大学卒業。1992年、第3回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞と第2回本屋大賞、2006年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞、2007年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞、2017年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木賞と2度目の本屋大賞(第14回)をそれぞれ受賞。ホラー、ミステリ、SFなど、ジャンルを超えて多彩な執筆活動を展開する。他に『三月は深き紅の淵を』に始まる「理瀬シリーズ」、『光の帝国 常野物語』に始まる「常野物語シリーズ」、『ライオンハート』『チョコレートコスモス』『ドミノ』『夜の底は柔らかな幻』『鈍色幻視行』『夜果つるところ』など、多数の著書がある。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2023年08月23日アイドルグループ・NEWSの加藤シゲアキが9日、都内で行われた「令和2年度・3年度 吉川英治賞贈呈式」に出席。選考委員の恩田陸氏から「すごい力のある人だと思いました」と称賛された。加藤は、著書『オルタネート』(新潮社)で「第42回吉川英治文学新人賞」を受賞。同作は、高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須となった現代が舞台で、SNSの存在に翻弄されていく若者たちの姿を、繊細かつエモーショナルな筆致で表現した。恩田氏は『オルタネート』について、「マッチングアプリを使う人、使わない人、使えない人についての群像劇ですが、そこのところがすごく端正に描かれている。登場人物は恵まれていて才能があって、いい環境の子供たちなんですけど、恵まれているからって満たされているわけではないし、幸福だとは限らない。みんなまだ何者でもないけれど、何者かになりたいと思って一生懸命考えている。そのヒリヒリした感じがとても端正に描かれていて、すごい力のある人だと思いました」と称賛した。加藤とともに武田綾乃氏も『愛されなくても別に』(講談社)で同賞を受賞したが、恩田氏は「加藤さんも武田さんもご自分の表現を持っていらして、自分のやりたいことはこれなんだ、こういう覚悟でやっていくんだと強く感じました」と作品から感じた印象を述べ、「去年の先輩2人を見習って、これからもガシガシいい作品を書いていただきたいと思います」とメッセージを送った。
2021年04月09日恩田陸の代表作を原作に、2016年に初演された音楽劇『夜のピクニック』が本日10月1日(木)に開幕する。物語の軸となるのは、高校生活最後に行われる「歩行祭」なる学校行事だ。高校3年生全員が、24時間たっぷりかけて、各自のペースで70kmを歩ききるという伝統の催し。恩田自身が青春を過ごした茨城県立水戸第一高校で、実在の行事である。誰とどこをどのように歩き、どんな思い出を獲得して帰るか。大人にとってはささやかでも、彼らにとっては切実なあれこれが、細やかに描かれて読者を魅了した。音楽劇『夜のピクニック』舞台稽古より(撮影:刑部アツシ)水戸で芽生えたこの物語の、舞台化に取り組んだのが水戸芸術館ACM劇場だ。初演当時、同劇場の演劇部門芸術監督を務めた高橋知伽江が脚本を手掛け、映画にとどまらず舞台作品も多く手掛ける深作健太が演出を担当。ミュージシャンとしても華やかな活躍を見せる扇谷研人の音楽で、みずみずしくも力強い音楽劇に仕上がった。音楽劇『夜のピクニック』舞台稽古より(撮影:刑部アツシ)とある目論見を胸に秘めながら、「歩く会」に参加しようとしている甲田貴子。その視界の端には常に、クラスメイトの西脇融がいた。ふたりの仲を勘ぐる級友たちだったが、貴子が抱えていたのはもっと切実なこと。一方、1年前の「歩く会」に現れた幽霊の噂でにわかに盛り上がる歩行行列。やがて、1年前にアメリカへ発った、貴子の親友・杏奈が仕掛けた「おまじない」が動き出す——。音楽劇『夜のピクニック』舞台稽古より(撮影:刑部アツシ)キャスティングも実に個性豊かだ。10年前の「歩く会」を振り返る杏奈を吉川友が、貴子の母親である聡子を剣幸が演じるほか、加藤良輔、安達勇人、北川理恵ら、ミュージカルの舞台で百戦錬磨の若手俳優陣が数多く登板。ピアノとパーカッションの演奏にのせて、若者たちの繊細な心情が絡み合い、高まって夜空に溶ける。公演は10月4日(日)まで、水戸芸術劇場ACM劇場にて。音楽劇『夜のピクニック』原作:恩田陸脚本:高橋知伽江演出:深作健太作曲・音楽監督:扇谷研人10月4日(日)まで会場:水戸芸術館ACM劇場文・小川志津子写真提供:水戸芸術館
2020年10月01日直木賞・本屋大賞を史上初めてW受賞した小説家・恩田陸の『蜜蜂と遠雷』が若手実力派キャストにより実写映画化され、10月4日より公開された。国際ピアノコンクールを舞台に、亜夜(松岡茉優)、明石(松坂桃李)、マサル(森崎ウィン)、塵(鈴鹿央士)という世界を目指す若き4人の天才ピアニストたちの挑戦、才能、運命、成長を描いた同作は、「小説なのに音楽が聴こえるようだ」と話題を呼び、映画でも一流ピアニストの音×吹き替えなしで演奏演技に挑む役者陣という驚くべき手法で数々のシーンが浮かび上がっている。今回は、原作者・恩田陸と、妻子を持ち楽器店に勤めながら、年齢制限最後のコンクールに挑む高島明石を演じた松坂桃李にインタビュー。原作者と俳優、それぞれの視点から見た同作の魅力や、表現者として向き合う"賞"について話を聞いた。○■「かっこよすぎる」キャストも演技に納得――先ほどお話を伺ったんですが、お二人は今日が初対面なんですね。恩田先生が撮影現場にいらしたときは、松坂さんの撮影がなかったとか。松坂:この瞬間が初です。恩田:お目にかかれて光栄でございます。松坂:こちらこそ! よろしくお願いいたします。――それでは、ぜひ松坂さんから見た原作の魅力と、恩田先生から見た映画の魅力をそれぞれ教えていただければ。松坂:オファーをいただいて『蜜蜂と遠雷』を読んだんですが、今までは小説を読んでめくるたびに音が聴こえる感じを経験したがことがなかったので、すごい本だと思いました。これを映画化するなんて、可能なのか? と、衝撃でした(笑)。小説が本当に面白いからこそ、我々にとってはハードルが高いと思っちゃうんです。仮に上手に置き換えられたとしても「小説の内容のまま表現されてるじゃん!」と思われてしまうので、今回は「実写化するからこそできること」はなんなのか、ものすごく意義を迫られた感覚がありました。恩田:よく映像化したなと思いました(笑)。私も「小説でなければできないことをやろう」と思って書いていたので、逆に皆さんが映画でしかできないことをやってくださったなと思って。映画として完成されていたので、嬉しかったです。松坂:そういう言葉を聞くと、ほっとします。恩田:松坂さんが、明石を演じると聞いて、「それはかっこよすぎるだろう」とは思っていたんですけど、映画を見たら本当に明石そのものでした。松坂:いやいや、とんでもないです!――原作で思い描いていた明石はどういうイメージだったんですか?恩田:もうちょっと、普通の人です(笑)。でも、2次予選の後に松坂さんが1人でカメラに向かってしゃべっているシーンはすごくリアルで、驚きました。松坂:実は、あのシーンが初日だったんですよ……。恩田:初日だったんですか! みなさん、意外なシーンが初日なんですよね。いきなりあのシーンだとは……すごいですね。松坂:とにかく、体の中にいろんな実感を入れるようにイメージして。すごく緊張しました。――ちなみに、明石じゃない松坂さんを目の前にされた感想はいかがでしたか?恩田:「やっぱりかっこいいわ!!」と思いました(笑)。――松坂さんは、そういうかっこよさをどうやって封印されてたんでしょうか?松坂:明石は他の3人に比べて、家族と過ごしたりと、生活を描写しているシーンが多かったので、そこはすごく大事にしたいなと思いました。たぶん、すごく不器用でめんどくさいやつだなと思ったんです。自分のことを天才とは思っていないけど、他人には言われたくない、という。恩田:その通りです。松坂:たとえば奥さんと少し口論になったシーンでも、明石のめんどくさい感じが出ている。すごく人間くさいけど、良いところでもあると思います。恩田:そういう役を演じるのは、珍しいんじゃないですか?松坂:そうなんです。これだけの不器用さと人間臭さを表す役はあまりやったことがなかったので、嬉しかったです。恩田:本当に松坂さんはキラキラしたイメージだったので、地に足をついた感じが出ていて、びっくりしました。松坂:嬉しいです。○■流れをつかむことが大切――今回はピアノコンクールが舞台となっていますが、作品自体も直木賞と本屋大賞を史上初めてW受賞されていて、松坂さんも昨年たくさんの賞に輝いていて。賞にかける思いについて、お二人はどう感じているのかなということも気になりました。恩田:結果としての賞なので、書いてる時にはもちろん考えていないです。でも、「流れが来てる」みたいな時って、あるじゃないですか。そういう意味では幸運な本だったと思います。こんなにハードルが高そうな作品がスムーズに映画化できたというのも、やっぱりいい流れがあったのかな、と。松坂:確かに、流れってありますよね。僕のマネージャーさんも「今年は流れ、来てますから」とよく言ってたんですよ。「じゃあ、信じます」と言ったら、ありがたいことに本当に賞をいただけたりしたので、実感しています。――松岡茉優さんも、同じように昨年いろいろな賞に輝かれて、全部の流れが『蜜蜂と遠雷』に集中しているようですね。松坂:授賞式で、松岡さんとは会うことが多かったです! 会うたびに『蜜蜂と遠雷』盛り上げましょう、という話をしていました。恩田:幸運な流れが来ていますね。実際にコンクールを見ていても、最初は目立てなかった方が2週間の間でどんどん良くなっていったりして、成長する人は本当に成長するし、順番の違いひとつでもまったく印象が違ってきてしまうんです。どんどん人が減っていくから、何番を掴むかという運もあって。本当に、流れを掴むことが大事なんだと思いました。――松坂さんは今回、ステージの上で演奏するシーンも多かったですが、音楽家を演じて、役者との共通点などは感じられたんですか?松坂:舞台上で、お客さんの前でお芝居をするときの緊張感や、稽古で失敗を繰り返しながら初日を迎える緊張感は共通すると思いました。演奏シーンは最後の方だったので、スタッフ・キャスト全員が「あと1週間だぞ!」「あと5日だぞ!」みたいに、プレッシャーがすごくて(笑)。だんだん音楽チームも顔がピリついてくるんです。だからこそ生々しくて、良い緊張感でした。エキストラの方もたくさん来てくださったので、入場シーンも本当のコンクールのような緊張感でした。怖いんですよ! でも演奏はお芝居と違って、お客さんの反応を見て動きを変えられるところは、羨ましくも思いました。恩田:私も演奏をしていた経験がありますが、自分があがっているかって、全然わからないですよね。絶好調と思ってもボロボロだったりとか。逆に「ダメだ」と思った時が良かったりする。松坂:それはあります! 自分がダメだと思っていても、周りから「良かったね!」と言われたりとか。恩田:意外とありますよね。それって、なぜなんだろう? 不思議ですね。小説でも、書いてる時には乗っていたけど、後で読むと「なんなんだろう」と思う時もありますし(笑)。○■小説家と役者、原動力は――せっかくなので、何か松坂さんから恩田先生に聞きたいことなどはありますか?松坂:これだけの作品を生み出す原動力がなんなのか、伺いたかったんです。続けるためのモチベーションを保つのは難しくはないんですか?恩田:きっと、なんでもそうですよね。役者さんも、毎回毎回違う役を演じると思うので、どういう原動力なのか、逆にお聞きしたいです。松坂:作品に入ってる時は辛いことの方が多いし、考えなきゃいけないことや不安要素がたくさんあるばかりなんですが、終わった瞬間が本当に楽しくて。スタッフやキャストの方と、「じゃあ、一杯いきますか!」という瞬間(笑)。その一瞬が、辛かったメーターを上回るんです。それが持続的にやってくるので、乗り越えられるというか、支えになっている感覚はあります。恩田:どこも同じですね(笑)。私も原稿を書いているときは全く楽しくなくて。――でも、これだけずっとコンスタントに作品を出されてる作家さんも、なかなかいらっしゃらないのではないかと思いました。恩田:続けていないと不安になってしまうんです。常に書いてないと「小説家」と名乗れないような気がして。縮小再生産になってしまうのが怖いし、「休んじゃうと戻れないんじゃないか」と思うので、そこが原動力なのかもしれません。松坂:「休みたい」と思ったことはないんですか?恩田:いつも、思ってはいるんですけどね(笑)――それでは、最後に作品を楽しみにしている方へのメッセージをいただけたら。恩田:原作ファンでも、原作を読んでない方でも楽しめると思います。音もすごく贅沢な作りになっているので、ぜひ、映画館でご覧ください。松坂:僕自身、クラシックからは縁遠い男だったので、この作品で初めて「クラシックって静かなだけじゃないんだ!」と思いました。まるで縦ノリのように心が踊る、前のめりになる感じが味わえたのはこの作品が初めてだったんです。僕のような、クラシック初心者ですという人でも、味わえる体験が待っていますので、ぜひ音響のいい劇場でご覧いただけたら嬉しいです。■恩田陸1964年生まれ、宮城県出身。1992年、『六番目の小夜子』でデビュー。『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞を受賞。『中庭の出来事』で山本周五郎賞を受賞。『蜜蜂と遠雷』で直木三十五賞と二度目の本屋大賞を受賞(直木賞と本屋大賞のダブル受賞も、二度の本屋大賞も史上唯一)。著書多数。■松坂桃李1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。近年の主な出演作は、映画『不能犯』(18/白石晃士監督)、『居眠り磐音』(19年)、『新聞記者』(19年)。2019年には『孤狼の血』(18年)で第42回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。現在、声の出演をしている映画『HELLO WORLD』が公開中。
2019年10月06日史上初の快挙となる〈直木賞〉(第156回)と〈本屋大賞〉(2017年)のW受賞を果たした恩田陸の代表作『蜜蜂と遠雷』が、豪華キャスト、スタッフ陣により映画化され10月4日(金)に公開される。そして、本作に即したインスパイアード・アルバムが9月4日(水)に発売されることが決定した!日本を代表するピアニストたちが、原作に登場するそれぞれのキャラクターに沿った演奏によって作り上げられた映像とアルバムに注目したい。主人公のひとり、松岡茉優演じる【栄伝亜夜】の演奏を担当するのは、感性豊かな音楽性と独創性で世界の数々の桧舞台で聴衆を魅了している実力派ソリスト河村尚子。松坂桃李演じる【高島明石】には国内外のコンクールで活躍し、2015年に行われたアイスショー『Fantasy on Ice』で羽生結弦と共演した実績を持つ福間洸太朗だ。森崎ウィン演じる【マサル・カルロス・レヴィ・アナトール】には、自身もマサル同様海外で育ち、その才能を幼いころから発揮してきた金子三勇士。そして鈴鹿央士演じる【風間塵】には、弱冠18歳にして第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝したほか、2019年6月に行われた第16回チャイコフスキー国際コンクール、ピアノ部門で第2位に輝いた藤田真央が参加。まさに映画史上最も贅沢な奏者陣が揃ったと言えそうだ。今回発売となるインスパイアード・アルバムは、亜夜、明石、マサル、塵が劇中のコンクールで演奏する楽曲を収録した全4種類!それぞれのキャラクターに寄り添って奏でられる演奏の美しさに酔いしれること間違いなしだ!さらには、劇中で演奏されるコンクールの課題曲でオリジナルの楽曲である『春と修羅』もキャラクター別に収録されている。*作曲を務めるのは国際的に評価の高いロンドン在住の作曲家・藤倉大。●アプリ版ぴあ“クローズアップ”のコーナーでは、水先案内人のひとりで音楽ライターの高坂はる香が、『あなたの知らない国際ピアノコンクールの世界』を連載中(7月30日から全10回予定)。これさえ読めば、映画もコンサートも、そしてアルバムも楽しめること間違いなしだ!
2019年08月08日史上初の快挙となる直木賞と本屋大賞のW受賞を果たした恩田陸原作小説『蜜蜂と遠雷』が、松岡茉優主演で映画化。映画『蜜蜂と遠雷』として2019年10月4日(金)に全国公開する。原作は"映像化不可能"と言われた恩田陸の小説原作は、史上初の快挙となる直木賞(第156回)、本屋大賞(2017年)の"W受賞"となった恩田陸の「蜜蜂と遠雷」。国際ピアノコンクールを舞台に、亜夜、明石、マサル、塵(じん)という世界を目指す若き4人のピアニストたちの挑戦、才能、運命、そして成長を描いた物語だ。4人のメインキャラクター元天才少女・亜夜(松岡茉優)主人公はピアノの元天才少女・亜夜。彼女が演じるのは、かつて国内外のジュニアコンクールを制覇するも、13歳のときに母を亡くし、ピアニストになることから長らく逃げてきた。7年前の突然の失踪から再起を目指し、コンクールにチャレンジする。亜夜を演じるのは松岡茉優。2017年公開の『勝手にふるえてろ』で日本映画プロフェッショナル大賞 主演女優賞受賞、是枝裕和の『万引き家族』にも出演していた。高島明石(松坂桃李)明石は、社会人で妻子を持ち。それでも夢を諦めきれず、最後のチャンスと決意してコンクールにエントリーする。演じるのは『孤狼の血』などの話題作に出演する松坂桃李。マサル(森崎ウィン)音楽エリートとして超名門音楽院に在籍し、優勝候補最有力の重圧に挑むマサル役に森崎ウィン。人気と実力を兼ね備えており、コンクールの優勝大本命と言われる。風間塵(鈴鹿央士)“ピアノの神”と呼ばれた今は亡き世界最高のピアニストの「推薦状」を持つ。コンテストに参加した経歴もない“異端児”の謎の少年。演じるのは、『メンズノンノ』モデルとして活動し、ドラマ「なつぞら」や映画『決算!忠臣蔵』にも出演する、新人俳優の鈴鹿央士。鈴鹿は『蜜蜂と遠雷』が銀幕デビュー作となる。コンテスタントたちの課題曲として物語を彩るのは、オリジナル楽曲<春と修羅>。公開された特別映像には、4人のメインキャラクター達が、それぞれの想いを抱えながら、凛とした姿でピアノを演奏する姿が映し出されている。その他キャラクター高島満智子(臼田あさ美)明石(松坂桃李)の妻として、夫のコンクール挑戦を献身的に支える女性。ジェニファ・チャン(福島リラ)福島リラは、マサル(森崎ウィン)と同じ音楽院に在籍。マサルにアドバイスを贈りながらも自身もコンクールに参加する。演じるのはトップモデルとして活躍したのに女優としても活動する福島リラ。『ウルヴァリン』などに出演。小野寺昌幸(鹿賀丈史)小野寺昌幸は、世界的指揮者。コンクールの最終選考でオーケストラの指揮を執り、亜夜らピアニストたちを叱咤。演じるのは鹿賀丈史。仁科雅美(ブルゾンちえみ)松坂桃 李が演じる高島明石の同級生で、明石の国際コンクールへの挑戦を密着しているジャーナリスト。“実写化不可能”と言われたピアノ演奏を実力派ピアニストが担当これまで「映像化不可能」言われ、恩田文学の集大成でもある『蜜蜂と遠雷』を、新鋭・石川慶監督が映像化に挑む。全く異なる背景を持つ4人のピアニストに音が吹き込まれる。“実写化不可能”と言われた『蜜蜂と遠雷』の中で奏でられるピアノの音を担当するのは、河村尚子、福間洸太朗、金子三勇士、藤田真央といった、第一線で活躍する実力派ピアニスト。また、作中でコンクール曲として登場するオリジナル楽曲「春と修羅」の作曲を手掛けたのは、ロンドンを拠点に国際的に活躍する現代音楽の作曲家・藤倉大。“本物の音”を追求した、贅沢な映画音楽が物語を盛り上げる。インスパイア―ド・アルバムが発売公開に先駆けて、2019年9月4日(水)より本作のインスパイア―ド・アルバムが発売。亜夜、明石、マサル、塵が劇中のコンクールで演奏する楽曲を収録した全4種類で用意し、劇中で演奏されるオリジナルのコンクール課題曲『春と修羅』もキャラクター別に収録する。『蜜蜂と遠雷』あらすじ芳ヶ江 よしがえ国際ピアノコンクールは「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」というジンクスをもち、近年高い注目を浴びている。ピアノの天才達が集まるコンクールの予選会に、若き4人のピアニストが現れる。7年前の突然の失踪から再起を目指す元・天才少女、英伝亜夜。“生活者の音楽”を掲げ、最後のコンクールに挑むサラリーマン奏者、高島明石。人気実力を兼ね備えたマサル。今は亡き“ピアノの神”からの「推薦状」を持つ謎の少年・風間塵。熱い“戦い”を経て、互いに刺激し合い、葛藤し、成長を遂げ”覚醒”していく4人。その先に待ち受ける運命とは?作品詳細映画『蜜蜂と遠雷』公開日:2019年10月4日(金)原作:恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎刊)監督・脚本:石川 慶出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士、臼田あさ美、福島リラ、眞島秀和、片桐はいり、光石研、平田満、アンジェイ・ヒラ、斉藤由貴、鹿賀丈史、ブルゾンちえみ配給:東宝■インスパイア―ド・アルバム発売日:9月4日(水)価格:全4種 各3,000円+税
2018年10月25日史上初の快挙となる直木賞と本屋大賞のW受賞を果たした小説「蜜蜂と遠雷」。若きピアニスト4人の姿を描いた話題作が、2019年秋に映画化されます。松岡茉優さんや松坂桃李さんといった豪華キャスト陣と、新鋭・石川慶監督が映像化に挑みます。2019年秋「蜜蜂と遠雷」公開予定「ここの優勝者は、世界最高峰のコンクールでも優勝できる」というジンクスがある芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台とした、若きピアニスト4人の挑戦・苦悩・努力・成長などを描く物語。話題作を多く生み出した原作者 恩田陸さん1992年に『六番目の小夜子』でデビューした恩田陸さん。SFやホラーから青春小説まで、さまざまなジャンルで執筆し、読みやすさと安定した面白さから幅広い年齢層の支持を得ています。2000年代から吉川英治文学新人賞や山本周五郎賞などをはじめとする、多くの賞を受賞してきました。そして2017年、「蜜蜂と遠雷」では直木賞と本屋大賞のW受賞という史上初の快挙を達成。話題作を豪華キャストが彩る松岡茉優さん松岡茉優さん2008年にデビューし、今や多くのCMやドラマなどに出演している松岡茉優さん。2016年~2018年に3部作で公開された映画「ちはやふる」に出演し、主人公のライバル役として圧倒的な存在感を放ちました。「蜜蜂と遠雷」では、かつて国内外のジュニアコンクールを制覇し天才少女と呼ばれたものの、母の死によりピアノが弾けなくなってしまった女性「栄伝亜夜」を演じます。松坂桃李さん松坂桃李さん2008年にモデルとしてデビューし、2009年「侍戦隊シンケンジャー」の志葉丈瑠 /シンケンレッド役で俳優としての活動がスタートしました。以降、話題の舞台の主演なども務め注目を集めています。本作では、音楽大学を卒業しながらも今はサラリーマンとなり今回を"最後の挑戦"としてエントリーした「高島明石」役を担当します。森崎ウィンさんPrizmaX左上:森崎ウィンさん2008年にダンスボーカルユニット「PrizmaX」に加入し、同年に俳優としてもデビュー。2016年にスティーヴン・スピルバーグ監督の「レディ・プレイヤー1」で主要キャストに抜擢され、話題となった若手俳優です。演技力だけでなく、甘い声と高い歌唱力にも注目です。本作では、優勝候補と言われており在学中の名門ジュリアード音楽院では"ジュリアードの王子"とも呼ばれる「マサル・C・レヴィ=アナトール」役に選ばれました。映画「蜜蜂と遠雷」作品詳細公開時期2019年秋原作恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎刊)監督・脚本石川慶キャスト松岡茉優松坂桃李森崎ウィン鈴鹿央士ほか映画「蜜蜂と遠雷」が待ち遠しい原作でも話題となった「蜜蜂と遠雷」に、石川慶監督による演出・豪華キャストが加わることでどのような作品となるのか、期待が高まります。公開は2019年秋です。注目の作品をお見逃しなく。
2018年10月22日「不思議、不思議、本当に不思議……いまでも『これは夢だべか?』と思います」 昨年、デビューした64歳の新人作家・若竹千佐子さんは、そう照れたように笑った。若竹さんは昨秋、新人作家の登竜門・文藝賞を史上最年長で受賞。それを機に出版されたデビュー作『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社)は、年が明けると今度は、第158回芥川賞を受賞した。 小説の主人公は、子どもが独立し、夫に先立たれた74歳の“桃子さん”。「どうすっぺぇ、この先ひとりで何如にすべかぁ」と、自らの内側に響いてくる生まれ故郷の言葉たちと向き合いながら、孤独をかみしめる日々を描く。特筆するような事件は、何も起きない。若竹さんいわく「出来事としては、なんもないの、なんにも起こらないんです。ぜーんぶ頭の中だけのこと」。 主な登場人物は桃子さんひとり。それなのに、小説の中ではセリフの応酬が続く。 「何如にもかじょにもしかたながっぺぇ」 「だいじょうぶだ、おめには、おらがついでっから。おめとおらは最後まで一緒だがら」 「あいやぁ、そういうおめは誰なのよ」 「決まってっぺだら。おらだば、おめだ。おめだば、おらだ」 頭の中から彼女の本音とも思える東北弁が次々にあふれ出し、本体の桃子さんと、脳内の声たちが、ああでもない、こうでもないと、かしましい議論を交わすのだ。たくさんの声の主たちを、若竹さんは小説で「小腸の内壁に密生した絨毛突起のよう」と表現する。 「絨毛突起は、本当にあるのかもしれませんね(笑)。私にも実際に、いろんな声が聞こえるんです」(若竹さん・以下同) 単行本は、すでに50万部を突破。賞の審査員を務めた先輩作家らをうならせ、数多の読者のハートをつかんだ若竹さんのデビュー作は、ミリオンセラーへの道をひた走る。 「いまもね、頭の中で『いがったな~』って声が、たくさん聞こえていて(笑)。でも、同時にね、『おだづな!』とも言われてる。『おだづな』って、わかりますか?遠野弁で『調子にのるな』って意味です(笑)」 若竹さんは’54年、桃子さんと同じく、東北は岩手県遠野市で生まれた。本を読むのが大好きだった子ども時代。図書館のたくさんの本が並ぶ書棚に、自分が書いた本も1冊加えたい。小説家になりたい。それが夢だった。 「でも、どうやったらなれるのかもわからないし、小説でご飯が食べられるなんて、とてもとても思えなくて」 若竹さんは教師を目指すことにした。先生をしながら、小説は余暇に書けばいいと考え、高校卒業後は岩手大学教育学部に進学。しかし、6度の教員採用試験に落ちてしまう。打ちひしがれた若竹さんに、思わぬ展開が待っていた。結婚だ。 「父親が『すごくいい男だぞ』と見合い話を持ってきて。それまで、私はモテたためしも一度もなく、誰ともお付き合いをしたこともなかったから。『おおっ!?』と思って(笑)、会ってみることにしました。本当にいい男だったんです(笑)」 見合い相手は3歳年上で、父親が経営する会社を手伝っていた和美さん。見合いから半年後に結婚。若竹さん28歳の春だった。新婚生活は遠野で始まった。長男を授かったが、若夫婦は故郷での暮らしに息苦しさを覚え、’85年に家族は上京。世はバブル景気。夫・和美さんが就いた建築関係の仕事は順調で、生活も軌道に乗り、長女も誕生する。 「都会に出てきたら、すごく自由を感じました。夫は一生懸命働いたし、私も夫を支えて、4年目には千葉に家も建てました。子育ては忙しかったけれども、合間を見つけて家庭菜園をしたり、お隣さんと旅行に行ったり、バーベキューをしたり。楽しかったし、とても幸せでした」 当時を振り返り、自然と笑みがこぼれる若竹さん。「幸せな家庭の主婦だったんですよ」と何度も繰り返す。 「ただね、ひとりになったときに、ふと寂しくなることがあって……」 徐々に子どもの手が離れ、時間に余裕がでてくると、どこか遠くから声が聞こえてくるような気がした。 「よき夫に巡り合い、かわいい子どもに恵まれ、私は妻として、母として、幸せな生活を送っている。それなのに……なんて言うんだろう、幸せだけど、幸せじゃない。どこかに、ちょっとした寂しさ、満たされない思いを感じていたんです」 少女時代は寂しいとき、いつも図書館に行っていた。不惑手前の若竹さんは、寂しさの答えを求め、近所の図書館に通うようになる。そこで心理学や女性学の本に出合い、むさぼるように読んだ。 「自分が抱えている寂しさの意味を知りたかった。それで河合隼雄さんや、上野千鶴子さんの本を読んで、わかったことや気づいたことを大学ノートに書き留める、そんなことを、当時からいままで、ずっと繰り返してきました」 大学ノートは、数えきれないほどに積み上がっていった。 「私の心根の中に『わかりたい』という気持ちと『わかったことを、面白おかしく表現したい』という強い気持ちがありました。その2つができれば、私は満たされるということが、だんだんわかってきたんです。図書館で読んだ本の中身を私の中に取り込んで、私の血肉にしたい。そして、今度は自分の言葉で表現したい。それはつまり、やっぱり小説を書きたいということだった」 試行錯誤を繰り返し、やっと書きたいテーマが見つかってきた。本腰を入れて小説に取り組みたいと考え始めたちょうどそのころ――57歳の若さで夫・和美さんが急逝する。 「やっぱり寂しいですよ。完成した小説を最初に読んでほしかったのは和美さんだし、『文藝賞とったよ、芥川賞もらったんだよ』って、真っ先に報告したいのも和美さんなのに、もういないんだから……本当に、寂しいですよ」 若竹さんは目に涙をたたえながらも、力強く続けた。 「でも、しょうがないですね。一度に2つの幸せを握ることは不可能なんです。あの人が生きていたら、私、小説を書けていないから。私、やっぱり小説家になりたかったんです。和美さんには生きていてほしかったけれども、小説家でなかったら、嫌なんです。和美さんが生きているか、小説家になるか、どちらか選べと言われたら、私は小説家になることを選びます。それが、私の正直な、本当の気持ちなんです」 自らが主人公の人生を歩む--若竹さんは力強く爽快な宣言とともに、小説家として、第二の人生を歩み始めた。
2018年04月21日人なつこく、素直で、偉ぶらず、素朴。デビュー作で芥川賞を取った若竹千佐子さん(64)は、およそ作家らしからぬ人だ。そんな“平凡な専業主婦”が作家になれたのは、最愛の夫の死の裏に“自由の喜び”を見つけたから。そして、主婦のタブーを小説にした。「人のために生ぎるのはやっぱり苦しいのす」と――。 「不思議、不思議、本当に不思議……いまでも『これは夢だべか?』と思います」(若竹さん・以下同) 昨年、デビューした64歳の新人作家・若竹千佐子さんは昨秋、新人作家の登竜門・文藝賞を史上最年長で受賞。それを機に出版されたデビュー作『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社)は、年が明けると今度は、第158回芥川賞を受賞した。 小説の主人公は、子どもが独立し、夫に先立たれた74歳の“桃子さん”。「どうすっぺぇ、この先ひとりで何如にすべかぁ」と、自らの内側に響いてくる生まれ故郷の言葉たちと向き合いながら、孤独をかみしめる日々を描く。特筆するような事件は、何も起きない。若竹さんいわく「出来事としては、なんもないの、なんにも起こらないんです。ぜーんぶ頭の中だけのこと」。 主な登場人物は桃子さんひとり。頭の中から彼女の本音とも思える東北弁が次々にあふれ出し、本体の桃子さんと、脳内の声たちが、ああでもない、こうでもないと、かしましい議論を交わすのだ。単行本は、すでに50万部を突破。賞の審査員を務めた先輩作家らをうならせ、数多の読者のハートをつかんだ若竹さんのデビュー作は、ミリオンセラーへの道をひた走る。 若竹さんは’54年、桃子さんと同じく、東北は岩手県遠野市で生まれた。本を読むのが大好きだった子ども時代。図書館のたくさんの本が並ぶ書棚に、自分が書いた本も1冊加えたい。小説家になりたい。それが夢だった。高校卒業後は岩手大学教育学部に進学。 28歳のとき、3歳年上の見合い相手で父親が経営する会社を手伝っていた和美さんと結婚。新婚生活は遠野で始まった。長男を授かったが、若夫婦は故郷での暮らしに息苦しさを覚え、’85年に家族は上京。世はバブル景気。夫・和美さんが就いた建築関係の仕事は順調で、生活も軌道に乗り、長女も誕生する。 当時を振り返り、自然と笑みがこぼれる若竹さん。「幸せな家庭の主婦だったんですよ」と何度も繰り返す。 「ただね、ひとりになったときに、ふと寂しくなることがあって……」 徐々に子どもの手が離れ、時間に余裕がでてくると、どこか遠くから声が聞こえてくるような気がした。少女時代は寂しいとき、いつも図書館に行っていた。不惑手前の若竹さんは、寂しさの答えを求め、近所の図書館に通うようになる。そこで心理学や女性学の本に出合い、むさぼるように読んだ。 「私の心根の中に『わかりたい』という気持ちと『わかったことを、面白おかしく表現したい』という強い気持ちがありました。その2つができれば、私は満たされるということが、だんだんわかってきたんです。図書館で読んだ本の中身を私の中に取り込んで、私の血肉にしたい。そして、今度は自分の言葉で表現したい。それはつまり、やっぱり小説を書きたいということだった」 試行錯誤を繰り返し、やっと書きたいテーマが見つかってきた。本腰を入れて小説に取り組みたいと考え始めたちょうどそのころ――57歳の若さで夫・和美さんが急逝する。 「夫は図書館に本を返しに行く、と家を出たんです。でも『肝心の、返す本を忘れてしまったよ』と戻ってきて。それで『もう、忘れんぼなんだから』とかなんとか、冗談言って、2人で笑って、改めて送り出しました。それが最後の会話。その直後、あの人は脳梗塞で倒れてしまって……」 和美さんの生前、2人は近所でも評判のおしどり夫婦だった。現在は会社員の若竹さんの長男(35)は、当時をこう振り返る。 「父の死後、母は放心状態でした。葬儀は私が手配し、なんとか乗り切りましたけど、父が死んでからもかなり長いこと取り乱していましたね。私がいつ実家に帰っても、ずっと泣いてました」(長男) 長男や長女(29)が母を心配するたび、若竹さんは涙をこぼし、こう問いかけた。「ねえ、お父さんは、幸せだったよね?」。そう確かめずにいられなかったのには、理由がある。 「夫が亡くなる直前、小説を本格的に書き始めた私がつねづね思っていたのが……自分のすべての時間を、この小説を完成させるために使いたいということだったんです」 しかし、家事や夫の身の回りの世話など、主婦である若竹さんは夫婦の暮らしの維持に時間を割かなくてはならない。それが、もどかしかった。 「もちろん、夫が嫌いということじゃない。けれど、“私は私で生きたい”と思い始めてたんですよ。そしたらば、夫が突然、死んだ。だから、夫が死んだのは、私がそんなふうに思ったせいなんじゃないかと……」 夕飯の買い出しに出れば、夫の好物に手が伸びる。そのたびに、胸がキリキリと痛むほどの孤独と自責の念に駆られた。その日も、そんな思いにさいまなれた午後だった。 「仏壇の前で、何もやる気がおきなくて、ゴロンと横になって目を閉じたんです。やっぱりめそめそと泣きながらね。どれくらい、そうしていたのかわかりませんが、不意に目を開けたら強い光がバーッと目に飛び込んできたんです。障子の桟のくっきりとした影が畳に延びていました。その光を『わ、きれいだな』と思った瞬間、頭の中にはっきりとした声が聞こえたんです。『自由だ!おらは自由だ!』って」 驚いた。悲しみに暮れるあまり、おかしくなったと思った。そして、ひとりぼっちの部屋で、声に出して聞いた。「誰なの?おめだば、誰だ?」(お前は誰だ?)。心の中の声は答えた。『おらだば、おめだ』(私はお前だ)。 「その直前まで、めそめそ泣いて、ひとりぼっちの寂しさにどっぷりとつかっていたのに。光が見えて、その声が聞こえた途端『そうだ、私は何をやっても自由なんだ!』って。絶望のなか、私は喜んでいる私の心を見つけてしまったんです」 家庭の主婦として、若竹さんは幸せだった。けれど、妻というのは、いわば副班長で、決して班長ではない。夫を立てる応援団として生きていたことを、若竹さんはこのとき、まざまざと知ったのだ。 「人は、本心では、誰も脇役の人生なんて生きたくないんですよ。自分が主人公の、自分の人生を生きたいと思ってる。でも、私の世代の女の人っていうのは、夫のため、子どものために、羽を縮めてるところがある。いくら夫や子どもを愛していても、どこかに『自分はもっと自由に空を飛びたい』という気持ちを持ったまま、自分の羽を小さく畳んでいる。それが、子どもがひとり立ちし、夫が亡くなって、なんでも自分で決めて自分で動かないといけなくなった。それはとても寂しいことだけれども、逆から見れば、自由ということなんです」 夕方6時になっても、まだ好きな本を読んでいられる。本当はあまり好きではなかったテレビの野球中継を消しても、誰にも文句を言われない。そんなささいなことでも、自分で決めたことを自分で実行できる喜びに、若竹さんは気づいてしまった。 「夫が死んだことを『うれしい』だとか『自由だ』なんて言っちゃうのは、タブーですよね。でも、そういう気持ちを抱いた私がいるということを、ちゃんと書いてやろうと思ったんです。そうしないとフェアじゃない。私の心を本当に表現したことにならないから」 自らが主人公の人生を歩む――若竹さんは力強く爽快な宣言とともに、小説家として、第二の人生を歩み始めた。 「小学生のころから『図書館の本棚に私の本が1冊あればいいな』とずっと思ってきました。でも、1冊だけだと倒れちゃうよね。だから、並べても本が倒れない程度に、あと何冊かは、書かなくちゃ」
2018年04月21日昨年4月に3人組ダンスボーカルユニットSHAKEからソロデビューしたKanako.sが、プロデューサーの恩田快人(ex:JUDY AND MARY)、愛川ヒロキ(ex:remote)とともに、この1年半の活動を振り返った。Kanako.sは2010年にSHAKEに加入しアーティストデビュー。それまで行っていた女優業やモデル活動を減らし、大好きな歌とダンスに専念。2013年にメンバー2人が卒業するのをきっかけにソロデビューした。「何を始めるにもゼロからなんです。SHAKEの時はダンスユニットなのにダンスの経験がなく、ソロデビューの時はボイトレもやったことがないからちゃんと歌えない。人よりできない分、人一倍やるしかないという気持ちでやってきました」(Kanako.s)9月17日には3rdシングル『コイゴゴロ/koinouta』をリリース。「狂おしくもせつないバラードになった」という『koinouta』は恩田が作曲。作詞を担当したKanako.sは「恋愛ソングを聴いたり、恋愛の本を読んだりして、妄想を膨らませつつ(自分なりの恋愛観を)書きました」と明かす。『コイゴゴロ』を作曲した愛川は、「同世代の女性たちにも共感してもらいたいことから両A面ともにバラード調になった」と語った。同シングル発売日には、W-SHAKEで『転生ラブレター』、さらにダンスユニットFor fanで『For fun』を同時発売。同日に行なわれたリリースライブには、もうひとつのコラボも含め、4組すべてのステージに出演するというパワフルさ。「デビューした時は何にもできなかったのに、今ではいくつも並行して楽しめています」とKanako.s。さらに「分岐点の直前には必ず壁にぶち当たって大泣きするんです。でも泣いた後にはスッキリして壁を乗り越えてる。その繰り返しなんです」と振り返る。愛川は「自分に足りないものを見つけてはそこから努力を始める。スポンジが水を吸収するように急成長している」と分析。恩田も「どんなことでも自分で解決しなきゃと思っている。だから失敗した分だけ成長するし、同じ間違いを繰り返さない。これまでやってきたことが蓄積されている」と語る。来年4月24日には、渋谷TSUTAYA O-WESTでのデビュー2周年記念ライブが決まっている。「自分の中ですごく大きな目標で、いかに現実的なところまでもっていけるか。必ず成功させたいです」と意気込む。真摯に、前向きな姿勢で取り組んできたKanako.sが、またいくつもの壁を乗り越え、新たなステージを目指す。取材・文:門 宏
2014年09月25日