江戸時代の絵師・尾形光琳が秋草模様を描いたきもの 重要文化財「小袖 白綾地秋草模様」(通称〈冬木小袖〉)がこのたび修理を終え、2023年10月3日(火)から12月3日(日)まで東京国立博物館で初公開されます。この作品の修理は、東京国立博物館と文化財活用センターが共同で実施した「〈冬木小袖〉修理プロジェクト」を通じて個人・企業から集まった寄附により実現したもので、今回が修理後初めての展示となります。修理前は経年による劣化が進み、汚れや糸の断裂が見られたほか、傷んだ表地を補強するために過去の修理で施した並縫いの縫い目が目立っている状況でした。約2年3か月をかけて行われた今回の修理では、経糸の欠失した箇所に新たな補修糸を入れて安定化させたほか、補修糸を掛け替え、より鮮明に絵画表現を鑑賞できるようになりました。また、制作当初の姿に近づけるため、同時代の小袖や浮世絵美人画に描かれたきものを参考に裏地や袖口覆輪なども新調し、仕立て直されています。多くの方のご支援のもとで、元の魅力を取り戻した〈冬木小袖〉を、ぜひ展示室でご覧ください。重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 (通称〈冬木小袖〉) 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀前半 東京国立博物館蔵【展示情報】期間:2023年10月3日(火)~12月3日(日)会場:東京国立博物館 本館10室※観覧には当日の入館料が必要です。入館料や開館時間等についての詳細はウェブサイト等をご確認ください。 [文化財活用センター 各SNS]・X(Twitter) @cpcp_nich ・Instagram @cpcp_nich ・YouTube @cpcpnich ■重要文化財「小袖 白綾地秋草模様」(通称〈冬木小袖〉)〈冬木小袖〉は、江戸時代に活躍し琳派の語源としても知られる尾形光琳が、白い絹地に秋草を描いたきものです。京都出身の光琳が、宝永元年(1709)に寄宿した江戸・深川の材木問屋、冬木屋の夫人のために描いたといわれており、〈冬木小袖〉という名称で親しまれています。墨や淡彩で布地に直接模様を描く染色技法「描絵(かきえ)」によって、ふたつとないデザインのきものを着用することが、当時裕福な商家の女性たちの間で流行していました。〈冬木小袖〉もこの流行を背景に光琳に依頼されたといわれています。きものには菊、萩、桔梗 、芒といった秋草が描かれており、藍の濃淡で、上半身には桔梗の花むらが広がり、腰から下には菊や萩が咲き乱れるようです。全体の様子を見てみると、ちょうど帯の当たる部分に空間を配していることもわかります。光琳の生家はもともと安土桃山時代から続く雁金屋という呉服商でした。だからこそ、着用したところまでをしっかりとイメージして模様を描いたのでしょう。■「〈冬木小袖〉修理プロジェクト」概要寄附金募集期間:2020年1月17日~2021年12月末*目標金額達成に伴い、当初予定(~2022年6月末)より前倒しで終了寄附募集方法 :WEB・申込書(クレジットカード、郵便振替・銀行振込)による個人・団体からの寄附、東京国立博物館館内募金箱、ミュージアムグッズおよび初音ミクとのコラボレーションによる〈冬木小袖〉ミクグッズの購買を通した寄附 など支援総額 :16,451,470円(目標金額15,000,000円)ウェブ・申込書でのご寄附者数 296名特別協賛 :クリプトン・フューチャー・メディア株式会社協賛 :株式会社やまと、株式会社東京美術倶楽部寄附金の使途 :〈冬木小袖〉の修理費用ならびに、本プロジェクトの事業運営費*目標を上回った寄附金は、東京国立博物館所蔵の文化財の修理費として活用■G20インド2023で本プロジェクトが紹介されました【CULTURE CORRIDOR - G20 DIGITAL MUSEUM】展示の様子(1)【CULTURE CORRIDOR - G20 DIGITAL MUSEUM】展示の様子(2)G20ニューデリー・サミット関連企画【G20 DIGITAL MUSEUM】で「〈冬木小袖〉修理プロジェクト」が紹介されました。【CULTURE CORRIDOR - G20 DIGITAL MUSEUM】は、G20ニューデリー・サミットの参加国が自国の文化を表す作品を持ち寄り展示する国際プロジェクトです。日本からは、修理が完了した〈冬木小袖〉 のデジタル画像や複製きものとともに、プロジェクトの一環として誕生した「〈冬木小袖〉ミク」のフィギュアが出展されました。2023年9月9日にサミットの会場で公開され、サミット終了後は一般公開されます。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2023年09月25日いつもは国内のアート情報をご紹介している『女子的アートナビ』、今回は夏の番外編!デンジャラスな男が大好きなライター・田代が、西洋美術史上もっともワイルドといわれる画家、カラヴァッジョの足跡をたどり、シチリア島に行ってきました!カラヴァッジョが逃亡したシチリアへ【女子的アートナビ】番外編カラヴァッジョ(本名:ミケランジェロ・メリージ 1571~1610)は美術史に名を残す天才画家。でも、本当にデンジャラスな男で、けんかや暴力は日常茶飯事、はては殺人までおかして逃亡する……という何ともハチャメチャな人生を送った人です。そして、彼が残した作品も半端ない凄さ。神々しさと荒々しさが渾然一体となり、見ていると自然に涙が流れてしまう感動的な絵もあります。彼の魅力にすっかりハマってしまった私は、数年前からカラヴァッジョの足跡をたどる旅を開始。2018年の夏は、彼が殺人や傷害事件を起こしたあとに逃亡したシチリアまで行ってきました。逃亡ルートは?カラヴァッジョはローマで殺人をおかして死刑宣告を受けたあとナポリ、マルタ島へと逃亡。さらにマルタでも事件を起こし投獄されますが、脱走してシチリア島のシラクーザ→メッシーナ→パレルモへと逃げていきます。マルタ騎士団の刺客に狙われながら再びナポリに行き、恩赦を求めてローマへ戻る途中で亡くなった……といわれています。まずはメッシーナへ!今回私が訪れたのは、彼の作品が現存するメッシーナとシラクーザ。まずはシチリア島への玄関口として栄えた港町、メッシーナへ行きました。カラヴァッジョ作品が展示されているのは、メッシーナ州立共同美術館。メッシーナ駅からトラムに乗車し、終点のMuseo(美術館)駅で降りて徒歩数分で美術館に到着します。美術館の外観です。ここに所蔵されているカラヴァッジョ絵画は《ラザロの復活》と《羊飼いの礼拝》の2点。美術館の至宝なので、これらの作品だけ特別な空間に展示されています。カラヴァッジョ作品に会えた!こちらが特別展示室。大作が2点も並んでいます!《ラザロの復活》(写真左)は、死んで4日たったラザロがイエス・キリストの呼びかけで生き返るという場面を表した絵。画家はモデルとなる遺体を掘り起こして描いたといわれています。写真では伝わりづらいですが、本物はラザロの描写が実にリアル。人間が腐敗した臭いまで漂ってきそうな凄みがありました。いっぽう《羊飼いの礼拝》(写真右)には出産直後の聖母と幼子イエスが描かれているのですが、こちらの絵にも明るさはありません。カラヴァッジョがメッシーナに滞在したのは1608~1609年の間。亡くなったのは1610年なので、どちらも最晩年に描かれたものです。命を狙われながら逃亡を続けるカラヴァッジョの重い気持ちが絵に表れているようでした。※写真はメッシーナ州立共同美術館の許諾を得て掲載。無断複製は禁止されています。Su concessione della Regione Siciliana, Assessorato dei Beni Culturali e della Identità siciliana - Dipartimento dei Beni Culturali e della Identità siciliana- Polo Regionale di Messina per i Siti Culturali - Museo interdisciplinare di Messinaちなみに、メッシーナの見どころはドゥオーモ(大聖堂)とその近くにあるオリオンの噴水。もともとメッシーナは歴史ある港湾都市でしたが、1908年の大地震や第二次世界大戦の空襲などにより歴史的建造物が多く失われてしまったそうです。元カレのいたシラクーザへ続いて訪れたのは、古都シラクーザ。メッシーナから列車に乗って3時間ほどで着きます。カラヴァッジョがこの町に逃げてきた理由のひとつは、舎弟で元カレともいわれている画家仲間、マリオ・ミンニーティが住んでいたから。シラクーザのオルティージャ島にあるマリオ・ミンニーティ通りこのマリオ君はシラクーザ出身で、ローマでカラヴァッジョと一緒に暮らしていたこともあるイケメン画家。カラヴァッジョは彼をモデルにした作品も残しています。ただマリオ君はローマでは活躍できず、地元に戻って画家として活動していたところにカラヴァッジョが逃げ込んできました。1608年の後半から数カ月間、逃亡者はこの地に滞在していたそうです。元カレを匿い、絵の仕事もあっせんした優しいマリオ君のおかげで、シラクーザにはカラヴァッジョの大作《聖ルチアの埋葬》が残っています。現在その作品はシラクーザの中心地、オルティージャ島のドゥオーモ広場に建つサンタ・ルチア・アッラ・バディア教会(写真上)で見ることができます。(教会内の写真撮影はNGでした)こちらは観光名所のひとつ、サン・ジョヴァンニのカタコンベ(地下墓地)に隣接する地下礼拝堂の入り口。カラヴァッジョは、この礼拝堂を参考に《聖ルチアの埋葬》の背景の一部を描いたといわれています。ちなみに、シラクーザは古代ギリシアの植民都市として繁栄したこともある古代都市。紀元前5世紀ごろに建造されたギリシア劇場など見どころも多く、世界遺産にも登録されています。名所のひとつ、ネアポリス考古学公園の石切り場には、カラヴァッジョが名づけたといわれる「ディオニュシオスの耳」(写真上)もあり、多くの貴重な遺跡を見ながら天才画家の足跡をたどれます。シチリア料理も半端なかった!最後に、シチリアで味わった超絶品の海の幸をご紹介! 今回は海に面したメッシーナとシラクーザを旅したので、どこでも新鮮な魚介類を食べられたのですが、なかでも感動的だったレストランがシラクーザ・オルティージャ島の海沿いにある『ラ・カンブーサ』さんです。シラクーザ在住の日本人女性、秋草奈緒子さんが経営するお店で、とれたての魚介を使ったシチリア料理や和食もいただけます。ムール貝などがたっぷり入った海鮮パスタやウニ山盛りのパスタ、大きなエビを丸ごと食べられる料理など、おいしいものだらけ。日本語で料理の説明もしていただけて、分量の調整などもご提案くださるので、好きなものをいろいろ食べられました。そして、レストランの席からは美しい海辺のサンセットも見られます!日没後の景色にもうっとり♡ 夢のようにステキなディナーを楽しめました。シチリアロスに…はじめて訪れたシチリア島ですが、イタリア本土とはまた違う異国情緒たっぷりの雰囲気で、時間がゆったりと流れていました。島の人たちはみな優しくておおらか。電車やバスが時間どおりに来なくても、誰もイライラしていません。私が通っている都内のイタリア語教室では、シチリアに行った人はみな帰国すると “シチリアロス” に陥ると話していましたが、今まさにその状態。カラヴァッジョ目的で訪れたのですが、アート以外にも魅力的なもの・おいしいものがたくさんあり、恋しくてたまりません。ぜひ一度 “シチリアロス” を経験してみませんか?
2018年08月18日