大阪・国立文楽劇場の11月文楽公演は、本日11月2日から24日(日)までで、第一部(11時開演)で『心中天網島』、第二部(16時開演)では『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』(八段目から十一段目まで)を上演する。11月13日は休演。国立文楽劇場は本年、開場35周年を記念して『仮名手本忠臣蔵』を3回に分けて全段通しで公演するという企画に臨み、4月は序段から四段まで、夏休み特別公演では五段から七段までを上演、この11月の八段から十一段までで、ついに完結する形だ。『忠臣蔵』の終盤というと、ドラマなどでは討入の場面が大きく取り上げられるが、文楽での大きな見どころ・聴きどころは九段目の『山科閑居の段』。大星由良之助と加古川本蔵は塩冶家・桃井家の家老で互いの息子と娘が許嫁であったのに、塩冶判官が松の廊下で高師直に斬りかかり、本蔵がそれを止めたことから大きく運命が分かれてしまう。この段はそれぞれの、家族に対する愛情が悲しい形で実を結ぶ切ない場面だ。人形を遣うのは由良助が吉田玉男、本蔵が桐竹勘十郎。語りは前半が竹本千歳太夫(三味線=豊澤富助)、後半が豊竹藤太夫(三味線=鶴澤藤蔵)。また、第一部は、9月の東京公演に続いて近松門左衛門の最高傑作と評される『心中天網島』で、舞台を牽引する紙屋治兵衛の勘十郎、『河庄の段』後半の小春・吉田簑助、『大和屋の段』切場を語る豊竹咲太夫には特に注目だ。北新地、天満、曽根崎、網島など大阪の地名が出てくる実話を元にした物語だけに、ご当地ならではの感慨が湧いてくるに違いない。文:仲野マリ
2019年11月02日鶴屋南北の怪談物の代表作、通し狂言『東海道四谷怪談』が9月の南座に登場。片岡愛之助、中村七之助、市川中車の豪華初共演で、関西では26年ぶりの上演となる。「南座新開場記念 九月花形歌舞伎」チケット情報初演は文政8年(1825年)、江戸中村座。当時は赤穂義士討ち入りの時代物『仮名手本忠臣蔵』の外伝として互いのエピソードを交互に上演することで、より時勢に翻弄される人間ドラマが浮き彫りとなり、階級社会の不条理や人間の業が際立つ効果をもたらした。その上で、『東海道四谷怪談』は毒を飲まされたヒロインお岩が、櫛で髪をすくたび毛が抜け落ちる有名な「髪梳き」の場面、戸板に縛られた男女ふたりの遺体をひとりの演者が早替えで見せる「戸板返し」、さらに恐怖をあおる演出「提灯抜け」など、歌舞伎ならではの仕掛けがたっぷり。エンタテインメント性溢れる歌舞伎入門編としても、今日まで不動の人気を集めている。「非常に生々しい人間の思いが描かれた、鶴屋南北ならではのキャラクター。七五調に流されない台詞も独特で、言葉から役の真意が伝わってくる」とは、ヒロインを邪険にする夫、民谷伊右衛門役の愛之助。塩谷判官(浅野内匠頭)の元藩士の娘お岩と結婚しながらも、後に藩取り潰しの背景もあり、敵対する高師直(吉良上野介)の家臣の孫娘お梅と再婚。刹那的に己の欲に生きる悪役だ。「同時にお梅が惚れるような素敵さも必要になってくる代表的な色悪。見得や立廻りではなく、存在自体で魅せるような重要なお役なので難しい」。一方、夫が犯人とは知らず、伊右衛門に父親殺しの仇討ちを頼み献身的に尽くすお岩役の七之助は、前半の役作りが肝になると言う。お岩は100%伊右衛門を愛していた。そこを前半でしっかり描くことで、裏切られたと知った後半からの爆発が生きてくる。『恥ずかしい』と泣くのは、武士の娘のプライドだと思います」。悲劇の背景にあるのは、上層部の事件以来一変した生活の貧しさだ。「お岩は産後の病で死にそうだし、子供は泣き叫ぶ。人間強くはないですから。伊右衛門のイライラは現代にも通じるものだと思う。お岩もあの時代、女ひとりが子連れで家を出ればのたれ死ぬほかない。殴られても伊右衛門に頼るしかなかった。その意味では全員に共感できるお芝居かもしれません」。七之助はその他、男女3役を演じ分ける。市川中車との三者初共演も話題の本作。近年、中車とは夫婦か恋人役が多いという七之助は、「目を瞑ってでも芝居のキャッチボールができる。今回は3人でどんな化学変化が起きるのか楽しみ」と笑う。愛之助は3人で物語を日々進化させたいと意気込みつつ、七之助の美貌にも触れる。「美しさと怖さは紙一重。視覚的な怖さはもちろん、人間の精神的な怖さも見どころのひとつです」。公演は9月2日(月)から26日(木)まで、京都・南座にて上演。チケット発売中。取材・文:石橋法子
2019年08月27日