映画のように気軽に歌舞伎を楽しんでもらうための映像化コンテンツ「シネマ歌舞伎」。松竹の公式動画配信サービス「歌舞伎オンデマンド」では月に1本ずつ、話題の公演や月イチ歌舞伎(映画館上映)と一緒に楽しめる関連作品の配信を行っている。このたび、歌舞伎化で大きな話題になった『風の谷のナウシカ』が今年公開40周年を迎えるアニメ映画版『風の谷のナウシカ』の公開日にちなんで、3月11日より配信されることが決定した。2019年、尾上菊之助がナウシカ、中村七之助がクシャナを演じた初演版の映像を、3月11日~4月30日に『風の谷のナウシカ』前編・後編で配信する。歌舞伎オンデマンドの各視聴ページにて、各1900円(税込)で配信(レンタル配信・購入時から7日間何度でも視聴可能)。付随サービス(有料)として「シネマ歌舞伎イヤホンガイドアプリ」でスマホを使って同時音声解説も利用できる。5月はコクーン歌舞伎第15弾の舞台を撮影した『四谷怪談』(5月1日~31日)、6月は仁左衛門が当たり役・河内屋与兵衛を一世一代で務めた『女殺油地獄』(6月1日~30日)、7月は中村勘三郎、坂東玉三郎、片岡仁左衛門の共演による『籠釣瓶花街酔醒』(7月1日~31日)、8月は野田秀樹による伝説的な舞台の歌舞伎化作品『野田版 桜の森の満開の下』(8月1日~31日)がラインナップされている。■松竹公式動画配信サービス bito.jp/ondemand/
2024年03月10日「シネマ歌舞伎」の3~8月配信ラインアップが決定し、3月11日(月)より歌舞伎版「風の谷のナウシカ」が配信されることが分かった。映画のように気軽に歌舞伎を楽しめる「シネマ歌舞伎」。松竹公式動画配信サービス〈歌舞伎オンデマンド〉にて月に1本ずつ、話題の公演や月イチ歌舞伎(映画館上映)と一緒に楽しめる関連作品の配信を行っている。新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」©松竹株式会社この度2024年度前半のラインアップが発表され、最初の作品は、歌舞伎化で大きな話題になった「風の谷のナウシカ」。2019年、尾上菊之助がナウシカ、中村七之助がクシャナを演じた初演版の映像を、今年公開40周年を迎えるアニメ映画版『風の谷のナウシカ』の公開日にちなんで、3月11日(月)より配信する。「野田版 桜の森の満開の下」©松竹株式会社5月はコクーン歌舞伎第15弾の舞台を撮影した「四谷怪談」、6月は片岡仁左衛門が当たり役・河内屋与兵衛を一世一代で勤めた「女殺油地獄」、7月は中村勘三郎、坂東玉三郎、片岡仁左衛門の豪華共演による「籠釣瓶花街酔醒」、8月は野田秀樹による伝説的な舞台の歌舞伎化作品「野田版 桜の森の満開の下」と、多彩な演目が揃った。「女殺油地獄」(C)篠山紀信2024年3~8月 シネマ歌舞伎配信ラインアップ■期間・作品・3/11(月)~4/30(火)「風の谷のナウシカ」前編・後編(出演:尾上菊之助、中村七之助ほか)・5/1(水)~31(金)「四谷怪談(よつやかいだん)」(出演:中村獅童、中村扇雀ほか)・6/1(土)~30(日)「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」(出演:片岡仁左衛門ほか)・7/1(月)~31(水)「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」(出演:中村勘三郎、坂東玉三郎ほか)・8/1(木)~31(土)「野田版 桜の森の満開の下」(出演:中村勘九郎ほか)■配信サイト歌舞伎オンデマンド■料金(税込)各1900円(レンタル配信・購入時から7日間何度でも視聴可能)(シネマカフェ編集部)
2024年03月10日3月3日(日) より開幕する「三月大歌舞伎」にて、ポストカードが販売されることが決定した。ポストカードは、歌舞伎座「三月大歌舞伎」で上演される昼の部『菅原伝授手習鑑「寺子屋」』『傾城道成寺』『御浜御殿綱豊卿』、夜の部『伊勢音頭恋寝刃』『喜撰』。絵柄はいずれも、これまでに公開されて注目を集めていた特別ビジュアルが使用される。3月の公演期間中、各演目1枚ずつ5枚1セット1,000円(税込、枚数限定、セット販売のみ)で販売となる。「三月大歌舞伎」ポストカードセット価格:各演目1枚ずつ5枚1セット 1,000円(税込)販売期間:3月歌舞伎座公演期間中(3月3日~26日)販売場所:歌舞伎座地下2階 お土産処「かおみせ」、1階お土産処「木挽町」、歌舞伎座オンラインストア<公演情報>「三月大歌舞伎」3月3日(日)~26日(火)昼の部:11:00~夜の部:16:15~休演日:11日(月)、18日(月)【演目】■昼の部一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)寺子屋二、四世中村雀右衛門十三回忌追善狂言傾城道成寺(けいせいどうじょうじ)三、御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)■夜の部一、通し狂言伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)二、喜撰(きせん)チケット情報:()
2024年03月01日芸能事務所のレプロエンタテインメントは27日、芸能戦略PRサービス「あなたの宣伝係」の提供開始を発表した。羽田美智子、真木よう子、浅見れいな、秋元梢、ユージ、菊地亜美、中村蒼、内田理央、宮沢氷魚、藤間爽子、古畑星夏、久間田琳加らが所属する同社。1991年2月に設立されてから30年以上にわたり、「感動コンテンツで世界の平和に貢献する」をモットーに、俳優・タレント・モデル・文化人・アスリートなど、数多くの才能をプロデュースしてきた。そこで培った経験が企業の課題解決にも活用できるのではないかという発想から、PRサポートを開始。そして今回、あらゆる企業からの発注を受け付けるPRサービス「あなたの宣伝係」を新たにローンチした。「あなたの宣伝係」は、芸能界に精通する同社による、芸能人を活用した芸能戦略PRサービス。PRで起用する芸能人は、同社が専属マネージメント契約するアーティストに限らない。「迅速な回答」「透明性の担保」「課題解決型の提案」を方針として掲げ、「芸能界のブラックボックスにストレスを感じている、全てのマーケティング担当者の皆様、ぜひお気軽にお問い合わせください」と呼びかけている。
2024年02月29日令和6年2月1日より御園座で開催される「二月御園座大歌舞伎」の『三人吉三巴白浪』で、役替わりで主演を勤めるなど、今注目の歌舞伎俳優 中村莟玉(なかむらかんぎょく)が芸能プロダクションのANDSTIR(アンドステア)に所属することが決定致しました。中村莟玉は、立役も女方も勤め、特に麗しき女方姿が話題の平成生まれの歌舞伎俳優です。一般家庭より歌舞伎界に入り、人間国宝・中村梅玉の養子となりました。将来の歌舞伎界を担う1人として期待されています。歌舞伎俳優活動を中心に、その他の芸能活動に関しては、俳優・声優としてドラマ、映画、アニメで活躍の津田健次郎や、元宝塚歌劇団スターで俳優の七海ひろきが所属するANDSTIRに籍を置き、更なる躍進を目指します。公式ホームページにプロフィールが加わると共に、歌舞伎俳優には珍しく“中村莟玉”としての単独Official Web Site( を公開致しました。中村莟玉コメント新たな活動に挑戦できるのではないかと、まだ見ぬ未来にとてもワクワクしています。「中村莟玉」は歌舞伎俳優の名前です。この名前で活動するからには巡り巡って大好きな歌舞伎に活かせるよう、また歌舞伎で培ったものも新しい活動に活かせるよう、真摯にこれからの挑戦に向き合っていきたいと思います。臆せず色々なことにチャレンジしていきたいです。応援よろしくお願いいたします。中村莟玉について屋号は高砂屋で、定紋は祗園銀杏。2004年3月中村梅玉に入門、その後、2006年4月に梅玉の部屋子となり、中村梅丸を名乗る。2019年11月梅玉の養子となり、養祖父にあたる、昭和の歌舞伎界を代表する名女方・中村歌右衛門の自主公演「莟会」(つぼみかい)より一字、梅玉より一字もらい、中村莟玉と改名。■御園座「二月御園座大歌舞伎」公演情報2024年2月1日(木)~2月17日(土) : ANDSTIR : 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2024年01月31日歌舞伎町に昨年オープンしたTHEATER MILANO-Zaにて今年5月、「歌舞伎町大歌舞伎」と銘打っての歌舞伎公演が開催されることになり1月23日、記者懇親会が開催。中村勘九郎、中村七之助、中村虎之介、中村鶴松が出席し、意気込みを語った。THEATER MILANO-Zaの開場1周年を記念して行われる今回の公演。勘九郎は以前、中村獅童がオフシアター歌舞伎として赤堀雅秋の演出で歌舞伎町で上演された『女殺油地獄』に出演したことに触れ「歌舞伎町という、猥雑というか、人間の欲と野望が渦巻く場所が合っているなと思い、いつか新宿で(歌舞伎公演を)やりたいなと思っていました」と語り、歌舞伎町のど真ん中での歌舞伎公演の実現の喜びを口にする。中村勘九郎今回、上演されるのは、虎之介と鶴松が出演し、親の仇である工藤祐経の元へと向かおうとする曽我五郎と、それを引き留めようとする小林朝比奈の妹・舞鶴の“引き合い”を舞で見せる荒事舞踊『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』、勘九郎と勘太郎、長三郎の父子競演で、七夕の夜の雷夫婦のケンカの顛末を軽妙洒脱な舞踊で表現する『流星』。さらに、小佐田定雄の脚本で、落語の「貧乏神」を題材にした世話狂言の新作歌舞伎『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』も披露される。以前から行なってきたコクーン歌舞伎(Bunkamura シアターコクーン)では、古典に新たな解釈を加えて現代の観客に発信してきたが、今回の「歌舞伎町大歌舞伎」について、勘九郎は「歌舞伎町という特殊な場所で演じるにあたって、僕らのホームである歌舞伎座と演出を変えずに、歌舞伎の本来持つ魅力、歌舞伎の底力をぶつけてみようじゃないかということで、こういうラインアップになりました」と説明する。『福叶神恋噺』に関しては、まだ台本が完成していないとのことだが、落語版の主人公の貧乏神を女性(貧乏神おびん)に変更して七之助が演じ、彼女がとり憑く飲んだくれの大工の辰五郎を虎之介、おびんの先輩の貧乏神すかんぴんを勘九郎が演じる。中村七之助七之助は新作歌舞伎を上演する点について、普段の歌舞伎座などの客層との違い、初めて歌舞伎を観るという観客が多いであろうという点を意識したと明かす。「長屋の喜劇で落語味があふれた作品で、情というよりもおかしみが多いふたりの掛け合いがほとんどなのですが、それを舞台でやるには落語のテンポ感に負けるところがあるので、そこも考慮して、僕が主演でもあるので貧乏神を女性にしました。どう転んでいくのか? オチもすごく落語的で、舞台的にはそのままだと難しいので、(貧乏神を)女性としたのも、これは推測ですが(辰五郎との間に)恋愛感情が生まれるんじゃないかと」と舞台ならではのアレンジを予測する。中村鶴松中村虎之介話題が歌舞伎町にまつわる思い出になると、鶴松は大学時代に友人と一緒に飲みに行った店で「お会計を見たら『20万』とあって……(苦笑)」とぼったくり被害に遭ったことを告白。服を破られながらも逃げ出して「半分裸でタクシーに乗って、それ以来、(歌舞伎町には)近づかないでいました」と明かし、これには勘九郎から苦笑交じりに「『昔と違って浄化されていると思う』と書いといてください(笑)。安心してお越しください!」と報道陣に要望が……。その勘九郎は、友人がオーナーを務めるホストクラブに遊びに行った経験を明かし「男が相手でも(ホストたちが)命がけでちゃんとコールをしてくれて、『これはハマっちゃうかもしれないな』と思いました(笑)」と述懐。この経験を踏まえつつ(?)、今回の公演の宣伝について、中村亀鶴さんから、歌舞伎町近辺で見かけるホスト広告トラックを活用した広告を打ってみてはどうかと提案があったことを明かし、虎之介も「白いスーツを着て(笑)」と乗り気な様子を見せ、写真撮影でもカメラマンからの「ホスト風のポーズで」との要望に一同応えるなど、笑いを誘っていた。取材・文・撮影:黒豆直樹<公演情報>「歌舞伎町大歌舞伎」昼の部:12:00~夜の部:16:00~【演目・出演者】※昼夜同一狂言一、正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)流星(りゅうせい)「正札附根元草摺」曽我五郎時致:中村虎之介小林妹舞鶴:中村鶴松「流星」流星:中村勘九郎牽牛:中村勘太郎織女:中村長三郎二、福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)落語「貧乏神」より小佐田定雄 脚本今井豊 茂 演出貧乏神おびん:中村七之助大工辰五郎:中村虎之介貧乏神すかんぴん:中村勘九郎2024年5月3日(金・祝)~5月26日(日)会場:東京・THEATER MILANO-Zaチケット情報:()松竹公式サイト:公式サイト:
2024年01月25日歌舞伎界の次代を担う若手花形俳優が顔を揃える『新春浅草歌舞伎』の千穐楽公演の第1部・第2部が、生配信されることが決定した。今年は尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村橋之助、中村莟玉ら若手花形俳優陣と、中村歌女之丞、市村橘太郎、中村吉之丞、そして中村歌六が浅草公会堂の舞台を盛り上げる。2015年に主要な出演者が一新され、フレッシュな「浅草」がスタートしてから今年で10年。尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人の7名は本公演で出演が一区切りとなることが発表されている。第1部・第2部をまとめたお得なセット配信に加え、「歌舞伎オンデマンド」生配信では史上初となる歌舞伎デビューにうってつけのイヤホンガイド解説付き配信も実施。副音声での演目同時解説や幕間で出演者の貴重なコメント放送も聴け、初めて歌舞伎を観覧する人にも分かりやすく歌舞伎の魅力をお届けする。アーカイブ配信ではイヤホンガイドなしの舞台映像も配信されるので、解説なしでじっくり見直すことも可能だ。『新春浅草歌舞伎』イヤホンガイド解説付きビジュアル<配信情報>『新春浅草歌舞伎』生配信第1部:1月26日(金) 11:00 生配信(約196分予定)第2部:1月26日(金) 15:00 生配信(約249分予定)※公演の状況によって開始時間が前後する場合がございます。※公演開始15分前頃より視聴ページを開場。公演開始まで待機画面が配信されます。※〈イヤホンガイド解説付き〉は公演開始12分前頃より開演前の解説が放送されます。【視聴料金】(税込)■舞台映像のみ第1部&第2部セット:7,000円+システム利用料220円第1部:3,600円+システム利用料220円第2部:3,600円+システム利用料220円■イヤホンガイド解説付き第1部&第2部セット:8,000円+システム利用料220円第1部:4,300円+システム利用料220円第2部:4,300円+システム利用料220円アーカイブ配信:1月27日(土) 10:00~2月4日(日) 23:59※一度ご購入いただきますと、アーカイブ配信中は何度でもご視聴可能です。【イヤホンガイド解説付き購入者特典】「舞台映像(イヤホンガイド解説なし)」もアーカイブ配信にてセット配信配信期間:1月29日(月) 10:00~2月4日(日) 23:59配信場所:歌舞伎オンデマンド詳細はこちら:
2024年01月16日「若手歌舞伎役者の登竜門」といえば新春浅草歌舞伎。今年も若手花形俳優たち、そして貫禄のベテラン勢が顔を揃える。1980年に、二世中村吉右衛門、五世中村勘九郎(十八世中村勘三郎)、坂東玉三郎の顔ぶれで「初春花形歌舞伎」としてスタートして以来、東京浅草のお正月を彩ってきた。今年の浅草歌舞伎第1部は時代物の傑作『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)十種香』で幕を開ける。武田信玄の息子の勝頼が切腹したと聞いてもなお、勝頼の姿絵を前に一途に祈る情熱的な八重垣姫の恋を描く。『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)源氏店』では、深い因縁で結ばれたお富と与三郎が運命的に再会する物語が粋にドラマチックに繰り広げられる。田舎者のどんつくと江戸っ子たちを比べながら、華やかに江戸の風俗を楽しむ舞踊『神楽諷雲井曲毬(かぐらうたくもいのきょくまり)どんつく』で、出演者が勢ぞろいする。第2部の一幕目は重厚な時代狂言の傑作、『一谷嫩軍記熊谷陣屋(くまがいじんや)』だ。かつて受けた恩と忠義、16歳の我が子への思いのはざまで苦悩する熊谷直実の人生とは。『流星(りゅうせい)』は雷夫婦の喧嘩を可笑しみを持って描く洒脱な舞踊。そして第2部の打出しは『新皿屋舗月雨暈魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)』。家族を思うからこそ、ついに宗五郎は禁酒の誓いを破る。出演者が全員そろう切狂言だ。12月に行われた『新春浅草歌舞伎』取材会よりそして今年で浅草歌舞伎を卒業するメンバー達が思い出をこう語る。「この浅草歌舞伎をひっぱっていく立場を任された初年度の2015年、任せてもらううれしさと不安の中、みんなが積極的に僕に連絡くれて”僕にできること何でもします”と言ってくれたのがすごく心強かったですね。皆でワンチームとなってこの浅草歌舞伎を良くしようという気持が固まった、あの年のことがやはり一番思い出深いです」(尾上松也)。「この浅草歌舞伎は(二世中村)吉右衛門のおじ様の、播磨屋の演目をさせていただける大事な機会でした。中でも「太十」(『絵本太功記』十段目)の武智光秀を勤めさせていただいたとき、おじさまから直接顔をしていただいたことが忘れられません。その後の自分の顔をする際の基本となっています」(中村歌昇)。「最初の年、本当にお客さまが来て下さるのか不安と闘いながらも、盛り上げるための事前の宣伝活動として、短期間に大量のバラエティ番組に皆で出演しまくったのが強烈に思い出に残っています」(坂東巳之助)。「2019年の『乗合船恵方萬歳(のりあいぶねえほうまんざい)』は、まさに全員が同時に舞台に出た貴重な機会でした。また千穐楽の日に幕が締まったあと、客席降りしたのを思い出します」(坂東新悟)「先輩から受け取ったバトンを何とかしなきゃと思っていた最初の年の初日、お客さん入ってるかなと心配で幕だまりから皆で見た覚えがあります。お客さんがいっぱい入ってるのを確認して皆で“よかったね”と言い合ったことがよみがえります」(中村種之助)。「最初の年、せっかくだから『お年玉挨拶』を二人組でやってみようということになりました。でも緊張しすぎてどうにもかけあいがうまくいかず、翌年からまたひとりでの挨拶に戻ったことを覚えています(笑)。ポスター用に一人ひとりのカラーも決めましたね。僕はピンクで、今日(12月取材会時)もピンクのネクタイをしております」(中村米吉)。「ゴレンジャーならぬナナレンジャーを模してポスター、作りましたね。目を引くチラシ作りに皆でああでもないこうでもないと言い合って工夫したことを思い出します。この浅草歌舞伎は地域密着型の公演で、浅草の旦那衆や女将さん衆に公演期間中皆でお礼を言いに行ったことも思い出です」(中村隼人)。コロナ禍で昨年は行われなかった恒例の『お年玉年始ご挨拶』が4年ぶりに復活する。また昨年は第1部、2部で出演者を二分していたが、今年は部を越えてそれぞれの出し物にメンバーが相互に出演、まさに浅草歌舞伎ならではの楽しみな顔合わせも復活する。数々の古典の大役に挑む若手花形俳優たちに今年も会いに行こう。文:五十川晶子<公演情報>「新春浅草歌舞伎」出演:尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村橋之助、中村莟玉【第1部】11:00~お年玉〈年始ご挨拶〉一、『本朝廿四孝 十種香』出演八重垣姫:中村米吉武田勝頼:中村橋之助腰元濡衣:坂東新悟白須賀六郎:中村種之助原小文治:坂東巳之助長尾謙信:中村歌昇二、『与話情浮名横櫛 源氏店』作:三世瀬川如皐出演切られ与三郎:中村隼人妾お富:中村米吉番頭藤八:市村橘太郎蝙蝠の安五郎:尾上松也和泉屋多左衛門:中村歌六三、『神楽諷雲井曲毬 どんつく』出演荷持どんつく:坂東巳之助親方鶴太夫:中村歌昇太鼓打:中村種之助大工:中村隼人子守:中村莟玉若旦那:中村橋之助芸者:中村米吉白酒売:坂東新悟田舎侍:尾上松也【第2部】15:00~お年玉〈年始ご挨拶〉一、『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』出演熊谷直実:中村歌昇相模:坂東新悟藤の方:中村莟玉梶原平次景高:中村吉之丞堤軍次:中村橋之助源義経:坂東巳之助白毫弥陀六:中村歌六二、『流星』出演流星:中村種之助三、『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』作:河竹黙阿弥出演魚屋宗五郎:尾上松也女房おはま:坂東新悟小奴三吉:中村種之助磯部主計之助:中村隼人菊茶屋娘おしげ:中村莟玉菊茶屋女房おみつ:中村歌女之丞父太兵衛:市村橘太郎鳶吉五郎:中村橋之助召使おなぎ:中村米吉岩上典蔵:坂東巳之助浦戸十左衛門:中村歌昇2024年1月2日(火) ~1月26日(金)会場:東京・浅草公会堂()
2024年01月02日2024年5月3日(金・祝) から26日(日) に東京・THEATER MILANO-Zaで上演される『歌舞伎町大歌舞伎』の追加出演者と演目が発表された。THEATER MILANO-Zaの開業1周年に彩りを添える本公演。中村勘九郎、中村七之助に加え、新たに中村虎之介、中村勘太郎、中村長三郎、中村鶴松の出演が決定した。公演の幕開きは、曽我兄弟の仇討を題材にした作品で、荒事の豪快な趣向と華やかさを併せ持つ長唄の舞踊『正札附根元草摺』。続いて、七夕の夜、牽牛と織女の前に現れた流星が、雷の夫婦と子ども、婆の4人の騒動の様子を踊り分ける軽妙洒脱な舞踊『流星』。そして落語の『貧乏神』を題材に、どこか憎めない貧乏神をはじめ、個性豊かな登場人物たちが織り成す世話狂言の新作歌舞伎『福叶神恋噺』で打ち出しとなる。<公演情報>『歌舞伎町大歌舞伎』2024年5月3日(金・祝) ~26日(日) 東京・THEATER MILANO-Za■一、正札附根元草摺、流星〈正札附根元草摺〉曽我五郎時致:中村虎之介小林妹舞鶴:中村鶴松〈流星〉流星:中村勘九郎牽牛:中村勘太郎織女:中村長三郎■二、福叶神恋噺落語『貧乏神』より脚本:小佐田定雄演出:今井豊茂貧乏神おびん:中村七之助大工辰五郎:中村虎之介貧乏神すかんぴん:中村勘九郎詳細はこちら:
2023年12月21日2024年に開場25周年を迎える博多座。「二月花形歌舞伎」では、松本幸四郎と市川染五郎が博多座初の親子共演。演目は、江戸川乱歩の「人間豹」を原作にした『江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)』と、歌舞伎初上演となるユーモラスな舞踊劇『鵜の殿様』(うのとのさま)。父子ともに「思い入れが強い」という『江戸宵闇妖鉤爪』の見どころ、注目の親子共演について幸四郎が語った。混沌とした幕末の江戸を舞台に、“人間豹”と呼ばれる半人半獣の殺人鬼・恩田と、明智小五郎の対決を描く『江戸宵闇妖鉤爪』。幸四郎の発案から10年、父・松本白鸚が演出を手掛け、2008年に初演された本作は、妖しくも耽美な世界観で<乱歩歌舞伎>と呼ばれ好評を博し、今回の博多座で3回目の上演。「インテリでモダンな新作歌舞伎を…とたどり着いたのがこの原作。勧善懲悪、絢爛豪華な歌舞伎とはまた違った世界観が特徴です」。白鸚のスケッチから生まれたという人間豹の衣裳や、モノトーンの隈取、小道具、音楽、早替り、フライングなど、大仕掛けから細部にまでこだわった演出が見もの。かつて白鸚が演じた明智小五郎を幸四郎が、幸四郎が演じた人間豹(恩田)と色男・神谷の2役を染五郎が演じる、時代を超えた親子共演も大きな見どころの1つだ。「人間豹は、染五郎が幼いころから憧れていた役。博多座初お目見えで演じられるのは染五郎にも意義深い」と語り、当時使っていた自分のかつらが、染五郎にもぴったりだったというエピソードを披露し、作品との巡り合わせを感じさせた。また舞踊劇の『鵜の殿様』は、幸四郎が日本舞踊の公演で知り、ぜひ歌舞伎で上演したいと思った作品。太郎冠者を幸四郎、大名を染五郎が演じるところも注目だ。「これだけ大名が踊る舞踊は珍しい。<乱歩歌舞伎>とはまた違った親子共演をお楽しみいただきたい」と笑顔を見せる。「母の故郷・博多は、自分にとっても第二の故郷」と語る幸四郎。特別な舞台・博多座で果たす息子・染五郎との共演への意気込みは充分だ。「博多座は客席から見えない部分も広く、劇場としてのポテンシャルも大きい。かつての作品を大切にしつつ、フライングなどあっと驚く仕掛けで博多座でしかできない新しい舞台をお見せしたい」。 “博多座ならでは”のダイナミックな<乱歩歌舞伎>に注目したい。公演は2024年2月3日(土)~18日(日)、博多座にて。チケットは12月9日(土)より一般発売開始。
2023年12月08日大阪・国立文楽劇場では、2024年1月3日(水)から22日(月)まで『初春文楽公演』を開催する。初春文楽公演チケット情報第1部は、お正月らしい景事「七福神宝の入舩」と井筒屋伝兵衛と遊女おしゅんの悲恋をつづった「近頃河原の達引」、第2部は、伊達騒動を題材として、お家騒動の巻き込まれた人々の悲劇を描いた「伽羅先代萩」、第3部は、島流しにされた俊寛僧都らの人間ドラマ「平家女護島」と八百屋お七の一途な情念を描く「伊達娘恋緋鹿子」、名作を3部制で上演する。チケットは発売中。
2023年12月06日12月3日(日)、歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」が開幕した。三部からなる公演は、第一部が『旅噂岡崎猫(たびのうわさおかざきのねこ)』と『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』、第二部が『爪王(つめおう)と『俵星玄蕃(たわらぼしげんば)』、第三部が『猩々(しょうじょう)』と『天守物語(てんしゅものがたり)』と、師走を彩る豪華ラインナップとなっている。そんな、歌舞伎の多彩な魅力が詰まった本公演の初日オフィシャルレポートが到着した。第一部の『旅噂岡崎猫』は、化け猫伝説を題材に趣向が凝らされたひと幕。本作のもととなるのは、三代目市川猿之助(二世猿翁)が昭和56(1981)年、エンターテインメント性を取り入れて154年ぶりに復活上演して以来、人気作として上演を重ねてきた『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』。当月、おさん実は猫の怪を勤める坂東巳之助は、平成28(2016)年の全国巡業公演にて、猫の怪を初役で勤めている。今回は「岡崎無量寺」の場に新たな趣向を取り入れている。岡崎の無量寺にやって来たのは、由井民部之助(中村橋之助)と幼子を連れたお袖(坂東新悟)夫婦。ふたりは、主君の病平癒祈願のための道中でお袖の母親おさんがこの世を去ったことを知る。そんな中、日も暮れたために一夜の宿を求めてここへ辿り着くが、そこにはなんと死んだはずのお袖の母・おさん(坂東巳之助)の姿。無量寺に向かう道中には、民部之助とお袖が客席通路を練り歩く演出もあり、場内を盛り上げる。いかにも怪しげな雰囲気に包まれる空間で、おさんが放つ只者ならぬ異様な佇まいに観客の視線が釘付けとなり、民部之助とお袖の端正な姿が対比として浮かび上がる。死から蘇ったと語るおさんだが、実はその正体は……。次々現れる猫と戯れるなどおさんが人間ならざる仕草を見せたのち、次第に本性を顕す様子は最大の見どころ。江戸時代から伝わる「日本三大怪猫伝」のひとつである「岡崎の猫」の怪奇譚をもとにした趣向に富んだ演出で歌舞伎ならではのケレン味を存分に堪能できる。続く『今昔饗宴千本桜』では古典歌舞伎とNTTの技術を始めとした最新のテクノロジーが融合した“超歌舞伎”が歌舞伎座に初降臨。歌舞伎の名作『義経千本桜』と、バーチャル・シンガー初音ミクの代表曲である「千本桜」の世界観に着想を得て書き下ろされた本作は、超歌舞伎の初演である「ニコニコ超会議2016」で上演された記念碑的な作品で、この度は獅童の次男・小川夏幹が初お目見得することでも話題の舞台。さらに、中村勘九郎と中村七之助が超歌舞伎に初出演。見どころ満載の一幕だ。冒頭では、獅童に続いて、今回更なる進化を遂げた「獅童ツイン」が姿を現し、バイリンガルに獅童の同時通訳を務めて客席からは驚きの声が上がった。物語の幕が開くと、御神木の千本桜のもとで桜の節会が執り行われている。白狐の尊(中村獅童)、朱雀の尊(中村勘九郎)、舞鶴姫(中村七之助)、初音の前(中村蝶紫)らが居並ぶ華やかさ、満開に咲き誇る桜の美しさに目を奪われる。ここへ千本桜を我が物にしようとする青龍が襲い掛かるが、白狐と初音の前の娘・美玖姫はそれぞれ狐と蝶に姿を変えて落ち延びていくのだった……。物語は、それから千年後へ――。美玖姫と青龍の精(澤村國矢)、白狐の生まれ変わりである佐藤四郎兵衛忠信(獅童)と青龍による立廻りの場面は、客席も巻き込むような大迫力。陽櫻丸(小川陽喜)と夏櫻丸(小川夏幹)のふたりが花道から元気いっぱいに登場する場面では、昨年1月に初お目見得して以来の歌舞伎座出演となる陽喜が、溌剌とした台詞で成長ぶりを見せ、夏幹は力強くも可愛らしい名乗りと見得で観客を魅了した。クライマックスでの獅童とミクによる宙乗りでは、客席にペンライトが光り輝き、場内の盛り上がりも最高潮に。桜の花びらが降り注ぎ、熱気溢れる場内を上がっていく中、本舞台には朱雀の尊の勘九郎、舞鶴姫の七之助、陽櫻丸の小川陽喜と夏櫻丸の小川夏幹らがペンライトを手に並び、超歌舞伎ならではの高揚感に包まれた。最後には鳴りやまぬアンコールの声に応えて花道より獅童が登場。歌舞伎座での上演が実現したことについて、「ミクさんファンの皆様、超歌舞伎ファンの皆様がここに導いてくださいました。伝統を守りつつ、革新を追求する!これが中村獅童の生き方、これが超歌舞伎!!」と声を上げ、割れんばかりの拍手と熱狂に包まれる中、幕を閉じた。勇ましい立廻りが胸に響く、講談から生まれた新作歌舞伎『俵星玄蕃』第二部は、鷹と狐の決闘、ダイナミックな舞踊劇『爪王』で幕開き。動物文学の作家・戸川幸夫の感動作を平岩弓枝が脚色した中村屋所縁の舞踊劇。雪が降り積もる角鷹森。「吹雪」と名付けた鷹(中村七之助)を飼う鷹匠(坂東彦三郎)のもとへ庄屋(中村橋之助)がやって来て、村で悪さをする狐の退治を頼む。やがて鷹匠と吹雪は山へ向かい、鋭く牙を剥き出す狐(中村勘九郎)と対峙。勘九郎の狐と七之助の鷹には、細かい仕草の隅々に生命力と闘志が漲り、幻想的な世界が広がる。緊張感漂う決闘の末、狐に破れてしまった鷹は、谷底へと消えていき……。季節が過ぎた頃、吹雪は再び狐と対峙するため、果敢に大空を舞っていく。そしてついに狐を討ち負かす吹雪は、誇らしげに鷹匠のもとへと戻ってくるのだった。ダイナミックな舞踊で表現される狐と鷹の激しい闘い、鷹と人間の絆が胸に染み入る一幕に、大きな拍手が送られた。続いては、この度が初演となる演目、槍の名手・俵星玄蕃と赤穂義士の心の交流を描いた『俵星玄蕃』。人間国宝の講談師・神田松鯉の脚本協力、昨年好評を博した『荒川十太夫』のスタッフにより、新たな舞台が誕生する。時は元禄15年12月13日、槍の名手・俵星玄蕃(尾上松緑)の道場に、玄蕃が贔屓にする夜鳴きそば屋の十助(坂東亀蔵)が訪ねて来る。ふたりで酒を酌み交わすうち、赤穂義士の討入りが噂される吉良邸に用心棒の仕官を誘われていることを話す玄蕃。実は十助は、そば屋に身をやつして吉良邸の動向を探る赤穂義士のひとり、杉野十平次で……。義士たちが素性を隠し、虎視眈々と吉良邸討入りの準備を進めるなかで登場する槍の名手・俵星玄蕃は、講談や浪曲でも有名な人物。玄蕃を慕うも、正体を明かせぬ杉野との交流を織り交ぜながら、討入り前夜から当日までを情感豊かに描く物語だ。筋書のインタビューで「歌舞伎のセオリーに則して、歌舞伎ならではの『俵星玄蕃』をお見せしたいと思います」と語った松緑。槍の名手としての見せ場を勇ましい立廻りで表し、義に生きる玄蕃の姿が胸に響く。歌舞伎座では、尾上松緑主演による「赤穂義士外伝」を2カ月連続上演する。赤穂義士が討入りを果たした当月には討入り前夜と当日を描く本作を初演、そして新年1月には、討入りの後日譚を描き好評を博した『荒川十太夫』を再演。それぞれ義を貫く男の生き様、赤穂義士との交流が胸を打つ、講談から生まれたふたつの物語に期待が高まる。幻想的で詩情豊かな物語で観客を魅了する歌舞伎座初演『天守物語』酒好きの霊獣が舞う、華やかな舞踊『猩々』で幕を開ける第三部。猩々とは古くから中国に伝わる水中に棲む霊獣で、酒を好み、無邪気に舞い戯れる妖精のような存在。酒に酔った猩々が水上での戯れを見せる猩々舞がみどころで、酒好きの霊獣からはあふれる愛嬌と品格が漂う。今回猩々を勤めるのは、尾上松緑と中村勘九郎。壺から酒を酌む仕草や、盃を傾けて嬉しそうに酒を飲む仕草など随所に施される細かい振付が見どころだ。中国・揚子江のほとり。ふたりの猩々(尾上松緑、中村勘九郎)は酒売り(中村種之助)に勧められるままに大好きな酒を飲むと、酒の徳を謳いながら、上機嫌に舞って見せる。やがて、酒売りに酒壺を与えて猩々は打ち寄せる波間に姿を消すが、その酒壺は……。格調高く朗らかな舞台に客席には自然と笑顔が広がった。続いては、この度が初演となる『天守物語』。今年、生誕150年を迎えた泉鏡花の戯曲のなかでも屈指の名作とされる本作は、姫路城(白鷺城)の天守に隠れ住む姫の伝説を題材に、鏡花ならではの幻想的な世界を織り込んだ至上の恋の物語。歌舞伎では、昭和30(1955)年に六世中村歌右衛門の富姫で初演し、近年では坂東玉三郎が昭和52(1977)年に富姫を初演して以来、自身が演出も勤めながら大切に上演を重ねてきた。今回は、中村七之助が富姫を勤め、演出の玉三郎が富姫の妹分・亀姫を初役で勤めることでも話題の物語だ。播磨国姫路にある白鷺城の天守閣。ここは、人間たちが近づくことのない、美しい異界の者たちが暮らす別世界。この世界の主こそ、美しく気高い富姫(中村七之助)だ。そこへ富姫を姉と慕う亀姫(坂東玉三郎)が訪れると、富姫は久しぶりの再会を喜び、土産として白い鷹を与える。玉三郎の亀姫は可憐で可愛らしく、妹分の亀姫を可愛がる七之助の富姫には貫禄ある美貌が漂う。美しいふたりが生首を手に微笑みあう場面は、鏡花ならではの妖しい魅力に満ち溢れます。亀姫に仕える朱の盤坊(中村獅童)、舌長姥(中村勘九郎)なども奇怪な存在として作品の世界観に深みを持たせる。その夜、行方知れずとなった城主播磨守の白鷹を探しにやって来たのは、播磨守に仕える姫川図書之助(中村虎之介)。そこで富姫と図書之助が運命的な出会いを果たし……。美しい異形の世界の住人と、この世の人間とが織りなす幻想的で詩情豊かな物語で観客を魅了した。歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」は2023年12月26日(火)まで、東京・歌舞伎座で上演中。<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」【第一部】11:00~一、旅噂岡崎猫二、今昔饗宴千本桜【第二部】14:45~一、爪王二、俵星玄蕃【第三部】17:45~一、猩々二、天守物語2023年12月3日(日)~26日(火)※休演11日(月)、19日(火)※貸切(幕見席は営業)第一部:15日(金)、24日(日)会場:東京・歌舞伎座チケット情報:公式サイト:※公演期間終了のため、舞台写真は取り下げました。
2023年12月04日アニメなどでおなじみの「ルパン三世」が歌舞伎になる。タイトルは、盗賊が活躍する“白浪物”から当て字をした『流白浪燦星』。ルパンを演じるのは片岡愛之助だ。愛之助と脚本・演出の戸部和久との対談で見えてきたのは、この新作歌舞伎で古典歌舞伎の魅力をとことん伝えようとしていること。そして、「ルパン三世」がそれにふさわしい題材であること。両者が引き立つ面白い公演になりそうだ。「恐ろしいことをやっているなという思いでいっぱいです(笑)」──『流白浪燦星』でルパン三世を演じられる愛之助さん。その前後に上演される舞台『西遊記』では孫悟空を演じておられますが、誰もが知るキャラクターに続けて挑まれるのはどんなお気持ちですか。愛之助それはもう役者冥利に尽きます。ルパン三世もずっと観てきたキャラクターですし、孫悟空も堺正章さんが演じられたテレビドラマを観て育った世代ですから、恐れ多くて演じてみたいなんて思ったこともなかっただけに、本当にありがたいです。──脚本・演出を手掛けられる戸部さんもいかがでしょうか。よく知られている作品を歌舞伎にすることについては。戸部恐ろしいことをやっているなという思いでいっぱいです(笑)。ただ、「ルパン三世」の原作者であるモンキー・パンチ先生は歌舞伎がお好きだったようで、歌舞伎を題材にした話も登場しますし。もし江戸時代に「ルパン三世」が描かれていたら、盗賊もののひとつとして歌舞伎になっていてもおかしくないくらい、キャラクターの設定や関係性がそのまま歌舞伎の世界にはまるんです。新作歌舞伎『流白浪燦星』チラシ唯一、歌舞伎に落とし込むのに苦労したのがビジュアルの部分でしたが、それも、スチール撮影時の愛之助さんを拝見したら、カッコよくて愛嬌があって見事にルパンになっていて。石川五エ門(尾上松也)、次元大介(市川笑三郎)、峰不二子(市川笑也)、銭形警部(市川中車)など他のキャラクターもキマっていたので、これはイケるなと安心しました。古典歌舞伎の泥棒と現代の泥棒の“夢の顔合わせ”──演じるにあたって愛之助さんが考えておられることがあれば教えてください。愛之助ルパン三世と言えば、やはり、ダンディーでカッコよく、それでいて、不二子ちゃんに一途であったり、抜けているところがあって、お茶目な部分が愛される所以なんだろうなと思います。そして、盗賊ですからダークヒーローであり、悪を持って悪を制すというようなところも気持ちいい。そういった部分を大切にしながらも、歌舞伎の中のルパンとして、今回の脚本を体現できればと思っています。戸部先生とお決まりのセリフは言いたいよねという話をして、「ふ〜じこちゃ〜ん」といったセリフは入れさせていただいています(笑)。──その歌舞伎のルパンたちが活躍する舞台として用意されたのが、天下の大盗賊・石川五右衛門が実在した安土桃山時代の物語。「卑弥呼の金印」という国宝級の秘宝を巡って、ルパン三世と石川五右衛門が激しい戦いを繰り広げることになります。戸部歌舞伎の世界で泥棒と言えば石川五右衛門ですから。この初代五右衛門がいる世界にルパンたちがいたらどうなるのか、ルパンとの顔合わせを見てみたい、そんな思いからこの物語を書き始めました。愛之助夢の顔合わせです(笑)。戸部歌舞伎らしく華やかに描きたかったので、『楼門五三桐』で五右衛門が、南禅寺の山門の上で語る「絶景かな、絶景かな」という有名なセリフがありますが、そこにルパンがいたら…というのも浮かんできました。愛之助普段歌舞伎をご覧になっている方からすると、「待ってました!」と思っていただけるでしょうし、初めて歌舞伎をご覧になられる方には、「すごいな」と驚いてもらえるシーンになると思います。戸部そうやって、初代五右衛門が現代のルパンたちにつながっているという話にできればなと思っていますし、つながることによって、さらに深い関係が、歌舞伎と「ルパン三世」にできればと思うんです。──そもそも、「ルパン三世」を歌舞伎にしようと思われたのはどういうところからだったのでしょうか。戸部正直申しまして、コロナ禍の中、歌舞伎も大変な時代を迎えました。それで、歌舞伎にすることができて、将来は古典作品に発展するような題材はないだろうかと探していたんです。その中で「ルパン三世」であれば、先程も申しましたように、キャラクターの設定や関係性が歌舞伎に当てはめるにあたっての汎用性が高いなと。そしてだからこそ、今回もそうですが、オリジナルで物語を作らせていただけて、いずれ、歌舞伎座でかかる作品の1本になる可能性もあるのではないかと思い、いろいろな方のご理解とご協力を得て、ここまでこれたというところなんです。──昨今は、「ワンピース」「NARUTO」「風の谷のナウシカ」など、漫画を原作とした新作歌舞伎も多くつくられています。その中で今回の取り組みにはどんな思いがおありですか。戸部基本的には古典歌舞伎をつくるつもりでやっているので、また違ったアプローチになるのかなと僕自身は思っています。これまでの新作歌舞伎で、原作の世界にも寄せていけるんだという歌舞伎の懐の深さは示せたと思うんです。だから今度は逆に、古典歌舞伎という世界や演出の中に今現代に生きているものを飲み込んでいくことができれば、さらに歌舞伎の可能性が広がるのかなと。愛之助漫画を再現するのではなく、あくまでも歌舞伎の世界にルパンたちがいたらこうなるのではないかという夢をお客様に観ていただけたらなと思います。そもそも歌舞伎は、主役の人がパッと手を広げたら10人くらいの人が倒されるという、あり得ないことを観て楽しんでいただく夢の世界なので。──では、今回は古典の要素が盛りだくさんなんですね。愛之助全体的にそうなっていると思います。本水(本物の水)を使う場面や、だんまり(暗闇の中で黙ったままお互いを探り合う演出)、義太夫(三味線を伴奏に物語を語る)を使うところもありますから、歌舞伎要素は強いです。それでいて言葉は難しくないので、初めての方でも入りやすく、よくご覧になっている方には、「ここはあの作品のパロディじゃない?」とわかるところが何箇所もあるので、それも楽しんでいただけるのではないかなと思います。戸部音楽で言えば、おっしゃったように古典の演奏も入りますし、アニメの大野雄二先生の音楽を使わせていただけることになり、それを和楽器でアレンジして見せ場で使っていくので。音楽でも楽しんでいただければなと思っています。愛之助僕もちょっと聴かせてもらいましたけど、ワクワクしました。歌舞伎俳優が「なりたい職業ベスト5」に入るように──戸部さんから愛之助さんのルパンにはどんな期待をされていますか。戸部僕としては、「こんな愛之助さんが観たいな」「こんな愛之助さんのルパンが観たいな」と思いついたものを並べていった感じなので、愛之助さんにルパンで楽しく遊んでいただければなと思っています。あとは、新作をおつくりになるときもいつも、時間のことなどいろんな現実的な問題も踏まえ、一座の皆さんのことも気にかけながら、ちゃんとこだわりを持って、お客様のことを一番に考えてゴールに向かっていかれる方なので。心強く思いながら、胸を借りるつもりでいます。愛之助僕は書かれていることをやるだけですから(笑)。本当に、戸部先生はいろんなものをご覧になられていますし、なんと申しましても、戸部銀作さん(演劇評論家、歌舞伎脚本・演出家)の息子さんでいらっしゃいますから、いろいろ教えてもらいながら、相談しながらやっていけたらと思っています。やっぱり芝居はひとりの力ではできませんから、みんなでそれぞれいろんな角度から見て意見を出し合ってつくったほうがいいと思うんです。若い頃は、「あの芝居がしたい」「この役がやりたい」と思うものもありましたが、今はまったくないんです。このメンバーで面白いものができて、お客様に楽しんでいただいて、もう1回観たいな、友だちや家族にも観せたいなと思ってもらえるような作品をつくりたいです。戸部そういう意味では、役者さんたちに楽しんでいただいて、それぞれのいいところが出ることが、お客様に楽しんでいただけることにつながると思うので、演出としては、そこを目指していきたいと思います。──ちなみに今回のメンバーは、どんな方々が揃っていると言えるでしょうか。愛之助狭い歌舞伎界ですが、家によって違いがあって、今回は違う畑で育った人たちが集まっているので、面白いと思います。戸部同じ演目でも家によって扮装が違ったりするので、今回は、スタッフさん同士が情報を交換し合ったりしています。愛之助それでお互いにいいところを取り入れれば、新たなものが生まれるでしょうし、そうやってみんなが提案できる場を僕はつくりたいです。──先程愛之助さんはやりたいものはなくなったとおっしゃっていましたが、歌舞伎をもっとこうしたいというような目標はありますか。戸部さんにもお伺いしたいです。愛之助日本はもちろん、世界にももっと広めたいです。そして、広めることによって、歌舞伎や歌舞伎俳優に憧れてほしい。それこそ、なりたい職業のベスト5に入ってほしいんです。難しいでしょうけど、歌舞伎を、とりわけ古典歌舞伎を残していくには、それくらいにならないと。戸部外国でその国の言葉で歌舞伎がやられるくらい裾野が広がってほしいですよね。外国のミュージカルを日本語でやっているのと同じように。そうして世界中から憧れを持って歌舞伎座に来てもらえるようになったらいいなというのは、ずっと思っているんです。そのためにもまず、日本で裾野を広げ、自力を高めていかなければと。愛之助この『流白浪燦星』がその足がかりとなって、「これが歌舞伎なんだ。じゃあ古典も観てみたいよね」と思っていただけたら、こんな幸せなことはないですね。取材・文:大内弓子撮影:源賀津己<公演情報>新作歌舞伎『流白浪燦星』モンキー・パンチ 原作「ルパン三世」より脚本・演出:戸部和久出演:ルパン三世:片岡愛之助石川五ェ門:尾上松也次元大介:市川笑三郎峰不二子:市川笑也銭形警部:市川中車傾城糸星/伊都之大王:尾上右近長須登美衛門:中村鷹之資牢名主九十三郎:市川寿猿唐句麗屋銀座衛門:市川猿弥真柴久吉:坂東彌十郎2023年12月5日(火)~12月25日(月)会場:東京・新橋演舞場チケット情報:公式サイト:
2023年11月22日歌舞伎俳優の中村獅童とバーチャル・シンガーの初音ミクが共演する「超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』」の製作発表会見が11月13日、都内で行われ、獅童をはじめ、共演する長男の小川陽喜(はるき)、次男の夏幹(なつき)くんが出席した。古典歌舞伎とNTTが開発した最新テクノロジーが融合した「超歌舞伎」が、歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」第一部として、満を持して歌舞伎座に初登場。歌舞伎の名作『義経千本桜』と、バーチャル・シンガー初音ミクの代表曲である「千本桜」の世界観に着想を得て書き下ろされた『今昔饗宴千本桜』。初演である「ニコニコ超会議2016」で上演された記念碑的な作品で、「超歌舞伎」が生み出す舞台と、ペンライトに染まる客席の熱気あふれる一体感が、大きな魅力となっている。2023年12月歌舞伎座『今昔饗宴千本桜』特別ポスター初演から8年目を迎えた「超歌舞伎」の歌舞伎座公演決定に、獅童は「念願が叶い、正直にうれしいという思いが一番でございます」と喜び声。「歌舞伎座でやるには、異質な演目で賛否両論、ご意見あるだろうなと思いますが、そこをやるのが、伝統を守りつつ、革新を追求する中村獅童の生き方」と語り、「僕にとってはライフワーク。同時に、歌舞伎座はゴール地点なので、もしも“第1期”があるとすれば、これで一度ピリオドを打ちたい。今までの集大成として、思いをすべてぶつけたい」と強い決意を示した。『今昔饗宴千本桜』(H31.8南座)左より、中村獅童、初音ミク©松竹・NTT/©超歌舞伎『永遠花誉功』(R4.9南座)左より、小川陽喜、中村獅童©超歌舞伎2022 Powered by NTT」「歌舞伎座でペンライトが光る風景って、今までないですよね。一見奇抜に見えるかもしれませんが、演技や表現は古典歌舞伎に則っている。歌舞伎は本来、庶民の娯楽。“敷居が高い”を取っ払って、大げさですけど、時代を切り開きたい。いずれは歌舞伎座でやって、超歌舞伎というジャンルを本物にしたいという思いもあった」(獅童)さらに、同公演にて次男の夏幹の初お目見得も決定。今年6月に3歳の誕生日を迎えた夏幹は、夏櫻丸(なつおうまる)を勤める。本作には佐藤四郎兵衛忠信を勤める父・獅童、陽櫻丸(はるおうまる)と狐の精を勤める長男の小川陽喜に加えて、中村勘九郎、中村七之助らも出演し、「超歌舞伎」の歌舞伎座初上演と初お目見得の舞台を華やかに飾る。会見で、獅童は「重たく受け止めてほしくないですが」と切り出し、夏幹君について「生まれながらに、両手の小指が欠損している状態」だと説明。本人の「歌舞伎をやりたい」という思いを尊重しつつ、表舞台に立つ以上は「指がないというのは、隠せないこと」と語り、「歌舞伎役者をやらせるべきなのか、この問題を公表するべきかも含めて、妻と話し合った。どちらが正しいか分かりません」と葛藤を明かした。それでも「明るく生き抜こうとする夏幹の姿に、僕自身も成長し強くなれた。その日々の積み重ねが、公表につながった。ひとつの個性として受け入れられ、どんよりした時代を、少しでも明るくする道しるべのような存在になってもらいたい」と希望を託し、同時に「海外にはチャレンジドという言葉があるように、かわいそうとか、感動的に捉えてほしいとか、そういうことでは一切ない。同情されたくないですし、普通に温かく接してほしい」と思いを訴えかけた。「生まれたときからの状態なので、本人に(チャレンジドだという)認識はないと思います。学校に通い始めると、きっと他の子と違うと気づくときが来て、悲しみや苦しみを味わうこともあるかもしれないが、役者にとってはそれが最大の武器になる。だから、個性的で強力なライバルが現れたと思っていますよ。未来を見据えて、チャレンジする精神は僕も忘れたくない。『超歌舞伎』を歌舞伎座でやるのはチャレンジなので」(獅童)【あらすじ】神木である千本桜の咲き誇る神代の時代、この世を闇に落とさんと企む青龍の精の襲撃を受け、桜はその花を散らし、世界は闇に包まれ、神木を守護なす白狐や美玖姫はその難を数多の犠牲を伴って逃げ延びる。時は移り。枯れ果てた千本桜の周りで寂しく舞う蝶々は、記憶を失い逃げ延びた美玖姫の仮の姿。そこへ、白狐が転生した姿である佐藤忠信が現れる。神代の時代の記憶を残す忠信は、美玖姫に駆け寄るが。取材・文:内田涼<公演情報>歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」第一部「超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』」出演:佐藤四郎兵衛忠信:中村獅童美玖姫:初音ミク蝶の精:中村種之助陽櫻丸・狐の精:小川陽喜夏櫻丸:小川夏幹初音の前:中村蝶紫青龍の精:澤村國矢頭取:市川青虎女神舞鶴姫:中村七之助朱雀の尊:中村勘九郎2023年12月3日(日)~12月26日(火)会場:東京・歌舞伎座チケット情報:公式サイト:
2023年11月14日11月2日(木)、歌舞伎座新開場十周年「吉例顔見世大歌舞伎」が開幕した。熱狂を巻き起こした初演から6年ぶりの再演となる『極付印度伝(きわめつきいんどでん)マハーバーラタ戦記』を上演する昼の部と、秀山十種の内『松浦の太鼓(まつうらのたいこ』、義太夫狂言の傑作『鎌倉三代記(かまくらさんだいき』、そして「顔見世」を彩る舞踊三題をお届けする『顔見世季花姿繪(かおみせづきはなのすがたえ』で締めくくる夜の部。それぞれ初日公演のオフィシャルレポートが到着した。世界三大叙事詩のひとつ「マハーバーラタ」を原典とした『マハーバーラタ戦記』は、尾上菊之助がSPAC(静岡県舞台芸術センター)の芸術総監督・宮城聰が演出した『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』を観て感銘を受けたことがきっかけで、青木豪の脚本、宮城總の演出により、2017年に初演。今回、事前に行われた取材会で「二幕目の婿選びのシーンでインド映画の舞踊を模した踊り合戦」が加わることを菊之助が明かしており、映画『RRR』で話題となった「ナートゥダンス」のような激しい踊りの場面が登場するなど、脚本と構成が練り直された再演となった。初演に引き続き尾上菊五郎が仏の化身である那羅延天で出演、主人公・迦楼奈とシヴァ神の二役を勤める菊之助、我斗風鬼写(がとうきちゃ)とガネーシャの二役を勤め、今回が初出演となる菊之助の長男・丑之助の、親子孫の3人が共演することも大きな話題だ。開幕するとそこは、神々の世界。神々は人間界を見下ろし、争いを繰り返す人間たちを嘆く。黄金を身にまとっているかのように煌びやかに居並ぶ神々は、神聖さを感じさせる。中央に聳える那羅延天(ならえんてん/尾上菊五郎)が「この世の終わりが始まる」と告げると、滅びの神・シヴァ神(尾上菊之助)は人間たちが始める戦争で世界が滅ぶだろうと語る。このままでは世界は滅びてしまうと、太陽神(坂東彌十郎)が世界の終わりを止めるため慈愛に満ちた子を人間界へ送り救世主にしたいと告げる一方、軍神である帝釈天(坂東彦三郎)は圧倒的な武力をもって世界を支配すべきだと言い、それぞれ若く徳の高い汲手姫との間に迦楼奈と阿龍樹雷をもうける。母なるガンジス川に泰平を祈っている汲手姫(くんてぃひめ/中村米吉)のもとへ太陽神が現れると、汲手姫は迦楼奈(かるな/尾上菊之助)を宿し、瞬く間に美しい耳飾りの子を産み落とす。しかし、まだ恋すら知らない身であり恐ろしくなった姫は、生まれたばかりの赤子をガンジス川へ流してしまい……。 十六年が経ち、亜照楽多(あでぃらた/河原崎権十郎)と羅陀(らーだー/市村萬次郎)夫婦に育てられた迦楼奈は天性の弓の才能を秘めた青年へと成長を遂げるが、ある日、太陽神から人間界の救世主であるとのお告げを受けると、弓の修業のために家を出る決断をし、旅立つのだった。王が亡くなったばかりの王宮では、王妃である汲手姫の前に百合守良(ゆりしゅら/坂東亀蔵)、風韋摩(びーま/中村萬太郎)、阿龍樹雷(あるじゅら/中村隼人)、納倉(なくら/中村鷹之資)、沙羽出葉(さはでば/上村吉太朗)の五王子が並ぶ。五王子の名乗りの台詞は歌舞伎らしさに溢れ、王子たちとその従兄弟である鶴妖朶王女(づるようだおうじょ/中村芝のぶ)と道不奢早無王子(どうふしゃさなおうじ/市川猿弥)姉弟による王位継承争いが勃発すると、仙人久理修那(くりしゅな/中村錦之助)の助言により王位を競う武芸大会が開かれることに。都へやってきた迦楼奈もその武芸大会に出場し阿龍樹雷と対峙するが、鶴妖朶は自らが国を治めるべく迦楼奈を仲間に引き入れる。憎しみに駆られ五王子を亡き者にしたい鶴妖朶と、永遠の友と誓った約束を貫く迦楼奈。ふたりの関係は果たして……。また、迦楼奈と阿龍樹雷は、それぞれ葛藤しながらも自らの使命を受け入れていく。菊之助と隼人のふたりは初演でも話題となった客席を貫く両花道を走る馬車に乗ると、激しい立廻りを見せ、客席もヒートアップ。汲手姫という同じ母親を持つふたりの運命がぶつかり合う場面に拍手が止まない。戦乱の場面では、迦楼奈を演じる菊之助と、我斗風鬼写を演じる丑之助が親子で立廻りを見せると、観客からは大きな拍手が送られ、丑之助はハッキリとした口跡で重要なセリフを聞かせた。両花道を使った効果的な演出をはじめ、屏風を模した大道具、甲冑の衣裳デザインなど視覚的な楽しさから、歌舞伎座の空間に響き渡る国際色豊かな音楽、次々に繰り広げられる怒涛の展開は時が経つのを忘れてしまうほど。溢れんばかりの躍動感と哲学的な問いの余韻を残し、客席は大きな拍手で満たされた。仁左衛門の松浦候に鳴り止まない拍手夜の部は、秀山十種の内『松浦の太鼓』で幕開き。元禄十五年、師走の両国橋。俳人の宝井其角(中村歌六)は、笹売りに身をやつした赤穂浪士の大高源吾(尾上松緑)に出合う。其角の俳諧の弟子でもある源吾は、其角の詠んだ上の句に「明日待たるゝその宝船」と下の句を残し去っていく。その後の物語に大きな役割を果たす意味深な付句に、緊張した空気が漂う。そして翌日、大名・松浦鎮信(片岡仁左衛門)の屋敷では、其角を招き句会が催されているが、松浦侯は源吾の妹で腰元のお縫(中村米吉)の姿を見て苛立ち、其角から前日の源吾の話を聞くと、赤穂には忠義に篤い浪士がいないのかとさらに苛立ちが増す。するとそこへ、隣の吉良邸から陣太鼓の音が……。ひとつふたつと指折り数える松浦侯は赤穂浪士による討入りを覚る。その松浦侯の姿は本作最大の見所で、観客も心高鳴る様子で熱い視線を注ぐのだが、大名の風格と教養そして喜怒哀楽を自在に現し愛嬌を備える松浦侯は、忠義を重んじる武士の精神を持っている。「忠臣蔵」外伝の人気作を、2002年以来21年ぶりに歌舞伎座で演じる仁左衛門の姿に拍手が鳴り止まなかった。続いては、義太夫狂言の傑作『鎌倉三代記』。今回の上演では、中村時蔵と梅枝の親子が三浦之助義村と時姫をそれぞれ初役で勤めることが話題。中村芝翫が3度目となる佐々木高綱を勤める本作は、大坂夏の陣をモデルとして、三浦之助義村は木村重成、時姫は千姫、佐々木高綱は真田幸村であるとされ、鎌倉時代に舞台は置き換えられている。三浦之助の母が病に伏す絹川村の侘びた住居。京方と鎌倉方の争いのさなか、京方の三浦之助(中村時蔵)が現れ、恋人である鎌倉方の時姫(中村梅枝)が出迎える。戦へ戻ろうとする三浦之助に時姫は夫婦の契りを交わしてほしいと嘆願するも拒絶され、自害しようとしますが三浦之助に止められてしまう。時姫は父の北條時政と恋人の三浦之助との板挟みに苦しみ、ついに苦渋の決断を下し……。二枚目の若武者である手負いの三浦之助を時蔵が、“三姫”と呼ばれる女方の大役のひとつである時姫を梅枝が勤め、運命に翻弄される男女を色濃く演じると、客席はその一挙手一投足に見入った。前半では可笑しみを見せる藤三郎が、後半では佐々木高綱(中村芝翫)としての本性を現し、勇将たる姿でこれまでの計略を語る対照的な姿に観客は沸き立つ。趣向に富んだ重厚な義太夫狂言の傑作に、大きな拍手が送られた。夜の部を締めくくるのは、『顔見世季花姿繪』。最初は、春の七種行事を曽我兄弟の仇討ちと結びつけた舞踊『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』から。親の仇である工藤祐経の館に現れた、曽我五郎(中村種之助)と曽我十郎(市川染五郎)の兄弟。工藤を討とうと血気づく兄弟を、春の七種を摘む静御前(尾上左近)が押し止める。七種の名を巧みに織り込んだ長唄に乗せ、若手3人が華やかに踊る姿に客席は温かい空気に包まれた。続いては、清元による『三社祭(さんじゃまつり)』。浅草寺本尊の観音像を拾い上げたふたりの漁師(坂東巳之助、尾上右近)が粋な踊りを見せると、頭上に黒雲が下りてきて、ふたりに悪玉と善玉が取りつく。悪玉と善玉の面をつけて競うように踊るふたりは、軽快で可笑しみに溢れ、躍動感ある勢いを見せる。悪玉の巳之助と善玉の尾上右近という踊り巧者ふたりの競い合いに拍手喝采、大いに盛り上がった。そして最後は、吉原の遊廓を舞台に風情ある踊りで魅せる『教草吉原雀(おしえぐさよしわらすずめ)』。男女の鳥売り(中村又五郎、片岡孝太郎)が吉原の客を様々な鳥たちにたとえて踊り、吉原通いの様子や廓の風習を伝える。鳥刺し(中村歌昇)が登場し、賑やかさが加わり客席も浮き立つ。やがて3人の正体が明らかになると、驚きと共に沸き上がり、華やかに幕となった。歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」は2023年11月25日(土)まで、東京・歌舞伎座で上演中。<公演情報>歌舞伎座新開場10周年「吉例顔見世大歌舞伎」【昼の部】11:00~極付印度伝『マハーバーラタ戦記』【夜の部】16:30~一、秀山十種の内 松浦の太鼓二、鎌倉三代記三、顔見世季花姿繪2023年11月2日(木)~25日(土)※休演:10日(火)、20日(月)会場:東京・歌舞伎座チケット情報:公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2023年11月04日令和5年度(第78回)文化庁芸術祭主催公演『11月文楽公演』が、11月4日(土)から26日(日)まで国立文楽劇場にて開催される。本公演には、今年7月に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された人形浄瑠璃の人形遣い、吉田玉男が出演。「11月文楽公演」チケット情報演目は、第1部「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」と「面売り(めんうり)」、第2部「奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)」、第3部「冥途の飛脚(めいどのひきゃく)」。11月16日(木)の第2部「奥州安達原」公演前に、吉田玉男によるスペシャルトークの開催が決定した。事前解説を聞いて、舞台をより深く楽しもう。「11月文楽公演/吉田玉男プレトーク付ぴあシート」は、10月20日(金)10:00より一般発売開始。
2023年10月20日歌舞伎三大名作の一つ『義経千本桜』から、2段目の「伏見稲荷鳥居前」(鳥居前)、4段目の「道行初音旅」(吉野山)「川連法眼館」(四の切)が、10月、「立川立飛歌舞伎特別公演」で“忠信篇”として上演される。主人公の“佐藤忠信実は源九郎狐”を、各演目で別の役者が演じるのも見どころの一つ。「吉野山」では市川團子が初役で勤め、その相手役の静御前を中村壱太郎が、「四の切」にも登場して披露する。今年6月の『傾城反魂香』や8月・9月の『新・水滸伝』で共演した二人が息を合わせ、どんな忠信と静を見せるのか。『義経千本桜』の魅力を、「知盛、権太、忠信という3人のカッコいい主人公がいて、一つの物語としてきれいにつながっている」ところにあると話す團子に続いて、「今回はその一人の忠信を追っていける構成になっているので、歌舞伎を初めて観る方にもわかりやすい」と壱太郎。しかも、上演されるのが市川猿翁さん監修のバージョンとあって、けれん味もたっぷりだ。忠信は実は狐の化身で、幼い頃に父母が捕らえられて鼓の皮にされてしまい、親を慕って鼓を持つ静御前に付き従っているのだが、「猿翁のおじさまの『四の切』は、子狐のかわいらしさや親を思う気持ちが伝わってくるので、静御前も自然にほだされていくんです。今回の『四の切』で忠信を演じられる(市川)青虎さんもそれを受け継がれていますから。お子さんがご覧になってものめり込める楽しい要素がたくさん詰まっている作品になると思います」と壱太郎は語る。猿翁の孫の團子は、祖父の著書などから、「芝居は子どもが遊ぶように無心でやるのがいい」といったことを学んできた。「吉野山」についても、「祖父が言っていた通り、場面ごとの意味を忠実に表現できるようにしたい。また、静御前とは主従関係なので色気がありすぎてもいけないけれどもなさすぎてもいけないその微妙なところを探り、物語のところは、しっかりと戦の情景や、人物の感情が伝わるように演じたい」と話し、それを受ける壱太郎は、「何度もやってきた静御前が、團子くんの忠信によってどう変わるのか楽しみ」と期待を高める。演目の前には「ご挨拶」として團子と壱太郎が話す時間もある。團子が壱太郎を「常に『大丈夫だよ』と励ましてくださる温かく優しい先輩」と称し、壱太郎が團子を「芝居への熱い思いがあって、知らぬ間にみんなを引っ張ってくれている」と語るその素顔も、覗けるかもしれない。取材・文:大内弓子■公演情報立飛グループ創立100周年記念事業 立川立飛歌舞伎特別公演公演期間:2023年10月25日(水)~28日(土)会場:立川ステージガーデン
2023年10月19日歌舞伎座で上演中の「錦秋十月大歌舞伎」は、昼の部・夜の部共に古典の名作から新演出の演目まで、ゆっくりと文化芸術を楽しむ秋にふさわしい作品が並んだ。昼の部(11時開演)は、鶴屋南北らしいケレン味が味わえる『天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)』と、山田洋次監督の新演出による『文七元結物語(ぶんしちもっといものがたり)』。夜の部(16時30分開演)は、ふたりの力士のやりとりを描いた『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場』と、菊の精たちの華やかな舞踊『菊』、ご存じ黄門様が活躍する『水戸黄門 讃岐漫遊篇』だ。今回は、日本を代表する名監督・山田洋次が、落語家・三遊亭圓朝の人情噺『文七元結』をもとに脚本と演出を一新して贈る『文七元結物語』をピックアップ。腕の立つ左官の職人だが博打好きの長兵衛には中村獅童、その女房・お兼には寺島しのぶという絶妙な配役にも注目だ。物語は、吉原「角海老」の前にみすぼらしいなりをした少女・お久(中村玉太郎)が現れるところから始まる。女将のお駒(片岡孝太郎)がなぜ来たか問うと、実の父・長兵衛が酒と博打で身を崩し、借金を重ねた挙句、優しい義理の母・お兼に手を上げるのを見かねて身売りをしにきたのだと答える。あかぎれの手を震わせながら話すお久と、吉原の女将らしく貫禄を漂わせながらも、少女の訴えに真剣に耳を傾けるお駒の表情が胸を打つ。場面が変わって長兵衛の家では、今日も博打で負けて着物まで取られた長兵衛が。そこへ、お久が帰らないのを心配して探しに出ていたお兼が戻ってくる。長屋の女房たちとしゃべりながら登場した寺島は、いかにも貧乏長屋の女房らしいこしらえ。お久のことを心から想いつつ長兵衛をなじる姿は、歌舞伎の舞台に溶け込みながらも、芯の強さを感じさせる佇まい。人はいいのだが甲斐性なしの長兵衛に扮した獅童も絶品で、寺島とのあうんの呼吸が楽しい。演出に加え舞台セットや照明にも山田監督の手腕が光り、人情の機微を描く名作『文七元結』の魅力を改めて感じた。その他、尾上松緑が躍動する『天竺徳兵衛韓噺』や、人気力士に扮する獅童と坂東巳之助の対比が面白い『角力場』、秋にピッタリなモチーフの舞踊『菊』など、多彩なラインナップ。坂東彌十郎が水戸光圀公に、中村福之助と中村歌之助が“助さん格さん”に扮する『水戸黄門』は、48年ぶりの上演。どれも見逃せない十月となった。取材・文:藤野さくら
2023年10月16日2023年10月・11月に、「十三代目 市川團十郎白猿 襲名披露巡業」公演が全国20ヶ所にて開催となる。それに先駆け出演の市川團十郎による取材会が都内某所にて実施された。演目として『毛抜』を選んだ理由について「市川團十郎家の襲名公演ですので、歌舞伎十八番もしくは新歌舞伎十八番をご披露するというのが一般的。秋巡業の演目の候補としては『鳴神』、『毛抜』があがるなか、決め手となったのは一人で芝居をするところが多い点です。『鳴神』は荒事の要素は多いですが、女方と二人で芝居を進めていくことが多く、市川團十郎が中心の『毛抜』の方が襲名披露巡業としては面白いのではないかと思いました。『毛抜』には紋切り型という幕外の型があり、ご当地によって幕外の景色を変えたいという思いもあり、『毛抜』に決めさせていただきました。『毛抜』はもともと二代目市川團十郎が行った「雷神不動北山櫻」という作品。そこから七代目市川團十郎によって『鳴神』、『毛抜』、『不動』が歌舞伎十八番に選定されますがその形は途絶え、二代目市川左團次が色気ある作品に作り替えたのが今日伝わっている『毛抜』であり、『鳴神』。今やっている『毛抜』は派生して出来ている部分も大きくあり、二代目市川團十郎が演じていたものをそのまま演じている『助六』と違い、『毛抜』は原型がどうだったかは正直分からない。その中で『毛抜』の粂寺弾正は愛嬌とおおらかさ、その中にひけらかさない知的の強さ、歌舞伎十八番の「剛の者」というすべてのエッセンスがないと出来ない、歌舞伎十八番の中でもハードルの高い役のひとつ。」と語る。また、「歌舞伎十八番は荒事の印象があるかもしれませんが、お家騒動を解決していくLGBTQの壁をも超えた主人公が奮闘していくところに、新しい視点でも見ていただける作品なのではないかと思います。」と見どころについても触れ、「自分自身、襲名披露巡業のみならず他の興行を含めても各地に一番足を運んでいる役者だと思います。首都圏の近郊や遠方にいらっしゃる方々に届けられるよう巡業に力を注いで生きてきました。今回各地の方々にお目にかかれるということで、團十郎として今後ともよろしくお願いいたします、というご挨拶と、今まで海老蔵としてありがとうございました、という感謝を伝えられる興行になれば良いなと思う。」と締めた。チケットは好評発売中。
2023年10月10日多くの作品が親しみのある現代語に訳され、初心者でも読みやすくなっている古典文学。その魅力や楽しみ方について、古典文学愛好家である、書評家・三宅香帆さんと翻訳家・イザベラ・ディオニシオさんが語ります。最初にハマる古典はやっぱり『源氏物語』。三宅香帆(以下、三宅):私が古典に興味を持つきっかけとなったのは、実は氷室冴子先生の『なんて素敵にジャパネスク』という少女小説なんです。イザベラ・ディオニシオ(以下、イザベラ):ライトノベルズや漫画は入り口にぴったりですよね!三宅:平安時代が舞台の話ですごく面白かったんですが、未完で終わってしまって。その続きが読みたすぎて、あとがきに元ネタになっていると書かれていた『大鏡』や『源氏物語』に手を出して。大学では国文学を勉強して、がっつりと読むようになりました。イザベラ:私は子供の頃からギリシャ神話に興味があって、それをテーマにした児童書を読んでいたんです。でも、だんだん原文で読みたくなって。高校はクラシック系の学校に入り、ラテン語や古代ギリシャ語を中心に勉強しました。三宅:え~、すごい!イザベラ:イタリアの高校は、日本の専門学校に近い感じなんです。それで古典作品をいろいろ読み漁って、古代ギリシャやローマの日常生活とか恋愛事情を知りました。三宅:それで、なぜ日本の古典に興味を持ったんですか?イザベラ:大学に入る時に、軽い気持ちで日本文学の講義をとったんですよね(笑)。でも、歴史から学んでいくうちに、どんどん古典文学にハマっていって。最初に読んだのは『源氏物語』でした。『源氏物語』は女性キャラが魅力的。三宅:やっぱり、日本最古の恋愛ロマンスですもんね!イザベラ:のめり込みましたね。登場人物を知り合いに例えたりして、友達と楽しんでいました。三宅:『源氏物語』は盛り上がりますよね!私も大学生の時に、ドラマ化するならこの役はあの俳優さんがいいとか、勝手に配役を妄想してました(笑)。イザベラ:主人公の光源氏よりも、女性キャラクターの方が個性的だし、断然、色鮮やか。だから、想像力を掻き立てられるんですよね。三宅:『源氏物語』って読む時の年齢によって感情移入するキャラが替わりませんか?最初は自分がまだ子供だったということもあって、雲居の雁がかわいくて好きだったんですが、大人になった今は朧月夜のような主体的な女性に惹かれる。嫉妬深くて、生き霊を飛ばす六条御息所も、最初はただただ怖い!って思ったけれど、嫉妬しちゃいけないと思うからこそ、生き霊になってしまった気持ちも今なら少しはわかる。イザベラ:確かに。「自分は身分も教養も容姿も申し分ないはずなのに、なぜ私じゃなくてあの子を選ぶわけ?なんで振り向いてくれないの?」って思ってしまうとか…ね。怨念で死に追いやってしまうのはどうかと思いますが(笑)。三宅:そんな簡単なものじゃないんですよね、恋愛は(笑)。イザベラ:恋愛はケミストリーだから、いくら高スペックな女性でも、必ずしも恋が上手くいくとは限らない。作者の紫式部は当時からそういうことをわかったうえで、確信的に書いていたんですよね。三宅:最愛の妻とは子供ができず、若い愛人にサクッとできてしまう話もすごいなぁと思いました。現代の話だと言ってもまったく違和感ないし、なかなか深いですよね。読み比べも楽しい。人気作家が手がける『源氏物語』『源氏物語』1角田光代 訳2017年に満を持して出版された、最も新しい角田訳。原文に忠実ながらも非常に読みやすく、昔も今もつながる感情を重視し、小説としての面白さが存分に堪能できる。この秋、待望の文庫化。10/6発売。¥880/河出文庫『全訳 源氏物語 新装版』1与謝野晶子 訳少女の頃から『源氏物語』を愛読してきた与謝野晶子が晩年に書いた54帖全訳の決定版。与謝野版の出版により、一般にも広く普及されるようになった。その現代語訳は格調高い筆致が特徴。¥836/角川文庫『潤一郎訳 源氏物語』1谷崎潤一郎 訳文豪・谷崎潤一郎による現代語訳は、京都の女語りを意識した流麗な雅文体。原文の雰囲気を生かして、継ぎ目のない長文で主語も入らないため、初めて『源氏物語』を読んでみようと思う読者にはやや難しい。¥1,100/中公文庫『新源氏物語』上田辺聖子 著もともと『週刊朝日』に連載されていたもので、男性にもわかりやすい物語を目指して、原書を大幅にリライト。田辺の創作が少し加えられているうえ、会話を多用しているので現代小説のように読める。¥990/新潮文庫(写真・左)三宅香帆さん書評家。1994年生まれ、高知県出身。京都大学大学院修士課程修了。著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』ほか多数。いつか『更科日記』を現代語訳することが夢。(写真・右)イザベラ・ディオニシオさん翻訳者、エッセイスト。イタリア出身。大学時代より日本文学に親しみ、2005年に来日。著書に『平安女子は、みんな必死で恋してた』『女を書けない文豪(オトコ)たち』『悩んでもがいて、作家になった彼女たち』。趣味はごろごろしながら本を読むこと。※『anan』2023年10月11日号より。写真・福森クニヒロ黒川ひろみ取材、文・野尻和代(by anan編集部)
2023年10月09日歌舞伎を観るならまずはコレ。尾上右近さんおすすめの古典歌舞伎10演目をご紹介します。【連獅子(れんじし)】歌舞伎といえば毛振り!勇壮な姿に釘付け。文殊菩薩の霊山。獅子頭を手にした狂言師の右近と左近が現れ、親獅子が我が子を谷底に突き落として這い上がってきた子だけを育てるという、獅子の子落とし伝説を厳かに舞い始める。舞い終えたふたりが胡蝶に誘われ場を去ると、現れたのは法華宗の僧と浄土宗の僧。旅の道連れとなるが、互いの宗派を知った途端、言い争いに。そのとき一陣の風が吹き、親子の獅子の精が現れる。毛振りを見ると清々しい気持ちになります。歌舞伎のジャンルのひとつとして、踊りで物語を表現してゆくのが舞踊。「基本的に舞踊は、始まって終わるまでに物語が完結するうえ音楽劇的な要素もあり、誰にでも観やすいジャンルだと思います。その中でも『連獅子』は、多くの人が歌舞伎と聞いてイメージする“毛振り”があり、華やかさや迫力も含め、観て面白い演目だと思います。獅子はもともと能に端を発していますが、それが毛を振るというのは歌舞伎にしかない演出。あの毛を振る間の歌舞伎俳優の心境というのは、ど派手なパフォーマンスを見せてやろうというのではなく、心静かに経を唱えているような感覚。僕は、あれこそ歌舞伎の自己犠牲の美学が一番凝縮した姿だと感じます。そこに子に試練を与える親獅子の厳しさが重なりますし、親獅子に食らいついていく子獅子の姿には、生や芸を受け継ぐことの重みを感じる。でも、そこに不思議な命の高揚感があり、だからこそご覧になる方々は清々しい気持ちになるのではと思っています。また同じ『連獅子』でも演じる方によって全然違うので、見比べるのも面白いと思います」(尾上右近さん)【春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)】踊るうち徐々に興に乗ってゆく娘の変化に注目。江戸城の大広間。正月の祝いの余興にと奥づとめの弥生が殿様に舞を所望された。最初は恥ずかしがって逃げるが、お局らに引き戻されてしまう。ようやく観念すると、さまざまな舞を次々と披露する。徐々に舞が興に乗るなか、弥生が手にしたのは獅子頭。いつしか獅子頭が弥生を翻弄し始め、姿を消した彼女に代わり、獅子の精が姿を現す。僕にとって絶対外せない特別な演目です!右近さんが幼いときに観て、歌舞伎に魅了されるきっかけとなったのがこの演目。「これがあるから自分は歌舞伎をやっていると言っても過言ではないので、これを挙げないと自分としては納得できない」と言うほど特別なもの。「弥生は、最初はお殿様に所望されて仕方なく踊り始めますが、殿様に見られているという高揚感も手伝って、徐々に興に乗って踊りに気持ちが集中していきます。この弥生の見られている高揚感と緊張というのは、演じている役者の心境とぴったりリンクしますし、ひとりで30分の大曲を踊り切るわけで、役者にとって孤独な闘いでもあり、それだけ覚悟のいる演目でもあります。歌舞伎の舞踊の中ではストーリー性が薄いこともありエンターテインメント性より芸術性が強いかもしれませんが、歌舞伎の芸術としての側面を味わうには最適なはず。初めてご覧になるなら、ぜひ僕が挑戦するときに観てほしいです。絶対後悔させませんので」【京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)】美しい女性が釣り鐘を前に大蛇に豹変。恋に狂った清姫が大蛇となり僧を鐘ごと焼き殺した伝説が残る道成寺で、鐘供養が行われることに。そこに鐘を供養させてほしいと訪ねてきたのは美しい白拍子(男装の舞妓)。女人禁制ながら、修行僧たちは舞の披露を条件に寺へ招き入れる。さまざまな舞を披露するが、次第に白拍子の様子が変わり鐘に登ったかと思うと蛇の正体を見せるのだった。細部にまで日本の美が詰まっている総合芸術です。「1時間近くをひとりで踊り通すわけで、役者にとっては『鏡獅子』同様、心境的には自分との闘いのような演目ではあるんです。ただ、華やかで美しい衣装に鬘があって、大道具があって、役者がいて、音楽があって、小道具もすべてキラキラしていて、細部まですべてに日本の美が詰まっていて、それらが互いに引き立て合って、観る者を作品の世界に引き込んでくれる。役者ひとりの力で魅せる芸術ではなく、歌舞伎が総合芸術であることを実感してもらえる演目だと思います」赤の振り袖に烏帽子をかぶっての、能を取り入れた静かで厳かな舞から始まり、引き抜きという手法で一瞬にして浅葱色の衣装に替わったり、小道具も次々と持ち替えて、さまざまな踊りを見せていく。「視覚的にも聴覚的にも起伏がたくさんあって、観る人を飽きさせないようにと考えて作られていますし、この作品の時代背景や設定などを知らなくても楽しめる演目だと思います」【弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ) 白浪五人男(しらなみごにんおとこ)】美しい娘だと油断するなかれ。その正体に驚き。呉服問屋・浜松屋を、従者を連れた美しい娘が訪れる。品物を選ぶ最中に娘が万引。それを番頭が見咎めるが、その品は他で買ったものと判明。無実の罪を着せられたと従者の男が店に法外な金を要求。仕方なく金を渡すが、じつは娘は男で、すべてがゆすりの芝居だった。娘は開き直ると着物を脱ぎ刺青を見せ、盗賊の弁天小僧菊之助と名乗るのだった。女形の楽屋裏での姿を想像してもらえれば(笑)。「ヤンチャ小僧って、周りは手を焼きながらも、かわいいなって思ったりしますよね。弁天小僧は、まさにそのかわいさとかっこよさが共存した存在。しかも女性の格好をしているときは本当に綺麗だから、その後の展開を知らずに観た人は、男がやっているのに女形って本当に綺麗だなと感じると思うんです。それが後で服を脱ぎだし裸になっちゃうのだから、驚きますよね(笑)。弁天小僧が男に戻る場面は、女形の役者が楽屋に戻った状態と同じなわけで、女形の裏で見せる素の顔というかバックステージを見ているような感覚も楽しんでいただけるはず。男が女性を演じる女形という存在をうまく利用した話だと思います」正体がバレた弁天小僧菊之助が、開き直って自分の素性を明かす場面での「知らざぁ言って聞かせやしょう」は、歌舞伎屈指の名ゼリフ。「難しい知識は必要なく、これが名ゼリフといわれているんだ、と思って楽しんでいただければと思います」【夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)】蒸し暑い夏の夜、はずみで起きた哀しい惨劇。武士の玉島兵太夫に大恩のある魚売りの団七は、兵太夫の息子・磯之丞の恋人で遊女の琴浦が男たちに絡まれているのを助ける。老侠客の三婦の家に匿われた琴浦だったが、団七の使いを騙る団七の義父・義平次が彼女を連れ去ってしまう。それを知り義平次を追いかけ琴浦を取り返した団七だったが、揉み合ううちに義平次を斬ってしまう。芝居の随所から夏の暑さを感じる作品です。劇中の主人公・団七のセリフに、「悪い人でも舅は親」というものがあるが、どんなにはずみで犯した過失であっても親殺しは世の大罪。「あってはいけないことではあるけれど、団七の、一度走り出したら止まれない男の性みたいな部分は多くの方に共感していただけるのではないかと思います。義理と忠義を立てようと奔走する団七を邪魔する舅がいなくなり、ほっとする気持ちと同時に、本人が望まない結果となった団七をかわいそうにも思う。いろんな感情が湧き上がる作品です。団七は多少無理でも男を立てることを優先しようとするけれど、義父の義平次は、泥水をすすってでも必死に生きるのが男だという、ふたりの価値観の違いも面白いですよね。また、夏の暑さだとか、遠くから聞こえてくる祭り囃子だとか、季節を感じる描写が芝居の随所にあり、湿度と汗でベタベタするような夏の夜の空気感を体感してもらえるところも面白い作品だと思います」【東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)】みるみるうちに面相が醜く変わり恐ろしい姿に。色男の民谷伊右衛門は、産後の肥立ちが悪く、ことあるごとに主君の仇討ちを迫る妻の岩を疎ましく感じていた。その矢先、隣家の金持ちの伊藤家から孫娘との縁談を持ちかけられ、承諾した伊右衛門の元に伊藤家から毒薬が届く。血の巡りの薬と騙され飲んだ岩の顔はたちまち醜く変わり、非業の死を遂げる。その後、伊右衛門は岩の亡霊に悩まされ…。江戸時代生まれのホラーは怖いけどすごく哀れ。「江戸時代にもホラーというジャンルは存在して、当時から少しでも涼しく感じたいということで、夏に上演され喜ばれてきたジャンル。ゾクッとする怖さを楽しむ人がいるのは、今とまったく同じです。この物語の中心人物であるお岩様は、信じていた夫に騙されて殺されて、本当にかわいそうな女性です。夫の伊右衛門に薬と偽られ毒薬を飲んでしまい、髪をすく間にどんどん髪が抜けていく描写などは、怖いけどすごく哀れ。そのぶん恨みも深いのか、お化けになって登場するお岩様は本当に怖いので、ホラー好きな人なら喜んでいただけるのではないでしょうか」また、伊右衛門はお岩を死に至らせたばかりでなく、内職の手伝いに雇った小仏小平も殺害。そのふたりの幽霊が同時に現れる場面では、一人の役者が二役を一瞬で演じ分ける早替わりの演出も。「舞台の上に幽霊を登場させる演出の面白さもあれば、仇討ちのエピソードなどもあり、見どころの多い作品です」【め組の喧嘩(めぐみのけんか)】火消しと力士の意地の張り合い。喧嘩は迫力満点!品川宿、隣り合わせた座敷で飲んでいた力士たちと鳶の面々が、ひょんなことから小競り合いに。そこに割って入ったのは町火消しの「め組」の鳶頭・辰五郎。場は収まるが、鳶は武士に召し抱えられた力士より格下だと言い放たれる。面子を汚された辰五郎は仕返しを決意。妻と子に別れを告げ、彼を慕う鳶たちを率い、真剣勝負の場に乗り込んでいく。江戸の華といわれる“喧嘩”を堪能できます。「火消しと力士それぞれが自分たちの主張を曲げず、意地の張り合いから、それぞれのプライドをかけての命懸けの喧嘩に発展していきます。火事と喧嘩は江戸の華といいますが、それを嫌というほど堪能できる演目。これぞまさに“江戸っ子”というものが随所に描かれているので、そこを楽しんでもらえると思います」描かれるのは、ひたすら喧嘩の場面だが、「大人が本気で喧嘩している姿って、はたから見ていると面白いんですよね」とも。「力士たちへの意趣返しをしようと決意した鳶たちが勢揃いする場面がありますが、その迫力は本当に圧巻のひと言。鳶頭の辰五郎を筆頭に、手桶の柄杓でおのおの水盃をして威勢よく駆け出していく姿は無条件にかっこよく、観ていて気分が高揚すること間違いなし。出てきすぎじゃないの?と思うくらいたくさんの鳶がそこに登場するのも面白く、お祭り騒ぎ感も満載。わかりやすく見応えのある作品です」【義経千本桜(よしつねせんぼんざくら) 川連法眼館(かわつらほうげんやかた)】親への恋しさゆえ武将に化けた子狐の情愛に涙。兄・源頼朝に謀反を疑われた源義経は川連法眼の屋敷に匿われていた。そこに家来・佐藤忠信が訪ねてくるが、そのすぐ後、静御前を伴い忠信が来たとの知らせが入る。義経の命により忠信の真偽を確かめようとした静の前に正体を現したのは狐。鼓にされた父狐と母狐への恋しさゆえ、鼓を持つ静の供をしていたという。憐れんだ義経は狐に鼓を与える。あっと驚くようなアクロバット的演出も。『義経千本桜』は、兄・源頼朝から謀反を疑われ追われる身となった源義経の物語を背景に、戦によって思わぬ境遇となった人々を主人公にした、複数の物語で構成される壮大な作品。「タイトルロールでありながら、どのお話も主人公は義経ではなくその周りに生きる人々。なかでもこの場面は、狐が主人公で、その狐が人間の姿に化けて言葉をしゃべるというところが面白いです。しかも描かれているのは狐ではあれど親子愛で、どの時代もどの人にも伝わるテーマ。また義太夫という、ナレーションを兼ねた音楽に乗った音楽劇的な要素もあれば、“ケレン”と呼ばれるあっと驚くようなアクロバット的な演出もあり、見どころが多い演目。物語のラストは、狐の視点で大団円を迎えるので観ていて爽快感がありますしね。また、物語の時代背景や前後のエピソードを知らずとも、このお話単体で楽しめるので、初めて歌舞伎をご覧になる方にはぴったりだと思います」【俊寛(しゅんかん)】孤島に残された俊寛の深い悲しみが胸に迫る。平清盛打倒の謀略で孤島に流された俊寛僧都、藤原成経、平康頼。侘しい島暮らしの中、成経は海女・千鳥を妻に迎えた。そんなおり島に赦免船が。喜ぶ彼らだったが、使者の瀬尾は千鳥の乗船を拒む。当惑する中、瀬尾から妻が清盛に殺されたと聞いた俊寛は絶望。瀬尾を討ち、その罪で島に残る代わりに千鳥を船に乗せるよう懇願。俊寛は、ひとり島から涙で船を見送る。徐々に遠ざかっていく船を見送る俊寛に注目です。「舞台の真ん中に大きな岩があって、浜辺があって、海が見えて、そこに突然大きな船がやってくる…。あえてリアルを追求せず、デフォルメされた大胆な構図のセットで歌舞伎をやるということに、驚く人もいるのではないでしょうか。終盤、どんどん潮が満ちていく中、ひとり岩の上に取り残された俊寛が、仲間が乗る船を見送るシーンがあります。このとき船は舞台上に出すことなく、俊寛を演じる役者の目線を通して、徐々に遠ざかっていく船の姿を想像させる演出になっています。セットと役者、そしてそれを観る観客の想像力を借りることで、孤島にひとり残された老人がこれから直面する現実の悲しさを強烈に印象づける、極めて演劇的な作品だと思います」それゆえ、俊寛を演じる俳優によって、作品の印象がガラッと変わってくるのも面白いところ。「この作品に限ったことではないですが、さまざまな俳優で比べて観られるのも歌舞伎の面白さです」【実盛物語(さねもりものがたり)】どんでん返しに次ぐどんでん返しで飽きさせない。平家全盛の世。平家の武将・実盛と瀬尾は源氏方の木曽義賢の妻が産む子の詮議に訪れる。そこに運ばれてきたのは源氏のシンボル・白旗を握る女の片腕。それは源氏方の娘・小万の腕で、元源氏方の実盛が平家に白旗が渡るのを恐れ切り落としたもの。小万の子・太郎吉が母に悪態をつく瀬尾に刃を向けると瀬尾は自らを討たせ、小万はかつて己が捨てた娘だと告白する。「そんなわけあるか!」と心の中でツッコんで(笑)。「物語の舞台が源平合戦の時代であったりするので、フォーマルな堅い演目のように感じるかもしれませんが、描かれているのは登場人物たちの心の話。ここに登場する武士たちは、みんなが庶民と何ら変わらないことを思っていて、我々と何ら変わらない行動を取るので、親近感を持ってカジュアルな気持ちで楽しんでいただける演目だと思います。また、切り落とした片腕を死体に繋いだら、死んだ人が息を吹き返すという馬鹿馬鹿しい展開もあるので、『そんなわけあるか!』と心の中でツッコみながら楽しんでいただければと思います(笑)。そしてもうひとつの見どころは、最後に出てくる馬。中に人が入っているんですが、結構大きく迫力があるので本物かと驚く方もいるはず。しかもちゃんと芝居をする馬で、尻尾を揺らしたりブルッと震えたりする仕草は結構リアル。その馬に実盛が乗りますが、高さも乗り心地もまるで本物みたいなので注目していただければ」おのえ・うこん1992年5月28日生まれ、東京都出身。清元節宗家の家に生まれながら、7歳から歌舞伎の舞台に立ち、名子役として評判に。2005年に二代目尾上右近を襲名。現在は、歌舞伎の舞台のほか、ドラマや映画、バラエティ、現代劇やミュージカルなど幅広く活躍。’15年からは自主公演『研の會』を主催し、数々の大役に挑戦。11月には歌舞伎座への出演も決まっている。※『anan』2023年10月4日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・三島和也(Tatanca)ヘア&メイク・西岡達也イラスト・momo構成、取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年10月01日3歳のときに曽祖父で名優の六代目尾上菊五郎の踊る『春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)』を映像で観て歌舞伎の虜になり、歌舞伎俳優の道を歩み始めた尾上右近さん。その右近さんの考える歌舞伎の魅力とは、「なんでもない所作に拍手が起こる現象があるところ」。結局は、歌舞伎がすごいっていう結論になるんです「手ぬぐいをすっと取る動きだけで、深い感動を呼ぶっていうことが歌舞伎では本当にあるんです。それがなぜできるかといったら、“芸”があるからなんですね。先輩の中には何も動かずそこにいるだけで感動を呼ぶ方もいらっしゃいますけれど、基本的には芸で魅せるものだと思っています」その芸とは、何百年と続く歴史の中で“型”として構築されたもの。「新作歌舞伎と違い、古典は自分以外にも同じ役をやっている人がたくさんいます。もっと言えば、過去にその型を作った人がいて、それがいろんな人の手により継承されてきた歴史がある。だからどんなに僕が褒めていただいても自分の力だと思えなくて、結局、歌舞伎がすごいんだって結論になる。でもそれが古典の面白さだとも言えるんですよね」しかし古典も、昔の型をただ踏襲してきただけではない、とも。「六代目菊五郎の話ですが、かつては数百人の劇場でやっていたものが1000を超えるキャパに変わってきたとき、それまでの蛍を目で追う振りが後ろの観客には伝わらなくなったそう。どうしたらいいかを考えていたときに、目の不自由な人が、目の代わりに指先で見ると話していたのがヒントになって、蛍を指で追う振りを思いついたんだとか。そうやって時代を超えるために変わるものもあれば、変わってはいけないと意地になっている部分もあって、今の古典歌舞伎があるんですよね」その時代時代に歌舞伎役者がいて、彼らの肉体や精神を通して伝承してきたところに価値がある。「松本白鸚のお兄さんのところに教わりに伺ったとき、お兄さんが僕くらいの頃、年上の先輩に芸を教わりに行かれた思い出話をたくさんしてくださったんですよね。そのとき十七代目中村勘三郎さんの芸がいかにすごかったか話しながら当時を思い出して感動して泣かれるんです。僕はそのお兄さんの姿に感動でした。十七代目の芸を間近で見た感動を伝承する。これこそが継承で、その感動もひっくるめて古典になっていくんだなと思いました」歌舞伎1603年頃に京都・鴨川の四条河原で、出雲の阿国が始めたかぶき踊りが始まり。“かぶき”とは“傾(かぶ)く”が語源といわれ、風変わりな派手な服装で、これまでにない斬新な踊りを踊ったことから付いた名称といわれる。かぶき踊りは庶民の間で一世を風靡したが、風紀の乱れを助長するとして幕府より禁止令が下った。その後、男性による野郎歌舞伎が誕生。元禄時代、人気役者と実力派作家の台頭とともに娯楽として発展した。おのえ・うこん1992年5月28日生まれ、東京都出身。清元節宗家の家に生まれながら、7歳から歌舞伎の舞台に立ち、名子役として評判に。2005年に二代目尾上右近を襲名。現在は、歌舞伎の舞台のほか、ドラマや映画、バラエティ、現代劇やミュージカルなど幅広く活躍。’15年からは自主公演『研の會』を主催し、数々の大役に挑戦。11月には歌舞伎座への出演も決まっている。※『anan』2023年10月4日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・三島和也(Tatanca)ヘア&メイク・西岡達也構成、取材、文・望月リサ(by anan編集部)
2023年10月01日戦後の歌舞伎の礎を築き、“大播磨”と称された初世中村吉右衛門を顕彰して、2006年から始まった「秀山祭」。今月の「秀山祭九月大歌舞伎」は、希代の名優であり、ドラマ『鬼平犯科帳』でもお茶の間に親しまれた二世中村吉右衛門の三回忌追善として開催中。昼の部(11時開演)は時代物の傑作『祇園祭礼信仰記 金閣寺』と、舞踊劇『土蜘』、秀山十種の内『二條城の清正淀川御座船の場』。夜の部(16時30分開演)は古典の様式美あふれる『菅原伝授手習鑑 車引』と、舞踊『連獅子』、新歌舞伎の名作『一本刀土俵入』。昼夜共に「秀山祭」を牽引してきた吉右衛門ゆかりの演目と出演者がそろった。今回は、絢爛の金閣寺を舞台に展開する『祇園祭礼信仰記』に注目したい。“国崩し”と呼ばれる、国を転覆させてわが物にしようとする悪人の松永大膳と、知略にあふれた二枚目の武将・此下東吉(史実の羽柴秀吉)。さらに女方の大役で“三姫”のひとつといわれる雪姫、この3人を中心に物語は進む。大膳の中村歌六は、7月に人間国宝に認定されたばかり。今回が初役ながら“国崩し”にふさわしい大きさと不気味さを漂わせて芯を勤める。そんな大膳に、ある計画をもって近づく東吉には中村勘九郎。すっきりとした立ち姿に余裕のある微笑みもさることながら、時折顔をかすめる怜悧な表情に、ただ者ではないオーラが香る。雪姫には若手の中村米吉と中村児太郎がダブルキャストで挑んでいる。取材した初日は米吉で、これが初役。吹輪(ふきわ)のかつらに雪輪と桜があしらわれたトキ色の振袖がよく似合い、その美しさには客席からため息が。大膳が父の仇と知り、嘆き悲しみつつも、けして屈しないと力強く決意する場面や、縄に縛られながらも大膳に引き裂かれた夫・直信(尾上菊之助)を必死に見つめてあふれる想いを表すシーンなど、観る者をグイグイと引き込んでゆく。桜の花びらを爪先でかき集め、ついに奇跡を起こす“爪先鼠”の場面では、観客から思わず拍手が沸き起こった。昼の部は他に、松本幸四郎が緩急自在に魅せる『土蜘』や、加藤清正(松本白鸚)と豊臣秀頼(市川染五郎)のやりとりが、実際に祖父と孫である演者の関係性を思わせて味わい深い『二條城の清正』。夜の部は、中村又五郎、歌昇、種之助親子の『車引』、菊之助と丑之助が親子で初めて挑む『連獅子』。幸四郎と中村雀右衛門の世話物で泣かせる『一本刀土俵入』まで、見応え充分の九月となった。取材・文:藤野さくら
2023年09月14日2019年11月、小倉城天守閣再建60周年と博多座20周年の特別企画として九州初上陸を果たした『平成中村座』。小倉の街を熱狂の渦に包み込んだ舞台が、4年ぶりに再び北九州・小倉へ。その見どころと公演への思いを中村勘九郎に聞いた。「前回の公演では、観劇のお客様に加え、劇場の外からでも中村座を見に来てくださるお客様など多くの方にお集まり頂き、“祭りのなかで行なわれる芝居”という芝居の原点のような体験をさせて頂きました。この11月も、小倉の街で皆様と楽しく1ヵ月を過ごしたいですね」と勘九郎が笑顔で挨拶。再演が決まり、弟の七之助と「より面白いものを作らねば」との思いを強くしたと語る。今回の公演では、前回も好評を博したご当地を舞台にした通し狂言『小笠原騒動』の再演が夜の部で行なわれるほか、昼の部では『義経千本桜』より、北九州にほど近い壇ノ浦の伝説を元にした『渡海屋』『大物浦』、そして舞踊『風流小倉俄廓彩』が上演される。勘九郎は『渡海屋』『大物浦』で銀平・知盛を演じるが「襲名の時に博多座でやらせて頂いて以来、12年ぶりで。(片岡)仁左衛門のおじさまから習ったとても大事な役であり、憧れのヒーローをゆかりのある地で演じられるのが嬉しい」と意気込む。また豊前小倉藩で起きたお家騒動をベースにした『小笠原騒動』は前回大好評を博し、再演を望む声が多数寄せられた。勘九郎自身「(中村)芝翫のおじを拝見してあまりにも面白くて、チケットを取って観たくらい大好きな演目」と語り、芝翫の息子たち(橋之助、福之助、歌之助)への“継承”を念頭に「私たち(勘九郎&七之助)は悪人(犬神兵部&お大の方)で、彼らをビシバシいじめていきたいと思います(笑)」と笑いを誘った。平成中村座のコンセプトは、まるで江戸の芝居小屋にタイムトリップしたかのような「時空を超えたエンタテインメント空間」。クライマックスで舞台の後ろを開け、小倉城を借景にするダイナミックな舞台演出に加え、芝居小屋の周囲に立ち並ぶ長屋も話題となった。今回は、【市制60周年】を迎える北九州市の全面バックアップのもと、長屋の数も前回の20軒から30軒へとスケールアップ。また、ディズニー好きだった勘三郎にあやかり、隠れミッキーならぬ『隠れ勘三郎』など劇場そのものも遊び心満載。「平成中村座は、外の部分もテーマパークのように楽しんでいただけるよう、趣向を凝らしています」と演目以外もアピールした。公演は11月1日(水)~26日(日)。チケットは9月7日(木)11時まで先行抽選プレリザーブ受付中。9月16日(土)10時より一般発売開始。
2023年09月04日現代の視点を取り入れ、歌舞伎上演の新たな可能性を発信してきた「木ノ下歌舞伎」の代表作のひとつ『勧進帳』が東京芸術劇場にて上演される。歌舞伎の名作を大胆に再構築した本作について、監修・補綴を務める木ノ下裕一に話を聞いた。木ノ下は自らの創作を「古典をかきわけ、その先で見つけたものに“現代”を感じる瞬間があるんです。かきわけた地面の底に鏡が貼ってあって、そこに自分の顔が映し出されるような感覚です」と説明する。「勧進帳」で言えば、義経に対する弁慶の“忠義”、そして彼らの正体を見破りながら、騙されたふりをして見逃す関守・富樫の“情”を描いた物語として語られがちだが、木ノ下が着目したのはそこではない。原作を掘り起こす中で見出したのは、様々な形で現れる“境界(ボーダー)”の存在だった。「原作の長唄に『今またここに越えかぬる人目の関』という詞章があるんです。かつて、人目を忍んで恋をした弁慶が、いま再び世間の目を避けながら関所を越えようとしているという意味ですけど、確かにこの作品、いろんな“関”が出てくるんですね。義経らが越えようとする“国境”という意味での関所はもちろん、義経と弁慶の主従の間にも絶対に越えられない一線があるし、富樫と義経らの間にも敵味方という境界線がある。これをテーマに“境界(ボーダー)の物語”として新たな『勧進帳』が描けるんじゃないかと思ったんです」この“境界線”の存在もまた現代社会の中で時間と共に変容する。2010年の初演、2016年の再創造を経て、2018年にも再演された『勧進帳』だが、社会の変化と共に常にアップデートされていく。「2016年、18年の頃はまだ“分断”という言葉が新しかったですよね。『分断を生む』という言葉によって分断が顕在化し、認識されるような感じでした。でも2023年のいま、分断が存在することは当たり前で、それをどうすべきか? ということを考えなくてはいけない中で解釈や演出も確実に変わります。例えば入管や移民の問題は、いま『勧進帳』を上演するならば、しっかりと勉強した上で押さえていかなくてはいけない問題だと思っています」演出を務めるのは杉原邦生。「僕が思う杉原さんのうまさは、エンタメ性と批評性のバランスの良さだと思います。相反するものとされがちだけど、本当に素晴らしいエンタテインメントは批評性も高いし、批評性が高い作品はエンタメをまぶしてないと面白くない。せめぎあいの中でその両立ができるのが杉原さんの特徴」と全幅の信頼を寄せる。2023年を生きる我々の心をどのように揺さぶってくれるのか? 完成を楽しみに待ちたい。取材・文:黒豆直樹
2023年08月21日猛暑が続くなか、「八月納涼歌舞伎」が今年も好評上演中だ。通常の二部制(昼の部・夜の部)ではなく、八月恒例の三部制は今年も健在。第一部(11時開演)は、人情物語の『次郎長外伝 裸道中』と、舞踊劇『大江山酒呑童子』。続く第二部(14時15分開演)は、群像劇『新門辰五郎』と、舞踊の『団子売』。最後の第三部(18時開演)は、スペクタクルな展開に心躍る『新・水滸伝』という多彩なラインナップだ。今回は、第三部の『新・水滸伝』をピックアップ。中国の“四大奇書”のひとつ「水滸伝」をベースに、横内謙介(劇団扉座主宰)の脚本・演出、三代目市川猿之助(現・猿翁)の演出・美術・原案で2008年に初演。以降、たびたび上演を重ねている人気作だ。12世紀の中国・北宋を舞台に、兵学校の教官を務めた身ながら、今は天下一の悪党となった林冲(中村隼人)の波乱の運命を描く。朝廷の重臣・高きゅう(浅野和之)に向かって、盗賊の晁蓋(市川中車)ら梁山泊の仲間たちと戦いを挑むスケールの大きさが見どころ。歌舞伎にミュージカルの要素を加えたような趣きも魅力だ。中村隼人が演じる林冲は、酒におぼれる前半から一転、かつて掲げた「替天行道」(天に替わって道を行う志を抱け、の意)を思い出し立ち上がる後半まで、堂々のヒーローぶり。中国風の衣裳やマントもピタリとハマり、高きゅうらとのスピード感ある立廻りや、“飛龍”に乗っての宙乗りで魅せる。そんな彼の教え子で、今は朝廷軍の兵士となっている彭き(市川團子)は、まっすぐな瞳で師を慕う姿が印象的。ある行動を起こす彭きと、その想いを受け止める林冲のシーンでは、客席からすすり泣きが漏れていた。他にも、梁山泊の盗賊仲間であるお夜叉(中村壱太郎)や、李逵(中村福之助)の、粗暴だが温かさがにじむ佇まい。王英(市川猿弥)と女戦士の青華(市川笑也)の微笑ましい恋の行方や、朝廷側ながら葛藤を垣間見せる高きゅうの側近・張進(中村歌之助)など、演者たちの見逃せないシーンが満載。最後までその世界観に引き込まれた。第一部の『裸道中』では、博徒・勝五郎(中村獅童)と女房みき(中村七之助)の、貧しくも仲の良い夫婦ぶりに笑い、清水の次郎長(坂東彌十郎)と女房お蝶(市川高麗蔵)の情け深さに胸が迫る。第二部『新門辰五郎』での辰五郎(松本幸四郎)と会津の小鉄(中村勘九郎)の矜持と男同士の絆など、歌舞伎ならではの人情をじっくり味わえる八月となった。取材・文:藤野さくら
2023年08月18日江戸時代から令和にいたるまで、日本の伝統芸能として人気を誇る歌舞伎。演じる歌舞伎俳優たちはその高い演技力や存在感で、歌舞伎だけでなく映画やドラマでも脚光を浴びている。しかし、女性問題などのスキャンダルで注目を集めることも少なくない。最近では、市川猿之助(47)の心中騒動も話題になるなど、風当たりが強くなりつつある。そんな令和の歌舞伎界で、今誰が評価され、嫌われているのかを400人へのアンケートで調査した。今回は「好きな歌舞伎役者」の結果を公表する。まず3位に選ばれたのは、市川團十郎(45)。昨年コロナ禍で延期となっていた團十郎襲名披露興行を東京・歌舞伎座で行い、歌舞伎界屈指の大名跡を継承した。これからの歌舞伎界を背負って立つ存在として、古典はもちろん『プペル歌舞伎』など新たな演目にも積極的に挑戦している。また、’17年6月に妻・小林麻央さん(享年34)が亡くなってからは、男手ひとつで長女・ぼたん(11)と長男・新之助(10)を育て、SNSでは仲睦まじい様子もたびたびアップしている。歌舞伎役者と父親を両立している團十郎の姿に好意的な声が多く寄せられた。《子育てしながら歌舞伎に頑張っているから》《良くない噂もありますが、奥様を亡くされて、二人のお子さんを育てていらっしゃる素晴らしい方だと思います》《芸を演ずるのが、上手く私の好み》2位に選ばれたのは、尾上松也(38)。歌舞伎に加えて、昨年のNHK大河『鎌倉殿の13人』や9月には映画版も上映されるドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)など数々の話題作にも出演し、バラエティ番組にも登場するなどマルチな才能を見せている。そんな多方面での活躍ぶりを評価する声は多く、テレビ番組での明るいキャラクターと歌舞伎に取り組む真剣さに良いギャップを感じるという人も少なくないようだ。《バラエティ番組でユーモアたっぷりな様子を見て親しみを持ち、歌舞伎の芸事にとりくむ真剣な様子とのギャップが魅力に思うため》《俳優さんとして昔何かに出ていて演技も上手だし、バラエティで見てても面白い方だから》《軽そうにみえるけど、仕事に対して真面目に取り組んでいるから》《特に不祥事もなく、ドラマなど多方面で活躍しているから》そんな2人を抑えて、見事1位に選ばれたのは、市川中車こと香川照之(57)。昨年には女性ホステスへの性加害が報じられたことで、CM契約、テレビのレギュラー番組などをほぼ全て失う形となり、俳優としての露出は激減。しかし、歌舞伎役者としては昨年12月の團十郎襲名披露興行で舞台復帰を果たしている。40代後半で歌舞伎界入りしたため、梨園での影響力はあまり大きくなかった中車だが、澤瀉屋のトップである猿之助が心中騒動を起こしたことで、同門再建のキーマンに。七月大歌舞伎では猿之助の代役で宙乗りも披露するなど、奮闘している。自身の騒動前から俳優として絶大な知名度と人気を誇り、現在は歌舞伎役者として奮起する中車の好感度は今も高いようだ。そんな中車へのエールが多く見られた。《演技がダントツで上手く、出てると見入ってしまう魅力があるから》《不遇な子供時代を送ったのに、一生懸命に努力している》《途中から歌舞伎の世界に入っているので頑張って欲しいから》【好きな歌舞伎役者ランキング】1位:香川照之(市川中車)2位:尾上松也3位:十三代目 市川團十郎4位:十代目松本幸四郎5位:二代目中村獅童6位:六代目片岡愛之助7位:六代目中村勘九郎8位:五代目坂東玉三郎9位:二代目松本 白鸚10位:中村隼人調査対象:20代以上の男女400人調査方法:WEBでのアンケート(クロス・マーケティングのセルフアンケートツール『QiQUMO』を使用)
2023年08月12日市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露 八代目市川新之助初舞台『九月博多座大歌舞伎』。約3年ぶりの博多座登場となる團十郎に、襲名後の心境や公演の見どころなどを聞いた。昼の部は、歌舞伎十八番の内『矢の根(やのね)』、『外郎売(ういろううり)』、『景清(かげきよ)』、夜の部は『鞘當(さやあて)』、『口上(こうじょう) 』、歌舞伎十八番の内『暫(しばらく)』と、昼夜ともに豪華な演目が揃う。團十郎は『景清』の悪七兵衛景清、そして『暫』の鎌倉権五郎を務める。昼の部の『景清』は團十郎が海老蔵時代に景清を主人公として再構成した『壽三升景清』の中の作品。津軽三味線奏者・上妻宏光が参加することも話題だ。「技術・世界観ともにずば抜けた音楽家である上妻さんの参加で、より広がる『景清』の世界観を楽しんで頂きたい」と自信を覗かせる。一方、夜の部『暫』は、1999年の博多座開場以来、上演が待たれていた演目。今回、團十郎襲名披露興行というまたとない機会で博多座初上演が実現する。「市川團十郎は、江戸時代から続く大きな名跡(みょうせき)。その襲名披露の舞台で、『暫』を演じられることを非常に嬉しく思います。荒事の精神の元となっている“わらべの心で演ずる” ということが追求される演目で、幕外の引込み(まくそとのひっこみ)も見どころです」。父親である十二代目團十郎からは、2m以上ある太刀の扱い方などを細かく教え込まれたそう。「團十郎の名跡を相続することがどのようなものかは、とても言葉で表現できません。言葉で言い表せない部分を舞台の上でいかに形にしていくかが大事。また、長い歴史のなかで歌舞伎が時代とともに変化してきたように、古典を継承するだけでなく、現代に対する歌舞伎ということも考えないといけないと思います」と襲名への思いを真摯に語った。また、八代目市川新之助の初舞台については「東京以外でこんなに大きな役を長くやるのは初めてなので本人も大変だと思うが、技術的なことを細かく言うよりものびのびと楽しく演じてほしい」と師匠、そして親として優しい笑顔で語り、「團十郎の襲名、新之助の初舞台は、次いつあるかわかりません。この機会をお見逃しなく、ぜひ博多座に足をお運びください」と締めくくった。『九月博多座大歌舞伎』は9月1日(金)~17日(日) 福岡・博多座にて上演。チケットは発売中。
2023年08月10日歌舞伎座新開場十周年『八月納涼歌舞伎』3部それぞれの特別ポスターが公開された。第一部『裸道中』『大江山酒呑童子』のポスターは、どこか憎めない愛嬌をもつ勝五郎と、喧嘩をしつつも夫への愛情が滲む女房のみきの姿をとらえた『裸道中』と、盃を重ねて心地よく踊る童と本性を現した荒々しい鬼神の姿が印象的な『大江山酒呑童子』の世界が凝縮された1枚。第二部『新門辰五郎』『団子売』は、江戸町火消しのシンボルでもある纏と並ぶ松本幸四郎演じる新門辰五郎と、明るく軽やかな風俗舞踊『団子売』に出演する坂東巳之助演じる杵造、中村児太郎演じるお福が映し出されている。そして第三部『新・水滸伝』には、役人たちの不正による国の乱れに憤り、腐った体制に反旗を翻し縦横無尽に暴れまわる梁山泊に集結した豪傑たちが登場。熱く燃え上がる魂を表すかのような朱色の世界に、個性豊かな登場人物が鮮やかに浮かび上がっている。これらの特別ポスターは、歌舞伎座ほかにて順次掲出予定。なお『八月納涼歌舞伎』は、8月5日(土) から27日(日) まで歌舞伎座で上演される。<公演情報>歌舞伎座新開場十周年『八月納涼歌舞伎』8月5日(土) ~27日(日) 歌舞伎座歌舞伎座新開場十周年『八月納涼歌舞伎』ビジュアル詳細はこちら:
2023年07月27日歌舞伎座新開場十周年「七月大歌舞伎」は、昼の部(11時開演)が『菊宴月白浪(きくのえんつきのしらなみ)』。鶴屋南北が『仮名手本忠臣蔵』の“後日譚”を描いた奇想天外なストーリーだ。夜の部(16時開演)は、渡し守の娘・お舟が愛しい人を命がけで守ろうとする『神霊矢口渡』と、鳶と力士たちが火花を散らす『神明恵和合取組 め組の喧嘩』。最後は華やかな舞踊が楽しめる『鎌倉八幡宮静の法楽舞』の3演目。昼夜共に歌舞伎の多彩なエンタメ性を存分に味わえる。『菊宴月白浪』は“忠臣蔵”では憎まれ役ながら、黒紋付でおなじみの“人気キャラ”でもある斧定九郎が主人公。本作では亡君・塩谷のお家再興を目指す忠義者として描かれる一方、盗賊の暁星五郎と名乗って忍術を使い、両宙乗りや大屋根での立廻りなどスペクタクル要素も満載で贈る。花道から登場した斧定九郎役の市川中車は、黒紋付もスッキリと決まり、いかにも定九郎らしい佇まい。忠義の心を抑えた演技で表現したほか、大凧に乗って花道から飛び去り、すぐに3階後方から本舞台へ舞い降りる「両宙乗り」をケレン味たっぷりに魅せ、客席は大盛り上がり。金笄のおかる役の中村壱太郎、与五郎役の中村歌之助との「大屋根の立廻り」まで、出演者が一丸となって気迫がみなぎる舞台を見せる。夜の部1本目の『神霊矢口渡』は、主人公のお舟を演じる中村児太郎が見どころだ。冒頭、凛々しい新田義峯にひと目惚れした表情の可愛らしさ。後半では、義峯の命を狙う父の頓兵衛から命がけで義峯を守ろうとする娘心の必死さ、いじらしさ。その頓兵衛役・市川男女蔵も、荒々しい人物ながら、娘を前にためらう表情も見せて印象に残った。続いて『め組の喧嘩』は、市川團十郎がめ組の鳶頭・辰五郎役。江戸っ子の心意気を持ちながらも、妻や子、仲間への愛情深さがにじみ出てハマり役だ。力士・四ツ車大八役の市川右團次も、器の大きさを醸し出して辰五郎に対峙。30人を超えるいなせな鳶たちが力士たちとの喧嘩の前に気合いを入れるクライマックスは、ワクワクするような格好良さだ。最後は、劇聖と謳われた九世團十郎が制定した「新歌舞伎十八番」のひとつ『静の法楽舞』に、物語やケレン味を加えた『鎌倉八幡宮静の法楽舞』。次々と展開する壮麗な舞台美術の中、團十郎が静御前から源義経、老女など七役を、あるときは美しく、あるときは情感豊かに踊り、客席からはため息が。まだ年少ながら、市川ぼたんと市川新之助が立派に勤める「押戻し」(怨霊や妖怪を封じ込める歌舞伎独特の演技)も見ものだ。河東節、常磐津、清元、竹本、長唄囃子の五重奏の場面も圧巻で、目と耳で気持ち良く酔える作品となっている。取材・文:藤野さくら
2023年07月13日