古典小説「封神演義」を中国映画界の総力を大集結させて実写映画化した、神話アクションファンタジー『封神』シリーズ第一部『封神・妖姫とキングダムの動乱』が2月28日(金)より、シリーズ第二部『封神・激闘!燃える西岐攻防戦』が3月7日(金)より全国順次公開決定。特報映像が解禁された。日本でも漫画やTVアニメ、ゲーム化されるなど、日本人にも馴染みが深い中国古典小説「封神演義」を原案に実写映画化された、中国発の神話アクションファンタジー『封神』シリーズ。かつて中国で歴代興行記録を更新したファンタジックアクション『妖魔伝 レザレクション』や、安藤政信を主演に迎えた『ソード・ロワイヤル』など、傑作を世に送り出したウーアールシャン(烏爾善)監督がメガホンをとった。『封神・妖姫とキングダムの動乱』<シリーズ第一部>時は殷の治世。冀州(きしゅう)の君主・蘇護(そご)が反乱を起こし始まった戦乱の中で、千年の封印を解かれた1匹の妖狐がいた。妖狐は冀州侯の娘・妲己(だっき)の亡骸に憑依し、殷の将軍・殷寿(いんじゅ)に利用されながら、都全体を揺るがす悪事を働き始める…。『封神・妖姫とキングダムの動乱』<シリーズ第一部>一方、仙界の崑崙山では、仙人たちが人間界で続く天災を鎮めるため、宝物「封神榜」を殷王へ献上する計画を立てていた。しかし、献上役を任された仙人・姜子牙(きょうしが)は、殷王に即位した殷寿の残虐性を目の当たりにし、直前で手渡すことを諦める。やがて「封神榜」が持つ強大な力を求め、人間界と妖魔界の全ての勢力が波立ち、殷にはさらなる動乱が起こされた…。特報では、衣装や装飾、炎に包まれる戦闘シーンやVFXを駆使し描かれる大迫力の美術など、中国映画の圧倒的スケールの大きさが感じられる映像が完成した。シリーズ第一部『封神:妖姫とキングダムの動乱(原題/封神第一部:朝歌風雲)』は2023年に中国で公開されると、興行収入26.36億元(約550億円)を獲得。第二部の『封神・激闘!燃える西岐攻防戦(原題/封神第二部:戦火西岐)』は今年、春節の1月29日より中国で公開され、現在進行形で大ヒット中。『封神・激闘!燃える西岐攻防戦』<シリーズ第二部>日本語字幕版の公開に先んじて、第二部の『封神・激闘!燃える西岐攻防戦』中国語字幕版が1月31日より全国8館で限定公開されると、3日間、計26回の上映(うち11回が満員)で累計動員観客数は4,000人を越えるヒットに。今回、日本語字幕版の上映が、シリーズ第一部、第二部ともにグランドシネマサンシャイン池袋をはじめとした20館を超える劇場での公開が決定している。『封神・激闘!燃える西岐攻防戦』<シリーズ第二部>『封神・妖姫とキングダムの動乱』は2月28日(金)より全国にて順次公開。『封神・激闘!燃える西岐攻防戦』3月7日(金)より全国にて順次公開。© 2023 All rights reserved by Beijing Jingxi Culture & Tourism Co., Ltd. & Mongke Tengri Pictures (Beijing) Co., Ltd.(シネマカフェ編集部)
2025年02月10日映画館で毎月シネマ歌舞伎を上映する「月イチ歌舞伎」の2025年の上映ラインナップが発表された。今年で20周年を迎えるシネマ歌舞伎。今期の新作として、9年ぶりに劇団☆新感線と歌舞伎がタッグを組んだ「歌舞伎 NEXT」の最新作『歌舞伎 NEXT 朧の森に棲む鬼』の松本幸四郎、尾上松也それぞれが主役を務めたバージョンの両方と、坂東玉三郎、市川染五郎らが出演する『源氏物語 六条御息所の巻』の3本が公開される。またシネマ歌舞伎20周年を記念して、シネマ歌舞伎第1作目・十八世中村勘三郎が野田秀樹とタッグを組んだ『野田版鼠小僧』が4月のシーズンの開幕を飾り、坂東玉三郎の代表作『鷺娘/日高川入相花王』が5月に続く。その他にも、作・演出を宮藤官九郎が手がけた『大江戸りびんぐでっど』や、5人の花子が登場する『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』など、アニバーサリーイヤーにふさわしいバラエティに富んだ計12作品の上映を予定している。さらに、2025年シーズンはさまざまなキャンペーンを実施。シーズンのフィナーレとなる2026年2月には、投票によって上映作品が決定する「リクエスト上映」が開催されるほか、シネマ歌舞伎20周年アンバサダーとして前田航基の就任が決定。幼少期から俳優やお笑いコンビとしての経験を積む前田が、独自の視点で今期上映作品の魅力を発信していくとのことで、詳細は後日シネマ歌舞伎のホームページで発表される。「月イチ歌舞伎」2025年シーズン予告「月イチ歌舞伎」2025年の上映ラインナップ2025年4月4日(金)~10日(木):『野田版鼠小僧』2025年5月9日(金)~15日(木):『鷺娘/日高川入相花王』2025年6月13日(金)~19日(木):『蜘蛛の拍子舞/身替座禅』2025年7月4日(金)~10日(木):『大江戸りびんぐでっど』2025年8月1日(金)~7日(木):『喜撰/棒しばり』2025年9月26日(金)~10月16日(木):新作『源氏物語 六条御息所の巻』2025年10月17日(金)~23日(木):『刺青奇偶』2025年11月14日(金)~20日(木):『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』2025年12月5日(金)~11日(木):『歌舞伎 NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』2026年1月2日(金)~22日(木):新作『歌舞伎 NEXT 朧の森に棲む鬼 幸四郎版』2026年1月23日(金)~2月12日(木):新作『歌舞伎 NEXT 朧の森に棲む鬼 松也版』2026年2月13日(金)~19日(木):リクエスト投票で作品を決定シネマ歌舞伎 公式HP:
2025年02月07日アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』と歌舞伎がコラボレーションした朗読劇『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘×こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎』が、2025年1月11日・12日に京都・南座で上演。大盛況となった初回公演のレポートが到着した。アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』は、人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク〈シビュラシステム〉が人々の治安を維持している近未来の世界観。本公演では厚生省公安局においてシビュラの要請に依り、定期的に歌舞伎の上演を行っているというオリジナルのパラレルワールドの設定となる。『PSYCHO-PASS サイコパス』のBGMが流れる中、歌舞伎の劇場らしい定式幕が静かに開かれる。まず演じる演目は、上方歌舞伎の代表作『廓文章(くるわぶんしょう)』「吉田屋(よしだや)」。恋人である廓・扇屋の夕霧太夫に入れ揚げ大借金を負ったことから勘当され、行方不明となっていた藤屋の若旦那伊左衛門。この一組の男女の恋心が織りなす華やかな物語だ。日本三大太夫のひとりの夕霧を演じるのは宜野座伸元(CV:野島健児)。男性がヒロインの夕霧を演じるという歌舞伎らしい配役の妙が光った。宜野座伸元(CV. 野島健児)吉田屋の主人・喜左衛門が伊左衛門を気遣い、羽織を肩にかけるシーンでは、狡噛慎也(CV:関智一)が実際に須郷徹平(CV:東地宏樹)に羽織をかける演技を通して、温かい絆が丁寧に描かれた。須郷徹平(CV. 東地宏樹)歌舞伎の舞台で義太夫が出語りする際に太夫と三味線の居所である「文楽廻し」が語りのシーンで使われるところも注目ポイント。また、実際の歌舞伎の衣裳である刺繍の美しい打掛を身にまとい、花道から出てくる夕霧の姿は非常に印象的だった。伊左衛門と夕霧の仲が認められ、身請け金が用意された。年明けを控えた吉田屋の座敷は喜びに包まれ、ふたりは幸せな新年を迎えるという華やかな結末で物語は幕を閉じた。二作目は、人間の諦念と執着が描かれた近松門左衛門の名作『平家女護島(へいけにょごのしま)』「俊寛(しゅんかん)」。平家滅亡を企て鬼界ヶ島へ流された俊寛僧都が、赦免の船が訪れるも自らの身を島に残し、孤独と絶望に沈む様子を描いた物語だ。「俊寛」左より、須郷徹平(CV.東地宏樹)、常守朱(CV.花澤香菜)、狡噛慎也(CV.関智一)、宜野座伸元(CV.野島健児)俊寛を演じるのは狡噛慎也(CV:関智一)。俊寛の運命を変える海女千鳥と、非情な役人である瀬尾太郎兼康という対極的な2役を巧みに演じ分けるのは常守朱(CV:花澤香菜)。ご赦免船に乗ってやってきた瀬尾太郎兼康が読み上げる赦免状に、自分の名前がないことに俊寛は絶望するが、若い夫婦・成経と千鳥に希望を託し、自ら島に残る決意をする。狡噛慎也(CV. 関智一)常守朱(CV. 花澤香菜)しかし、千鳥を都へ連れて行くために上使を討ち、罪を背負って孤島に留まることに。船が去り、ひとり残された俊寛の悲嘆が人間の本質的な弱さを浮き彫りにし、観客の涙を誘った。舞台は花道も用いて、巧みな演出で感動的な別れを描き、声優陣に惜しみない拍手が送られ幕となった。朗読劇の終幕後は、出演者4名がステージに再登場し、関の司会によるアフタートークへ。朗読劇の興奮そのままに、今回の「こえかぶ」挑戦の裏話や、各々の一番好きな台詞といったテーマで、大いに盛り上がった。関からは、観客に向けて「次回以降の回では、歌舞伎ならではの“●●屋!”などと屋号を呼ぶかけごえ(大向う)をお願いしたい」というリクエストも。また、初めて歌舞伎に挑戦した出演者から客席に投げかけられた「歌舞伎は難しいという印象があったかと思いますが、想像していたよりも楽しめましたか?」という質問には、観客の多くが「楽しめた」と満場一致の挙手で応えるなど、朗読劇からトークショーまで、熱気に包まれた初回公演となった。また2025年1月18日(土) からは、南座の会場全体を使用した企画展がスタートする。<公演情報>『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘×こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎』脚本・演出:中屋敷法仁出演:狡噛慎也(CV:関智一)、常守朱(CV:花澤香菜)、宜野座伸元(CV:野島健児)、須郷徹平(CV:東地宏樹)演目:『平家女護島』「俊寛」、『廓文章』「吉田屋」2025年1月11日・12日会場:京都・南座※公演終了<イベント情報>『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘』アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』と「歌舞伎」が融合したコラボ展示企画2025年1月18日(土)~2月2日(日) ※月・火・水は休館会場:京都・南座営業時間:木・金 12:00~18:00(最終入場 17:30)土・日 11:00~18:00(最終入場 17:30)イベント公式HP:
2025年01月14日歌舞伎俳優の市川團十郎が10日、自身のインスタグラムを更新。【画像】市川團十郎、歌舞伎公演への情熱を投稿!新橋演舞場の舞台裏を語る!投稿には「麗禾とお話しタイム。幸せです」と綴られており、娘・麗禾さんとの親子のひとときを楽しむ様子が垣間見えた。背景には押隈も写り込み、歌舞伎の伝統を感じさせる美しい一枚となっている。 この投稿をInstagramで見る Ichikawa Ebizo 十一代目市川海老蔵(@ebizoichikawa.ebizoichikawa)がシェアした投稿 コメント欄には「娘さん、ますます美しくなりましたね」「親子でお話しする時間、大切ですよね」といった温かい声が多数寄せられたほか、「後ろの押隈が素敵です」といった興味深いコメントも目立った。團十郎の親子愛あふれる投稿は、多くのファンにほっこりとした感動を届けている。
2025年01月11日お正月の風物詩として多くのファンに親しまれている「新春浅草歌舞伎」が、2025年も1月2日(木) ~26日(日) に東京・浅草公会堂で上演される。若手歌舞伎俳優の登竜門として知られるこの公演、前回で大半のメンバーが一区切りを迎え、新たにフレッシュなメンバーが加入、中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松という顔ぶれで新たなスタートを切る。中村玉太郎、尾上左近のふたりも、今回が初参加。公演への意気込みとともに、演目の見どころ、「新春浅草歌舞伎」の魅力を聞いた。いつか「新春浅草歌舞伎」に、と憧れた舞台──2024年はさまざまなことに新たに挑戦されたかと思いますが、おふたりにとってこの一年はどのような年でしたか。玉太郎役者として成長するために必要な一歩を、着実に踏み出すことのできた年だったかと思います。2月の御園座、『鯉つかみ』の小桜姫では、(市川)右團次のお兄さんからいろいろとアドバイスをいただきました。また9月の新国立劇場では『夏祭浪花鑑』の琴浦。いずれも、将来どのような役者を目指すとしても、確実に必要な経験だったと思います。左近女方の大役をいろいろと経験させていただいた一年でした。思ってもみなかったことです。9月には(坂東)玉三郎のお兄さんにご指導いただいて『妹背山婦女庭訓 吉野川』の雛鳥を、11月には(尾上)菊五郎のお兄さんに教えていただいて『三人吉三巴白浪』のお嬢吉三をと、とくに後半は本当にがむしゃらに取り組んだ、まさに挑戦の年でした。本当に勉強になりましたし、自分の進むべきところ、目指すべきところが少し、定まってきたかなと感じています。──では、初参加となる「新春浅草歌舞伎」への思いをお聞かせください。玉太郎ずっと憧れていました。いつかは、と思っていましたが、こうしてチラシの表に自分の写真が並ぶのを見ると、責任の一端を担うのだなとプレッシャーを感じます。左近私もいつかは、と憧れていました。例年、1月は国立劇場で尾上菊五郎劇団のお正月公演に出演させていただいていましたが、いざこうして浅草に、となると、劇団のお兄さん方に「しっかりやっているな」と思っていただけるようにしなければ。7人の中で私が最年少ですから、フレッシュなところを楽しんでいただきたいと思う一方で、年齢差を感じさせないよう、意識して取り組みたいと思います。玉太郎こうしていろんなところから役者が集まっての興行は、若手に限らずあまりないこと。また、いつもの舞台では父の世代、祖父の世代の方が座頭で引っ張ってくださいますが、今度は同世代の皆で頑張ろうと橋之助さんも言ってくださいました。皆で支え合っていくことで、結束力がどんどん強まっていくのではないかと思います。左近橋之助のお兄さん、中村莟玉のお兄さんに鶴松さんも「新春浅草歌舞伎」を経験されてきたわけですが、今回新たに入るメンバーは、これまで、同世代同士で大きな公演に携わる機会がなかったので、私たちも新鮮に感じますし、お客さまにとっても、「このメンバーが揃ったらどうなるんだろう?」という目新しさがあるのではないでしょうか。同時に、自分が育ったところの味を出していきたいと思うのは歌舞伎役者の性でもありますし、そこは皆、意識されているのかなと思います。ダブルキャストでのぞむ『絵本太功記』──では、上演される演目について、まずはおふたりが出演される『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」から教えてください。第1部では玉太郎さんが初菊を、第2部では今度は左近さんが初菊を演じられますね?玉太郎今回のように昼の第1部、夜の第2部で同じ演目をダブルキャストで上演する例はあまりないかもしれません。通しでご覧になる方には、役者による違いも体感していただけると思いますし、私たちにとってはそれも挑戦です。──『絵本太功記』は、武智光秀(史実では明智光秀)の謀反にまつわるドラマを描いた時代物の名作ですが、初菊についてはどのような役柄と捉えていますか。玉太郎初菊は、光秀の息子である十次郎の許嫁で、恋人同士ですね。この物語は家族のお話でもあり、初菊はその中で最も若い役ですから、若々しさ、可憐さが必要なお役です。「尼ヶ崎閑居の場」では、前半に十次郎と初菊との掛け合いがあり、ここが初菊の一番の見せ所に。十次郎に戦に行ってほしくない初菊は、その思いをこらえて送り出すわけですが、それでもつい、体は止めに行ってしまう──。初菊のその一途なところは、大事に演じなければいけないと思っています。私は(中村)魁春のおじさまに教わっているのですが、初菊の目線はいつも十次郎のことを意識し続けるように、と教えていただきました。左近「新春浅草歌舞伎」で『絵本太功記』を上演すると聞いたとき、多分、出演する俳優や、お客さまにも驚かれた方もいらしたかと思います。義太夫狂言の名作ですが、なかなか難しく、渋いお芝居なので…(笑)玉太郎あの……、今日は皆さんに歌舞伎を観ていただきたいという話なのだけど(笑)。左近そうですよね(笑)。でも、だからこそ、しっかり興味を持っていただくために、役者で見せなければいけないところがあると感じています。この作品は戦後、戦争で身内を亡くされた方たちの共感を得たという話を聞いたことがあります。いま、お客さまのそうした感情を引き出すのは難しいことですが、そこを、玉太郎のお兄さんがおっしゃったように、まず、初菊と十次郎の掛け合いの健気さを見せることが大切なのかな、と。その後で出てくる光秀の迫力、不気味さを際立たせるためにも、初菊と十次郎が舞台を作り上げていかないといけません。また、十次郎は裃から鎧に着替えるために一度奥へ引っ込みますが、初菊にはその間の時間をつなぐ役割も。十次郎の兜を引きずっていくところも、大きな見せ場ではないかと思います。玉太郎相手によって変わってくるところもありますね。私のときは鷹之資さんが十次郎、左近くんは鶴松さんとですが、おふたりがどのように動かれるかで初菊も変わってくると思います。左近私は(中村)時蔵のお兄さんに見ていただいているのですが、いろいろお話を伺うと、本当に役者によって違う。型はあるけれど、「そこは自分で考えて」とおっしゃってくださる部分もありますし、とくに十次郎が着替える間の合方、つまり演奏のスピードやノリは、毎日同じではありません。玉太郎生演奏というところも、歌舞伎の見どころのひとつですね。──第1部では左近さんは、染五郎さん演じる光秀の家臣、佐藤正清(史実では加藤清正)を演じられますね。左近最後の最後に花道から登場します。最終的には真柴久吉(史実では羽柴秀吉)、光秀、正清の3人で強引に幕を閉じるようなものですから、それだけの格好良さ、説得力がなければいけない。難しくない役などありませんが、これも大変な役だと思っています。お客さまとも一緒に歩む、これが第一歩──第2部の『春調娘七種』では、鶴松さんとおふたりの共演が実現します。玉太郎華やかで、実にお正月らしい演目です。左近音楽と役者の拵え、背景の絵なども楽しんでいただけたらと思います。玉太郎出てくるのは曽我五郎・十郎という兄弟と静御前。バックボーンとしての物語はありますが、ここでそのお話が進むわけではありません。左近五郎・十郎の親の仇が工藤祐経で、源頼朝の家来。頼朝に追われて殺されたのが源義経でその恋人が静御前、つまりこの3人は仇が同じという繋がりですが、何故ここで一緒にいるのかはわかりません(笑)。義経や曽我兄弟を題材とした演目はたくさんありますが、そのヒロインと兄弟たちが一緒に出てくる踊りは他にはないですよね。玉太郎私たちの世代で、曽我兄弟に静御前と聞いて「おお!」と目を輝かせる方はあまりいらっしゃらないかもしれませんが、いまで言うなら──さまざまなキャラクターが集まった「アベンジャーズ」のようなものです(笑)。私が演じる十郎は、和事と呼ばれ、立役ではありますが、少し線の柔らかい、端正な役柄です。左近私が演じる五郎は、荒事。むきみ隈という隈取りをした、荒々しく血気盛んな若者です。玉太郎パワー100%の力強い五郎に対し、十郎は一歩引いた感じを出すのが難しいところです。左近「新春浅草歌舞伎」はいろんな役をやらせていただく場ではありますが、私の家(尾上松緑家)としては五郎のほうの家系ですし、キャラクターとして好きなので、昔から仲良くさせていただいている玉太郎さんと兄弟をさせていただけるのは嬉しいですね。玉太郎以前、「いつかふたりで五郎十郎をやるかもね」と話をしていたんです。まあ、(左近は)覚えていないみたいだけれど……。左近(笑)。こういうところで役者同士が一緒になる様子を観ていただけるのも、「新春浅草歌舞伎」の魅力ですね。──また、第1部の『道行旅路の花聟落人』で玉太郎さんが演じられるのは、鷺坂伴内。どのような思いで取り組まれるのでしょうか。玉太郎やらせていただけるとは思っていなかった役のひとつですので、大きな挑戦です。三枚目の敵役で、憎たらしいけれど面白くて可笑しいキャラクター。第1部のお姫さまとはだいぶギャップがありますが、役者としてはそこが楽しいところですね。『仮名手本忠臣蔵』の一場面で、主役はおかると勘平。伴内は仇討ちされるほうの高師直の家来で、勘平にとっては敵ですが、勘平の恋人であるおかるにちょっかいを出しにくる。最初はおかると勘平が清元で踊る華やかな場面ですが、伴内の登場で流れはガラリと変わり、舞台は一気に立廻りとなるわけですから、そのインパクトを大事にしたいです。この役は祖父(中村東蔵)と父(中村松江)に教わっています。先輩方の映像を拝見すると、台詞まわしから動きまで本当に皆さんそれぞれの色がある。これも型があるようでない役のひとつだと感じます。祖父や父のアドバイスに倣いながら、伸び伸びと演じるのを、お客さまに観ていただけたらと思っています。──多くの方々に歌舞伎を楽しんでいただきたいですね。玉太郎初めて観るという方は、この「新春浅草歌舞伎」をきっかけに歌舞伎を観てくださるといいなと思っています。「『絵本太功記』を観た」と誇っていただけるように、この古典の大事な演目をしっかり勤めたいです。でも、歌舞伎には世話物から新作歌舞伎まで、本当にさまざまな演目がありますから、この「新春浅草歌舞伎」を、歌舞伎に親しむきっかけとしていただけたら嬉しく思います!左近これまで「新春浅草歌舞伎」を観てくださっていたお客さまに楽しんでいただくとともに、初めのお客さまにとっては、今回が、一緒に歩んでいただくその第一歩の公演となればと思います。役者の顔を覚え、追いかけていただくきっかけにもしていただきたいですし、そうなるよう、役者一同、一丸となって頑張ります。ぜひ、劇場に来ていただけたらと思っています!取材・文:加藤智子撮影:藤田亜弓<公演情報>「新春浅草歌舞伎」【第1部】11:00~一、『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」二、『道行旅路の花聟落人』【第2部】15:00~一、『春調娘七種』二、『絵本太功記』「尼ヶ崎閑居の場」三、『棒しばり』出演:中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松ほか2025年1月2日(木)~1月26日(日)※19日(日) 第2部は、「着物で歌舞伎」開催会場:東京・浅草公会堂チケット情報:()公式サイト:
2025年01月01日歌舞伎を映画館で楽しむ映像コンテンツ「シネマ歌舞伎」の新作『ぢいさんばあさん』が、2025年1月3日(金) より公開される。このたび本作を鑑賞したフリーアナウンサーの中井美穂、詩人の伊藤比呂美、漫画家の新挑限(読み:あらいどかぎり)からコメントが到着した。森鷗外の原作小説を、宇野信夫が歌舞伎舞台化した本作は、幸せに暮らすおしどり夫婦が、ある事件をきっかけに37年もの間離れ離れになり、再会するまでが描かれる。おしどり夫婦を演じるのは、片岡仁左衛門と坂東玉三郎で、初々しい若夫婦と37年後の老夫婦姿を、時に愛嬌たっぷりに、時にしみじみと、息ぴったりに演じ分ける。古典芸能に精通し、読売演劇大賞の選考委員も務める中井は、仁左衛門と玉三郎を「これまでもたくさんの作品に共演され、共に長い時間を歩んでこられた唯一無二のゴールデンコンビ」とたたえ、「おふたりの間にしか生まれない空気がシネマとして永遠に残る、こんなうれしいことはありません。同時代に生きておふたりの舞台を見ることができる幸せを噛み締めています」とコメントした。鷗外に関する著書も多数執筆している伊藤は「森鷗外、一世一代のラブストーリーが、こんなにも情の深い、とろりとした舞台になった。若くない、そばにいない。それでこその愛がある。エロスがある」とコメント。本作と同じく、時の流れと夫婦の情愛を描いた漫画『じいさんばあさん若返る』を執筆した新挑は「一つひとつの所作や静寂が時の重さを感じさせる演者さんたちの演技とシネマ歌舞伎ならではの演出力に圧倒されるばかりでした。歌舞伎であり、映画であり、ひとつの人生。温故知新の体験、ありがとうございました」と絶賛のコメントを寄せた。また本作の公開を記念して、歌舞伎公演のチケットを提示で鑑賞料金が割引となるキャンペーンの実施が決定。指定の映画館で2025年1月の歌舞伎座・大阪松竹座の歌舞伎公演のチケットを提示すると、通常料金から300円引きで『ぢいさんばあさん』を鑑賞できる。■中井美穂 コメント全文仁左衛門さんと玉三郎さんおふたりの歩んでいらした道のりがお話と重なって見えてくるようです。これまでもたくさんの作品に共演され、共に長い時間を歩んでこられた唯一無二のゴールデンコンビ。おふたりの間にしか生まれない空気がシネマとして永遠に残る、こんなうれしいことはありません。同時代に生きておふたりの舞台を見ることができる幸せを噛み締めています。■伊藤比呂美 コメント全文森鷗外、一世一代のラブストーリーが、こんなにも情の深い、とろりとした舞台になった。若くない、そばにいない。それでこその愛がある。エロスがある。こう老いたい。■新挑限 コメント全文「終わってみると、心が若返っていた」残酷な時間の流れを背負う老夫婦は、誰よりも愛嬌があり、若々しかった。一つひとつの所作や静寂が時の重さを感じさせる演者さんたちの演技とシネマ歌舞伎ならではの演出力に圧倒されるばかりでした。歌舞伎であり、映画であり、ひとつの人生。温故知新の体験、ありがとうございました!<作品情報>シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』2025年1月3日(金) 公開原作:森鷗外作・演出:宇野信夫【出演】片岡仁左衛門、坂東玉三郎、中村芝翫、片岡孝太郎、坂東秀調、市川齊入、片岡市蔵、大谷桂三、中村鴈治郎、中村勘三郎ほか(平成22年2月歌舞伎座公演)割引キャンペーンの詳細はこちら:公式サイト:松竹株式会社
2024年12月25日2025年1月11日(土)・12日(日) に京都・南座で上演される『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘×こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎』。このたび、狡噛慎也役の関智一、常守朱役の花澤香菜、宜野座伸元役の野島健児、須郷徹平役の東地宏樹の4名の配役と朗読劇のあらすじが発表された。本公演は、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のキャラクターたちが、人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク〈シビュラシステム〉が人々の治安を維持している近未来の世界で、日本の伝統文化である「歌舞伎」に取り組むという内容の新しい朗読劇。現在より100年先の近未来という設定の『PSYCHO-PASS サイコパス』と、現代より400年前に成立した「歌舞伎」との接点。それは登場人物たちが「人生の選択」や「それに伴う苦悩の感情」を学んでいくこと。本作は、厚生省公安局の職務の一環としてシビュラシステムが下した決定で、常守朱たちが歌舞伎の上演に挑むというパラレルワールドの物語となっている。歌舞伎の演目は、上方歌舞伎の代表的な名作より、男女の恋模様を描く『廓文章』「吉田屋」(くるわぶんしょう よしだや)と、別離をテーマにした『平家女護島』「俊寛」(へいけにょごのしま しゅんかん)。難しいと思われがちな歌舞伎の物語だが、歌舞伎を鑑賞したことのない人でも歌舞伎の物語が楽しめるよう、現代語を交えた分かりやすい構成に。脚本・演出は、舞台『文豪ストレイドッグス』『黒子のバスケ』『ワールドトリガー』『推しの子』などを手がける中屋敷法仁が担当する。【ストーリー】厚生省公安局ではシビュラシステムの要請に基づき、職員のメンタルケアと文化理解を目的とし、定期的な歌舞伎の上演が推奨されている。シビュラシステムは、現代社会で失われつつある「人生の選択」や「苦悩」といった重要な感情を再評価し、人間の精神的豊かさを再び育む手段として歌舞伎に注目している。今回の上演は、刑事課が担当。演目や配役を管理する責任者となった常守朱は、宜野座伸元と須郷徹平へ、シビュラシステムによって決定された内容を伝える。挑戦的な配役に驚く宜野座。色気と気品のある役柄に挑む須郷。そんなふたりを横目に常守は今回の上演にあたって、狡噛慎也との稽古を回想する。その中で、狡噛に物語の力を信じることを教わり……。【配役】■狡噛慎也 全2役狡噛慎也(CV:関智一)「俊寛」より・俊寛僧都(しゅんかんそうず):平家打倒を図り、絶海の孤島へ島流しにされた僧侶。都に残した妻や、仲間への情も厚い人物。「吉田屋」より・吉田屋喜左衛門(よしだやきざえもん):吉田屋の主人。勘当された伊左衛門や、夕霧の身を心配する心優しい性格。■常守朱 全4役常守朱(CV:花澤香菜)「俊寛」より・海女千鳥(あまちどり):俊寛へ大きな影響を与える存在。孤島に暮らす海女だが、成経と恋仲になる。成経の赦免を知らされ、一緒に船に乗ろうとするが、瀬尾に拒まれる。・瀬尾太郎兼康(せのおのたろうかねやす):恩赦を伝えに来た上使。千鳥の乗船を拒み、俊寛に対しては妻が死んだことを突き付け絶望させる非情な役人。「吉田屋」より・若い者松吉(まつきち):吉田屋の使用人。・喜左衛門女房おきさ(きざえもんにょうぼうおきさ):吉田屋の女房。夫・喜左衛門と共に、伊左衛門と夕霧のことを心配している。■宜野座伸元 全2役宜野座伸元(CV:野島健児)「俊寛」より・丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね):孤島での暮らしの中で知り合った千鳥と夫婦となる。千鳥が赦免船への乗船を拒否されると、自分も一緒に島に残ろうとする。流人の身でありながら、貴公子の雰囲気を漂わせる。「吉田屋」より・扇屋夕霧(おうぎやゆうぎり):人気の最高位の遊女。和歌や諸芸もたしなみ才色兼備と名高い美女で、伊左衛門とは夫婦になることを約束している間柄だが、伊左衛門が勘当され行方不明になったと聞き思い詰めて病気になってしまう。厳しい環境の中でも、芯の強さを持ち続けた女性。■須郷徹平 全3役須郷徹平(CV:東地宏樹)「俊寛」より・平判官康頼(へいはんがんやすより):謀反の罪で、俊寛と丹波少将成経とともに島流しにされる。・丹左衛門尉基康(たんさえもんのじょうもとやす):俊寛の赦免を伝えに来た上使。情け深く、彼らにできる限りの配慮をする。「吉田屋」より・藤屋伊左衛門(ふじやいざえもん):遊郭に通い、遊女遊びに夢中になり、実家から勘当されてしまった大店(おおだな)のおぼっちゃま。夕霧とは相思相愛の仲。気品に満ちた色男。<公演情報>『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘×こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎』2025年1月11日(土)・12日(日)会場:京都・南座【日程】■1月11日(土)16時の部:開場 15:15 / 開演 16:0019時30分の部 開場 18:45 / 開演 19:30■1月12日(日)12時の部:開場 11:15 / 開演 12:0015時30分の部:開場 14:45 / 開演 15:30※イベントの開場、開演時間は変更になる可能性がございます。脚本・演出:中屋敷法仁出演:狡噛慎也(CV:関智一)、常守朱(CV:花澤香菜)、宜野座伸元(CV:野島健児)、須郷徹平(CV:東地宏樹)演目:『平家女護島』「俊寛」、『廓文章』「吉田屋」【チケット】桟敷席:11,000円(税込)(全席指定)桟敷席(グッズ付き):13,000円(税込)1階 / 2階席:10,000円(税込)1階 / 2階席(グッズ付き):12,000円(税込)3階席 :8,000円(税込)3階席(グッズ付き):10,000円(税込)※ご購入時、座席を指定することはできません。チケット情報:()<イベント情報>『PSYCHO-PASS サイコパス 京都南座歌舞伎ノ舘』アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』と「歌舞伎」が融合したコラボ展示企画2025年1月18日(土)~2月2日(日) ※月・火・水は休館会場:京都・南座営業時間:木・金 12:00~18:00(最終入場 17:30)土・日 11:00~18:00(最終入場 17:30)【チケット】前売:2,500円(税込)当日:2,700円(税込)※入場時、チケット1枚につき「特典 A5イラストクリアカード(前期1月18日(土)~1月25日(土):全9種、後期1月26日(日)~2月2日(日):全8種 計17種)」をランダムで1枚お渡しいたします。絵柄は選べません。※会場内音声ガイドでは、必ずイヤホンまたはヘッドホンをご持参してご利用ください。会場でのお貸出しは出来かねます。イベント公式HP:
2024年12月23日歌舞伎座十二月大歌舞伎『あらしのよるに』が、2024年12月28日(土) 11時より松竹公式動画配信サイト「歌舞伎オンデマンド」で疑似生配信される。きむらゆういちによる同名の絵本を原作にした本作は、2015年(平成27年)の初演以来、子どもから大人まで多くの方に親しまれ、繰り返し上演されてきた。狼のがぶと山羊のめいの種族を超えた友情、心の葛藤を描いた絵本は発刊30周年を迎え、今回の歌舞伎座公演では中村獅童ががぶを、尾上菊之助がめいを演じる。疑似生配信では、NHK Eテレ『おかあさんといっしょ』で第12代体操のお兄さんを務めた“誠お兄さん”こと福尾誠が開演前、幕間、終演後に生出演し、視聴者をナビゲート。チャット機能で感想や質問をシェアしながら視聴することができる。なお『あらしのよるに』本編は収録済みの映像で、本編以外が12月28日(土) 当日の生配信となる。また舞台映像の本編には、歌舞伎を観たことがない人に向けた「やさしい解説音声」が付いており、絵本を読むように歌舞伎の舞台を楽しむことができる。さらに特典映像として、ここでしか見られないオリジナルコンテンツ「食べちゃいたいそう」も視聴可能で、誠お兄さんと歌舞伎のポーズに挑戦できる。アーカイブ配信は2025年1月13日(月・祝) まで。■福尾誠 コメント(C)松竹この度、歌舞伎『あらしのよるに』擬似生配信に出演させていただくことになりました。歌舞伎デビューにぴったりな本作品を親子で楽しんでいただけるよう、精一杯ナビゲートします!そして「食べちゃいたいそう」という体操コンテンツにも出演させていただいております。歌舞伎のポーズを真似して楽しむことができる体操になっています!みんなの感じるままに、“友だちだけど、おいしそう”、“食いてえなあ〜”を表現してくれたら嬉しいです!素敵な機会に皆さんと一緒に観劇できるのを楽しみにしています!<配信情報>歌舞伎『あらしのよるに』疑似生配信出演:中村獅童(がぶ)、尾上菊之助(めい)、尾上松緑(ぎろ)ほかナビゲート:福尾誠(誠お兄さん)、佳山泉(イヤホンガイド解説者)配信日時:2024年12月28日(土) 11:00より配信スタート配信場所:歌舞伎オンデマンド配信内容:やさしい解説音声付き本編特別映像「食べちゃいたいそう」※開演前、幕間、終演後には、誠お兄さんとイヤホンガイド解説者による生トークあり。特典映像:「食べちゃいたいそう」 ①誠お兄さんソロバージョン ②誠お兄さんとおともだちバージョンチケット販売期間:2025年1月13日(月・祝) 20:00までアーカイブ配信期間:12月29日(日) 10:00~2025年1月13日(月・祝) 23:59まで詳細はこちら:
2024年12月21日歌舞伎を映画館で楽しむ映像コンテンツ「シネマ歌舞伎」の新作『源氏物語 六条御息所の巻』が、2025年9月26日(金) より公開される。原作は、NHK大河ドラマ『光る君へ』でも話題の紫式部による『源氏物語』。2024年10月に東京・歌舞伎座で上演された『源氏物語 六条御息所の巻』では、六条御息所、光源氏とその妻・葵の上の三角関係を新たに描き、観客の心を揺さぶる恋模様が話題を呼んだ。坂東玉三郎が凄艶な女心を見せる六条御息所を、市川染五郎が世の女性を魅了する稀代の貴公子・光源氏を演じる。また、シネマ歌舞伎だけの特別映像として、本作への思いを語る玉三郎の特別インタビューも収録される。また本作のポスター・チラシは、六条御息所と光源氏のツーショットを使用。夢のような恋に身をゆだねる姿から、源氏物語ならではの美しくも儚い恋の世界観を感じさせるビジュアルとなっている。「この恋は、夢か現か――」というコピーで、光源氏に恋する六条御息所がやがて想いを募らせ変貌し、理想と現実の狭間で揺れ動く胸中を表現している。このポスター・チラシは、2025年1月3日(金) より上映映画館ほかで掲出。さらに、ムビチケカードも東劇含む上映映画館、東京・歌舞伎座、東京・新橋演舞場、京都・南座、大阪・大阪松竹座ほかで発売開始される。【あらすじ】時は平安の世。生まれながらの気品と美しさを兼ね備えた光源氏は、愛人としている六条御息所のもとを訪れる。楽しい時間を過ごすうち、六条御息所は光源氏との子を身籠る葵の上を嫉み、詰る。光源氏が堪えかねて屋敷を去ると、六条御息所は悲しみに暮れ、次第に嫉妬に狂い……<作品情報>シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』脚本:竹柴潤一監修:坂東玉三郎演出:今井豊茂出演:坂東玉三郎、市川染五郎、中村時蔵、中村歌女之丞、中村亀鶴、坂東彌十郎、中村萬壽ほか(令和6年10月 歌舞伎座公演)公開日:2025年9月26日(金) 全国公開公式サイト:松竹株式会社
2024年12月16日12月3日、歌舞伎座12月公演「十二月大歌舞伎(じゅうにがつおおかぶき)」が初日を迎えた。そのオフィシャルレポートをお届けする。第一部は、『あらしのよるに』で幕開き。「あらしのよるに」は、きむらゆういち作の絵本で平成6(1994)年の刊行以来、国内外問わず幅広い世代に愛されてきた。平成27(2015)年に南座で新作歌舞伎として初演、その後歌舞伎座・博多座でも再演し大きな反響を呼んだ。そしてこの度、絵本発刊30周年を記念し、8年ぶりに歌舞伎座での上演となる。幕が開くと、そこには狼の親子、そして山羊の親子の姿。この度の歌舞伎座での再演に際して、新たに書き加えられた幼いころのがぶ(中村夏幹)とめい(中村陽喜)の記憶の場面から始まる。がぶの父である狼の長(中村獅童)との場面では、実際の親子での出演となり大きな拍手。そして、場面は激しい嵐の夜となり、粗末な小屋に身を寄せているのは、狼のがぶ(中村獅童)と山羊のめい(尾上菊之助)。暗闇で互いの姿が見えず、相手が誰かわからない状況にも関わらず話が弾み、すっかり意気投合。「あらしのよるに」を合言葉に、翌日の再会を約束する。夕べの嵐が嘘のような、どこまでも青空が広がる穏やかな午後、がぶとめいは「あらしのよるに」の合言葉を嬉しそうにかわす。ところが、互いに相手の姿をみてびっくり。目の前にいるのは狼にとって大好物の山羊と、天敵の狼。食べたい欲求を抑えるがぶと、食べられてしまうかもと不安を抱くめい。初演よりがぶを演じてきた獅童と、初役でめいを勤める菊之助による二匹の息ぴったりな掛け合いに客席のあちらこちらから笑い声が聞こえてくる。またがぶとめいが縦横無尽に客席をめぐる演出では、観客は大盛り上がり。ふたりは話をするうちに、ますます親しみを覚えていくと、互いを“友達”と呼び合う仲になっていく。一方で、狼のぎろ(尾上松緑)は自らの恥辱を晴らそうと手下たちにめいたちを捕まえるよう命じる。狼のばりい(澤村國矢改め澤村精四郎)が、めいの行方を問いただそうとがぶを連れてくると、精四郎と獅童による狂言半ばで襲名のご挨拶。獅童から送られた暖かいエールをうけて、精四郎の眼には涙が浮かぶ。門閥外から幹部俳優となった精四郎の決意表明に、会場中からも割れんばかりの祝福の拍手が送られた。そして、ある月夜の晩にがぶとめいが並んで美しい月を眺めていると、そこへめいを狙うぎろが現れ、いよいよ物語は佳境に。めいを追いかけ狼たちに捕まったみい姫(中村米吉)たちの姿が……。狼と山羊との息を呑む、大迫力の立廻りは圧巻で手に汗握る展開が続き……。幕切れでは、がぶとめいの誰も邪魔することのできない強い友情に、客席は温かい雰囲気に包まれながら、手拍子で一体となっておおいに盛り上がった。客席には粋な江戸の風が名作者・河竹黙阿弥の傑作第二部は、『加賀鳶(かがとび)』で幕開き。歌舞伎の名作者・河竹黙阿弥による江戸の粋が巧みに織り込まれた世話物の傑作だ。今回は見応えある「木戸前」からの上演。本郷界隈では先日、加賀藩お抱えの鳶と旗本配下の定火消の間で大喧嘩が起こった。今日も日陰町の松蔵(中村勘九郎)をはじめとする加賀鳶たちが勢揃い。歌舞伎座の花道に俳優が並ぶ姿は壮観だ。ずらっと花道に並び、黙阿弥らしい七五調のツラネの台詞は圧巻で、客席には一気に粋な江戸の風が流れ込む。血気に逸る加賀鳶の若い者たちを、頭分の梅吉(尾上松緑)が江戸の町衆の憧れであった鳶頭の気風の良さを見せながら留めに入る。ところ変わって、日の暮れた御茶の水の土手際では按摩の道玄(尾上松緑)が通りがかりの百姓を手に掛け懐からお金を盗んで立ち去るが、落としていった煙草入れを松蔵が拾い、この後の物語に大きく関わっていく。続く場面では、姪の奉公先へ道玄と内縁の妻お兼(中村雀右衛門)が強請りに行く。道玄のふてぶてしさと、お兼の小悪党ぶりに思わずハラハラしながら強請りの現場を見守る。ようやく道玄たちがお金を手に入れたところへ松蔵が現れ事態は一変。ここでも黙阿弥らしい七五調の名台詞での道玄と松蔵のやり取りが聞きどころとなる。いよいよ、道玄とお兼の悪事が露見すると、可笑しみ溢れる立廻りに客席からは笑いが漏れ、最後はすっきりと晴れがかった結末と、どこか憎めない道玄に大きな拍手が送られた。続いては、長唄舞踊の名作『鷺娘(さぎむすめ)』。幕が開くと、しんしんと雪の降る水辺に、綿帽子に白無垢姿の娘がひとり佇んでいる。傘を差したこの娘は、人間との道ならぬ恋に悩む鷺の精(中村七之助)。恋に思い悩む様子を踊りで見せていくが、ところどころで鷺の精であることを想起させる。衣裳が引き抜かれ、艶やかな町娘の姿となると、客席からは驚きとがらっと変わった雰囲気への期待感に包まれる。曲調も変わり、恋しい男と結ばれた頃の様子を踊ると、今度は男心のつれなさを訴えていく。美しい娘が踊る女心にうっとりしていると、舞台は降りしきる雪の中へ。恋の妄執が甦り、ついに鷺の精の本性を顕していく。幻想的な美しさの中で激しく凄まじく踊る幕切れに、客席には止まらない拍手が響き渡った。まるで花の香りが漂うような艶やかな踊り『舞鶴雪月花』と玉三郎、團子の『天守物語』第三部は、季節の移ろいをコミカルに描いた変化舞踊『舞鶴雪月花(ぶかくせつげっか)』から始まる。本作は、十七世中村勘三郎(俳名「舞鶴」)に書き下ろされた中村屋ゆかりの舞踊だ。幕が開くと枝垂桜の大樹の陰から、ひょっこりと姿を現した桜の精(中村勘九郎)が、愛らしい娘姿で桜の名所の景色を歌いながら、まるで花の香りが漂うような艶やかな踊りをみせる。季節が変わり、月明りの下のすすき野となり、子どもの松虫(中村長三郎)がはぐれた親を探して踊っている。親の松虫(中村勘九郎)が花道のすっぽんから現れると、先ほどまでの娘姿から一転した姿に客席からは驚きの声が。短い生命の虫の運命を哀れに踊る姿に観客の心は引き込まれていく。そして舞台は雪景色の町中へ。大きな雪達磨が舞台からせり上がり、炭屋の町娘に恋する雪達磨(中村勘九郎)が、恋心を滑稽に踊って見せる。勘九郎が歌舞伎座で初めて踊る『舞鶴雪月花』、三役目となる雪達磨では、軽妙に踊る姿に客席からは笑い声と拍手、場内の温度も上がる。燃える恋心と共に、朝日が昇ると雪達磨のからだはどんどん溶けていき……。「中村屋!」の大向うが響きわたり、場内は惜しみない大きな拍手に包まれた。続いては、幻想的で詩情豊かな泉鏡花の世界が浮かび上がる『天守物語(てんしゅものがたり)』だ。舞台は播磨国姫路にある白鷺城。この天守閣の最上階は、人間たちが近づくことのない、美しい異界の者たちが暮らす別世界で、侍女たちが秋の草釣りをする中、蓑を纏った富姫(坂東玉三郎)が登場する。美しく気高い姿は、まさにこの異界の主たる風格で、客席も人間の世界からいつの間にか変わっていく。やがて、富姫を姉と慕う亀姫(中村七之助)が訪れる。手土産として亀姫が持ってきた、血のしたたる生首を手に微笑む件は、鏡花らしい妖しい魅力に満ち溢れながら、奇怪な存在感を放つおどろおどろしい異界の者たちにも目を引かれる。前半の不思議な世界から一転、後半の姫川図書之助(市川團子)が行方知れずとなった白鷹を探しに天守へやってくると空気が変わり、富姫と図書之助の異界の者と人間との恋が描かれる。特に、富姫が想いを顕わにしていく様子は物語の最大の見どころとなり、異世界に住むふたりの行く末を案じる。随所に感じられる鏡花らしい美学と世界感の中、当り役として輝きを放ち続ける玉三郎の富姫と、堂々と真っ直ぐに図書之助を演じきった團子のふたりが描き出した至上の恋に、観客からの陶酔した拍手が止まない中、幕が閉まっていった。「十二月大歌舞伎」は2024年12月26日(木) まで、東京・歌舞伎座で上演される。<公演情報>歌舞伎座「十二月大歌舞伎」【第一部】11:00〜二代目澤村精四郎襲名披露あらしのよるに【第二部】15:00〜一、加賀鳶二、鷺娘【第三部】16:20〜一、舞鶴雪月花二、天守物語2024年12月3日(火)〜12月26日(木)※休演:11日(水)、19日(木)会場:東京・歌舞伎座※第一部:4日(水)、5日(木)、6日(金)、12日(木)、18日(水)、20日(金)、23日(月)、24日(火)第三部:4日(水)、10日(火)は学校団体来観公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2024年12月04日歌舞伎の公演を撮影、映画館のスクリーンで楽しむことのできる〈シネマ歌舞伎〉に、森鷗外原作の、心に染みる名舞台が登場する。片岡仁左衛門、坂東玉三郎ほか豪華キャストで平成22年(2010年)に上演された『ぢいさんばあさん』だ。物語の舞台は江戸。おしどり夫婦として知られる美濃部伊織とその妻るんは、子どもも生まれ幸せに暮らしていたが、怪我を負った義弟の久右衛門に代わり、伊織が京都に勤めに出ることに。勤めは1年、翌春には江戸に帰ってくるはずだった伊織はしかし、ささいな言い合いから同輩の下嶋甚右衛門を斬ってしまい、越前にお預けの身となってしまう。月日は流れ37年後、罪を許された伊織が懐かしい我が家へ帰ってくる……。伊織とるんの夫婦を演じるのは、昭和、平成、そして令和の今もなお、歌舞伎界随一のゴールデンコンビとして不動の人気を誇る仁左衛門と玉三郎。姿かたちの良さはいわずもがな、何といってもふたりの息の合いっぷりは感心するばかり。若夫婦時代のイチャイチャぶりは「一体、我々は何を見せられているのだ……?」と思ってしまうほど(もちろん、そこがいいのだが)。そして白髪の老人となった37年後の、若夫婦時代とはひと味違う品のある可愛らしさも最高なのである。伊織が江戸に帰れなくなる原因を作る下嶋甚右衛門は十八世中村勘三郎。執拗に伊織を挑発する厭らしさを、芝居巧者の勘三郎がねっとりと演じている。久右衛門役の中村鴈治郎(当時 翫雀)、その息子夫妻を演じる中村芝翫(当時橋之助)と片岡孝太郎も爽やかで、作品に通底する清らかな心根をしっかりと伝えてくれる。脚本は昭和の黙阿弥と呼ばれた宇野信夫。鴎外の原作では1行で簡潔に表現されていた伊織とるんの再会を一場面として膨らませ、歌舞伎作品として深みのあるものに作り上げた。庭の桜の樹の変化や、手紙に添えた桜の花びらなど、情感溢れる描写も美しい。そして新歌舞伎ならではのリアリティある俳優たちの芝居は、表情のアップも捉える映像作品との相性がいい。歳月が流れても変わらぬ夫婦の情愛の深さと、それでも“失われてしまった37年”を思うやるせなさと――。溢れ出る思いをぐっとこらえるような仁左衛門と玉三郎の繊細な演技は、涙なしには観られない。名コンビが見せる、時を超えた究極のラブストーリー。ぜひ映画館の大画面でじっくり味わってほしい。文:平野祥恵<公演情報>シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』本予告上映期間:2025年1月3日(金)~2025年1月23日(木) 全国の映画館にて上映ぴあアプリ限定!アプリで応募プレゼント★シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』の東劇(東京・築地)招待券を【よくばり❣ぴあニスト】限定で5組10名様にプレゼント!【応募方法】1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。こちら() からもダウンロードできます2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!
2024年12月02日歌舞伎俳優・市村竹松が母校・早稲田大学にて、“Feel the world of Kabuki: Discover the timeless art”(時代を超えた芸能“歌舞伎”を再発見してみませんか? / 早稲田大学ICC主催)と銘打った参加者体験型の歌舞伎解説イベントに登壇。歌舞伎座『十二月大歌舞伎』(12月3日(火) 初日~26日(木) 千穐楽)の第一部で上演される『あらしのよるに』を解説した。きむらゆういち原作の絵本『あらしのよるに』(講談社刊)は、平成6(1994) 年の発売以来、高い人気を誇り、続編を含めた累計発行部数が350万部を超えるベストセラーシリーズ。平成27(2015) 年9月に、京都・南座で新作歌舞伎として上演されると、狼と山羊の迫力満点の立廻りや群舞、義太夫や長唄など、歌舞伎ならではの演出や技法を取り入れた舞台が大きな話題に。今回、絵本発刊30周年を記念し、狼のがぶと山羊のめいがはぐくむ友情を描く感動作が、歌舞伎座で8年ぶりに再演される。『あらしのよるに』ビジュアル竹松は、初演時より山羊のはくを演じており、12月の歌舞伎座での上演でも竹松が5度目となるはく役を勤める。はくは冷静沈着ながら、熱い心を持つ仲間思いの山羊。めいの窮地を救うなど、物語の随所で重要な働きをみせる役となる。平成27年9月(2015年9月) 京都南座『あらしのよるに』はく=市村竹松(C)松竹2013年に早稲田大学国際教養学部を卒業し、父・市村萬次郎が主催する“みんなの歌舞伎”公演プロジェクトを通じて、国内外に向けた歌舞伎及び日本の伝統文化を発信する事業に携わってきた竹松。歌舞伎の歴史や文化との関わり合い、隈取など独特の演出方法に至るまで幅広い内容を、古典の演出手法がちりばめられた『あらしのよるに』の写真や映像を交えながら、留学生を中心とした参加者に全編を英語で解説した。イベント後半には、見得や立廻りを実演。解説ののちに参加者が実際に見得をしたり、二人一組になって立廻りを体験したりするパートでは、歌舞伎の型を丁寧に解説。実際に体を動かしながら、会場を大きく使っての体験は、会場のあちこちから笑い声が聞こえる和やかなひとときに。参加者からは歌舞伎をより身近に感じることができたという声も聞こえた。立廻りの実演立廻りの体験さらに、藤浪小道具株式会社の協力により、実際の舞台で使用される小道具の体験も。普段は間近で見ることのできない和傘などの小道具に直接触れ、雨の音を模した団扇や、浪籠(かごに入れた小豆を動かし、波音を模した小道具)など、参加者たちは先人たちの創意工夫を体験した。差し金の解説和傘・刀(小道具/藤浪小道具提供)イベント終了後も長時間にわたって参加者からの熱心な質問に回答した竹松。「みなさんに熱意をもってお話を聞いていただき、大変意義深い会になったかと思います。多くの海外からの留学生の方、若い方たちが歌舞伎や日本文化に大きな関心を寄せていただいていることがわかり、『あらしのよるに』に向けて身の引き締まる思いです」と公演に向けた決意を語り、イベントを締めくくった。終了後、参加者らの質問に答える竹松<公演情報>歌舞伎座『十二月大歌舞伎』第一部『あらしのよるに』作:きむらゆういち脚本:今井豊茂演出・振付:藤間勘十郎出演:中村獅童、尾上菊之助、坂東亀蔵、中村米吉、市村竹松、市村光、中村陽喜、中村夏幹、澤村國矢改め澤村精四郎、市村橘太郎、市川門之助、河原崎権十郎、市村萬次郎、尾上松緑2024年12月3日(火) 初日~26日(木) 千穐楽会場:東京・歌舞伎座
2024年11月26日2024年11月23日、歌舞伎俳優の市川團蔵さんが亡くなったことが分かりました。73歳でした。サンケイスポーツによると、團蔵さんは同月19日に誤嚥性肺炎による敗血症性ショックのために亡くなったとのこと。葬儀などは親族のみで執り行ったそうです。1951年5月29日に生まれた、團蔵さん。祖父は8代目市川團蔵で、1987年に9代目市川團蔵を襲名しました。日本舞踊柏木流十代目宗家を兼ねており、菊五郎劇団の重鎮としても、なくてはならない存在だったといいます。国立劇場養成事業の歌舞伎俳優研修の講師も務めた團蔵さんは、芝居だけでなく生き方も含めて、後輩の指針となる存在であったとか。2024年5月の歌舞伎座『四千両小判梅葉』が最後の舞台となりました。團蔵さんの訃報を受け、ネットでは悲しみの声が広がっています。・歌舞伎界に貢献された功績は素晴らしかったです。ご冥福をお祈りいたします。・ショックです。もっと見たかった。・渋くて太い演技が好きでした。味わいがあってよかった。・ついこの間、元気な姿を拝見したばかりなのに。さびしいです。堂々とした風格で舞台に立ち、人々を魅了してきた團蔵さんの姿は、多くの人の心に残り続けるでしょう。ご冥福をお祈りいたします。[文・構成/grape編集部]
2024年11月23日東京古典会は11月15日(金)と11月16日(土)の2日間「令和6年度 東京古典会 古典籍展観大入札会」にて一般公開を行います。ポスターこの「古典籍展観大入札会」は、年に一度この日のために集められたよりすぐりの逸品を一般のお客様にもご覧いただける貴重な機会となっております。今年は約1,650点もの善本・稀覯本が出品され、博物館ではケース越しに眺めることしかできないものでも、ここでは全て手にとってご覧いただけます。更には、そうした品々を購入できるチャンスもございます。ご興味ございましたら是非どなた様もまずは会場へお越しください。■令和6年度 東京古典会 古典籍展観大入札会 概要日時 : 11月15日(金)10:00~18:0011月16日(土)10:00~16:30会場 : 東京古書会館(東京都千代田区神田小川町3-22)入場料 : 無料出品物 : 古写本、古版本を始め、江戸時代の写本、版本、名家古筆、古文書、古地図、錦絵、絵巻物、かるた、書画幅や屏風、中国朝鮮本など、約1,650点入札価格 : 一口10万円以上(但し、額・幅は20万円以上、嵩物は30万円以上、屏風は100万円以上)主催 : 東京古典会公式サイト: ※一般非公開で、古書業者のみ参加可能な入札会は17日(日)・18日(月)に実施します。■東京古典会、古典籍展観大入札会とは東京古典会は、東京古書組合(約600古書店加盟)のなかで、主に古典籍を専門とする27店の古書業者によって運営されています。令和3年に創立110周年を迎えました。毎週、東京古書会館にて、全国から集まる何百点もの日本・中国の古典籍が取引される市場を運営しています。通常は古書組合業者限定の市場ですが、年に一度この「古典籍展観大入札会」では会場で一般のお客様が実際に品物を手に取ってご覧いただき、業者に入札を依頼することができます。購入を検討される際には会場受付へお声がけください。お客様のご予算でご相談に応じます。なお、ご注文品落札の際は落札価に加え若干の手数料を頂戴いたします。※古書組合の規定により本入札会は古書業者による代行入札会となります。※落札価格は非公開となります。■今年の注目出品物今年の注目出品物来年の大河ドラマの主人公「蔦屋重三郎」によって出版された彩色刷狂歌絵本「狂月坊」、「光る君へ」からは「源氏物語かるた」等、今年も大河ドラマ関連の出品がございます。また、新五千円札の肖像となった津田梅子も加わる使節団が欧米に派遣された、その使命として明治天皇が岩倉具視に与えた勅旨・別勅旨や、広重の遺作となった揃物で画業最晩年の代表作「名所江戸百景」のなかでも特に傑作の一つとされている「亀戸梅屋舗」等、鑑賞するだけでも楽しめる貴重な品々が出品されます。そのほか全出品目録は東京古典会公式サイトに掲載しております。また、詳細な解説の付いた冊子目録もご注文いただけます。冊子目録は会期中に限り会場受付でも販売しておりますのでお申し付けください。全出品目録 : 注文フォーム: ※冊子目録のご注文は11月8日(金)の正午締め切りとさせていただきます。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2024年11月06日歌舞伎と劇団☆新感線の作品が融合した歌舞伎NEXT『阿弖流為〈アテルイ〉』から9年。待望の第二弾が立ち上がる。演目は、脚本・中島かずき、演出・いのうえひでのり、主演・松本幸四郎(当時市川染五郎)で17年前に上演され、“いのうえ歌舞伎”の中でも名作と語り継がれてきた『朧の森に棲む鬼』。主演は、初演に引き続いての幸四郎と、歌舞伎NEXT初挑戦となる尾上松也がダブルキャストで勤める。歌舞伎の新たなるステージを目指して命名された歌舞伎NEXT。幸四郎と松也がどんな歌舞伎の未来を見せるか。こんなに怖いものを観たことがないと興奮してくださる世界を──歌舞伎NEXTが第一弾の『阿弖流為』でスタートしたのが9年前。幸四郎さんには立ち上がったときの思いを、そのとき出演できなかった松也さんには当時どう感じておられたのかをお聞かせください。幸四郎これまでに何度か劇団☆新感線さんの作品に出演してきて、その中で次にどんな展開があるだろうと考えたときに、今度は逆に歌舞伎の世界のほうに来ていただけないかと思ったんです。歌舞伎と新感線のあの世界観が混ざり合ったら何が生まれるか。そこをテーマにスタートしました。演出のいのうえひでのりさんも、新感線でのいつもの演出のようにしっかり絵を作られたうえで、「ここは歌舞伎だったらどういう表現法がありますか」と聞いてくださって。我々もそれに応えていって、毎日何か新しいものが生まれていくという稽古でした。松也そもそも劇団☆新感線さんの作品には、幸四郎さんがご出演される前から歌舞伎へのリスペクトが感じられる場面や演出がたくさんありましたので。まず、幸四郎さんが新感線に出られたときに、歌舞伎俳優が演じたらこうなるぞというお手本みたいな表現が観られるぞと思って拝見していたんです。それが歌舞伎NEXTでいよいよ本当に歌舞伎俳優だけで上演するとなったときには、もちろん参加したいという気持ちがありましたが、別の公演がすでに決まっていて出演できず。とにかく悔しかったというのが一番でした。──今回の第二弾『朧の森に棲む鬼』で松也さんもようやく参加できることになりましたね。新感線では2007年に上演され、幸四郎さんが主演された作品ですが、改めてその面白さはどこにあると思われていますか。幸四郎主人公のライというのは悪に染まりまくった男で、嘘をつき、騙して、ほしいものを手に入れていくんです。その姿は怖くもあり、怪しくもあり、刺激的でもあり、快感でもある。だから、その悪の生き様にどっぷり浸って、こんなに怖いものを観たことがないと興奮してくださる世界を目指したいと思っています。松也ライが駆け上がって堕ちていくそのスピード感とスケールの大きさは、『リチャード三世』が下地にあるとはいえ、他にはなかなかないものだと思います。その成長と堕落のどちらの要素もあるのが面白いところですし、それに加えて悪の面も、実は誰しも共感できる部分があると思うんです。幸四郎企んだことがすべて上手くいくというのは、やはり興奮しますよね。口先で人を自分の思い通りにしていき、さらに強力な剣も手に入れているのでもう怖いものがない。だから、演じるうえでは改めて、喋ること、強い体を作ること、という基本的な訓練をして臨みたいです。とにかく、17年前に新感線さんで演じたものは忘れて、一から挑戦するつもりです。松也僕はもう、いつも以上に内面からその世界に陥る感覚にならなければいけないなと思いますね。ライの野性的な狂気に、いかに自分が俳優として人間として興奮できるか。それが幸四郎さんのおっしゃるお客さまの興奮につながっていく気がします。もちろん立廻りなどいろいろな仕掛けからでも迫力や興奮は伝わると思うのですが、そこに至るまでをまず自分で作って、お客様に悪の世界に没入していただけるよう努めたいと思います。──今回のダブルキャストには趣向があって、おふたりは、ライを演じない回では、ライと敵対するサダミツ役で登場されます。二役を演じることについて、現段階で何か思うところはありますか。幸四郎サダミツとしてライと対峙することで、ライを演じることに影響がないわけないでしょうね。松也敵対する役という意味では、二役を演じるのにちょうどいいかもしれないですね。(市川)猿弥さんが演じられるマダレも、遊べる役どころですので挑戦してみたかったですけど。ですが、サダミツも面白いことができそうな気がします。初演で演じていらっしゃった小須田康人さんがすごい表情をしてらっしゃって(と、口を大きく開けて顔を歪める)。幸四郎(笑)。松也あの顔が大好きなので、歌舞伎的に正面切ってやりたいなと(笑)。いのうえさんの演出によってどうなるかわかりませんが。「永遠の演劇少年」いのうえさんと、新感線の面々から学んだこと──幸四郎さんは市川染五郎時代に、『阿修羅城の瞳』(00年、03年)、『アテルイ』(02年)、『髑髏城の七人~アオドクロ』(04年)、『朧の森に棲む鬼』(07年)で新感線に主演され、松也さんは『メタルマクベス』disc2(18年)の主演で初めて新感線を経験されました。いのうえさんの演出にはどんな刺激がありますか。幸四郎いのうえさんは具体的に動きを演出してくださるんですけど、「確かにこれカッコいいよね」とか、「ここでキマると気持ちいいよね」とか、すぐに納得させられるというか、乗せられてしまうんです(笑)。松也新感線の皆さんと一緒にお芝居を作って感じたのは、一見バカみたいなことを(笑)、全員が全力で楽しんでいるということでした。そういう大人たちを見ているだけで僕は楽しかったですし、その一番手にいるのがいのうえさんで永遠の演劇少年みたいな。その情熱や魂が基盤となって作品が作られていくのを目の当たりにしていると、自分もこうありたいと思えて。これから演劇に携わり、もの作りをしていくうえでの勇気をいただけた感覚があります。幸四郎それこそ、5秒使うだけの小道具も、時間をかけて素晴らしいものを作るんですよね。殺陣にしても、当たり前のことではありますが、全員に意味のある手をつけていく。お芝居も、アドリブを入れる隙がないくらい作り上げられていますし。そこまで徹底しているからあれだけ面白いんだと気づかされるんです。──第二弾では、第一弾以上に歌舞伎の要素を盛り込みたいといのうえさんがおっしゃっていましたが、歌舞伎俳優として提案してみたいことはありますか。幸四郎いのうえさんの作品は、音楽にインパクトのあるものが多いんですけど、その意味では、歌舞伎はまさに音楽的なお芝居で、長唄や義太夫などいろいろな音楽がありますので。それと新感線の音の組み合わせで歌舞伎NEXTの音楽というジャンルができたら面白いなと考えたりはしています。松也僕はまだ具体的な案はないのですが、せっかく歌舞伎の要素を取り入れるのであれば、何をすれば作品にとって効果的なのかをしっかり見極めていきたいと思っています。見得をすればいいというものでもありませんし、何が必要かを考えながら、歌舞伎が持っている力を出したいです。幸四郎稽古では自分自身のことで手一杯になってしまうと思いますが、でも、出演者がそれぞれ自分を最大限活かせるような稽古を積み重ねていけるといいですよね。松也たぶん逆に、歌舞伎俳優としての引き出し以外のものも求められると思うんです。僕も『メタルマクベス』のときに、吹っ切ってやらなきゃいけないこと、越えなければいけない壁みたいなことがありましたから。そこでそれぞれのいいものが出てくるだろうなとも思うので、今回出演する歌舞伎俳優たちにぜひ期待していただきたいです。「憧れるのはやめて」刺激を与え合う関係──幸四郎さんと松也さんは、ダブルキャストとして、またライとサダミツで対峙する相手として、お互いのどんなところを楽しみにしておられますか。松也幸四郎さんは前回演じたライを忘れて挑戦するとおっしゃっていますが、もちろん僕が幸四郎さんの立場でもそう考えると思いますが、それでもやはり、17年前の幸四郎さんを観て憧れてきた人間としては正直、「あの幸四郎さんのライをナマで観ることができる」という喜びが大きくて(笑)。僕だけではなく後輩たちみんながそれを楽しみにしているところがあるかと。それだけの印象と影響を幸四郎さんは僕たちに残してくださいました。その方と同じお役を演じるのはプレッシャーですが、大谷翔平さんの言葉をお借りして、「憧れるのはやめて」挑戦するという心を持って臨みたいです。幸四郎いや、僕のほうこそ頑張らないと。松也くんは本当に情熱的なお芝居をするんですよね。常に自分の心を動かして芝居をしているなと感じる。本来芝居ってそういうものだなと、改めて実感させてくれる刺激になる存在なんです。今回はダブルキャストで同じ役を見比べていただくので、さらに刺激になると思います。なんとか僕も頑張ります!取材・文:大内弓子撮影:荒川潤ぴあアプリ先行抽選受付中!【チケット先行受付中!】歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』新橋演舞場()<公演情報>歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』作:中島かずき演出:いのうえひでのり【配役】ライ/サダミツ(交互出演):松本幸四郎/尾上松也ツナ:中村時蔵シキブ:坂東新悟キンタ:尾上右近シュテン:市川染五郎アラドウジ:澤村宗之助ショウゲン:大谷廣太郎マダレ:市川猿弥ウラベ:片岡亀蔵イチノオオキミ:坂東彌十郎【東京公演】2024年11月30日(土)~12月26日(木)会場:新橋演舞場【福岡公演】2025年2月4日(火)~2月25日(火)会場:博多座公式サイト:
2024年10月17日9月15日、木ノ下歌舞伎による『三人吉三廓初買』が、東京・東京芸術劇場プレイハウスにて開幕した。数々の古典作品の補綴を手掛ける主宰の木ノ下裕一と、彼ととともにいくつもの演目を鮮やかに蘇らせてきた演出家・杉浦邦生による、一連の仕事の集大成。5時間超えの大作、その初日前日のゲネプロを取材した。大胆な舞台装置とスタイリッシュな衣裳でみせる、現代につながる江戸の物語木ノ下歌舞伎が河竹黙阿弥の原作による『三人吉三』を上演したのは、2014年。その後2015年に再演、今回は9年ぶりの再演となるが、木ノ下と杉原はあらためて本作に向き合い直し、タイトルも新たに『三人吉三廓初買』とし、上演にのぞんだ。一幕十四場、二幕六場、三幕七場からなる5時間強の通し上演を、あっという間に感じさせるという前評判。田中俊介、須賀健太、坂口涼太郎による和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三をはじめ、藤野涼子(丁⼦屋花魁・⼀重役)、川平慈英(⼟左衛⾨伝吉役)、緒川たまき(文⾥女房・おしづ役)、眞島秀和(⽊屋文里[文蔵]役)ら多彩なキャストの活躍に熱い視線が注がれる。客席に入りまず目に飛び込んだのは、赤い鳥居と二層構造の大掛かりな装置。そのソリッドでいかつい質感は、現代の東京のガード下や工事現場を思わせる。なるほど、立て看板には「TOKYO」の文字。が、人々の喧騒の中、表裏ひっくり返された看板には「EDO」の文字!耳をつんざく騒音とともに引き込まれていったのは、東京なのか、江戸なのか、どちらでもあるような『三人吉三廓初買』の世界だ。まずは「湯島天神境内の場」。人々の真ん中で熱弁を振るうのは、修験者の奇妙院。度重なる大地震、コロリ(コレラ)の流行による厄難辛苦を、不思議の法力で祓うという。『三人吉三廓初買』初演の1860年(安政7年)は、まさに、いまの私たちの状況に重なる不安でいっぱいの社会だったそう。が、人々の心につけ込みお札を売りつけた修験者は、実は浪人鷲の森の熊蔵(武谷公雄)。その“狂言作者”は、人々の中でサクラを演じたお坊吉三だ。名刀・庚申丸を紛失したことで家が取り潰しとなった武家の息子で、いまは盗賊。演じる須賀はキャップを被り、黒紋付の下からフードをのぞかせるコーディネートがスタイリッシュ、分け前を寄越せと迫る熊蔵たちを突っぱねる悪党ぶりに、ふと、育ちの良さを垣間見せる瞬間も。五場と八場では、お互いに生き別れた双子と知らず愛し合うおとせと十三郎の出会い、なれそめを丁寧に、瑞々しく描き出す。夜鷹として街中で客を取るおとせを演じるのは深沢萌華。奥ゆかしく、可憐な姿が余計に切ない。主の木屋文里の百両をなくし、おとせの父に助けられる十三郎は、小日向星一。オフィスカジュアルのジャケット姿は、いまの東京のどこかで働く、誠実で勤勉な部下そのものだ。ふたりが七五調の台詞をもって徐々に気持ちを高まらせる様子に、ついうっとり。和尚吉三とおとせの父、土左衛門伝吉を演じる川平慈英の芸達者ぶりも注目だ。黙阿弥の言葉の美しさ、古典の力を再認識振袖姿の盗賊、お嬢吉三を演じるのは坂口涼太郎。カーボンのように黒光りした振袖を纏い、楚々とした歩き方、女形独特の台詞回しで登場する。が、度々ぶっきらぼうな言葉を吐いて、不良少年らしさも大いに発揮。歌舞伎の名台詞、「月も朧(おぼろ)に白魚の──」は、お嬢吉三の一番の見せ場だが、杉原ならではの斬新で大胆、かつグッと胸に迫る演出に息を呑む。坂口は廓の場面に登場する新造花巻役でも、コミカルな演技で笑いをもたらした。お嬢吉三とお坊吉の百両を巡る争いをおさめたのは、元坊主の和尚吉三だ。一幕では長髪姿。脛に大柄のタトゥー、肩をいからせてぐいぐい歩く様子は無敵感にあふれ、とてもクール。ふたりと義兄弟の契りを結ぶ場面、その迫力に圧倒されるも、頼り甲斐のある兄貴分らしさの中に、いつもどこか暗い影が見え隠れするのもぐっとくる。三人の盗賊の話と同時に進行するのは、現行の大歌舞伎では上演されることのない廓の物語だ。藤野涼子演じる新吉原の花魁一重は、プライドの高さと美しさを強烈に放ち魅力的。彼女にぞっこんで、廓に通い続ける文里を真摯に演じる眞島秀和の佇まいも目が離せない。夫の文里を支え続ける妻、おしづを演じる緒川たまきは、健気かつ強い意志を感じさせる振る舞いで胸を打つ。そんな新吉原での物語と、庚申丸と百両を巡る三人の盗賊のストーリーは、木ノ下歌舞伎が初演以来約160年ぶりに復活させたという「地獄の場」(田中、須賀も小林の朝比奈、閻魔大王の役で登場)を挟み、三幕七場「本郷火の見櫓の場」に向けてぐいぐいと突き進む。現代語と古語の台詞が違和感なく連なる中、黙阿弥の言葉の美しさ、心地よいリズムにハッとさせられる瞬間が、そこここに散りばめられる5時間強。衣裳や音楽の力も相まって、「あれ?これっていまの東京の話?」と思わせる木ノ下歌舞伎らしいマジックと古典の力を、あらためて認識させられる圧巻の舞台だ。★ぴあでは、木ノ下歌舞伎の魅力や本作の見どころを紹介する特集を掲載中!新しい“歌舞伎”体験を! 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎 『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』特集()取材・文:加藤智子撮影:細野晋司「さあ、義を結ぼうか!」田中俊介、須賀健太、坂口涼太郎ら初日開幕コメント(全文)●木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰/監修・補綴)18年前に木ノ下歌舞伎を旗揚げしました。「現代の演出家や俳優と一緒に日本の古典について考えるプラットフォームを作りたい」と(旗揚げ当時はそこまで明確に言語化できてはいなかったとはいえ)そう願ってのことでしたが、この度、素晴らしい俳優、デザイナー、スタッフに恵まれて、全力で作った5時間超えの『三人吉三廓初買』は、その願いが大きく実を結んだ作品だと実感しております。18年間一貫して持ち続けた「歌舞伎の面白さ、現代演劇の楽しさを多くの人とシェアしたい」という想いは、作品のみならず、全20頁の無料パンフレットや、視聴覚障害のある方を対象にした鑑賞サポート、そして杉原さんの舞台芸術の未来を見据えた眼差しによって実現したスウィング公演、幕間の軽食販売に至るまで、この公演のすみずみにまで込められています。一緒に最も多くの作品を作り、最も多くの時間を過ごしてきた、私にとっては唯一無二の演出家・杉原邦生さんをはじめ、演劇をこよなく愛する俳優陣、多彩なスタッフ陣と劇場でお待ちしております。●杉原邦生 [KUNIO](演出)今作の見どころは、エネルギッシュで魅力溢れまくりの素晴らしいキャスト陣だけではありません。強力なスタッフ陣にもぜひご注目ください!作品に寄り添いポップかつドラマティックな音で観る者の感情を大きく揺さぶる☆Taku Takahashi(m-flo)さんの音楽、ファッション性とドラマ性とを行き来しながら驚きの発想で世界を提示してくれるAntos Rafal(ANTOS.)さんによる衣裳、古典歌舞伎のロジックを要所に垣間見せながら現在進行形の空間を出現させる金井勇一郎さんの美術、歌舞伎の真似事ではない木ノ下歌舞伎の目指すカタチを同じ目線で探求してくださる歌舞伎俳優・中村橋吾さんによる立廻り。その他、これまで何度も創作を共にし、絶大な信頼を寄せる皆さんの演劇愛に満ちたスタッフワークも存分に楽しんでいただけるはずです。2006年に旗揚げし、2017年までメンバーとして共に歩み、いまや唯一無二の演劇団体となった“木ノ下歌舞伎”。『三人吉三廓初買』は、そんな木ノ下歌舞伎が辿り着いたひとつの〈到達点〉と言える作品になっていると思います。実は、稽古の時からひっそりと、僕はそう感じていました。この作品をお客さまにお届けできることがとても嬉しく、とても楽しみです。座組一同、劇場にて皆さまのご来場をお待ちしております!●田中俊介(和尚吉三役)自由な発想、時には奇想天外な芝居が飛び交う稽古場。そこには常に挑戦する勇気がありました。臆することなく立ち向かう心強いカンパニーの皆さんとの出会いは僕にとって特別なものになりました。江戸と東京が混在する新鮮な刺激をどうぞご堪能ください。木ノ下歌舞伎に出会えてよかった。そう皆様にも思ってもらえるはずです。さあ、義を結ぼうか!●須賀健太(お坊吉三役)木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』 ついに開幕致します!キノカブ名物完コピ稽古から始まり、座組全員でこの作品を作り上げてきました。 5時間20分という上演時間ですが、5時間20分あるからこその没入感と刺激をぜひ体感してください。 「古典だから」と躊躇されているそこのあなた…これはもう"現代劇"です。 (言い過ぎ?笑)●坂口涼太郎(お嬢吉三役)人と人がバトンをつないでいけば5時間だって何時間だって、160年前の江戸時代からだって、物語を受け継ぎ、語っていけるのだというものすごさを身体ごと感受していただけると思います。この物語をこの仲間たちとここで紡ぐ機会は今しかありません。どうか可能であれば、同じ今を私たちと一緒に過ごしていただければ幸いです。●藤野涼子(丁⼦屋花魁・⼀重役)完コピ稽古を経て、約1ヶ月間一重と向き合ってきた日々はあっという間に過ぎ去ってしまいました。暗中模索の日々ではありましたが、カンパニーの皆さまと共に初日を迎えられた事を嬉しく思います。劇場でお客様とどんな対話ができるのか楽しみです!“歌舞伎”と“現代”、 “廓の世界”と“三人吉三の世界”それぞれどう絡み合っていくのかが見どころとなっております。人生初のおばあさん・鬼役にも挑戦しておりますので是非、ご観劇ください!●川平慈英(⼟左衛⾨伝吉役)来ましたぁ!初日!歌舞伎の所作や発声などを学ぶ完コピ稽古から始まり、本稽古を入れて2ヶ月弱に及ぶ稽古を終え、いよいよ本番!自分としても初チャレンジとなる木ノ下歌舞伎の世界で、川平慈英の“伝吉”がどうお客様の眼に映るのか楽しみです!少しでもお客様の琴線に触れられたら、こんな嬉しいことはありません。帰り道、「あっという間の5時間だったね!」と言っていただけたら最高です!●緒川たまき(文⾥女房・おしづ役)この物語の中で右往左往している盗賊も、遊女も、商人も、私たちと同じように泣いたり笑ったりしながら悩み多い人生を生きています。稽古しながら、それらの登場人物の誰に対しても愛着を覚えました。そして、彼らは次の一手を考える時に私たちよりもずっとずっと大胆に突き進み、自らの人生を歌舞くので、この様(さま)にドキドキして、私の心は鷲掴みにされてしまいました。御来場くださる皆様にも是非そのドキドキを体感していただけますよう願っております。●眞島秀和(⽊屋文里[文蔵]役)いつも通りあっという間の稽古期間を経て、初日を迎える事になりました。私が演じる文里が、これからどのように変化していくのか楽しみです。そして、来場される皆様に心地良いエンターテインメントを届けられるよう努めてまいります。★ぴあでは、木ノ下歌舞伎の魅力や本作の見どころを紹介する特集を掲載中!新しい“歌舞伎”体験を! 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎 『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』特集()<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【主な配役】和尚吉三:田中俊介お坊吉三:須賀健太お嬢吉三:坂口涼太郎丁子屋花魁 一重:藤野涼子木屋手代 十三郎:小日向星一伝吉娘 おとせ:深沢萌華八百屋久兵衛:武谷公雄丁子屋花魁 吉野:高山のえみおしづ弟 与吉:山口航太文蔵倅 鉄之助:武居卓釜屋武兵衛:田中佑弥丁子屋新造 花琴:緑川史絵土左衛門伝吉:川平慈英文里女房 おしづ:緒川たまき木屋文里[文蔵]:眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【東京公演】2024年9月15日(日)~9月29日(日)会場:東京芸術劇場 プレイハウスチケット情報()【長野(松本)公演】2024年10月5日(土)・6日(日)会場:まつもと市民芸術館 主ホールチケット情報()【三重公演】2024年10月13日(日)会場:三重県文化会館 中ホールチケット情報()【兵庫公演】2024年10月19日(土)・20日(日)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールチケット情報()◎関連コンテンツ【動画配信】歌舞伎ひらき街めぐり両国と『三人吉三』~魂をしずめる場所~東京芸術劇場と木ノ下歌舞伎がタッグを組み、2021年度に実施した配信レクチャー企画「歌舞伎ひらき街めぐり」を再配信中!チケット情報()公式サイト
2024年09月16日Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble主催、『Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble 2024公演伝統と革新2』〜古典を紐解き、未来の伝統を創造する〜が2024年11月17日 (日)に北とぴあ つつじホール(東京都 北区 王子 1-11-1)にて開催されます。チケットはカンフェティ(運営:ロングランプランニング株式会社、東京都新宿区、代表取締役:榑松 大剛)にて発売中です。カンフェティにてチケット発売中 公式ホームページ 雅楽の革新的な演奏会の第2弾!昨年、我々Naoyuki MANABE GAGAKU Ensembleの音楽性や理念を体現した革新的な演奏会を開催。その第二弾となる。昨年は武満徹の「秋庭歌」を、現代曲としてよりも雅楽曲としての側面に着目し、新たな解釈のもと演奏し好評を博した。今回は一柳慧の「往還楽」に挑戦する。また、今注目されている若手作曲家、中堀海都に委嘱し初演した「星霜」を、昨年に引き続いて続編を初演する。そしてNMGEの演奏法による古典と、我々の魅力が大いに詰まった演奏会となることだろう。【プログラム】★神楽歌より《篠波》★中堀海都《星霜》一・二 Starlight and Frost I(2023委嘱作品), II(2024委嘱作品初演)★木霊吹による《調子》《平調調子》(笙)《盤渉調調子》(横笛)《双調調子》(篳篥)《黄鐘調調子》(全楽器)★雅楽曲《喜春楽》序・破★一柳慧《往還楽》(1980/1996)Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble(NMGE)「伝統を重んじ研鑽を続ける演奏家のみ新たな伝統を創造し得る」との理念の下 2020年コロナ禍で結成。伝統に根ざしながら、庭園や遺跡・劇場空間を使い、舞台と客席という形式に捉われない演奏形式を用い、新しい演奏スタイルでの公演を行なってきました。雅楽の持つ音楽的要素を取り出し、作曲家である真鍋尚之が《調子》や二群による退吹・追吹(おめりぶき・おいぶき=旋律をずらして演奏する奏法)、退舞(おめりまい=舞をずらして舞う)の奏法を用いた演奏で新しいスタイルを考案。新しい伝統となり得る企画を創出しつづけています。公演概要『Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble 2024公演伝統と革新2』〜古典を紐解き、未来の伝統を創造する〜公演日時:2024年11月17日 (日)14:30開場/15:00開演会場:北とぴあ つつじホール(東京都 北区 王子 1-11-1)■出演者Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble笙:真鍋尚之、豊剛秋、永井大志、青木総喜、川上彩子篳篥:本多恵昭、三浦元則、國本淑恵笛:太田豊、岩﨑達也、藤脇亮、纐纈拓也特別出演笙:豊英秋賛助出演篳篥:柏木理■チケット料金全席自由:5,000円(税込)主催:Naoyuki MANABE GAGAKU Ensemble共催:(公財)北区文化振興財団・東京都北区助成:アーツカウンシル東京 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2024年08月24日月公演「八月納涼歌舞伎」が、8月4日に初日の幕を開けた。納涼歌舞伎は、平成2(1990)年より十八世中村勘三郎(当時 勘九郎)と十世坂東三津五郎(当時 八十助)らを中心に、花形俳優が活躍する公演として人気を博してきた。納涼歌舞伎恒例の三部制で、古典歌舞伎の名作から期待高まる新作歌舞伎、熱の訪れを感じさせる舞踊まで、熱気あふれる舞台が目白押し。その初日オフィシャルレポートをお届けする。第一部の開場前には、松本幸四郎、中村勘九郎、中村七之助、坂東巳之助、坂東新悟、大谷廣太郎、中村米吉、中村児太郎、中村橋之助、中村福之助、中村虎之介、中村歌之助、市川染五郎、中村勘太郎、中村長三郎が、それぞれ直筆の言葉をしたためたうちわを手に、そろいの浴衣で劇場前に登場。幸四郎、勘九郎、七之助、巳之助、新悟、児太郎、橋之助が挨拶し、皆で「歌舞伎座でお待ちしております!」と掛け声をかけると、集まった人々から大きな拍手と声援を受けた。うちわは、公演期間中、出演者31名分を劇場2階ロビーに展示するという。第一部は、『ゆうれい貸屋(ゆうれいかしや)』から。山本周五郎原作の人情喜劇で、今回坂東巳之助の弥六、中村児太郎の染次、中村勘九郎の又造と、それぞれの父たちが勤めた役々を初役で勤めることで話題の舞台だ。幕が開くと、江戸は京橋の桶屋。お兼(坂東新悟)と家主平作(坂東彌十郎)が、仕事もせずに出かけてしまった弥六(巳之助)を嘆いている。しかし酒に酔って帰ってきた弥六が聞く耳を持たないため、お兼は実家へと帰ってしまう始末。やがて日が暮れ、弥六のもとに現れたのは美しい芸者の幽霊、染次(児太郎)。女房にしてほしいと申し出る染次と戸惑いつつもまんざらでもない弥六のコミカルなやりとりに、観客からは自然と笑みがこぼれる。やがて染次と夫婦同然の仲となり昼夜逆転の生活を送る弥六は、平作から店賃の滞りがあれば追い出すと言われてしまう。ふたりが店賃を稼ぐ算段として考え付いたのは、恨みを晴らしたい人に幽霊を貸し出す「ゆうれい貸家」。染次は、屑屋の幽霊又蔵(勘九郎)をはじめ、爺の幽霊友八(市川寿猿)、娘の幽霊お千代(中村鶴松)を呼び寄せ、大いに商いは繁盛するが……。個性豊かな幽霊たちと弥六の軽快なやりとりに笑いながらも、人間の本性をも感じさせる哀愁溢れる人情喜劇に、客席からは大きな拍手が送られた。続いては、『鵜の殿様(うのとのさま)』。歌舞伎舞踊としては本年2月に博多座「二月花形歌舞伎」にて初演され、好評を博しての再演となる。夏の盛り、大名(市川染五郎)が腰元たち(市川高麗蔵、澤村宗之助、市川笑也)を相手に舞を舞っている。大名は暑さしのぎに太郎冠者(松本幸四郎)を呼び寄せると、故郷の鵜飼の様子を語らせる。自らも鵜飼ができるかと尋ねる大名に、容易いことだと答える太郎冠者。しかし、太郎冠者は日頃の憂さ晴らしにと、鵜飼をよく知らない大名に鵜の役をさせて……。鵜匠と鵜が縄でつながれている様子を、幸四郎、染五郎親子がまるで本物の縄でつながれているように全身いっぱいでダイナミックに表現。鵜匠と鵜の関係に見立てた可笑しみ溢れる舞踊劇に、客席からは笑いが沸き起こり、快活な雰囲気に包まれた。「エッチで悪い男」と語った勘九郎が、初役の新三で観客を魅了第二部は、河竹黙阿弥による生世話物の傑作『梅雨小袖昔八丈 髪結新三(つゆこそでむかしはちじょう かみゆいしんざ)』で幕開け。祖父十七世中村勘三郎、そして父の十八世勘三郎が当たり役とした新三に、満を持して勘九郎が初役で挑む。幕が開くと、そこは材木問屋の白子屋。身代が傾きつつある白子屋では、一人娘のお熊(中村鶴松)に婿を迎えようとしている。仲人の加賀屋藤兵衛(市川中車)と奉公人の車力善八(片岡亀蔵)が結納品を持参し、後家お常(中村扇雀)が迎える。しかし店の手代忠七(中村七之助)と恋仲のお熊は、縁談を受け入れることができない。白子屋に出入りする髪結の新三(中村勘九郎)はその事情を盗み聞き、慣れた手つきで髪を撫でつけながら、忠七に駆け落ちを唆す。その晩、お熊を連れ出した忠七は永代橋のたもとで豹変した新三に蹴飛ばされ、額に傷をつけられてしまう。手練れた髪結姿から一変し、忠七を罵る新三の「傘づくし」の名セリフ。悪党の本性をあらわにしながらもどこか色気のある新三の姿に、客席は一気に引き込まれた。新三が颯爽と立ち去ったあと、身投げしようとする忠七を引き留めたのは侠客の弥太五郎源七(松本幸四郎)。お熊を取り返すため新三との交渉を引き受ける。悠然とやってきた親分の源七を新三と下剃勝奴(坂東巳之助)はうやうやしく迎える。源七は新三に啖呵を切ったものの追い返されしまい、ふたりの間には遺恨が残る。代わって交渉を引き受けたのは長屋の家主・長兵衛(坂東彌十郎)で……。老獪で言葉巧みな長兵衛に新三が次第にやり込められる、打って変わったおかしみある展開に、客席の雰囲気もがらりと変化。さらに、小気味良いやり取りの中では、「それはうちの親父だよ」と今年が十三回忌となった十八世勘三郎を思わせるセリフも飛び出すなど、客席からは大きな笑いが起こった。初鰹を売る魚売りの声や、湯上りの浴衣姿の新三など、季節感に溢れ、江戸市井の生活を活き活きと描き出す本作。筋書に向けたアンケートで新三を「エッチで悪い男」と語った勘九郎が、初役の新三を粋でいなせに勤めあげ観客を魅了した。続いては、夏の江戸風俗を軽妙洒脱に描いた舞踊『艶紅曙接拙 紅翫(いろもみじつぎきのふつつか べにかん)』。幕が開くとそこは富士山の山開きで賑わう、浅草・富士浅間神社。庄屋の銀兵衛(坂東巳之助)、団扇売りのお静(中村児太郎)、朝顔売りの阿曽吉(中村福之助)、蝶々売留吉(中村虎之介)、大工の駒三(中村歌之助)、町娘のお高(市川染五郎)、角兵衛獅子の神吉(中村勘太郎)らが揃ってそれぞれ踊る。何か面白いことはないかと口々に言う皆に呼び出されてやってきたのは、江戸で評判の遊芸を見せる紅翫(中村橋之助)。虫売りのおすず(坂東新悟)に続いて面を使った踊りや多彩な芸を披露すると、客席からは大きな拍手が送られた。最後には賑やかに勢ぞろいの踊りとなり、花形俳優が揃った清新な舞台の華やかな雰囲気で第二部を締めくくった。「京極夏彦×歌舞伎」というファン待望の組み合わせがついに実現第三部は、ミステリー界の鬼才・京極夏彦脚本による新作歌舞伎『狐花 葉不見冥府路行(きつねばな はもみずにあのよのみちゆき)』が遂に開幕。小説家デビュー30周年を迎える京極夏彦が、初めて歌舞伎の舞台のために書き下ろした本作は、累計発行部数1000万部を超える「百鬼夜行」シリーズ、そして文学賞三冠を果たした「巷説百物語」シリーズにも連なる物語。「百鬼夜行」シリーズの主人公・中禅寺秋彦の曽祖父である中禪寺洲齋(ちゅうぜんじじゅうさい)を主人公に、美しい青年の幽霊騒動と作事奉行らの悪事の真相に中禪寺が迫る。歌舞伎の上演に先駆け7月26日には小説も発売され注目が集まる中迎えた初日、「京極夏彦×歌舞伎」というファン待望の組み合わせがついに実現するとあって客席からも興奮が伝わる。物語は呪詛を生業とした信田家当主の妻・美冬に横恋慕した上月監物(中村勘九郎)らが信田家の一族郎党を皆殺しにした残虐な事件から始まる。事件から25年後、監物の娘雪乃(中村米吉)、近江屋の娘登紀(坂東新悟)、辰巳屋の娘実祢(中村虎之介)、そして上月家女中お葉(中村七之助)の周囲に現れたのは彼岸花を染め抜いた小袖を着た謎の男・萩之介(中村七之助)。いくつもの謎をはらむ幽霊事件を解き明かすべく、“憑き物落とし”を行う武蔵晴明神社の宮守・中禪寺洲齋(松本幸四郎)が監物の屋敷に招かれる。やがて明らかとなる真実とは――。作中では鮮やかな赤の曼珠沙華の花が物語の重要なモチーフとして登場し、「死人花」「墓花」「彼岸花」「蛇花」「幽霊花」「火事花」「地獄花」「捨子花」「狐花」と、曼珠沙華の別称で章立てされ、歌舞伎座の舞台を印象的に彩る。そして、暗闇の中に赤く浮かび上がる曼珠沙華と共に人々を妖しくも、美しく哀しい物語の世界に誘う舞台音楽。公演に先立ち行われた取材会で「京極さんの作品は、小説でありながら、優しく、怪しく、艶っぽい音楽が聞こえてくるような感覚があります。」と語った幸四郎の言葉にもつながる、小説から聞こえてくるかのような音色が、歌舞伎座を包み込む。初日を観劇した京極夏彦氏は「小説は書かれていないところこそが大事。読者が小説の行間や紙背をいかに生み出すか。一方で、歌舞伎を含めた演劇というのはそこをどう作るか。舞台づくりは役者さんと舞台を作られるみなさんに全幅の信頼をおいて一任していましたので、本日拝見して、見事に小説の行間を埋めて紙背を描いてくださっていたと思います。」とコメントしている。まさに“京極歌舞伎”が誕生した瞬間を目撃した観客からは、割れんばかりの拍手が贈られた。「八月納涼歌舞伎」は8月25日(日)まで、東京・歌舞伎座で上演中。〈公演情報〉「八月納涼歌舞伎」【第一部】11:00~一、ゆうれい貸屋二、鵜の殿様【第二部】14:30~一、梅雨小袖昔八丈髪結新三二、艶紅曙接拙紅翫【第三部】18:15~狐花葉不見冥府路行2024年8月4日(日)~25日(日)※13日(火)、19日(月)休演※第三部は21日(水)貸切。幕見席は営業会場:東京・歌舞伎座チケット情報:()公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2024年08月06日明治座花形歌舞伎が8年ぶりに復活することが決定し、11月に『明治座 十一月花形歌舞伎』が上演されることが発表された。明治座花形歌舞伎は平成23(2011) 年以来、次世代を担う花形俳優たちが大役に挑む話題性や、歌舞伎に馴染みのない人にも分かりやすいエンターテインメント性に富んだバラエティ豊かな演目を上演してきた。令和2(2020) 年3月には、中村勘九郎、中村七之助を中心とした座組で『明治座 三月花形歌舞伎』を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い全公演中止に。それから4年の時を経て明治座花形歌舞伎が帰ってくる。『明治座 十一月花形歌舞伎』は中村勘九郎、中村七之助をはじめ、花形公演に相応しい華やかな顔ぶれが揃う。昼の部は歌舞伎の様式美溢れる『車引』、長谷川伸の傑作『一本刀土俵入』、華やかな女方舞踊『藤娘』、夜の部は義太夫狂言の名作『鎌倉三代記』、息もつかせぬ早替わりが圧巻の『お染の七役』と多彩な演目が上演される。<公演情報>『明治座 十一月花形歌舞伎』公演期間:11月2日(土) 初日~26日(火) 千穐楽※休演日は11月11日(月)、20日(水)会場:明治座開演時間:昼の部 11:00 / 夜の部 16:00【演目・配役】■昼の部一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)一幕車引長谷川伸 作村上元三 演出二、一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)二幕五場三、藤娘(ふじむすめ)長唄囃子連中『菅原伝授手習鑑 車引』松王丸:坂東彦三郎梅王丸:中村橋之助桜丸:中村鶴松藤原時平:坂東楽善『一本刀土俵入』駒形茂兵衛:中村勘九郎お蔦:中村七之助堀下根吉:中村橋之助若船頭:中村鶴松波一里儀十:喜多村緑郎船印彫師辰三郎:坂東彦三郎老船頭:市川男女蔵『藤娘』藤の精:中村米吉■夜の部一、 鎌倉三代記(かまくらさんだいき)一幕絹川村閑居の場四世鶴屋南北 作渥美清太郎 改訂於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)二、お染の七役(おそめのななやく)三幕中村七之助早替りにて相勤め申し候浄瑠璃「心中翌の噂」(しんじゅうあしたのうわさ)『鎌倉三代記』佐々木高綱:中村勘九郎時姫:中村米吉おくる:中村鶴松母長門:中村歌女之丞三浦之助義村:坂東巳之助『お染の七役』油屋娘お染・丁稚久松・許嫁お光・後家貞昌・奥女中竹川・芸者小糸・土手のお六:中村七之助鬼門の喜兵衛:喜多村緑郎油屋多三郎:坂東巳之助船頭長吉:中村橋之助丁稚長松:坂東亀三郎腰元お勝・女猿廻しお作:中村鶴松山家屋清兵衛:坂東彦三郎庵崎久作:市川男女蔵【チケット】(税込)一等席(1階席・2階席正面)15,000円二等席(2階席左右)7,500円三等A席(3階席正面)5,000円三等B席(3階席左右)3,000円※未就学児入場不可※車いすスペースは明治座チケットセンター及び明治座切符売場にて販売いたします。※三等B席は舞台の一部が見づらい可能性のある座席です。■一般発売電話・ネット予約:9月21日(土) 10:00~
2024年07月17日歌舞伎に現代の視点を取り入れつつ、その新たな可能性を発信してきた木ノ下歌舞伎(通称・キノカブ)の『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』が9年ぶりに再演されることになり7月16日(火)、東京池袋の東京芸術劇場にて制作発表会見を開催。監修・補綴の木ノ下裕一、演出の杉原邦生、出演者の田中俊介、須賀健太、藤野涼子、川平慈英、緒川たまき、眞島秀和が出席した。(「お嬢吉三」を演じる矢部昌暉は体調不良のため欠席)。歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥による最高傑作に大胆な新解釈を加え、2014年の初演に続き、翌15年には東京芸術劇場でも上演され、読売演劇大賞2015年の上半期作品賞部門のベスト5に選出された本作。数奇な運命に翻弄される3人の“吉三”の運命を描き出す。キノカブ版では、現行の歌舞伎ではカットされている商人と花魁の恋のパート、さらに初演以来約160年ぶりに「地獄の場」を復活させており、上演時間は5時間におよぶが、演出の杉原は「絶対にお客様を飽きさせることなく興奮の渦に巻き込みます!」と力強く宣言。木ノ下は河竹黙阿弥について「既存の認識では、メッセージ性が希薄な作家と思われていますが、そんなことは全然ないんです。初演は安政7年ですが、5年前には安政の大地震が江戸に壊滅的な被害を与え、2年前にはコレラによる多くの犠牲者が生まれていて、随所に昨日まで元気だった人が今日、急に死ぬという、死の近さや疫病の存在が散りばめられています。震災や大きな疫病を体験し、まだその真っただ中にいる現代の私たちにとって、この『三人吉三』は、また違った輝きを見せると思います」と現代に上演することの意義を強調する。この日、登壇したキャスト陣は全員、キノカブは初挑戦。木ノ下歌舞伎では、歌舞伎俳優によって演じられている歌舞伎の映像のセリフや動きを俳優陣が徹底的に模倣する“完コピ稽古”を稽古前半に行なうことになっており、これまでと異なる初めての稽古を前に一同、戦々恐々……?坊主上がりの盗賊である和尚吉三を演じる田中は「(普段は役を)自分で生み出すことが多いんですが、今回はモノマネをするところから始まるという初めての経験です。家で繰り返し、(資料の)映像を見て、モノマネをしています」と語る。武家上がりのお坊吉三を演じる須賀は「上演前の台本を読みながら、2~3回閉じました(苦笑)。本当にこれをやるのか…? と」と明かす。この日、共演陣とも初めて顔を合わせたが「どことなく、学校のテスト前の探り合いのようなピリピリ感を感じています(笑)」と語る。藤野は、武家出身の花魁を演じるにあたり、実際に現在の吉原に足を運んでみたそうで「あまり(昔のものは)残ってないんですが、見返り柳や門が残っていました」とふり返る。眞島は歌舞伎初挑戦を前に「右も左もわからない状態」と不安を口にしつつも「初日には堂々と舞台に立てるように稽古に励んでいきたいです」と意気込みを語る。川平も歌舞伎初挑戦となるが「これまでの生業のほとんどがミュージカルと楽天カードマンだったので……」と笑いを誘いつつ「人間のドロドロした負の部分が入り混じる物語ですが、軽やかでスタイリッシュに、観終わって『よかったな』と生への賛美の気持ちを抱いたり、前向きなエネルギーを届けられたらと思います」と語った。緒川は、本作が初演時にお正月公演として上演されたということに言及。「台本を読むと様々な運命を背負った、こんなにも人の生き方って多様なのかという人たちが右往左往していて、これを黙阿弥は(正月公演で)人を楽しませるために描いたというふうに読むと、江戸の庶民のひとたちは、なんて粋で心が広い人たちだったのかと感じます。現代版の作品として、いまを生きる私たちに楽しんでもらえる作品になるといいなと思います。不幸が渦巻いていて、どうしてこんなにかわいそうなのか? どうしてこんな酷いことができるのか? という人たちが出てきますが、江戸の人たちに倣って、楽しめる方向に引っ張っていきたいです」と思いを語っていた。木ノ下は緒川の言葉を受け「こんな暗い芝居を正月に当て込んだ木阿弥やっぱりヤバいなと思いました(笑)。でもその背後には『みなさん、よくぞ生き延びました。こういう世界だけど頑張っていきましょう。死んだ人がかわいそうだと思うかもしれませんが、私たちも頑張ってますよね』というエール、メッセージが強くあると思います。そのあたりを引き出せる『三人吉三』にしていきたいです」と“生”への希求を力強く描き出す作品にしたいと語った。『三人吉三廓初買』は東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクションとして東京芸術劇場プレイハウスにて9月15日(日)より上演。7月19日(金)まで、『三人吉三廓初買』東京公演のチケット先行発売中!この機会にぜひ!▼詳細は下記よりご確認ください。<公演情報>東京芸術祭 2024 芸劇オータムセレクション東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』作:河竹黙阿弥監修・補綴:木ノ下裕一演出:杉原邦生[KUNIO]【主な配役】和尚吉三:田中俊介お坊吉三:須賀健太お嬢吉三:矢部昌暉丁子屋花魁 一重:藤野涼子木屋手代 十三郎:小日向星一伝吉娘 おとせ:深沢萌華八百屋久兵衛:武谷公雄丁子屋花魁 吉野:高山のえみおしづ弟 与吉:山口航太文蔵倅 鉄之助:武居卓釜屋武兵衛:田中佑弥丁子屋新造 花琴:緑川史絵土左衛門伝吉:川平慈英文里女房 おしづ:緒川たまき木屋文蔵[文里]:眞島秀和スウィング:佐藤俊彦藤松祥子【東京公演】日程:2024年9月15日(日)~29日(日)会場:東京芸術劇場 プレイハウス【長野(松本)公演】日程:2024年10月5日(土)・6日(日)会場:まつもと市民芸術館 主ホール【三重公演】日程:2024年10月13日(日)会場:三重・三重県文化会館 中ホール【兵庫公演】日程:2024年10月19日(土)・20日(日)会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2024年07月16日●悪役は「非常に楽しい」『怪盗グルー』最新作でも熱演ドラマや映画など映像作品でも活躍している歌舞伎俳優の片岡愛之助。「より多くの人たちに歌舞伎に興味を持ってもらいたい」との思いで歌舞伎以外の仕事にも精力的に取り組んでいる。アニメーション・シリーズ『怪盗グルー』の最新作『怪盗グルーのミニオン超変身』(7月19日公開)では、グルーの高校の同級生であり宿敵のマキシム役の吹き替えを務めた。愛之助にインタビューし、『怪盗グルー』シリーズ参戦の喜びや悪役のやりがい、今の仕事に対する思い、自身の性格や結婚後の変化など話を聞いた。本作で『怪盗グルー』に初参戦となった愛之助。人気シリーズへの参加に「すごくありがたいです。皆さん知っていて、小さいお子さんたちはミニオンと聞いただけで目を輝かせますよね。すごい人気ぶりなので緊張しましたが、生きた証として作品がずっと残っていくというのもうれしいです」と喜んでいる。TBS系ドラマ『半沢直樹』シリーズの黒崎駿一役や、昨年公開された映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』の大阪府知事役など、主人公と敵対するクセの強い役を見事に演じ存在感を放っていた愛之助。『怪盗グルーのミニオン超変身』でも重要な悪役を任された。「ミニオンの役かと思ったらそうではなく、しかも今回こそいい人の役かと思ったら、また悪い役でした(笑)。いつもクセ強めだなと。でも夢があって、悪だけではなく、悪さの中にかわいらしい部分やツッコむようなところがあったり、素晴らしい作品だなと思いました」そして、「悪役は面白いですね」とやりがいを語る。どんな物語でも主人公は痛めつけられて痛めつけられて最後に跳ね返す。悪役はガンガン攻撃するほうなので演じていてスッキリしますし、実際の生活ではできないようなことをするので非常に楽しいです」続けて、「『翔んで埼玉』もそうですが、ああいった馬鹿げたことを真剣にやるからこそ面白い。中途半端にふざけて照れながらやっても面白くないんです。とことん真面目にやり続けるから面白いので、真面目に悪役やっています」と言い、今回のマキシム役も「真面目に演じました!」と話した。アフレコでは、監督と話し合いながらどんな声で演じるか決めていったそうで、「明るくて陽気で、おフランス帰りの嫌味なヤツみたいな、ちょっとインテリぶった感じと(監督が)おっしゃっていたので、その雰囲気を出せればいいなと思いながら演じました」と説明。「絶叫もあり、楽しかったです(笑)」と普段発さないようなセリフを満喫したようだ。そして、「役を構築するという意味ではどの仕事も共通している」と言うも、「声で喜怒哀楽を表現するのはすごく難しい」と吹き替えの難しさを実感。「しかも英語でしゃべられていることを日本語で。英語の単語の字数と日本語だと、絶対に日本語のほうが長くなり、それをキャラクターの口が開いている間に全部しゃべらないといけないので早口になるところもありました」主人公グルーの声はシリーズ1作目『怪盗グルーの月泥棒』から14年にわたって笑福亭鶴瓶が務めているが、愛之助は収録で鶴瓶演じるグルーの声を聞き、シリーズ参戦の喜びを感じたという。「僕が収録するときに、鶴瓶さんの声がすでに入っているところもあって、自分が見ていたグルーと会話ができているというのはうれしかったです。昔から鶴瓶さんを存じ上げていますが、グルーのイメージも大きいですから」●自身の生き方に影響を与えた両親の死歌舞伎への思いも自身と演じたマキシムの共通点は「全くないです」と笑い、「正反対だから、そんなに根に持つんだとか、こういう考え方の人もいるんだとか、勉強になりました。唯一の共通点を探すとしたら、マキシムは虫が大好きで虫の研究ばかりしていて、僕は歌舞伎が好きで歌舞伎に没頭しているので、何か一つに没頭するというのは共感できました」と話した。そして、自身の性格をどう捉えているか尋ねると、「悩まないです」と回答。「悩んでずっと立ち止まっている時間は人生において無駄だなと思うんです。解決しないから悩み事なわけで、それを一生考えていても一生解決しない。ちょっと違う道に行ってみたら解決することもあるので、あまり悩まず次に行くようにしています」悩まない性格は、両親の死も関係があると明かす。「両親が2人とも早く亡くなり、母親が53歳、親父が56歳でした。母親が亡くなった時に、母親の骨壺を見て『人間死んだら終わりやで。だから、後悔しないように生きることが大事だな』と言っていた親父も1年後に骨壺に入ってしまったので、こういうことかと、その言葉が身に染みました。自分の人生だから後悔しないように生きていかないといけないなと。好きなことだけして生きていくというのは無理ですが、人生楽しく、調和を取りながらみんなと仲良く生きていきたいなと思っています」両親の死をきっかけに「後悔しないように生きよう」と改めて感じ、悩んで立ち止まることがなくなった。「もちろん『なんで失敗したんだろう』と考えることは必要ですが、反省したらすぐ次に行けばいい。ずっとそこでくよくよしていても次の扉は開かないので、切り替えが大事だと思います」仕事においても立ち止まることなく挑戦を続け、歌舞伎以外の仕事にも精力的に取り組んでいる愛之助だが、原動力は「もっとたくさんの人たちに歌舞伎に興味を持ってもらいたい」という思いだ。「僕は歌舞伎役者で、特に上方歌舞伎を残していかなければいけないお家に入れていただいたので、最近上演されていない上方歌舞伎を復活させたり、新作を作ってみたり、歌舞伎に興味のない人たちに振り向いてもらうことがすごく大事だと思っています」最近は海外の観客がとても増えているという。「僕らも海外旅行をする時にその土地の文化を調べるように、海外の方が日本の文化に興味を持って歌舞伎を見に来てくれる。この間、歌舞伎で『流白浪燦星(ルパン三世)』をやったら、『ぜひこれを海外に流してほしい』という声がたくさんあったので、海外配信も決まりました。そうやって広まっていくのはうれしいですね。でも日本に住んでいる方たちになかなか興味を持ってもらえないので、そういう方たちにも興味を持ってもらうために僕はいろんな仕事をやっています」幅広く活動する中で相乗効果も実感しているという。「それぞれ全然違うステージだなと感じますが、結局職業としては俳優なので、どれをやってもとても勉強になる。『怪盗グルー』のような新しい仕事でも歌舞伎で培ったものが使えたりしますし、こっちで培ったものも新作歌舞伎を作る時に使えたりしますから。どん欲にいろんなことを死ぬまで挑戦し続けていきたいなと思っています」実際に、歌舞伎以外の仕事でファンになってくれた人が歌舞伎を見に来てくれるという反響も感じている。「今の時代はネットでいろんな感想を書いてくださいますが、『半沢直樹』の時に一番反響を感じました。『黒崎さんの歌舞伎が見たいと思って歌舞伎を見に来ました』って見に来てくれて、『歌舞伎かっこよかったです』『黒崎さんありがとう』という声をいただき、自分がやっていることは間違ってなかったんだなと。だからこれからも続けていこうと思います」1年のうち歌舞伎は6カ月、残りの6カ月はドラマや映画などほかの仕事をするように決めているそうで、「10年以上ずっとそうしています」とのこと。そして、今後について「貪欲にいろんなことに、ご縁があるものには挑戦していきたいなと思っていますし、海外でいろんな歌舞伎ができればなと思っています」と抱負を述べた。●結婚して食生活が変わり健康に「感謝しています」悪役のやりがいを語っていたが、『もっと悪役をやりたい』『いい役もやりたい』といった願望はないそうだ。「もうどんな役がやりたいというのはないですね。ほぼほぼやり尽くしていると思うので。これをやってほしいと言ってくださったら、そこに全力をかけるという感じで、いただいたお役をどれだけ膨らませるかということが楽しいです」そして、役をどれだけ魅力的なキャラクターにすることができるかは役者次第だという。「全力をかけてピッチャーゴロになるのか、セカンドフライになるのか、ホームランになるのか、それはその俳優がどこまでその瞬間にできるかということですから。少ししか登場しない役を演じた時に、『かわいそうだな』と思われるのか、『この役にこの人を使うなんて豪華だな』と思ってもらえるのか、そこは大きな分かれ道で、役者の腕だと思います」『怪盗グルーのミニオン超変身』のタイトルにちなみ、自身に関する変化を尋ねると、2016年3月に藤原紀香と結婚してからの変化を語ってくれた。「結婚して9年目ですが、結婚して食生活が変わり健康になりました。それまで100%外食だったものが、うちの妻が作ってくれる料理を食べるようになり、妻は体に悪いものや良いものなどいろんなことを研究していて詳しいので、そういうものを食べていると体の数値がすごく良くなりました。結局一番大事なのは健康だと思うので、感謝しています」また、気持ちの面でも変化があり、「家族のために頑張ろうという思いはありますね」と述べ、藤原の活躍から刺激ももらっているという。「お互い俳優をやっているので、彼女の舞台を見に行ったり、テレビに出た作品を見たり。彼女の台本を一緒に読んであげることもあるのですが、普段僕がやらないような役をやるんです。ラブストーリーは全くご縁がないので面白いなと思いながら読んでいます。僕が出演する作品だと周りにいるのは武士や銀行員なので(笑)」最後にファンに向けて、「『怪盗グルーのミニオン超変身』では、私が務めさせていただいたマキシムが素敵な彼女を連れて現れ、高校時代の因縁を晴らそうとします。そして、ミニオンがどういう風に超変身するのか、楽しみに見に来ていただけたら。2回、3回見ても何度も楽しめると思うので、ぜひお友達も誘って見に来ていただきたいです」とメッセージを送った。■片岡愛之助1972年3月4日生まれ、大阪府出身。1992年1月に片岡秀太郎の養子となり、大阪・中座『勧進帳』の駿河次郎ほかを演じ六代目として片岡愛之助を襲名。歌舞伎のみならず、映画やドラマなどでも幅広く活躍。2023年はドラマ『警視庁アウトサイダー』、『大奥』、映画『仕掛人・藤枝梅安』、『キングダム 運命の炎』、『ホーンテッドマンション』(吹き替え)、『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』、舞台『西遊記』、新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』などに出演。2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』への出演も決定している。
2024年07月15日昨年12月に東京・新橋演舞場で上演された新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』の収録映像が、歌舞伎の公式有料動画配信サービス「歌舞伎オンデマンド」にて世界28の国と地域へ向け、英語字幕付きで2024年8月11日(日) 21時(日本時間)より世界生配信される。漫画やテレビアニメを通し、海外でも高い人気を誇る『ルパン三世』と日本の伝統文化・歌舞伎の融合が大きな話題を呼んだ新作歌舞伎『流白浪燦星』。本作は、安土桃山時代に名を馳せた大泥棒・石川五右衛門(五ェ門)のいる世界を舞台に、流白浪燦星(ルパン三世)が国宝級の秘宝「卑弥呼の金印」を巡り、激しい奪い合いを繰り広げていくオリジナルストーリー。ルパンお決まりの名セリフやルパン一味と銭形刑部の大捕り物、“本水”を使った滝の中でのルパンと五右衛門の対決など、随所に散りばめられた原作のエッセンスと歌舞伎らしさあふれる演出、そして片岡愛之助、尾上松也ら歌舞伎俳優の熱演によって歌舞伎版『ルパン三世』の世界を体現。上演時にはその粋で華やかな舞台に多くの観客が魅了された。今回の生配信は、海外からも本作の配信を熱望する声が多かったため実現した。「歌舞伎オンデマンド」では、海外の人にも日本の伝統文化である歌舞伎を楽しんでもらうため、これまで9演目の歌舞伎の古典作品を英語字幕または英語副音声付きで配信。なお、本作は生配信翌日の8月12日(月・祝) から8月18日(日) 23時59分までアーカイブ配信も実施される。<配信情報>新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』配信配信日:2024年8月11日(日) 21:00 (JST)アーカイブ配信:2024年8月12日(月・祝) 0:00~18日(日) 23:59 (JST)配信地域:アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、香港、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、メキシコ、オランダ、フィリピン、ポルトガル、シンガポール、スペイン、スイス、台湾、タイ、アラブ首長国連邦、イギリス、アメリカ【視聴料金】4,000円+システム利用料 200円(海外不課税)4,400円+システム利用料 220円(国内税込)発売日:2024年6月28(金) 10:00~8月18(日) 20:00 (JST) まで販売チケットはこちら:公式サイト:
2024年06月28日戦後、復興事業の一環として歌舞伎の劇場誘致を図り「歌舞伎町」と命名された新宿・歌舞伎町。当時それは実現しなかったものの、この地は現在、劇場や映画館が立ち並ぶ日本有数のエンターテインメント発信地として賑わいを見せている。そしてついに、歌舞伎町に歌舞伎がやってきた。東急歌舞伎町タワーのTHEATER MILANO-Zaにて「歌舞伎町大歌舞伎」が5月3日に開幕したのである。出演は中村勘九郎、中村七之助を中心とする面々。父である十八世中村勘三郎のチャレンジ精神を受け継ぐ中村屋兄弟は、庶民の生活に根付いていた江戸時代の歌舞伎の良さを現代に蘇らそうと、古典を大事にしながら現代的なアプローチで様々な挑戦を続けている。「歌舞伎町大歌舞伎」の宣伝として歌舞伎町のホストクラブのようなアドトラックが東京の街を走ったのも話題になったが、この“傾いた(かぶいた)”奇抜なアピールは、現代の歌舞伎役者のイメージ=古典芸能の従事者というより、本来の“傾奇者(かぶきもの)”歌舞伎役者の面目躍如といったところだろう。さて、「歌舞伎町大歌舞伎」は、『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』と『流星(りゅうせい)』という古典舞踊2演目と、この公演のために作られた新作歌舞伎『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』という3本立て。幕開きは『正札附根元草摺』。初春芝居として上演されることの多い“曽我物”(曽我兄弟の仇討を題材にしたもの)の一種だが、新しい場所での歌舞伎公演ということで縁起を担いでの演目であろう。中村屋の「黒・白・柿」の定式幕があくと、曽我物らしく富士山の描かれた油障子が目に飛び込み、たしかにおめでたい気分。その中で、今にも父の仇を討たんといきりたつ曽我五郎(中村虎之介)と、「今はその時ではない」と止める美しい女性・舞鶴(中村鶴松)の丁々発止のやり取りが、荒々しくも華やかな舞踊で展開していく。共にまだ20代の虎之介と鶴松が、エネルギッシュでフレッシュな華やかさを見せながら、古典らしい重厚感もしっかりと表現し、魅せた。またこの劇場には花道がないため、通常は花道を使う場面で客席通路を使う演出も。客席のただ中で彼らが見得をきる臨場感は、離れた席から見ても一種独特の高揚感がある。続いての『流星』は、前半と後半で趣がガラリと変わる面白い一作。前半は七夕の夜、年に一度の逢瀬を楽しむ牽牛と織女のロマンチックな恋模様が描かれる。パステルカラーの雲が舞台いっぱいに広がるファンタジックな世界の中、牽牛と織女に扮するのは、勘九郎の息子たち、中村勘太郎と中村長三郎。しっとりした恋の舞踊だが、まだ13歳と10歳のふたりが踊るとなんとも可愛らしく、微笑ましい。そこに飛び込んでくるのが、勘九郎扮する流星。彼は長屋に住む雷夫婦がケンカを始めたと牽牛と織女に注進する。カミナリ様が長屋に住んでいるという設定自体が面白いが、夫婦の嫉妬に幼い子ども雷の仲裁、隣家の雷ばあさんまで登場する大騒ぎ。これを舞踊の名手・勘九郎がひとりで、コミカルにテンポよく演じ分けていく。4役をお面を取り換えつつ演じ分ける場合もあるが、勘九郎は手に持つ小道具のみで演じ分けるのが見事。中華テイストな神様の世界から、江戸の下町へと飛躍する大胆さも歌舞伎らしく、また親子三人の共演もほっこりとする、楽しい舞踊劇だ。七之助と虎之介の相性ピッタリ! 人情と、笑いと、幸せな余韻が揃った名作が誕生休憩をはさみ、最後は『福叶神恋噺』。上方落語「貧乏神」をもとにした世話狂言の新作歌舞伎で、「貧乏神」を作った落語作家・小佐田定雄がこの歌舞伎版の脚本も手掛ける。主要キャラ・貧乏神のびんちゃんは落語のみならず、TVドラマでフランキー堺が演じたほか、宝塚歌劇でも『くらわんか』『ANOTHER WORLD』と2作にわたり登場したことのある人気キャラクターだ。物語は仕事嫌いの根っからの怠け者、大工の辰五郎が主人公。お金がないのに働かないため家はボロボロ、食べ物にも困るありさま。妹のおみつの婚約者にまで借金をして、おみつは怒って家を出ていってしまったが本人はどこ吹く風。そこへ忽然と現れた貧乏神のおびん。貧乏神は人間から養分を吸い取るものなのに、おまえには吸い取るものすらないから少しは働けと小言を言う。しかし「働かなくても貧乏、働いても貧乏神に吸い取られて貧乏になるのなら、働かない方がいい」と屁理屈を言う辰五郎。しまいにはおびんにまで借金をねだる始末。みかねたおびんは内職をし、辰五郎の世話を焼き……。辰五郎を演じるのは虎之介。勇壮な曽我五郎から一転、言い訳ばかりなのにどこか憎めないダメ男を、愛嬌たっぷり、水を得た魚のように演じている。大きな目で上目遣いに借金をねだるさまは可愛らしく、まわりの人々がついほだされてしまうのも無理はないと思わせる説得力。落語では男である貧乏神は、本作では女性となり七之助が演じる。ボサボサの髪を嘆きながらも派手な着物を着けるユニークな貧乏神は七之助の華やかさが相まって可笑しみがあるし、年下の男に振り回されながらせっせと世話を焼く姉さん女房のような一面も可愛らしい。何より七之助と虎之介の相性がピッタリだ。途中、歌舞伎町ならではのお遊びも挟みつつ、気付けば大団円。辰五郎がどう心を入れ替えるのかは舞台を観ていただくとして、世話物らしい人情と、笑いと、幸せな余韻が揃った名作が誕生したことは断言しよう。歌舞伎が初進出する新たな劇場での第一回公演にふさわしく、賑々しい門出となった「歌舞伎町大歌舞伎」。歌舞伎本来の華麗さ、勇壮さ、楽しさの詰まった舞踊2作と、テンポよく楽しめる新作歌舞伎は、ご通家が観ても納得で、歌舞伎を見慣れない人が観ても楽しめるものになっている。縁起が良いとされる初物、しかも極上の初物だ。ぜひお見逃しなく。上演時間は休憩を含め2時間30分。公演は5月26日(日)まで。取材・文:平野祥恵写真提供:松竹<公演情報>『歌舞伎町大歌舞伎』2024年5月3日(金・祝) ~5月26日(日)会場:東京・THEATER MILANO-Zaチケット情報:()公式サイト:
2024年05月10日4月2日(火)、歌舞伎座4月公演「四月大歌舞伎」が開幕した。豪華顔合わせにも注目の昼夜二部制でおくる本公演より、オフィシャルレポートが到着した。昼の部の幕開きは、『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』より「引窓(ひきまど)」の名場面。歌舞伎三大名作『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』『仮名手本忠臣蔵』を手掛けた竹田出雲・三好松洛・並木千柳の合作による義太夫狂言の名作で、「引窓」の場面の舞台は中秋の名月を翌日に控えた、京都郊外。南与兵衛(中村梅玉)の家では、亡き父の後妻であるお幸(中村東蔵)と女房お早(中村扇雀)が、放生会(ほうじょうえ/捕らえられた生き物を解き放つ行事)の支度をしている。そこへ相撲取りの濡髪長五郎(尾上松緑)がやってくる。長五郎は訳あって人を殺めてしまい、この世の名残に母であるお幸に会いに来た。久しぶりに実子である長五郎に会ったお幸の無邪気な喜び、そして死ぬ覚悟を打ち明けられない長五郎の苦しみの対照が胸に響く。郷代官に任ぜられ、長五郎を捕らえる命を受けた与兵衛が手水鉢に写るその姿を見て気色ばむところから舞台は一気に緊迫、やがてお幸の気持ちを察して与兵衛は長五郎を見逃すために奔走する。南与兵衛後に南方十次兵衛という役が大好きだという梅玉は「今回は12年ぶりですし、親しいあらし君(松緑)が濡髪役。活きの良い後輩に負けないよう勤めたい」と公演に向けて語る。梅玉は義理の母を思う与兵衛の優しさを丁寧に演じ観客の心を掴み、実子と継子の間に入って苦悩するお幸、夫を愛しながら母の心情を思うお早、そして与兵衛の情けを感じ縄に付こうとする長五郎というそれぞれの想いが繊細に描かれた胸に沁みる一幕となった。続いては、舞踊『七福神(しちふくじん)』。室町時代末期ごろから始まったとされる七福神信仰を素材として作られた数多の作品から、平成30年に歌舞伎座で新たな台本と音楽、振付で上演された本作。この度は、中村歌昇、坂東新悟、中村隼人、中村鷹之資、中村虎之介、尾上右近、中村萬太郎という花形七人がいずれも初役で七福神勤める話題の舞台だ。富士山を背景に、宝船が七福神を乗せてやってくると、天下泰平を喜び、いつまでも平安な世が続くようにと願いながら、神々が酒を楽しんだり、恋の手習いの艶っぽい踊りを見せたりと、賑やかで愛嬌溢れる空気に包まれた。春の陽気に相応しく、花形たちが心躍る舞踊を魅せた。そして、上方狂言の人気作『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』。片岡愛之助が団七九郎兵衛と徳兵衛女房お辰を、尾上菊之助が一寸徳兵衛を勤める。ふたりの競演は昨年6月博多座から引き続き、今年2月に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した愛之助の受賞理由に『夏祭浪花鑑』の演技も挙げられた。公演に向けた取材会では、団七について「俠気(おとこぎ)に溢れ、一本気な上方の兄ちゃんですね」と話し、「今回も徳兵衛は、博多座でもご一緒させていただいた菊之助さん」と愛之助は喜び、菊之助も「こんなにも早く歌舞伎座で、またご一緒できてとても嬉しいです。徳兵衛は、俠気を見せる団七に惚れて、義兄弟の契りを結ぶ男なので、かっこいい愛之助さんの団七に食らいついて行きます」と話している。息の合ったふたりの競演に期待が膨らむ。罪人となっていた団七(片岡愛之助)の出牢の日。団七の女房のお梶(中村米吉)と伜の市松(中村秀乃介)は釣船三婦(中村歌六)と住吉社へやって来る。髪や髭が伸び放題の団七が、身なりを整えて浴衣姿で現れると、その爽やかな佇まいが場内を魅了する。団七は、大恩人の息子である玉島磯之丞(中村種之助)とその恋人琴浦(中村莟玉)の危難を救うため、一寸徳兵衛(尾上菊之助)とその女房お辰(片岡愛之助/二役)、釣船三婦らと奔走。立札を用いた団七と徳兵衛の息の合った立廻り、勢いある団七の花道の引っ込み、愛之助が一本気な団七と気風がよく筋の通ったお辰の二役を勤めるなど、みどころ満載。団七が泥にまみれながらの舅義平次(嵐橘三郎)殺しの場は、歌舞伎ならではの様式美で客席を魅了し、息を呑む展開が続くと幕切れには「大当り!」の大向うが掛かる盛り上がりとなった。仁左衛門・玉三郎の競演に沸いた夜の部人間国宝・片岡仁左衛門と坂東玉三郎の競演が話題の夜の部。幕開きは、四世鶴屋南北の『於染久松色読販(おせめひさまつうきなのよみうり)』より、土手のお六と鬼門の喜兵衛に焦点を当てた人気作。惚れた男のために悪事を働く“悪婆”と呼ばれる役柄の土手のお六を玉三郎、色気ある悪に満ちた喜兵衛を仁左衛門。昭和46(1971)年に初めてふたりで勤めて以来、上演を重ねてきた当り役で、「玉三郎さんとのコンビがこのときからスタートしたようなもので、思い出深いお芝居です」と仁左衛門は話し、「玉三郎さんのお六との呼吸は、自然に合います。強請りの場では、ちょっと間の抜けているところも見せます。そこが南北さんの芝居作りの巧さでしょう」と語る。凄味を見せながらも、ふたりの息の合った強請りの場は観客の心を引き込み、山家屋清兵衛(中村錦之助)に見破られ目論見が外れる件はユーモアある幕切れとなり、観客からは笑いと共に大きな拍手が起こった。続いては、仁左衛門・玉三郎が魅せる舞踊『神田祭(かんだまつり)』。江戸の二大祭のひとつ「神田祭」を題材として、粋でいなせな鳶頭を仁左衛門、艶やかな芸者を玉三郎が勤め、華やかな江戸風情が場内を包んだ。賑やかな祭囃子で幕が開くと、そこは祭り気分に浮き立つ江戸の町。仁左衛門演じるほろ酔い気分の鳶頭が登場し、江戸前のすっきりとした踊りを見せて祭りを盛り上げる。続いて、玉三郎演じる芸者が自らの思いの丈をくどきで表現する場面、そしてふたりが揃って踊る場面では、その美しさに客席も華やぐ。鳶頭が大勢を相手にした立廻りでは、割れんばかりの拍手が送られた。夜の部の打ち出しは、舞踊『四季(しき)』。明治・大正時代に活躍した女流歌人の九條武子による本作は、日本の四季折々の風情を美しく描き出し、「春 紙雛」「夏 魂まつり」「秋 砧」「冬 木枯」を通した上演、また歌舞伎座での上演は実に43年ぶりとなる。「春 紙雛」では桃の節句に飾られた尾上菊之助の女雛、片岡愛之助の男雛の紙雛の仲睦まじい恋模様が描かれ、「夏 魂まつり」は夏の風物詩である大文字の送り火を舞台に、中村芝翫の若旦那を中心に芝翫の長男・中村橋之助が若衆、三男・中村歌之助が太鼓持、甥・中村児太郎が舞妓を勤めるなど成駒屋一門が情緒豊かに舞う。「秋 砧」は筝の音に乗せて、夫を想う片岡孝太郎勤める若妻の心をしっとりと描き出し、「冬 木枯」では尾上松緑と坂東亀蔵のみみずくが見つめる先で、木枯らしに吹かれ舞う木の葉の動きを群舞で鮮やかに表現。木の葉女を勤める尾上左近を中心に木の葉男の坂東亀三郎・尾上眞秀が軽やかに踊る姿、とんぼやアクロバティックな動きが盛り込まれた振付に拍手が起きた。情緒豊かな日本の四季の変化を描く優美な舞踊に、酔いしれるひとときとなった。見どころ満載の歌舞伎座4月公演「四月大歌舞伎」は4月26日(金)まで、東京・歌舞伎座で上演中。<公演情報>歌舞伎座「四月大歌舞伎」【昼の部】11:00~一、双蝶々曲輪日記二、七福神三、夏祭浪花鑑【夜の部】16:30~一、於染久松色読販二、神田祭三、四季2024年4月2日(火)~26日(金)※休演10日(水)、18日(木)会場:東京・歌舞伎座チケット情報:()公式サイト:※公演期間が終了したため、舞台写真は取り下げました。
2024年04月08日文:八木 奈々写真:後藤 祐樹古い時代に著された古代日本の様子が分かる“古典”や、誰もが知る“名作文学”や“世界文学”……みなさんは読んだことはありますか? 長い歴史をもち、今もなお全世界で愛読されているこれらの作品達には何か特別な魅力があるはずです。ただ、難しい言い回しが多く使われていたり、どこか堅苦しいイメージもありますよね。実際、昔に書かれた本は原文のままではなかなか読み進めることが難しいものです。写真はイメージです。でもその言葉の問題ひとつで、読まないまま人生を終えるのはあまりにもったいないほど、面白い物語がたくさんあるのです。そこで今回は、“現代訳”や“超訳”“新訳”といった、現代を生きる私達にもわかりやすい現代の言葉を用いて訳された古典・名文学の本をご紹介させていただきます。1.角田光代『源氏物語』(上・中・下)これまでにも名だたる文豪が現代語訳に挑んだといわれる「源氏物語」。その中でも恋愛小説の名手と謳われる人気小説家・角田光代さんが訳を手掛けた本作では、原文への忠実さよりも疾走感のあるストーリー展開が印象的です。一冊がかなり分厚く読み始めるのには少し勇気がいりますが、作者や第三者の声が魅力的に訳されていて、当時の人が興奮とともに読み進めたように現代の私達でも物語に没入できる工夫がたくさん凝らされていて、個人的には一番読みやすい現代語訳でした。登場人物は多く名前も立場も変わっていくので、文化の違いに戸惑ったり呆れたり感心したり……と感情は大忙し。今思い出しても幸せな読書体験でした。歴史の苦手な私が教養や常識としてでなく、純粋に物語として源氏物語を楽しむことができる日が来るなんて……。あとがきや解説でも40ページ超あり、さらに内容の理解を助けてくれます。こんなに複雑かつ洗練された物語が千年も前に書かれていた事に改めて驚かされました。下巻まで辿り着かせてくれた角田光代さんの訳文力に感謝。みなさんも瑞々しく表現された源氏物語の世界観に引き込まれてみませんか?2.林真理子『私はスカーレット』美しいスカーレットの波乱万丈の半生を描く、マーガレット・ミッチェルの名作“風と共に去りぬ”をスカーレットの一人称小説にアレンジした、この作品。風と共に去りぬはご存じの方も多いかと思いますが小説の他、映画や舞台などで多くの人に愛されてきた名作です。南北戦争時代がテーマの今作は胸が苦しくなる描写も多々ありますが、今作は原作よりもエンタメ感が強く今こそ読んでほしい大河ロマンのような一冊となっています。物語の冒頭ではまだ16歳の主人公。自分の欲に忠実に、感情が先走ったような行動をとってしまうのも、林真理子さんの訳では妙に納得してしまいます。絶対に嫌な女のはずなのにだんだん惹かれていくのは、欲しいものを全力で勝ち取りにいく正直さと、自分の価値に対して絶対的な自信をもっている部分に私自身が憧れを重ねているからかもしれません。読後は自分でも引くほどに彼女の虜になってしまいました。原作よりも遥かに自意識過剰な可愛いスカーレットを身近に感じられる今作は私の中でかなりお気に入りの一冊になりました。原作や映画版を御覧になった方もそうでない方も、間違いなく楽しめる最高のエンターテインメント小説です。いやあ……私もスカーレットのように生きてみたい。3.清川あさみ / 最果タヒ『千年後の百人一首』清川あさみさんが糸と布とビーズで紡ぎ出した百の情景に、最果タヒさんが添えた情感豊かな言葉の世界。詩集×刺繍。ため息が出るほど美しいという表現はこの作品のためにあるのかもしれません。言葉が絵となり、詩となり、そしてまた言葉で書き表された“うた”がこんなにも心にスッと入ってくるとは……。悠久の時を越えて、三一音の感情が私達読者のあらゆるところを刺激してきます。私の中にある百人一首の記憶は、子供の頃、意味を考えるよりも暗記することに必死になっていたことくらい。もし、あのとき、こんな素敵な百人一首の本と出会えていたら……なんて考えてしまう方も多いかもしれません。分かるようで分からないようで……でもきっとまた捲りたくなる日が訪れる気がする本作品。読後は百人一首の新訳というよりも、千年前の歌に閉じ込められた想いが、“新作詩”として眼の前に蘇る感覚に包まれました。百人一首に興味のある方はもちろん、そうでない方もぜひ一度だけ、一頁だけ……でいいので触れてみてください。固まった心を解してくれる心の柔軟剤のような一冊です。私のお守り。■「古事記」に隠されたエピソードと不朽の魅力辞書を引かずとも現代を生きる私達がすらすらと読める古典・名文学は他にもたくさんあります。実は、あの“古事記”ですら、くすっと笑えてしまうエピソードがたくさん詰まっているのです。読んだ人のみぞ知る不朽の名作の魅力に心ゆくまで親しんでみてください。ゆっくりと、古(いにしえ)の時代に想いを馳せながら……。■「TheBookNook」についてこの連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。一冊の本から始まる「新しい物語」。「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
2024年03月22日「シネマ歌舞伎」の3~8月配信ラインアップが決定し、3月11日(月)より歌舞伎版「風の谷のナウシカ」が配信されることが分かった。映画のように気軽に歌舞伎を楽しめる「シネマ歌舞伎」。松竹公式動画配信サービス〈歌舞伎オンデマンド〉にて月に1本ずつ、話題の公演や月イチ歌舞伎(映画館上映)と一緒に楽しめる関連作品の配信を行っている。新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」©松竹株式会社この度2024年度前半のラインアップが発表され、最初の作品は、歌舞伎化で大きな話題になった「風の谷のナウシカ」。2019年、尾上菊之助がナウシカ、中村七之助がクシャナを演じた初演版の映像を、今年公開40周年を迎えるアニメ映画版『風の谷のナウシカ』の公開日にちなんで、3月11日(月)より配信する。「野田版 桜の森の満開の下」©松竹株式会社5月はコクーン歌舞伎第15弾の舞台を撮影した「四谷怪談」、6月は片岡仁左衛門が当たり役・河内屋与兵衛を一世一代で勤めた「女殺油地獄」、7月は中村勘三郎、坂東玉三郎、片岡仁左衛門の豪華共演による「籠釣瓶花街酔醒」、8月は野田秀樹による伝説的な舞台の歌舞伎化作品「野田版 桜の森の満開の下」と、多彩な演目が揃った。「女殺油地獄」(C)篠山紀信2024年3~8月 シネマ歌舞伎配信ラインアップ■期間・作品・3/11(月)~4/30(火)「風の谷のナウシカ」前編・後編(出演:尾上菊之助、中村七之助ほか)・5/1(水)~31(金)「四谷怪談(よつやかいだん)」(出演:中村獅童、中村扇雀ほか)・6/1(土)~30(日)「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」(出演:片岡仁左衛門ほか)・7/1(月)~31(水)「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」(出演:中村勘三郎、坂東玉三郎ほか)・8/1(木)~31(土)「野田版 桜の森の満開の下」(出演:中村勘九郎ほか)■配信サイト歌舞伎オンデマンド■料金(税込)各1900円(レンタル配信・購入時から7日間何度でも視聴可能)(シネマカフェ編集部)
2024年03月10日3月3日(日) より開幕する「三月大歌舞伎」にて、ポストカードが販売されることが決定した。ポストカードは、歌舞伎座「三月大歌舞伎」で上演される昼の部『菅原伝授手習鑑「寺子屋」』『傾城道成寺』『御浜御殿綱豊卿』、夜の部『伊勢音頭恋寝刃』『喜撰』。絵柄はいずれも、これまでに公開されて注目を集めていた特別ビジュアルが使用される。3月の公演期間中、各演目1枚ずつ5枚1セット1,000円(税込、枚数限定、セット販売のみ)で販売となる。「三月大歌舞伎」ポストカードセット価格:各演目1枚ずつ5枚1セット 1,000円(税込)販売期間:3月歌舞伎座公演期間中(3月3日~26日)販売場所:歌舞伎座地下2階 お土産処「かおみせ」、1階お土産処「木挽町」、歌舞伎座オンラインストア<公演情報>「三月大歌舞伎」3月3日(日)~26日(火)昼の部:11:00~夜の部:16:15~休演日:11日(月)、18日(月)【演目】■昼の部一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)寺子屋二、四世中村雀右衛門十三回忌追善狂言傾城道成寺(けいせいどうじょうじ)三、御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)■夜の部一、通し狂言伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)二、喜撰(きせん)チケット情報:()
2024年03月01日芸能事務所のレプロエンタテインメントは27日、芸能戦略PRサービス「あなたの宣伝係」の提供開始を発表した。羽田美智子、真木よう子、浅見れいな、秋元梢、ユージ、菊地亜美、中村蒼、内田理央、宮沢氷魚、藤間爽子、古畑星夏、久間田琳加らが所属する同社。1991年2月に設立されてから30年以上にわたり、「感動コンテンツで世界の平和に貢献する」をモットーに、俳優・タレント・モデル・文化人・アスリートなど、数多くの才能をプロデュースしてきた。そこで培った経験が企業の課題解決にも活用できるのではないかという発想から、PRサポートを開始。そして今回、あらゆる企業からの発注を受け付けるPRサービス「あなたの宣伝係」を新たにローンチした。「あなたの宣伝係」は、芸能界に精通する同社による、芸能人を活用した芸能戦略PRサービス。PRで起用する芸能人は、同社が専属マネージメント契約するアーティストに限らない。「迅速な回答」「透明性の担保」「課題解決型の提案」を方針として掲げ、「芸能界のブラックボックスにストレスを感じている、全てのマーケティング担当者の皆様、ぜひお気軽にお問い合わせください」と呼びかけている。
2024年02月29日令和6年2月1日より御園座で開催される「二月御園座大歌舞伎」の『三人吉三巴白浪』で、役替わりで主演を勤めるなど、今注目の歌舞伎俳優 中村莟玉(なかむらかんぎょく)が芸能プロダクションのANDSTIR(アンドステア)に所属することが決定致しました。中村莟玉は、立役も女方も勤め、特に麗しき女方姿が話題の平成生まれの歌舞伎俳優です。一般家庭より歌舞伎界に入り、人間国宝・中村梅玉の養子となりました。将来の歌舞伎界を担う1人として期待されています。歌舞伎俳優活動を中心に、その他の芸能活動に関しては、俳優・声優としてドラマ、映画、アニメで活躍の津田健次郎や、元宝塚歌劇団スターで俳優の七海ひろきが所属するANDSTIRに籍を置き、更なる躍進を目指します。公式ホームページにプロフィールが加わると共に、歌舞伎俳優には珍しく“中村莟玉”としての単独Official Web Site( を公開致しました。中村莟玉コメント新たな活動に挑戦できるのではないかと、まだ見ぬ未来にとてもワクワクしています。「中村莟玉」は歌舞伎俳優の名前です。この名前で活動するからには巡り巡って大好きな歌舞伎に活かせるよう、また歌舞伎で培ったものも新しい活動に活かせるよう、真摯にこれからの挑戦に向き合っていきたいと思います。臆せず色々なことにチャレンジしていきたいです。応援よろしくお願いいたします。中村莟玉について屋号は高砂屋で、定紋は祗園銀杏。2004年3月中村梅玉に入門、その後、2006年4月に梅玉の部屋子となり、中村梅丸を名乗る。2019年11月梅玉の養子となり、養祖父にあたる、昭和の歌舞伎界を代表する名女方・中村歌右衛門の自主公演「莟会」(つぼみかい)より一字、梅玉より一字もらい、中村莟玉と改名。■御園座「二月御園座大歌舞伎」公演情報2024年2月1日(木)~2月17日(土) : ANDSTIR : 詳細はこちら プレスリリース提供元:NEWSCAST
2024年01月31日歌舞伎町に昨年オープンしたTHEATER MILANO-Zaにて今年5月、「歌舞伎町大歌舞伎」と銘打っての歌舞伎公演が開催されることになり1月23日、記者懇親会が開催。中村勘九郎、中村七之助、中村虎之介、中村鶴松が出席し、意気込みを語った。THEATER MILANO-Zaの開場1周年を記念して行われる今回の公演。勘九郎は以前、中村獅童がオフシアター歌舞伎として赤堀雅秋の演出で歌舞伎町で上演された『女殺油地獄』に出演したことに触れ「歌舞伎町という、猥雑というか、人間の欲と野望が渦巻く場所が合っているなと思い、いつか新宿で(歌舞伎公演を)やりたいなと思っていました」と語り、歌舞伎町のど真ん中での歌舞伎公演の実現の喜びを口にする。中村勘九郎今回、上演されるのは、虎之介と鶴松が出演し、親の仇である工藤祐経の元へと向かおうとする曽我五郎と、それを引き留めようとする小林朝比奈の妹・舞鶴の“引き合い”を舞で見せる荒事舞踊『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』、勘九郎と勘太郎、長三郎の父子競演で、七夕の夜の雷夫婦のケンカの顛末を軽妙洒脱な舞踊で表現する『流星』。さらに、小佐田定雄の脚本で、落語の「貧乏神」を題材にした世話狂言の新作歌舞伎『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』も披露される。以前から行なってきたコクーン歌舞伎(Bunkamura シアターコクーン)では、古典に新たな解釈を加えて現代の観客に発信してきたが、今回の「歌舞伎町大歌舞伎」について、勘九郎は「歌舞伎町という特殊な場所で演じるにあたって、僕らのホームである歌舞伎座と演出を変えずに、歌舞伎の本来持つ魅力、歌舞伎の底力をぶつけてみようじゃないかということで、こういうラインアップになりました」と説明する。『福叶神恋噺』に関しては、まだ台本が完成していないとのことだが、落語版の主人公の貧乏神を女性(貧乏神おびん)に変更して七之助が演じ、彼女がとり憑く飲んだくれの大工の辰五郎を虎之介、おびんの先輩の貧乏神すかんぴんを勘九郎が演じる。中村七之助七之助は新作歌舞伎を上演する点について、普段の歌舞伎座などの客層との違い、初めて歌舞伎を観るという観客が多いであろうという点を意識したと明かす。「長屋の喜劇で落語味があふれた作品で、情というよりもおかしみが多いふたりの掛け合いがほとんどなのですが、それを舞台でやるには落語のテンポ感に負けるところがあるので、そこも考慮して、僕が主演でもあるので貧乏神を女性にしました。どう転んでいくのか? オチもすごく落語的で、舞台的にはそのままだと難しいので、(貧乏神を)女性としたのも、これは推測ですが(辰五郎との間に)恋愛感情が生まれるんじゃないかと」と舞台ならではのアレンジを予測する。中村鶴松中村虎之介話題が歌舞伎町にまつわる思い出になると、鶴松は大学時代に友人と一緒に飲みに行った店で「お会計を見たら『20万』とあって……(苦笑)」とぼったくり被害に遭ったことを告白。服を破られながらも逃げ出して「半分裸でタクシーに乗って、それ以来、(歌舞伎町には)近づかないでいました」と明かし、これには勘九郎から苦笑交じりに「『昔と違って浄化されていると思う』と書いといてください(笑)。安心してお越しください!」と報道陣に要望が……。その勘九郎は、友人がオーナーを務めるホストクラブに遊びに行った経験を明かし「男が相手でも(ホストたちが)命がけでちゃんとコールをしてくれて、『これはハマっちゃうかもしれないな』と思いました(笑)」と述懐。この経験を踏まえつつ(?)、今回の公演の宣伝について、中村亀鶴さんから、歌舞伎町近辺で見かけるホスト広告トラックを活用した広告を打ってみてはどうかと提案があったことを明かし、虎之介も「白いスーツを着て(笑)」と乗り気な様子を見せ、写真撮影でもカメラマンからの「ホスト風のポーズで」との要望に一同応えるなど、笑いを誘っていた。取材・文・撮影:黒豆直樹<公演情報>「歌舞伎町大歌舞伎」昼の部:12:00~夜の部:16:00~【演目・出演者】※昼夜同一狂言一、正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)流星(りゅうせい)「正札附根元草摺」曽我五郎時致:中村虎之介小林妹舞鶴:中村鶴松「流星」流星:中村勘九郎牽牛:中村勘太郎織女:中村長三郎二、福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)落語「貧乏神」より小佐田定雄 脚本今井豊 茂 演出貧乏神おびん:中村七之助大工辰五郎:中村虎之介貧乏神すかんぴん:中村勘九郎2024年5月3日(金・祝)~5月26日(日)会場:東京・THEATER MILANO-Zaチケット情報:()松竹公式サイト:公式サイト:
2024年01月25日