片足を引きずって歩く人は脳腫瘍の疑い 歩き方でわかる病気7
最近、気づいたら片足を引きずるようにして歩いてしまう。足に力が入らず、何かにつかまらないと歩けない……。そんなお悩みを、加齢や疲労のせいかもしれないと考えている人は多いだろう。
しかし、歩き方を見ると重大な病気がわかるケースがあるのだ。
「片足の引きずり歩きや、何かにつかまってしか歩けないのは、脳腫瘍の症状かもしれません」
そう教えてくれたのは、リハビリテーションの専門病院「京都大原記念病院」の垣田清人院長だ。
「歩き方の変化は、単なる老化とは限りません。脳疾患をはじめとするさまざまな病気が隠れているケースがあるのです」
つまり、歩き方によって、潜んでいる病気がわかるという。
「私たちは足の筋肉だけで歩いているわけではありません。
脳が、脊髄にある“歩く”を行うシステムに指令を出し、歩き方を調節しています。この指令を受けて各部位に伝える、神経の働きも必要です。足の血流も筋肉にエネルギーを送るには大切です。老化により足の筋肉が減ることでも歩行障害は起こりますが、脳や神経、血管の疾患や、関節の変形などが原因の場合もあります。それらのサインが、歩き方に現れるのです」
■自分ではちゃんと歩けているつもりでも…
今回、引きずり歩き、小股ちょこちょこ歩き、すくみ足などの、歩き方でわかる病気を垣田院長が教えてくれた。あなたや家族の歩き方に該当するものはないか、チェックしてほしい。
【1】片足を引きずる人は「脳腫瘍」の疑い
脳腫瘍は、腫瘍の発生場所により症状が違う。大脳の場合は、腫瘍と反対側の足を引きずる、片足に力が入らないなどの症状が。
小脳の場合はバランス障害があり、手すりなどにつかまらないと歩けない。
【2】ちょこちょこ歩きは「特発性正常圧水頭症」の疑い
脳の脊髄液がたまり、脳機能が低下する水頭症。原因不明の特発性正常圧水頭症は、60代以上で発生しやすい。歩き方の特徴は、小股でちょこちょこと小刻みに歩く、ふらつきが強くなり足幅を横に広げてあるくなど。
【3】すくみ足の人は「パーキンソン病」の疑い
脳のドーパミンが減少するパーキンソン病は、発症すると歩き始めや向きを変えるとき、すくみ足で最初の1歩が出なくなる。歩幅が小さく、膝を持ち上げづらくなることも。前のめりで手は震えている場合もある。
【4】痛みで歩きづらい人は「変形性股関節症」の疑い
加齢により、関節の軟骨がすり減り変形し、痛みを伴う関節症。
股関節症のほかに膝関節症もあり、炎症で腫れた股関節や膝を動かすと激しく痛むので、足を引きずるように。長時間立っているだけでも股関節や膝が痛む。
【5】早足で歩くと止まってしまう人は「動脈硬化」の疑い
15分ほど歩くとふくらはぎなどに痛みが出て歩けなくなってしまうのは、動脈硬化で血流が悪くなる閉塞性動脈硬化症のサイン。休むと筋肉の疲労が改善して歩けるが、動脈硬化の進行とともに症状は強くなる。
【6】すり足歩きは「脊柱管狭窄症」の疑い
背骨にある、神経の束が通る脊柱管が変形し神経が圧迫される脊柱管狭窄症になると、手足がしびれ、両足が重く、力が入りづらくなる。痛みはあまりないが、しばらく歩くと平地でも足がだるく上がらなくなるため、すり足歩きに。座ると改善する。
【7】壁伝いに歩く人は「サルコペニア」の疑い
80代は筋肉量・筋力も20代の60%に低下し、サルコペニアになることが。
歩くのが遅くなり、家の中で壁を伝って歩くのは、このサイン。立ち上がるときや階段の昇降に手すり、外出時は歩行器が必要となることも。
「歩き方から脳腫瘍や水頭症、パーキンソン病といった脳疾患が疑われるようなら、脳神経外科や、脳神経内科を受診し検査を。頭痛がある場合も同様です。パーキンソン病は、50~60代の発症が多く、早期発見すれば薬物治療でコントロールできる病気ですし、リハビリテーションで、ある程度症状を改善させられます」
歩くと膝や股関節に痛みを感じるときは整形外科を受診しよう。
「50代以降に増加する、変形性股関節症・膝関節症などは、特定の部位が痛みます」
動脈硬化のサインが現れている人は、循環器内科、心臓血管外科へ。
加齢により、筋肉量と筋力が低下するサルコペニアが疑われる歩き方にも気をつけたい。
「久しぶりに帰省したら、高齢の親が壁を伝って歩いていた、足が細くなっていた、ということもあるでしょう。
これは、要介護の一歩手前の状態。サルコペニアの可能性があります」
なかには、“ちゃんと歩いているつもり”という人もいるので、周囲の気付きが大切だ。
「ご自身や家族の歩き方が、ふだんと違っていると思うことはありませんか?早めに歩き方の違和感に気づいて検査を受けることで、病気を早期発見でき、健康寿命を延ばすことにつながるのです」
また、注意が必要なのは高齢者だけではない。
「50代はまだまだ元気な人が多い世代。その分、脳や血管の病気の初期症状に気づきにくい。定期的な健康診断に加え、歩き方もチェックしてみましょう」