連載小説「眠らない女神たち」 第一話『チョコレートの魔法』(後編)
お昼休みになって会議室に向かう。通称・お弁当ルーム。お弁当を持参してきた人やコンビニなどで買ってきた人に対して、ランチタイムだけ解放されているのだ。自分のデスクで食べることも出来るが、フロアに於ける暗黙のルールでしないことになっている。たぶん過去に誰かがパソコンにカップ麺をぶちまけたんじゃないかと想像している。
ペットボトルのお茶とお手製のお弁当を持って席に着く。会議室の大きな机の真ん中あたりがいつの間にか私の指定席になっている。いそいそと中身の分かっているお弁当の蓋を開ける。
今朝の気分で世界一有名なビーグル犬をかたどったご飯から、耳の部分の海苔がずれていて少しへこんだ。
「わあ!水川さんのお弁当、可愛い~!!」
女性特有の少し鼻にかかった高い声が隣からかけられる。お弁当仲間の古賀さんだ。古賀さんは今日もコンビニのチキンサラダと自宅から持ってきた雑穀おにぎりを食べている。
「すごぉい!自分で作ったんですか?」
古賀さんと一緒にご飯を食べていた松岡さんも、私のお弁当箱を覗き込んできた。松岡さんのお弁当箱はこちらが不安になるくらい小さい。
「うん。なんとなくキャラ弁の気分で…耳がずれちゃったけど」