連載小説「眠らない女神たち」 第二話 『多面的トレード』(後編)
絶対に真似できないものが彼女にはある。同じ土俵にはけして立つことのない人だ。
だから私は勝った負けたなどと気負わずに会話できる。
それが夜遅くのオフィスの力なのか、彼女自身の力なのかは私には分からない。
「私もそんな化粧をしてみたいとは思うんだけどねぇ、敏感肌だから出来ないんだぁ」
間近で困ったように笑った彼女にはそばかすがいっぱいあった。もしかしたら日焼け止めにも気を遣う肌質なのかもしれない。私が今まで見過ごしてきた何かがそこに存在していた。
「敏感肌にも優しい化粧品があるよ」
マグカップに追加のお湯を注いで、市村さんに話しかける。
彼女は顔をしかめた。
「だめなんだぁ。1週間も使うと真っ赤になっちゃうんでぇ」
聞けば無添加の基礎化粧品でも日によって使える使えないがあるのだそうだ。
さぞかし不便だろう。女性の身体は1ヶ月の間にも変動する。
1日の間でも肌は揺らぐとも聞いた。
何と戦っているのか、とにかく女性の身体はそういう風に出来ているらしい。
「あ、でもねぇ、最近は塗っても荒れないグロスを見つけたんだよぉ」
少しはしゃいで市村さんは言った。
たまらなく嬉しい、と眠そうな目がいっている。