ビューティ情報『連載小説「眠らない女神たち」  第三話 『グレープフルーツのユウウツ』(後編)』

2016年4月28日 19:00

連載小説「眠らない女神たち」  第三話 『グレープフルーツのユウウツ』(後編)

やめてよ、私がいやな奴みたいじゃない。

泣き出しそうなのをぐっとこらえて、キッチンに行った。対面式なのでカウンターからパパの顔が見えるけれど、距離を取りたかった。流し台に無造作に置かれたパパのお弁当箱を洗う。洗ったらお弁当のおかずを作らなくちゃ。何にしようか。

パパの「ごめん」が私を打ちのめしている。なによ。
ずっと無関心でいてくれた方がずっといいのに。視界の端で食事を終えたパパが食器を持ってくるのが見える。やめて、こないで。逃げるように私は冷蔵庫をあけた。

「なに、これ?」

冷蔵庫の中には大きなグレープフルーツが3つ、ででんと鎮座していた。赤ちゃんの頭ぐらいのグレープフルーツは冷蔵庫の主のようだ。

「もらってきた」

パパがこともなげに言う。流し台にがちゃがちゃと食器を置いた。


「会社に届いたんだよ。退職した先輩から段ボールで。どっかで果物作ってるらしい」
「そうなんだ」
「うん」
「大きいね」
「だろ?だから3つもらってきた」

ちょっと得意げに笑って、私と一緒に冷蔵庫をのぞきこむ。

「持って帰ってくるの恥ずかしかった」

グレープフルーツを1つ取り出して冷蔵庫を閉じた私に、相変わらず笑いながら話し始めた。

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