連載小説「眠らない女神たち」 第三話 『グレープフルーツのユウウツ』(後編)
「いつも使ってるカバンに入らないし、ビニール袋も持ってないし、どうやって持ってこようか悩んでさ」
「うん」
「だから電車の中で抱っこして帰ってきた」
私はぷっと吹き出した。クマのような大男がグレープフルーツを腕に抱えて電車に乗っていただなんて、さぞ周りの人もおかしかっただろう。
「笑うなよ。恥ずかしかったんだぞ」
「知ってる」
うくくと笑いをこらえてはみたが、どうも無理っぽい。私はついに笑い出してしまった。里依紗を起こさないようにと思ったせいで、はっはっはとは笑えず、クカカカカになった。その笑い声がまたおかしくて、私もパパも声を立てて笑った。
「クカカカカってなんだよ」
「わかんない、そんな笑い方になっちゃった」
「カラスみてえ」
「パパだってグレープフルーツ抱えて電車とか」
私たちはキッチンでそっと笑い転げた。
パパが何度も「クカカカカ」と口に出し、私はグレープフルーツを胸に抱えて電車のつり革につかまるポーズをした。まるで中学生のように笑う。笑い声が笑いを呼ぶとはこのことだ。笑いすぎて2人とも咳き込んだ頃に、やっとおさまった。
「明日…明日、里依紗にも、おし、教えなきゃ」