#19 音楽家/文筆家 寺尾紗穂さん[育てる絵本]
と言って、寝る前に絵本を持ってくることがある。
「絵本って、歌を歌うシーンがけっこうありますよね。たとえば『ぐるんぱのようちえん』だと、幼稚園を開いたぐるんぱが、ピアノを弾いて歌う場面が出てくるんですが、その歌詞の部分は、私も自分で歌にしていました。メロディもなんとなく定まってきて。子どもたちからも『あれ歌って』とリクエストされて、歌っていましたね。
Illustration:Kashiwai
以前、隠岐諸島の海士町の図書館で開いたライブでは、長い歌詞が出てくる『だれをのせるの、ユニコーン?』という絵本の読み聞かせをしたこともありました。図書館のスタッフの方に朗読をしてもらって、エレクトリックピアノがあったので、歌の部分はピアノでBGMをつけて、私が歌って。もともと娘たちに作って歌ってあげていた作品でした。
音楽って記憶に残るので、うちの子どもたちが大人になっても、私が作ったメロディは何となく覚えているんじゃないかなと思いますね」
深みのある色調の美しい絵の世界
母が読んでくれた時間も良き思い出
寺尾さん自身が小さい頃、お母さんに読んでもらった思い出の絵本は『ラ・タ・タ・タム− ちいさな機関車のふしぎな物語 − 』。ヨーロッパの名画をしのばせるような美しい絵は、子どもから大人まで、読むものの心に静かに訴えかける力を秘めている。
「この絵本の英語版を母が持っていたんです。それで、物語の流れを私に教えつつ、母なりに訳しながら読んでくれたんですね。文字のない見開きページの場面は、色の感じも、不思議な風景もすごく印象に残っていて。大人になってから、ふと思い出して、母に『あの絵って、なんの絵本だったっけ?』って聞いたくらい。母に『この絵本よ』ってその絵本をもらって、今度は私が子どもたちに読んでいました」
母から娘へ、そしてまたその子どもたちへ。三世代にわたって、読み継がれていく大切な絵本は、母と子の絆を自然に結びつけてくれる存在だ。
「絵本は親子で読むものですよね。絵本を子どもに贈るっていうのは、ただ物をあげて終わりではない。自分が読んであげる、その一緒に過ごす “時間” を含めて与えることだなと、あるとき気づいたんです。親と子どもで、一緒の時間が生まれるきっかけ。子どもへのプレゼントとして、それはなかなかいいものだなと思っています」
【寺尾紗穂さん、これもオススメ】
画集のような感覚で味わえる
丹念に描きこまれた幻想的な絵
『ラ・タ・タ・タム−ちいさな機関車のふしぎな物語−』
文:ペーター・ニクル絵:ビネッテ・シュレーダー訳:矢川澄子¥1800/岩波書店
機関車が大好きな発明家のチッポケ・マチアスは、ある日、ちいさな白い機関車を完成させました。