妻が稼いで僕が家事。思い描いた人生とは違うけど…ゆるくてヒリつく主夫エッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない』
『今日も妻のくつ下は、片方ない。妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』(双葉社)は、「あらかじめ決められた恋人たち」のベーシストであり、現在は漫画家としても活躍中の劔樹人(つるぎ・みきと)さんが、自身の兼業主夫としての暮らしをつづった漫画エッセイ。
コラムニストの犬山紙子さんと結婚したのち、主夫となり、妻の妊娠が発覚するまでの日々を描いた作品です。
慣れない家事に戸惑いつつ、人生に苦悩しつつ、ときにクスッと笑えたり、やさしい気持ちになれたり、妙に切なさの余韻が広がったり…何てことのない時間を淡々と過ごす作者の日常を通して、読者が感じる情緒はそれぞれ。
愛ってなんだろう? 幸せって何だろう? 自分って何だろう? そんな想いが不思議とこみあげてくるような、ゆるっと物思いにふけりたくなる1冊です。
■34歳、居場所を失った僕に妻が提案した「主夫」という生き方
作者である劔樹人さんは、かつて音楽での成功を目指し、バンド活動に明け暮れる20代を過ごしていました。
生活できるほどの状況には及ばず、それでも音楽の仕事をあきらめきれなかった劔さんは、バンドマネージャーとしての道を歩み始めます。
担当していたロックバンド「神聖かまってちゃん」はブレイクし、劔さん自身も多忙を極め、日々の暮らしはそれなりに充実していくのですが、音楽業界の現実は厳しく、ほんの数年で状況は一変。
犬山さんと出会ったときには、ほぼフリーランスの状態となり、生計をたてるのも精一杯…。
34歳にして、まるで学生時代のような貧乏生活を送っていました。
『今日も妻のくつ下が片方ない』「はじめに」より
不器用な劔さんを隣で見ていた犬山さんからの、思わぬ逆プロポーズ。
しかも結婚にあたり、彼女が劔さんに提案したのは、
「妻が稼ぎ、夫が家事をする」という兼業主夫の暮らしでした。
「お金を稼ぐことが好きな犬山さん」と「人の面倒を見るのが得意な劔さん」、それぞれの得意不得意を見極めた犬山さんの提案はきわめて合理的で、夫婦で補い合うことの意味を深く感じるもの。
世の中の夫婦が彼らのように、
“男女”としてではなく、
“適正”で夫婦の役割を決められたとしたら、「結婚」や「子ども持つこと」に対して、より一歩を踏み出しやすい社会になるのかもしれません。
しかしながら、社会の常識や個人に刷り込まれた考えを簡単に変えることができないからこそ、私たちは表向きなんとか男女の役割を演じようと必死なわけで…。
もちろん劔さんだって同様に悩みながらも、それでも自分が決めた人生として「主夫」の道を歩み始めるのです。