■子どもが泣いた時、自分に課すべきこと
―母親として、そのような状態になってしまう場合は、どうしたら良いのでしょうか?
信田:子育て中のママには、
「子どもが泣いたら、とにかく『よしよし』と口に出すこと」と、お伝えしています。
「よしよし」というのはあやす言葉ですが、「良し」という肯定も表しているんです。とにかく「よしよし」とつぶやくことを、自分に課す。それが条件反射になるくらい、毎日練習してみる。
「自分はそんなふうに言ってもらったことがない」と、気づく人もいるでしょう。それはとても重要な気づきだと言えます。そして、「私は未経験のことをやろうとしている。何てすごいんだろう」と、
「よしよし」に取り組む自分をほめてあげましょう。
ひとりでぶつぶつ、「よしよし」という練習をする、このような練習をして、それを習慣化していく方法を「行動療法」と言います。理由はなんであれ、とにかく行動する、それを習慣化させることが大切なのです。
―なかなか、厳しいですね。まるで修行のようです。
信田:子育ては、修行という部分もありますよね。もう少し子どもの年齢があがれば、「いやだ」「お腹がすいた」ということもあるでしょう。転べば「痛い!」と言うでしょう。
そんなとき、「いやじゃないの」「お腹なんて空いてないの」「痛くない!」と、言わないで欲しいのです。
それこそが、感覚否定ですから。「痛い!」と、子どもが言えば「痛いのね」と復唱する。共感できなくても腹がたっても、とにかく
子どもの言葉を「復唱」するのです。
なぜなら、感情がこもっていなくても、どこか機械的であったとしても、否定するより、はるかにましだからです。「痛くないでしょ!」が感覚否定であるのに対して、「痛いの痛いの飛んでけ」は感覚肯定になります。このような伝承された言葉遣いには、感覚否定をしない智恵がつまっていますね。
■世代間連鎖を防ぐために、私たちができること
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―「アタッチメント」「感覚否定」、あらためてキーワードだと感じました。
信田:感覚否定に陥らないためには、子どもの言動に対して自分がどう感じているかを察知する必要があります。
「ああ、自分は怯えている」「子どもが泣くとパニックになる」といった具合に自覚するためには、子どもの様子と同時に、
自分の感覚を観察する必要があります。それをセルフウォッチング(自己観察)と呼びます。
このような知識があったとしても、日々の子育ての場面で、すぐに自覚できるわけではありません。自己観察することに拒否感を覚える人もいます。自分の感覚を麻痺させるために、酒や薬などに依存することもあるからです。
第三者(専門家)の援助を受けながら、自分の感覚に気づけるようにするという長いプロセスが必要となりますが、けっして不可能ではありません。
―そうおっしゃっていただけると、何だか気力が沸いてきます。
信田:自己観察によって、自分が子どもと向き合うときに不意に生じる負の反応を、だんだんと自覚できるようになると良いですね。
●なぜ子どもが泣くと、自分が責められたように感じるのか?
●なぜ子どもがぐずったりだだをこねたりすると、見境もなく怒りが沸いてきて怒鳴りたくなるのか?
前述のとおり、このような反応が子どもにとって感覚否定になることを知り、その多くが、自分が育つ中で経験してきたものだとすれば、自分はそれを繰り返さないようにしなければなりません。
―なるほど。
信田:
自分が親からどのようなことを継承したか、何を子どもに継承させたくないかを知るために、もう一つ大切なのは生育歴を振り返ることです。
ときに振り返ることは苦しかったり、蓋をしておきたいという気持ちから、思い出せなかったり、思い出すことで不安定になったりすることもおきます。できれば専門家(カウンセラー)や、同じ経験をした仲間(友人)などと一緒に振り返るほうが安全かもしれませんね。
―第三者(専門家)の援助、とても大切ですね。
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信田:これは私の持論なのですが、両親学級で、沐浴や授乳を教わるのに加え、そのうちの1回を生育歴作成にあてたらどうかと思っています。
夫婦それぞれが生育歴を振り返ることで、あらためて、生まれてくる子どもに伝えていきたいこと、継承させたくないことを自覚できるのではないでしょうか。
どの人にも、自分が親にされたように自分のこどもにはしたくないという点がひとつはあるはずです。それを確認するために
生育歴を振り返ることは、世代間連鎖の防止ともいえるでしょう
―本当にそうですね。
信田:日々の練習を積み重ねることで、子どもに対して望ましい接し方ができるようになると思っています。
「自分はそうしてもらってこなかったとしても」です。
何より
「世代間連鎖を防ぎたい」と願うことそのものが、すでに防止の第1歩なのです。そんな自分のことを「すばらしい」と、自信を持っていただきたいと思います。
いかがでしたか? 子育て中に沸き起こる負の感情は、ママなら、誰しもが経験済です。けれども、「負の感情が自分の手に負えない!」と感じるならば、信田先生のような専門家の援助も必要なのでは? と、筆者は思っています。
1人でも多くの独りで悩んでいるママに、この特集が届くことを願っています。
<世代間連鎖を防ぐには>
1)世代間連鎖を防ぐためのキーワードは、「アタッチメント」と「感覚否定」
2)子どもが泣いたら、「よしよし」という練習から始める
3)「世代間連鎖を防ぎたい」と願うことそのものが、すでに防止の第1歩
■今回、取材を受けてくださった信田さよ子先生の最新作
『後悔しない子育て 世代間連鎖を防ぐために必要なこと』
(¥1,400円(税別)/講談社)
信田 さよ子さん
臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコールなどさまざまな依存症、摂食障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子どもの虐待などに悩む本人やその家族へのカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『母・娘・祖母が共存するために』(朝日新聞出版)、『母からの解放 娘たちの声は届くか』(集英社)『タフラブという快刀』(梧桐書院)など。
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