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つらい思いを抱えている人にーー『明日、学校へ行きたくない言葉にならない思いを抱える君へ』子どもの自死が一番多いのは夏休み明けの9月1日…この本はそんな「9月1日問題」から子どもたちの命を守るための取り組みのひとつ、ニコニコ生放送番組『明日、学校へ行きたくない』をもとに書籍化された本です。本書では、不登校、DV被害、いじめ、将来のことなど、当事者の子どもたちや保護者、かつてそうだった大人たちの投稿を元に、「こども六法」を出版し、法教育を通じたいじめ問題の解決を目指している山崎聡一郎さん、カウンセラーとして多くの人の悩みや不安を聞いてきた公認心理士、臨床心理士信田さよ子さん、脳と心の関係を探求し、子どもの脳の発達や個性を発揮する学びについて社会に発信している脳科学者茂木健一郎さんの三人の専門家とともに一緒に考え、語る形で進んでいきます。山崎さんの「まず生の声をていねいに聞いていきたい」という言葉通り、寄せられた投稿に対して解決方法を提示するだけではなく、ひとりひとりの声に真摯に耳を傾けて寄り添うようなアドバイスが印象的な本書。学校へ行きたくない、生きづらいなど、うまく言葉にできないモヤモヤにそっと寄り添う『居場所』になってくれそうな一冊です。発達障害のある子どもとゲームの関わり方を解説『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』ICTとはどんなもの?という基本的な説明から、発達障害のある子どもとICTの関係、子どもの特性別のネットやゲームとの関係、ICTと付き合っていくために必要不可欠なリテラシー問題などを詳しく解説しています。「ゲームがうまくいかず暴言を吐く」「スマホばかりで昼夜逆転、朝起きられない」など『わが子はゲーム依存?』と悩んでいる家庭が増えています。まずは大人が子どもの世界を知り、親子でICTとうまく付きあっていくきっかけを考えてみてはいかがでしょうか。「依存かな?」と思ったときに親ができること、適切な支援方法など、これから欠かせない存在となっていくICTを前向きにとらえていくための参考になりますので、子育て中の方、学校の先生、福祉関係者の方など様々な方に読んで頂きたい一冊です。その就職活動、「得意」を活かせてますか?『ちょっとしたコツでうまくいく!発達障害の人のための就活ハック』発達障害特性のある人は就職活動においてもその特性ゆえにうまくいかないことが往々にしてあります。この本には、発達障害のある人や働きづらさを抱えた人の就職活動を支援し、発達障害支援や障害者雇用に関わるセミナーやコンサルティングを多数手がけてきた、就職のプロたちが教える就職活動をうまく進める知識や工夫、『就活ハック』が詰まっています。自分の強み、発達特性を知るところから始まり、エントリー方法や見出しなみやマナー、面接の対策など就職活動の流れを表やイラストを使い分かりやすく説明。今急増しているオンライン面接についての対策も紹介されています。発達特性別の向いている仕事一覧などもあるので、特性の苦手をカバーしながら得意を活かせる『就職ハック』が見つかる一冊です。今日からすぐにチャレンジできる!『1日5分で運動能力と集中力が劇的アップ 5歳からの最新!キッズ・トレーニング』運動能力の発達は脳の発達にもつながると言われています。子どもにとって、基本的な運動は野球やサッカーなどのスポーツにつながる運動能力をアップさせるのはもちろん、脳を適度に刺激して集中力(学力)を上げることに役立ちます。子どもからトップアスリートまでの競技サポートをするトレーナーが紹介するキッズトレーニングは、身体感覚を育てる9つのパーツ別体操、全身を協調して動かす6つの運動感覚、運動能力を上げるための12の運動機会と段階別に紹介されているので、子どもの発達状態に合った体操を始めることができます。科学的な研究結果をベースに作られたトレーニング内容は未就学児~小学生のこどもにぴったり。簡単にできて、運動能力が伸びるコツが盛りだくさんです。すべてのワークは図解はもちろん、動画(QRコード)もついているのでとてもわかりやすく、今日からすぐにチャレンジできる一冊です。性への教育と介入を伝える『性の教育ユニバーサルデザイン 配慮を必要とする人への支援と対応』人の性体験には大きな自由度と多様性があります。この本では配慮を必要とする人たちへの支援と対応、教育などを解説しています。本書は4部に分かれており、1部は性体験の自由度と多様性を各世代の人々の語りを通して紹介する『いっぱいあってな』、2部は配慮を必要とする人たちが持っている知識の現状や教え方、教材などを使った実践方法などを紹介する『教育』、3部は男性、女性それぞれの性的逸脱行動の事例とその対応を解説した『介入』、そして4部ではLGBTの人との面接などで留意すべき事項を中心にその対応の道筋などを提示していく『LGBT』で構成されています。研修会や講習会などで、実際に保護者や教員のかたから受けた質問など、気になるけど聞きづらい性の問題に対する答えがたくさん詰まっています。従来の性に関する支援書とは一味も二味も違う、性の学習法と性への介入法、そのすべてを伝える一冊です。
2021年04月03日■親子愛神話にノーを突きつける、『きらいな母を看取れますか?』「そうは言っても、実の親子なんだから」「子どものことを愛していない親なんていないよ」親に対して抱いているマイナスの感情について人に話したとき、相手からしばしば返ってくる言葉。「親なんだから」子どもに愛情を注がないはずはないし、「子どもなんだから」親の気持ちを汲まなければいけない。“親子愛神話”とも呼ぶべきそんな考え方は、私たちの社会のなかにごく自然なものとして浸透し、いまもなお強固な地位を築いています。特に、親の介護と看取りという親子関係の最終章においては、第三者から「親子の絆や愛は絶対だ」という圧力がかけられがちです。中には、親子関係が良好ではないから親の面倒を見たくない、と言う人に、親の最期を見届けるのは子どもの義務であると言わんばかりに「和解しなよ」と説く人もいます。しかし、高齢者介護や医療の分野で取材を重ねてきたフリーライターの寺田和代さんは、それを“無知で傲慢なこと”ときっぱりと言い切ります。“人生の早い時期に親子愛の恩恵をあきらめざるを得なかった人たちに、「親の愛は山より高く海より深い」と説き、親子なのだから今生の別れまでに、赦せ、和解せよ、とたとえ暗黙のうちであったとしても期待するのは、異性愛以外のセクシュアリティの人に「なぜ異性愛になれないの?」と問うのと同じくらい、無知で傲慢なことではないだろうか。(――寺田和代『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』8頁より)”この言葉にハッとしたり、胸がすくような思いをする方もいるのではないでしょうか。寺田和代さんによる著書、『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』は、親からの虐待やネグレクト、過干渉などといった問題が原因で良好な関係を結べなかった母と娘が、親子にとっての最後の局面である“介護”とどう向き合うかに焦点を当てた1冊です。■父の不機嫌と母の過干渉に悩まされ続けた、50代女性のケース著者は、現在の自分の生きづらさが親との関係に起因すると認めている「AC(アダルト・チルドレン)」の当事者。本書には、著者と同じく母娘関係に困難を抱えた当事者である、6名の女性たちの語りが収録されています。たとえば、エリコさん(53歳)という独身女性のケース。会社員の父と専業主婦の母のひとり娘として生まれたエリコさんは、突然押し黙ったり、怒り散らかして家族に暴力をふるったりする父の不機嫌と、欠落した団欒の空洞を埋めるがごとく、エリコさんの人生をすべてひとりでコントロールしたがる母の過干渉に、幼い頃から悩み続けていたと言います。外面はいい両親だったために、その苦しみを大人になるまで誰にも打ち明けることのできなかったエリコさん。短大への進学、就職も母が決めたルート通りにしたものの、自分の人生を一切生きられていないストレスに押しつぶされ、神経症や摂食障害をたびたび発症してしまいます。40代で出会った本をきっかけにカウンセリングや自助グループに通い始め、43歳のときにようやく実家を出ることのできたエリコさんは、父が病気で亡くなったいま、ようやく母と“月に一度くらいは外食や温泉に出かける”関係になったと語ります。エリコさんは、母に過去のおこないを謝ってほしいとは思っていません。謝られても赦せないほどのことをされてきたからこそ、いまの母を特に責めようとは思わない、と考えています。“「赦せない気持ちを抱いたまま、母と向き合いつづけることはできません。お金や公的支援などを使って、(同居は)なにがなんでも避けるでしょう。一対一で本気で向き合ったら、危険な状況になってしまうのは目に見えているから。それを避けるためにもなんとか“本当の気持ち”にはふれないまま関係を終わらせたい。本当のことを口にしないことで、静かな別れを迎えられるかもしれない、と思っているんです」(――同書、36頁より)”現在、高齢者マンションで暮らす母の介護は、マンションに付帯するサービスに任せることが決まっている、とエリコさんは言います。あえて“本当の気持ち”を母に伝えないまま静かに関係を終わらせたいと語る彼女の選択を、間違っていると非難できる人はいないはずです。■「もとはと言えばそれだけのことを母が娘にしてきたからです」その他の5名の女性たちも、両親のアルコール依存症やギャンブル依存症に悩み「家族解散」を決めたというケース、支配的で暴力的な母に悩み、血縁以外の人々に支えられて生き延びる道を選んだというケースなど、立場や状況は違えど、「母を看取ることはできない/看取りたくない」という思いを抱えています。また、母娘関係やアダルトチルドレンなどの問題に取り組んでいるカウンセラー・信田さよ子さんへのインタビュー。そして、弁護士である松本美代子さんに介護や相続、親子関係の法律について聞くQ&Aも、本書の巻末に収録されています。親の介護をどうしても引き受けたくない、看取ることはできない――と考えている方にとって、本書の中で6名の当事者の女性たちがとった(とろうとしている)選択を知ることや、親に対する扶養義務の法律上の範囲について把握しておくことは、「親の老い」という遠くない未来を生きるためのたしかな力になるはずです。本書の中で、カウンセラーの信田さよ子さんは、“──世間は常に親の味方です。老いた母を“捨てる”のか? とヒューマニズムに訴えてきます。多勢に無勢です。押し返す力が娘に持てるでしょうか。”という著者からの質問に、“世間が娘に突きつけるヒューマニズムはいったいだれにとってのヒューマニズムでしょう。「人を殺してはいけない」以外に、万人に共通のヒューマニズムはない、と私は考えています。世間のヒューマニズムは親、しかも年老いた親の味方です。すると、だれかが必ずその犠牲になる。それははたしてヒューマニズムなんでしょうか。私は家族についてそういうシビアな全体観を持っています。自分の人生や子どもたちを守るために、手放さざるを得ないものもあるのではないでしょうか。(――同書、151頁より)”と答えています。さらに、“そんな関係”のまま親に死なれたらあなたが後悔する、と言ってくる人に対しては、“そんな関係になったのも、もとはと言えばそれだけのことを母が娘にしてきたからです。そこまで追い詰められ苦しんでいる娘たちは、なにも自分のわがままや身勝手から訴えているわけではありません。(――同書、152頁より)”とはっきりと言い切っています。親子関係で悩み続けている人にとっていちばんつらいことは、世間や家族からの圧力以上に、「介護をしたくない」「これ以上、親に関わりたくない」という自分の思いに、自分自身が罪悪感を覚えてしまうことかもしれません。しかし、親の介護や看取りにあたってどんな選択肢をとるかは、当然ながら自分自身が決めていいことです。本書は、当事者や専門家による複数の語りを通じて、親ではなく、自分自身の人生を最優先にしていいということを繰り返し説いてくれます。親の介護についてこれから考え始めたい人にはもちろん、「親がきらい」という気持ちにうまく向き合えず、モヤモヤとした思いを抱えている人にもお薦めしたい1冊です。
2020年12月02日自分が親になってみると、乗り越えたはずの「幼少期の辛い記憶」がよみがえる…。そんな人は、案外多いようです。親にされたようなことを、自分の子どもにはしたくない! 虐待の世代間連鎖を防ぐために、私たちができることは?母子論の第一人者であるカウンセラーの信田さよ子先生が、豊富なカウンセリング経験から導き出した初の子育て論を出版されたので、お話しを伺いました。この記事は、 「『親にされたことを、わが子にしたくない』そんなママに限界がきたら…」 「子どもが泣くと怒りが沸く…その負の感情が世代間連鎖を生む!?」 の続きです。■虐待の世代間連鎖を防ぐ二つのキーワード―「親にされたようなことを、自分の子どもにはしたくない!」と思う人は多いようです。信田:日本には、虐待にかかわる広範な職種の人たちにより構成された「日本子ども虐待防止学会」という学会があり、そこでは世代間連鎖に関する研究がいくつも発表されています。それらの研究から浮かびあがる重要なキーワードは、2つあります。ひとつは、「アタッチメント」、もうひとつは「感覚否定」です。―「アタッチメント」とは、何ですか?信田:アタッチメントは、子どもが不安を感じたときに、養育者にくっつくことで安心感を回復するシステムです。ここで注意したいのは、アタッチメントは「愛情」を表しているのではなく、むしろ危機的場面を切り抜けるために必要な「安心感」を表しているという点です。つまり、アタッチメントは「親から子どもに与えるもの」(愛情)ではなく、「子どもの側が親に求めるもの」(安心感)なんです。■子どもが親に求めているものとは?―なるほど。信田:アタッチメントのシステムが子どもの成長とともに安定的に発達すると、満2歳ごろから、自分と他者との関係性について、心の中のイメージが構成されるようになります。これを「内的作業モデル(Internal Working Model)」と呼びます。アタッチメントのシステムが子どもの成長とともに安定的に発達すれば、「自分の感覚は世界から受容されるはずだ」「他者は自分に安心感を与えてくれる」という信頼感が育ち、子どもの心の中には、世界とは、他者とはそのようなものである、というイメージが形成されていきます。―そのイメージ、とても大切ですね。信田:けれども、全員が全員、アタッチメントのシステムがうまく形成されるとは限りません。安心できる定点のようなものがどこにもなかったとしても、子どもたちは成長せざるをえませんから。そうなると、親子関係、対人関係におけるさまざまな特徴が生まれることになるんです。―どんな特徴があるのでしょうか?信田:たとえば、ほんとうはケアを求めているのに、わざと求めなかったり、ケアなんか必要ないという態度をとったりします。危険な行動を起こしたり、相手を攻撃したりすることで、ケアを求めていることをわかってもらおうとすることもあります。時には、反対に相手をケアする側に回ったりします。それらは、たいてい周囲の大人から「本人の個性」「性格」「遺伝」とされがちですし、本人たちもそう思い、成長し、結婚し、やがて親となる時を迎えます。アタッチメントがどのように形成されているかを、多くの人は自覚することはありません。目にはみえませんし、自分はそういう人間だと思っているからです。■子どもの「不快」を受け止められない親―「アタッチメント」という概念、とても重要性ですね。では「感覚否定」とは、何ですか?信田:子育てで最初に直面するのが、「子どもの泣き声」です。 育児に対して困難な気持ちを抱える女性たちのカウンセリングにかかわった経験がありますが、深刻な虐待をくりかえす女性も少なくありませんでした。「子どもが泣くと不安や憎しみが沸く」「いらいらしたり、何ともいえない気持ちになったりする」「心臓がどきどきしたり、呼吸が荒くなったりする」……。これらは育児ノイローゼとかたづけられがちですが、彼女たちの反応をもっと深くとらえる必要があります。これらの反応は、「子どもが泣く」という負の情動に対して、母親も負の反応を生じてしまうことを表しているんです。「どうしたの、よしよし」と抱っこする以前に、負の情動を示す子どもに対して母親の身体レベルでの拒絶が起き、結果的に子どもの負の情動を拒否してしまう。この拒否が、感覚否定です。―母親として、「子どもの負の情動を受け止めることができない」ということですか?信田:自分自身が負の情動を受け止められたという経験がない、負の情動を生み出す感覚が否定されてきたことが、泣く子どもへの身体レベルでの拒否感を生み出していると考えられます。子育てという事態に直面したとき、アタッチメントの課題が「感覚否定」という問題となって再浮上するのです。―「アタッチメント」と「感覚否定」、そんな因果関係があるのですね。信田:子どもの泣き声は、不快だったり、苦痛だったりするので生じる声です。それらが親から否定されたり、親から攻撃されたらどうなるでしょう?アタッチメントという言葉を用いれば、親の感覚否定こそが、アタッチメントが形成されることの最大の妨げとなっているとも言えます。不快で泣くしかできない子どもが、それを拒絶されるということは、感情・情緒を受け止めてもらえないというより、もっと身体感覚に近いものがあるでしょう。■子どもが泣いた時、自分に課すべきこと―母親として、そのような状態になってしまう場合は、どうしたら良いのでしょうか?信田:子育て中のママには、「子どもが泣いたら、とにかく『よしよし』と口に出すこと」と、お伝えしています。「よしよし」というのはあやす言葉ですが、「良し」という肯定も表しているんです。とにかく「よしよし」とつぶやくことを、自分に課す。それが条件反射になるくらい、毎日練習してみる。「自分はそんなふうに言ってもらったことがない」と、気づく人もいるでしょう。それはとても重要な気づきだと言えます。そして、「私は未経験のことをやろうとしている。何てすごいんだろう」と、「よしよし」に取り組む自分をほめてあげましょう。ひとりでぶつぶつ、「よしよし」という練習をする、このような練習をして、それを習慣化していく方法を「行動療法」と言います。理由はなんであれ、とにかく行動する、それを習慣化させることが大切なのです。―なかなか、厳しいですね。まるで修行のようです。信田:子育ては、修行という部分もありますよね。もう少し子どもの年齢があがれば、「いやだ」「お腹がすいた」ということもあるでしょう。転べば「痛い!」と言うでしょう。そんなとき、「いやじゃないの」「お腹なんて空いてないの」「痛くない!」と、言わないで欲しいのです。それこそが、感覚否定ですから。「痛い!」と、子どもが言えば「痛いのね」と復唱する。共感できなくても腹がたっても、とにかく子どもの言葉を「復唱」するのです。なぜなら、感情がこもっていなくても、どこか機械的であったとしても、否定するより、はるかにましだからです。「痛くないでしょ!」が感覚否定であるのに対して、「痛いの痛いの飛んでけ」は感覚肯定になります。このような伝承された言葉遣いには、感覚否定をしない智恵がつまっていますね。■世代間連鎖を防ぐために、私たちができること―「アタッチメント」「感覚否定」、あらためてキーワードだと感じました。信田:感覚否定に陥らないためには、子どもの言動に対して自分がどう感じているかを察知する必要があります。「ああ、自分は怯えている」「子どもが泣くとパニックになる」といった具合に自覚するためには、子どもの様子と同時に、自分の感覚を観察する必要があります。それをセルフウォッチング(自己観察)と呼びます。このような知識があったとしても、日々の子育ての場面で、すぐに自覚できるわけではありません。自己観察することに拒否感を覚える人もいます。自分の感覚を麻痺させるために、酒や薬などに依存することもあるからです。第三者(専門家)の援助を受けながら、自分の感覚に気づけるようにするという長いプロセスが必要となりますが、けっして不可能ではありません。―そうおっしゃっていただけると、何だか気力が沸いてきます。信田:自己観察によって、自分が子どもと向き合うときに不意に生じる負の反応を、だんだんと自覚できるようになると良いですね。●なぜ子どもが泣くと、自分が責められたように感じるのか?●なぜ子どもがぐずったりだだをこねたりすると、見境もなく怒りが沸いてきて怒鳴りたくなるのか?前述のとおり、このような反応が子どもにとって感覚否定になることを知り、その多くが、自分が育つ中で経験してきたものだとすれば、自分はそれを繰り返さないようにしなければなりません。―なるほど。信田:自分が親からどのようなことを継承したか、何を子どもに継承させたくないかを知るために、もう一つ大切なのは生育歴を振り返ることです。ときに振り返ることは苦しかったり、蓋をしておきたいという気持ちから、思い出せなかったり、思い出すことで不安定になったりすることもおきます。できれば専門家(カウンセラー)や、同じ経験をした仲間(友人)などと一緒に振り返るほうが安全かもしれませんね。―第三者(専門家)の援助、とても大切ですね。信田:これは私の持論なのですが、両親学級で、沐浴や授乳を教わるのに加え、そのうちの1回を生育歴作成にあてたらどうかと思っています。夫婦それぞれが生育歴を振り返ることで、あらためて、生まれてくる子どもに伝えていきたいこと、継承させたくないことを自覚できるのではないでしょうか。どの人にも、自分が親にされたように自分のこどもにはしたくないという点がひとつはあるはずです。それを確認するために生育歴を振り返ることは、世代間連鎖の防止ともいえるでしょう―本当にそうですね。信田:日々の練習を積み重ねることで、子どもに対して望ましい接し方ができるようになると思っています。「自分はそうしてもらってこなかったとしても」です。何より「世代間連鎖を防ぎたい」と願うことそのものが、すでに防止の第1歩なのです。そんな自分のことを「すばらしい」と、自信を持っていただきたいと思います。いかがでしたか? 子育て中に沸き起こる負の感情は、ママなら、誰しもが経験済です。けれども、「負の感情が自分の手に負えない!」と感じるならば、信田先生のような専門家の援助も必要なのでは? と、筆者は思っています。1人でも多くの独りで悩んでいるママに、この特集が届くことを願っています。<世代間連鎖を防ぐには>1)世代間連鎖を防ぐためのキーワードは、「アタッチメント」と「感覚否定」2)子どもが泣いたら、「よしよし」という練習から始める3)「世代間連鎖を防ぎたい」と願うことそのものが、すでに防止の第1歩■今回、取材を受けてくださった信田さよ子先生の最新作 『後悔しない子育て 世代間連鎖を防ぐために必要なこと』 (¥1,400円(税別)/講談社)信田 さよ子さん臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコールなどさまざまな依存症、摂食障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子どもの虐待などに悩む本人やその家族へのカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『母・娘・祖母が共存するために』(朝日新聞出版)、『母からの解放 娘たちの声は届くか』(集英社)『タフラブという快刀』(梧桐書院)など。
2020年01月25日以前、信田先生を取材させていただいた 「『私って、毒親?』と心配するママたちの原因は、“母”にある!?」 という記事が、とても人気がありました。それだけ、多くの人が、「こんなに感情的になってしまう私って、大丈夫?」と、心配しているのだと思います。》 「『私って、毒親?』と心配するママたちの原因は、“母”にある!?」 出産・育児の時期は、自分の母親の育児態度が思い出され、「母と同じ口調でわが子を叱ってしまう」と、自己嫌悪を感じることも。「私って、もしかして毒親?」と、心配になるママはどうすればいいのかをひも解いていきます。それだけ、多くの人が、「こんなに感情的になってしまう私って、大丈夫?」と、心配しているのだと思います。子育てをしていれば、感情的に子どもを叱ってしまう日だってあるでしょう。では、母親は、感情的になってはいけないのでしょうか? 引き続き、母子論の第一人者であるカウンセラーの信田さよ子さんにお話しを伺います。この記事は、 「『親にされたことを、わが子にしたくない』そんなママに限界がきたら…」 の続きです。■「感情的になった母親はひどい」のか?―つい感情的に子どもを叱ってしまい、その後に激しい自己嫌悪に陥ります。信田さよ子さん(以下、信田):「感情的になった母親はひどい」と考えると、「感情的になってはいけない」「怒ってはいけない」と抑制しなければという気持ちになりますが、それは誤解です。たとえ否定的な感情だったとしても、湧き上がる感情そのものに良い悪いはないんです。「怒りの感情を抱く」ことと、「それをどのように表現するか」は、別の話として考えた方が良いですね。―そうなんですか?信田:怒ったらすぐに怒鳴ってしまう、思わず子どもを叩いてしまうという人は、「怒り」を「抑える」しか方法がない、だから我慢しなければというふうに考えがちです。近年の心理学の成果は、どれほど怒りの感情が激しくしても、その表現方法は「選択」できることを明らかにしたことです。―表現方法を、「選択」ですか?信田:それには、自分の怒りを客観的に眺める必要がありますね。「怒りの温度計」という比喩は、とても役に立ちます。ゼロから10までの目盛りの温度計で「今6度だ、このままの状態を続けると9度を超えてしまう」というように、自分がどこまで怒りを抱いているか、怒りの程度をウォッチするのに温度計の比喩は役立ちます。怒りの温度計が上昇しているときであっても、ゆっくりとそして落ち着いた声で、「パン屋さんでは、パンに指でさわってはいけません」と、伝えることはできるでしょう?―なるほど。そんなふうに考えれば良いんですね。信田:怒ったらすぐ大声で怒鳴ってしまう、という人は、行動の選択肢は怒鳴る以外にもあることを知らないか、怒鳴るという行為を許している、自分を正当化しているんだと思います。もし、「自分の子どもだから怒鳴ってもかまわない」と考えているとすれば、はなはだ迷惑な話だと思います。子どもを所有物だと思っているのではないでしょうか?■叱るのはいけないことなのか?―所有物というか、子どもに対して「責任がある」と思っているんです。信田:なるほどね。そういう方は、もしかすると「怒る」と「叱る」を混同しているのかもしれませんね。最近は、「怒ると叱るは違う」と、さまざまな子育て本に書いてあり、ひとつの定番化になっているほどです。でも、「怒る」と「叱る」の違いを理解している人は、案外と少ないのかもしれません。「叱る」行為の大前提として、「自分の感情を爆発させるためではなく、相手の成長のため」という目的がある点を、意識してみましょう。つまり下の存在を成長させるために、上の存在がきつく諭し気づかせるように導くことが、「叱る」という行為です。そこには、「上から下への勾配関係」があります。―なるほど。信田:けれども、最近では子どもに対して「上から目線」になることをためらう親が増えています。「子どもを対等な人として扱うことが大切」、「押し付けない」「強制しない」、「なぜなら子どもの自主性が大切だから」といった育児観が広がることで、上から目線の命令口調は否定されるようになってきました。けれども、「〇〇してはいけません」「〇〇しなさい」と発言しないことは、親が責任を取ることに怯えているんじゃないでしょうか。もっとはっきり言えば、「叱らない親」「お願いする親」の本質は、私には責任逃れのように感じられるのです。■子どもに怒ってしまったことは取り返しがつかないの?―すごく思い当たります…。でも、やっぱり、何だか及び腰になってしまうんです。信田:「怒る」と「叱る」を、整理できるようになってくると、怒りのエネルギーを上手に使えるのかもしれませんね。そんな方に知っておいて欲しいのは、思わず怒りの感情が暴発してしまったとしても、取り返しがつかないわけではない。ちゃんとフォローできていれば大丈夫、ということです。取返しのつかないことなどないんです。―そういってもらえると、何だかホッとします。信田:そして、さらに、親が叱る時の基準をつくることが大切です。親の気分次第の勝手な叱り方は、子どもに大きな混乱をもたらしますからね。そうすると、子どもなりに、リスクの少ない安全策は「親から見て常にいい子でいることである」と学んでしまうんです。過剰ないい子、誰からみてもいい子であることの背景に、親のわけのわからない無原則的な怒りの暴発があることは指摘しておきたいと思います。―そうなんですね…。信田:望ましい家族の一つの条件は、「子どもなりに納得できる原則を親が示し、親がそれを守ろうとする姿勢を示すこと」。それはひとつの「秩序」を示すことですね。叱るという行為は上から下への支配的な言動のひとつですが、「自分の感情を爆発させるためではなく、相手の成長のため」という目的ゆえに許されるのです。こうやって整理しておけば、「怒る」ことをむやみに怖がらなくなるし、感情的になってしまった時も、きちんと「叱る」ために、ハッと立ち止まれるのではないでしょうか? <感情的に怒ってしまうママへ>1)「怒り」の表現方法は選択できる。「怒りの温度計」という比喩を使うとわかりやすい2)「叱る」のは、相手の成長のため。叱る時は基準を示し、親は基準を守る姿勢を見せる3)親のわけのわからない無原則的な怒りの暴発が、「いい子」を作ってしまう次回は、いよいよ本特集の仕上げ。虐待の世代間連鎖を防ぐためのお話しです。■今回、取材を受けてくださった信田さよ子先生の最新作 『後悔しない子育て 世代間連鎖を防ぐために必要なこと』 (¥1,400円(税別)/講談社)信田 さよ子さん臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコールなどさまざまな依存症、摂食障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子どもの虐待などに悩む本人やその家族へのカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『母・娘・祖母が共存するために』(朝日新聞出版)、『母からの解放 娘たちの声は届くか』(集英社)『タフラブという快刀』(梧桐書院)など。
2020年01月24日「親のことを、手放しで『大好き!』と言える人って、案外、少ないんだな」と、そんなふうに筆者は感じています。仕事仲間やママ友の多くが、自分の生育歴のどこかは、納得していない…。言い換えれば、「親にされて、嫌だったこと」は、誰にでも、ひとつや、ふたつあるんです。それでは、自分の子育てで繰り返さないためには、どうしたら良いのでしょうか? 原宿カウンセリングセンター所長であり、母子論の第一人者の信田さよ子先生が、初の育児論を書かれたというので、お話しを伺ってきました!信田 さよ子さん(のぶた さよこ)臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。親子・夫婦関係、暴力、ハラスメントなどの問題に関するカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)ほか多数。■親にされたことを、自分の子どもにはしたくない!信田先生は、言います。「私のところにカウンセリングに訪れる人たちの多くが、自分が親たちから受けた育児態度やしつけ、もっと具体的に言うなら虐待に近い経験を子どもに対して繰り返したくないと考えています」。日本では、いまだ「虐待」という響きから、殴る蹴るといった残酷な行為のことをイメージしがちです。けれども、虐待とは次の4つのことを指すことを、まずは知っておいて欲しいと思います。<「4つの虐待」の定義>●身体的虐待:殴る、蹴るなど身体的な暴力を行う●心理的虐待:「ばか」「お前なんかはいらない」といった、言葉の暴力や、DVを見せること●性的虐待:子どもに対して性的な言葉を浴びせたり、性的行動を見せたり、行う●ネグレクト:子どもの心身の健康な成長・発達に必要な世話・対応をしない(筆者作成)身体的な暴力はもちろんのこと、「子どもの心になんらかの傷を負わせる行為は虐待である」という知識があると、親との間にあった「納得のいかない感情」を、俯瞰(ふかん)しながら突き放して眺めることに役立つのではないでしょうか? 「カウンセリング現場からの声を逆算していくと、『これだけは子どもに対してやってはいけない』というものが見えてきます。それをしないようにするだけで、虐待の防止になります」(信田先生)■家族が機能するために大切なことは?信田先生のカウンセリングは、「家族の中で生じる問題は、原因があるわけではない」というスタンスです。「私たちカウンセラーの仕事は、原因を見つけ、犯人を摘発することではないのです。考え方としては、因果論ではなく循環論に近いのかもしれません。『原因によって問題が起こっているのではなく、悪循環が起こっているのだ』と考えています」(信田先生)では、その悪循環は、どう断ち切れば良いのでしょうか?キーワードは、世代間境界です。わかりやすい例としては、夫との関係がうまくいかない母親が、子どもとタッグを組んで、夫の存在を疎外してしまう…。「適度な世代間境界の形成と尊重が、家族関係を適度に機能させるんです」(信田先生)■母親は子どもに嫉妬していないか?適度な世代間境界の形成の第一歩として、意外かもしれませんが、「子どもに嫉妬していないか?」というチェックが必要です。<「子どもに嫉妬していないか?」チェック例>□私は親からそんなことをしてもらったこともないのに、この子は、私という親からいい思いをさせてもらっているんじゃないか□同性である娘がキラキラとして幸せそうな顔をしていると、「いい気になるんじゃない」などと、透明な水に真っ黒な墨を一滴垂らすような一言を投げつけたくなる。でも、私は親心から慢心をたしなめていると思い正当化する「こんな気持ちになることがあったら、親が子どもに嫉妬している、と言い換えても良いのではないか?」と、信田先生は言います。「親にしてもらえなかったことを、子どもにはやってあげようとは思いながらも、それはすんなりといくわけではないのです。誰かに支えてもらったり、そんな自分を認めてもらいながらでないと、限界が来てしまいます。まずは、『私は子どもに嫉妬している』と、自分で気がつけるようになることが大切ですね」(信田先生)■虐待する親たちが例外なく言うこと私は子どもに嫉妬している。そんな自分の醜い気持ちに、自分で気がつけるようになる! なかなかヘビーな作業です。でも、筆者は、子育てはキレイごとだけではやっていけないとも思うのです。「自分の醜い気持ち」から目を背けないでいようとする気力や勇気。それは、やっぱり必要なのではないか? そんなふうに思います。なぜなら…。「虐待をする親たちは例外なく『子どもが言うことをきかなかった』と言います。自分が腹を立てたことを『自分の問題』ではなく、『腹を立てさせた子どもの問題』であるとする思考回路です」(信田先生)こう言われて、思い当たらない人の方が少ないと思います。筆者も、思い当たり過ぎて胃が痛くなりました…。でも、こんな時に、「自分で気がつけるかどうか?」は、大きな大きな分岐点だと思うのです。「親を怒らせないように、母親が何を期待しているかを瞬時に察知して、そのとおりの言動をする癖が子どもについてしまう。そうなると、いつもびくびくして、母親の表情を伺うことになってしまいます」(信田先生) 要は、子どもに、甘えないこと。筆者は、このお話しを伺って、子どもに、自分の醜い心を背負わせるのではなく、自分が向き合える人になりたいと感じました。それは、とてつもなく難しいことだと、途方のなさに溜息が出てきますが……。<親にされたことを自分の子に繰り返さないために>1)家族が機能するためには世代間境界が大切2)世代間境界を意識するために、「子どもに嫉妬していないか?」をチェックする3)自分の負の感情を、子どもに背負わせない次回は、ママの永遠のお悩み。「ついつい子どもに対して感情的に怒ってしまう」について考えてみましょう。■今回、取材を受けてくださった信田さよ子先生の最新作 『後悔しない子育て 世代間連鎖を防ぐために必要なこと』 (¥1,400円(税別)/講談社)信田 さよ子さん臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコールなどさまざまな依存症、摂食障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子どもの虐待などに悩む本人やその家族へのカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『母・娘・祖母が共存するために』(朝日新聞出版)、『母からの解放 娘たちの声は届くか』(集英社)『タフラブという快刀』(梧桐書院)など。
2020年01月23日「実の母との関係に苦しむ女性の『出口』には、2つの側面があります」と言うのは原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子先生。一つ目は、母と物理的な距離をとる「外科的な処置」。最終回の今回は、「母からの本質的な脱却」について、お話しを伺いました。【母という存在がなぜ苦しいのか】 第1回 「私って、毒親?」と心配するママたちの原因は、“母”にある!? 第2回 母との関係が苦しい。娘の気持ちを母はわかってくれるのか? 第3回 「母に苦しむ娘」たちが生きるために必要なものとは ■「自分のこと」を語れない娘たち信田先生は、「現在の自分の生きづらさが、親との関係に帰因する」と自認している35歳以上の女性を対象にしたグループカウンセリングを、1995年からずっと続けています。「このグループに参加する女性たちは、『自分のこと』を、最初はほとんど語れないんです。自己紹介も含めて『自分』を抽出することが困難であることに、最初は、正直驚いてしまいました」(信田先生)そんなときは、こんなふうに伝えるそうです。「お母さんについて述べてください」「あなたのお母さんがどれほどヘンな人だったかを説明してください」。こう前置きすることで、参加者の方たちは、語り始めることができるそうです。■「被害者性」を自己承認するために必要な3つのステップところで。「私が被害を受けてきた」と、「お母さんが●●した」というのは、一見、同じような言い回しに感じますが、じつは、微妙に異なります。前者では「被害を受けた自分」が認識の出発点ですが、後者は母からの被害の状況を語っているにすぎないからです。「なかなか自分を出発点に話ができないこと。それが、長年母親との関係に悩んできた方々の、大きな課題でもあるのです」(信田先生) では、どうしたら良いのでしょうか?「自分を出発点」に話ができるようになるためには、3つのステップが必要です。最初は、母が自分に対して行った言動を表現すること。 次に、それが自分にとって一種の虐待(加害)行為であったと認め、結果的に自分が被害を受けたことを承認することです。<被害者性の承認までの3ステップ>(1)理不尽で腑に落ちない母の行為を描写する(2)母の行為を評価する(ひどい、無自覚、無神経、残酷)= 母の加害性を認める(3)自分の反応(つらくて苦しい、怖いなどの情緒的反応、緊張で呼吸が速くなるような身体的反応)が当然と思える = 被害者性の承認■「母親を研究する」ことが母からの呪縛を解く娘が、「被害者性の承認」ができるようになったら、いよいよ最終仕上げです。ここでも、DVと重ねるとわかりやすいそう(※)。信田先生は、言います。「DVをふるう夫の認知の仕組みや成り立ちについて知識をもつことが、最大の力になります」※母と娘の関係性とDVの構造はよく似ている。妻はDV夫に対して、さんざんコミュニケーションの必要を訴えても、彼らはそれを聞かずに、暴力を振るい続ける。しかし妻が夫の関係を無理だと気が付いたとたん、夫はコミュニケーションを取ろうと言い出す。母娘の関係も、娘が母から離れるという強い危機感を感じた段階で、やっとコミュニケーションをとろうと母は言ってくる。母親の場合もしかり。「母親という一人の女性をどのようにとらえるか? なぜあのような生き方しかできなかったのか? 何が母にとって大きな挫折・転機・トラウマだったのか? そういったことを研究することが、母の認知の仕組みや成り立ちについての知識を持つことになるのです」(信田先生)つまり、「母親研究」とは、「母の形成過程」を知ること。「母の形成過程の解析・文脈化こそが、母の強力な磁場に取り込まれないための力になり、母からの呪文を解くカギにもなるのです」(信田先生)。最後に、信田先生からのメッセージをお伝えして、この特集を終えましょう。母娘問題を考えるときに重要なのは、「母と娘の力の不均衡」を前提とすることです。母は、「世間の常識」と「親の力」という力をバックにしていますが、娘は「それに対する反逆者」という烙印を押され、罪悪感に満ちてしまっています。母への恐怖や忌避感がある程度減少するまでは、ご自身の味方になってくれる人を、とにかくいっぱいつくりましょう。建物の土台にあたるのが、その人たちとのつながりです。もちろん本連載のような記事や、書籍でもよいでしょう。娘たちは、この「積み上げた土台」の上に立つことで、やっと両者の力の不均衡が和らぎます。そして、「娘と母との共存」が、はじめて可能になるのです。■今回、取材を受けてくださった信田さよ子先生の最新作 『母・娘・祖母が共存するために』 (¥1,512(税込)/朝日新聞出版)子育て中にママにこそ、読んで欲しい!母娘問題の第一人者が書いたメルクマール(指標)信田 さよ子さん臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコールなどさまざまな依存症、摂食障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子どもの虐待などに悩む本人やその家族へのカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『アダルト・チルドレンという物語』(文春文庫)、『さよなら、お母さん』(春秋社)『タフラブという快刀』(梧桐書院)『母からの解放 娘たちの声は届くか』(ホーム社)など。
2018年06月28日前回、「実の母との関係が、苦しい」と思っている人が、その関係を抜け出す第1歩は、悲しいかな、「『母にわかって欲しい』という気持ちを捨てること」だと原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子先生に教えていただきました。その「行き止まり感」を受け入れることができたら、次に打つべき手は? 現実的な対応策を伺いました。【母という存在がなぜ苦しいのか】 第1回 「私って、毒親?」と心配するママたちの原因は、“母”にある!? 第2回 母との関係が苦しい。娘の気持ちを母はわかってくれるのか? 第3回 「母に苦しむ娘」たちが生きるために必要なものとは 第4回 「母からの呪縛」を解き、娘と母が共存するために必要なこと -->■「母から逃げることを願う娘」は、たくさんいる「実家のある駅名や母の住む県名を聞いただけで冷や汗が出たり、動悸が早くなったりする女性。じつはたくさんいるのですよ」と、信田先生。こんなふうに、「母から逃げる、離れることだけを考えている女性」というのは、普通にいるそうです。彼女たちは、そのことを誰にも話せません。なぜなら、聞いた人は娘であるその女性がヘンだと思うに決まっているからです。「母と正面から一対一で相対することは無謀な行為」と、信田先生は言います。自分のことを、「愛情深い母」だと信じて疑わない母は、無敵です。その磁場に取り込まれた瞬間、今までがずっとそうだったように、娘は母に対して「イエス」しか言えなくなってしまうのです。では、どう対処すれば良いのでしょうか?■ポイント1:「とりあえず」で物理的距離をおく「まずは、逃げることも含めて物理的距離をおくことを考えましょう」(信田先生)。具体的には同居を解消する、転居先の住所を知らせずに時を稼ぐ、海外で暮らす、といった方法があります。「その際のコツは、『いつまでこれを続けるか』といった先のことを考えないことです。これはDVの場合も同じなのですが、『とりあえず』が、とても重要です」(信田先生)。まずは3日くらいが1週間になり、気がつけば半年経っていたということもあります。先々まで計画を立てると、けっして家を出ることはできないそうです。■ポイント2:母に対して丁寧語を使う諸事情から、物理的な距離をとれない人も、たくさんいるでしょう。そんな方たちに対して信田先生がカウンセリングで提案しているのは、「母親に対して、丁寧語を使いましょう」ということです。何かを頼むときは、「やってよね」ではなく、「お願いします」。了解も「わかった」ではなく、「わかりました」。挨拶を欠かさないことも重要です。「ただいま」「お帰りなさい」「おやすみなさい」といった日常の挨拶を母に対して続けます。「どうしたの? なんでそんな口調なの?」と母から聞かれても、けっして言い方を変えないようにします。そして、「『何でそんな他人行儀な言い方をするのよ』と責められたら、心の中で快哉を叫びましょう」(信田先生)。距離をとるということは、他人行儀になることです。親しき仲にも礼儀あり。親子であっても他者性を維持するために、丁寧語を使い、日々の挨拶を続けます。■ポイント3:仲間をつくる母からの「愛情」を「支配」と読み替える、いわば「母に対する意味の転換」は、一人で抱え込めるほどなま易しいものではありません。信頼できる人に話して聞いてもらうことが必要になります。けれども、そんな知人をすぐに思い浮かべられる人の方が少ないかもしれませんよね。下手に話すと、「お母さんのことを、そんな風に言うなんて」と軽蔑のまなざしで見られるリスクもあります。最近では、ネット上のブログやTwitterなどによって、世の中とつながることができるようになり、同じ思いの人との交流も可能になりました。ネット上であっても、同じ苦しみを経験した「仲間」の存在を感じられることは、どれほど心強いことでしょう。信田先生は、「母との関係性が苦しい人たちに必要なのは、つながる人の数です」と、言います。「自分を強くする、信念をもつ、自分を好きになるといった自己完結的方法ではなく、『あなたの考えていること、語ることはよくわかる』と、否定せず言ってくれる仲間が何人いるかが何より重要なのです」(信田先生)もちろん、ネット上のつながりも良いのですが、できれば「仲間」は姿が見えて声が聴ける方が、より望ましいそうです。「具体的な、生身の存在である仲間を得てもらいたいと切に思います」(信田先生) そんな仲間は家族とは別の、「母に苦しむ娘」たちが生きるために必要なコミュニティなのでしょう。次回は、母に苦しむ娘の、「母からの本質的な脱却」について信田先生に教えていただきます。■今回、取材を受けてくださった信田さよ子先生の最新作 『母・娘・祖母が共存するために』 (¥1,512(税込)/朝日新聞出版)子育て中にママにこそ、読んで欲しい!母娘問題の第一人者が書いたメルクマール(指標)信田 さよ子さん臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコールなどさまざまな依存症、摂食障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子どもの虐待などに悩む本人やその家族へのカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『アダルト・チルドレンという物語』(文春文庫)、『さよなら、お母さん』(春秋社)『タフラブという快刀』(梧桐書院)『母からの解放 娘たちの声は届くか』(ホーム社)など。
2018年06月27日「母にされて嫌だったことを、自分もわが子にしてしまうかもしれない…」。そんなふうに感じたことはありませんか? 「いま、虐待の世代間連鎖を怖がるママが、とても多いのが気がかりです」と話すのは、原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子(のぶたさよこ)先生です。「虐待」という語感から、「私とは関係ない話だわ」と感じている人でも、「母にされて嫌だったことを、私も子どもにしてしまっている!」と思ったことはあるのではないでしょうか? 信田 さよ子さん臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。親子・夫婦関係、暴力、ハラスメントなどの問題に関するカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)ほか多数。■母親像にひびが入る5つの人生分岐点信田先生は、著書『母が重くてたまらない・墓守娘の嘆き』を2008年に出版して以来、一貫して母との関係に悩む娘たちへのメルマーク(指標)を世に提示し続けています。そんな信田先生は、「女性の一生で、母娘問題が表面化しやすいきっかけ、ポイントは5つあります」と言います。それは、①思春期、②原家族離脱期(就職・進学など)、③結婚、④出産・育児、⑤介護です。とりわけ出産・育児の時期は、子どもを育てながら「合わせ鏡」のように自分の母親の育児態度が思い出される時期です。「なぜ、あのとき、母はあんな態度だったのだろう?」と苦々しい気持ちがよみがえってきたり、「イヤだと思っているのに、母と同じ口調でわが子を叱ってしまう」と、自己嫌悪を感じたり。育児を巡って、母からの否定的・批判的な態度にカチンときてケンカになることもあるでしょう。子育ての時期は、母との関係性の「ほころび」が見えてくる時期なのかもしれませんね。■「私って、毒親?」と、心配なママたち「毒親」という言葉が広がったことにより、「私って、もしかして毒親?」と、心配になるママも多いようです。「『毒親』と、『毒親じゃないこと』。その境目はどこにあるのか? それは、子どもが自分の母のことを毒親だと思うか、思わないかです。毒親という言葉もけっこう流行語みたいなものですし、まして客観的な基準は、ありません。そんな基準があるとすれば、ママたちを恐怖に陥れることになってしまいますからね」(信田先生)では、わが子を感情的に強く叱ってしまったとき、ママはどのように気持ちを整理すればよいのでしょうか?「もちろん感情に任せて叱ることは、おすすめはできません。けれど、『強く叱りすぎてしまった』という瞬間だけを切り取って、『トラウマになってしまったら、どうしよう』と、思い詰めなくても大丈夫ですよ。それよりも、叱りすぎてしまったあと、わが子に対してどうフォローするかの方が、よっぽど大切です」(信田先生)。「感情的に叱りすぎてしまった」と感じたら、わが子に向き合って、きちんと謝ることができるかどうか? たとえば、「ママ、少しイライラしすぎていたね」と、フォローできれば、子どもが背負う精神的な負荷はまったく違ってきます。そのために大切なことは、逆説的かもしれませんが、「わが子に対して、感情的になってしまった私」を責めすぎないことです。「『感情的に叱ってしまったから、私は毒親だ』と思ってしまうと、自分を追いつめてしまいます。その分のエネルギーを、子どもに対してのフォローに使ってください。子どもとの関係性が全然、違ってきますよ」(信田先生)■重い母たちは不幸だったところで。「自分の母がイヤだ」と苦しんでいる女性たちの母は、どんな人だったのでしょうか?まず、最初にあげられる特徴は、そういった母たちは、不幸しか語らないということ。それによって、娘は「母の人生のカウンセラー」へと、選択の余地なく追い込まれてしまうのです。おそらく母はあたり前のように(何の罪悪感も持たずに)、自分の不幸を娘に語り続けてきたことでしょう。母が不幸を語り続けることが、娘にとってどれほどおびえと緊張をもたらすか…。「その残酷さを思うと、『“自分の不幸を聞かせ続ける虐待”という定義を新設してほしい』という(母との関係の悩む娘たちの)グループカウンセリング参加者たちからの要求に、納得してしまいます」(信田先生)。 ■母と娘の間に起こっていることを理解するとは「母との関係に苦しんでいる娘」は、意外と多いものです。誰に、何を、どう相談して良いのかもわからず、一人で抱え込み、悩んでいる人もいます。また、母との関係に悩んでいる友人に、どう接すれば良いのか迷っている人もいるでしょう。今回の特集では、母との関係に苦しんでいる娘が、気持をどう整理していったら良いかについて考えてみます。「一番大切なことは、知識を持つことです」(信田先生)。まずは、母と娘(自分)との間に起こっていた(いる)ことを、構造的に理解します。この理解がないと、感情が「母親が憎い」と「自分が悪い」の両極端に揺れ動いてしまうそうです。「じつは、メンタル的に一番キツいのは、気持ちが両極を往復することです。これをやってしまうと、心が疲れて鬱(うつ)になってしまうこともあるんですよ」(信田先生)次回は、「母と娘の間に起こっていた(いる)ことの構造」を、信田先生に解説いただきます。■今回、取材を受けてくださった信田さよ子先生の最新作 『母・娘・祖母が共存するために』 (¥1,512(税込)/朝日新聞出版)子育て中のママにこそ、読んで欲しい!母娘問題の第一人者が書いたメルクマール(指標)信田 さよ子さん臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコールなどさまざまな依存症、摂食障害、ドメスティック・バイオレンス(DV)、子どもの虐待などに悩む本人やその家族へのカウンセリングを行っている。著書に『母が重くてたまらない』(春秋社)、『アダルト・チルドレンという物語』(文春文庫)、『さよなら、お母さん』(春秋社)『タフラブという快刀』(梧桐書院)『母からの解放 娘たちの声は届くか』(ホーム社)など。
2018年06月25日プロの料理レシピサイト「E・レシピ」がご紹介する『今日の献立』は、旬の食材を使ったバランスのよい献立メニュー。今夜の夕食にオススメの献立を毎日ご紹介!今日の献立は「卵入り信田袋煮」を含めた全4品。しっかりと煮た油揚げの中には彩りきれいな野菜と卵がぎっしり! コリッとしたタコと納豆の組み合わせはクセになります。 卵入り信田袋煮 しっかりと味を含ませた油揚げに、彩りきれいな野菜と卵がぎっしり! お腹も満足な一品です。 キャベツの和え物 大葉と甘酢が効いた和え物は、まるで和風コールスローサラダ! タコ納豆 コリッとしたタコにワサビとマヨネーズを利かせた納豆をのせて。いろんなお造りで試してみても。 玉ネギとジャガイモのみそ汁 玉ネギとジャガイモの甘みが感じられる定番みそ汁。 ⇒今日の献立一覧はこちら
2014年07月02日