安全・防犯のために子どもに伝わる約束の仕方
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「道路には飛び出さない」「ママのそばから離れない」など、安全のためにお子さんとしている約束はたくさんあると思いますが、気になるのは、子どもがしっかり理解できているかどうか。子どもに伝わるように約束するためのポイントを安全教育の専門家である宮田美恵子さんに聞きました。
交通事故
【ママが難しいと感じていること・困ること】
● 何かに夢中になるなど、他のことに気を取られると道路に飛び出しそうになる。
● いくら約束をしても忘れてしまう。
約束ポイント1
約束を守れない年齢であることを忘れずに
就学前の子どもの交通事故で一番多いのは、「飛び出し」です。あんふぁん読者アンケートにも「ヒヤッとした体験」として「飛び出し」がたくさん挙がっていました。
この年頃の子どもたちは、道路の向こう側にパパが見えたらパパしか見えなくなるし、ボールが転がっていったらボールしか見えません。自分とパパだけ、自分とボールだけの世界になってしまい、走っている車は目に入らないのです。
自己中心的な世界に生きているので、「飛び出しちゃだめ」といくら約束をしても、守るのがまだ難しい年齢なんですね。
これは交通ルールの約束に限ったことではありません。安全の約束をすることはとても大切ですが、そういう年齢だということを頭に入れて、大人が先回りして子どもを守ることも忘れないでください。
約束ポイント2
守ってほしいことをその場で教える
交通安全の約束については、よく遊びに行く公園や歩く道を「交通」という観点を持って、親子で実際に歩くのがお勧めです。年長さんだったら、小学校までの通学路を一緒に歩いてみましょう。
交通安全では、「止まる・待つ・見る」の3つが大切です。横断歩道があったら、「ここでは、この位置で止まって待つんだよ」と、その場で具体的に教えてください。子どもに歩道と車道の境界線の所で待つように言うと、本当に線ギリギリの所で待つことが多いんです。
車に巻き込まれることがあるので、「一歩下がって待つ」など、安全な位置を教えましょう。
次に「見る」ですが、子どもたちは「右・左」を見ているようで見ていないことが多いもの。頭は動かしているのですが、車やバイクなどが来ていないかを確認しようという意識がないのですね。
そこで、横断歩道を渡るときは、「運転手さんの顔を見て渡ろうね」と教えてあげてください。アイコンタクトを送ることでドライバー側の注意も呼び起こせます。
約束ポイント3
子どもの目線で危険ポイントを探す
親子で実際に歩くときに気を付けてほしいのが、大人と子どもの身長差です。大人にとっては見通しのよい交差点でも、身長の低い子どもにとっては植え込みが視界を遮ってしまい、車が見えない危ない交差点ということがよくあります。
交差点などでは、一度しゃがんで子どもと同じくらいの目線で周囲を見てみましょう。
町歩きは、子どもにとってどんな所が危険なのか親が気付くためのものでもあります。
連れ去り・迷子
【ママが難しいと感じていること・困ること】
● 知らない人に話し掛けられたときの対応の教え方。好意で話し掛けてくる人にはどうしたらいいか。
● 困った人を装って近づいてくる人への対応の教え方。
● ほんのちょっと目を離した隙に見失ってしまう。
● いくら約束をしても忘れてしまう。
約束ポイント1
危険回避の約束だけでなくマナーも一緒に教える
例えば「あいさつをちゃんとしようね」「困っている人には親切にしようね」と教えているのに、「知らない人に声を掛けられたら無視するんだよ」と約束をすることは矛盾しますね。子どもに疑問を感じさせる約束は望ましくありません。
まず、あいさつをすること自体は問題ありません。小学生になって登下校の途中で道を聞かれることがあった場合は、知っていれば答えるように教えていいのです。
子どもに守らせたい約束は、「付いていかないこと」です。悪いことをする人は、子どもを移動させようとしますから、「一緒に来てほしい」と言われても付いていってはいけないことを、しっかり伝えましょう。もし本当に困っている人だったとしても、「ママにだめだって言われているから」と断るのは許されること。失礼にはなりません。
約束ポイント2
子どもが迷わなくて済むようにできるだけ簡単に
子どもが守りやすい約束は「これだけ守っていればいい」というもの。「知らない人に付いていってはだめよ」という約束は、「知らない人」の判断が難しいものです。
例えば、いつも公園のベンチに座っているおじいさんは、子どもにとって「知っている人」になっているかもしれません。子どもの「知っている人」が安全な人とは限らないのです。
「ママとパパ以外の人に付いていってはだめよ」と、一つのことだけ守ればいいようにしましょう。「ママは他の人にあなたを連れてきてほしいと頼むことはしないから、『ママの所に連れていってあげる』と言われても付いていってはだめ」と丁寧に教えてあげてください。
ママ友にお迎えなどを頼むときは、事前に「今日は◯◯ちゃんのママにお迎えを頼んだから、一緒に帰ってね」と子どもに伝えておきましょう。
ショッピングモールやデパートなどで迷子になると、近くにいた人が、迷子センターに子どもを連れていくことがありますね。でも「ママ以外の人に付いていかない」約束と矛盾させないようにするならば、係の人を呼んで、その場で迷子がいることが分かるような対応をしてもらうことが理想です。現実的に難しい問題もありますが、子どもが混乱しないよう周囲が共通認識を持つように努力していきたいですね。
約束ポイント3
子どもの目線で危険ポイントを探す
子どもたちが自分自身を守るために、知っておいてほしいことに「パーソナルスペース」があります。これは「自分の縄張り」のようなもの。普通の会話をするとき、相手に近づき過ぎると違和感がありますね。相手とのちょうどいい離れ具合というのがあって、それを「パーソナルスペース」と呼びます。
悪いことをしようとする人は、子どものパーソナルスペースに侵入してきますから、この感覚を持っていることが、危険回避につながっていきます。私は「自分のふうせん」と名付けたプログラムを作り、子どもたちに次のように教えています。
「自分の体が全部入るくらいの風船があると思ってみて。外を歩くときは、◯◯ちゃんはその風船の中に入っているんだよ。
風船が割れちゃうくらい近くに寄ってくる人がいて、◯◯ちゃんが怖いな、嫌だなと思ったらその人から離れるんだよ」。
パーソナルスペースの感覚を持つことは、危険回避だけでなく、相手の空間を尊重できる力、状況に応じて空間を縮めたり広げたりできる力、つまりコミュニケーション能力の獲得にも関係します。実は安全教育というのは、自分を守るとともに、相手に配慮する、嫌な気持ちにさせないという大事な側面があるんですね。
安全に関する約束をするときには、ぜひこのパーソナルスペースも一緒に教えてみてください。
あんふぁん読者アンケート
Q1.
ママのうっかりで、子どもが迷子になった、連れ去られかけたなど、ヒヤッとしたことはある?
Q2.
ヒヤッとしたのはどんなこと?
園のお友達と「よーいどんっ」と急に走り出して、勢い余って国道まで出ていきそうになったことがあります。必死に走って止めました。北海道/年中ママ
駐車場でバックしてきた車にひかれそうになりました。子どもは身長が低く、運転席から見えにくいので、注意しなくちゃと思いました。埼玉県/年少ママ
信号が赤なのに渡ろうとしたことがあります。「赤は止まる」と理解していると思っていたのですが…。岐阜県/年長ママ連れ去り・迷子
駅で上の子をトイレに連れていくため、「荷物を見てて」と下の子を少しだけ一人にしました。その間に見知らぬおばちゃんに話し掛けられ、「ママはあっちだから」と連れていかれそうになったことがあります。東京都/年中ママ
子どもがトイレに一人で行くと言うので、出入り口で待っていたのですが、知らないうちに子どもが出てきていて、お互い見つけられず焦りました。宮城県/年中ママ
アドバイス
買い物中の見失いを防ぐために子どもを退屈させない工夫を
今回のアンケートでは、「買い物中に迷子になって青ざめた」という声がとても多くありました。ショッピングモールやデパートなど、子どもにとって誘惑の多い場所では、そこに入る前に「手をつなごうね」など、その場であらためて約束をしましょう。
できれば、「最初にママの洋服を買って、ご飯を食べて、最後におもちゃのコーナーに行こうね」など、子どもに予定を話してあげるといいですね。何をするのか分からない状態で引っ張り回されていると、子どもは楽しくありませんし、暇な状態です。興味を引くものがあったら、見に行ってしまう気持ちになるのも分かります。
「ここでは長靴を買うよ」など、子どもに話し掛けながらの買い物は、見失いを防ぐ一つの方法になります。(宮田さん)
お話を聞いたのは:宮田美恵子さん
みやた・みえこ日本こどもの安全教育総合研究所理事長、順天堂大学医学部協力研究員。幼児・児童・生徒を対象にした安全教育の他、成人を対象とした市民安全のための生涯学習活動にも力を入れている。
illustrationFUJII Megumi