子育て情報『「障害者福祉は税金の無駄」という意見はなぜ生まれるのか、経済学の視点から考える』

2016年9月29日 15:00

「障害者福祉は税金の無駄」という意見はなぜ生まれるのか、経済学の視点から考える

しかし、それが市民権を得るかどうかは、社会の環境に依存するものです。

たとえば、悪名高い“優生政策”を掲げたナチス・ドイツを考えてみましょう。

第一次大戦後のドイツは、巨額の賠償金を負わされて苦しい経済状況にありました。その状況からの脱却を望むドイツ国民のなかで、ナチスは次第に勢力を増していきました。

このように経済的苦境というのは、排除の論理に“正当性”を与えることがあるのです。

人間社会において、こうした事例はいくらでも観察できます。

イギリスのEU離脱も国民投票で決まったものですが、失業者の増加に業を煮やした市民による移民排斥運動がその背景にあるとされていますし、アメリカで“排除の論理”を振りかざすトランプ氏が共和党の大統領候補に選ばれたのも経済の停滞がその原因になっていると考えられます。


経済苦や孤独は、社会との接点を失うきっかけになる

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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10151000227

これと同じことは、障害者福祉という分野にも十分にあてはまるのです。


私たちの社会の“余裕のなさ”は、障害のある方への配慮の本質を失わせる理由の1つになりうると考えます。

身近な例で言えば、同じ電車でも昼間の空いている時間帯に車椅子の乗客がいても誰も文句は言わず場所を譲るでしょう。しかし、朝夕の通勤時間帯であればそうはいかない。

「こんな混雑時に車椅子で乗ってくるな」とばかりに障害のある方に厳しい視線を向ける乗客もいるのが実態です。

横塚晃一『母よ!殺すな』で取り上げられている母親による障害児殺しも同じ文脈で語ることが出来るでしょう。

障害のある子どものいる家庭を孤立させれば、その経済的/精神的な負担の重みに耐えかねた母親が自分の子どもを手にかける危険性は高まります。そして苦悩する母親に対する世間の同情が殺人を“正当化”する風潮を作っていくのです。

さて、優生思想に市民権を与えるもう1つの要素は“孤立”です。


入所施設などの自己完結的な隔離型施設は社会との接点を失わせてしまいます。

かつて、障害者が何不自由なく暮らせるように、人里離れたところにコロニーと称する障害者の“楽園”を建設することが福祉だと見なされたこともありました。

しかし、社会との接点がないということは、見方によれば人間の“社会的死(social death)

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