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「特性を検査する」ってどういうこと?【LITALICO発達特性検査監修者・井上雅彦先生インタビュー】

LITALICO発達ナビ

オンラインで特性を検査する「LITALICO発達特性検査」


公認心理師の井上雅彦です。LITALICO発達特性検査では、企画段階から参画し、多動・不注意/情緒・行動/感覚/運動(くせ)の検査結果テキストの監修を担当しました。

LITALICO発達特性検査は、お子さまと保護者さまが感じている困りごとに対して、その特性の現れ方や背景、具体的なサポート方法が分かる検査です。オンラインで検査に回答するとすぐに結果が得られることも特徴です。検査結果によって、お子さまの特性の現れ方の傾向や困っている事柄への対応方法のヒントが得られます。

LITALICO発達特性検査は、医学的な診断を意味する検査ではありません。また、ほかの心理検査とは違って、発達指数や知能指数が表示されるものではありません。

ですが、お子さま本人にとって障害となる困りごとや子育ての課題を解決するためには、この、お子さま本人の特性を理解し、その特性や困りごとに応じた対応方法を保護者さまやご家族、園や学校などの周りの人が理解することが、とても重要です。
今回は特性を検査するとはどういう意味を持っているのか、また、特性を検査することで、どのようにお子さまやご家族の困りごとや課題をサポートしていけるのかということをお話ししたいと思います。

「特性を検査する」とはどういうことか

「特性を検査する」ってどういうこと?【LITALICO発達特性検査監修者・井上雅彦先生インタビュー】

Upload By LITALICO発達特性検査 編集部

LITALICO発達特性検査はお子さまと保護者さまが感じている困りごとに対して、その特性の現れ方や背景、具体的なサポート方法が分かる検査ですが、そもそも「特性」とは何でしょうか。

特性は、その人の心身や脳の機能、感覚の受け取り方や考え方のくせなどの現れ方や性質です。個人の中でさまざまな特性があり、複雑に合わさって一人ひとり違うものとなり、結果として得意なことや苦手なこととして現れていると考えられます。

概念としては「個性」や「障害」と似ていますが、障害というとネガティブな印象、個性というとポジティブな印象といったように、使われることもあります。私は、特性はそれ自体にはポジティブ、ネガティブ、どちらの色もないもので、環境によって障害や困難になることも、個性や強みとなることもあると考えています。分かりやすくいうと、「集中しやすい」という特性があった時に、ほかの人と同じ活動を一斉にしないといけない場面では、「好きなことに集中して、一緒に活動に参加できない」という困難や弱みになることもありますし、個人の趣味などでは「集中して本1冊読み切った」といった強みとなることもあります。

本人にとっては、まずはそういった個別の特性や、個人の中の苦手と得意の差が、困ったこと→障害となって現れないように考えていくことが必要になりますし、そのためにお子さまと保護者さま、周りの方にとって、どのように本人に合ったやり方にしていくのか、できることを増やしていくのかという観点で考えていくことが大切になってきます。


その意味で、まずは先入観がつかない「特性」という言葉を使うことが、その子を理解し、サポートしやすくするうえでも馴染む考え方なのではないかとも思っています。

特性理解を「診断がないと支援できない」を変えるきっかけに


LITALICO発達特性検査のように、特性をキーワードにすることは「困り」をスタート地点とする支援にもつながります。

診断のある場合は支援対象とされるけれども、診断がない場合には支援が受けにくいという現状もまだまだありますね。

ですが、「診断がないかぎり何もできないのか」というとそうではありません。先ほども言ったように、「その人に特性があって、それが本人にとって困った状況であれば変えていく」、その観点がすごく大事です。身近にいる保護者さまや周りの方が本人のもともと持っている得意や苦手に対して、できることを考えることが重要です。

診断がないが、何らかの困りごとや特性がある場合「グレーゾーン」と呼ばれることもあります。現状だと、診断があることでサポートや制度が受けやすくなる傾向があるので、こうした診断がないグレーゾーンの方に、支援が届きにくい場合が出てしまうこと、また、本人の努力不足、あるいは保護者の育て方の問題ではないかとされてしまうこともあります。


そうすると診断がないことが支援を遅らせてしまう場合もあるかもしれません。必要な支援が届かず、放置されることによって、困りごとや、生活をしていくうえでの困難が大きくなり、それぞれの特性が診断域になってしまうケースもあります。この問題は、何とかしていくべきではないかと思います。もう一つの課題として、診断名だけにとらわれていると、特性が合併している場合などに、診断のある症状や特性以外に困っていることがあっても、それに対しての支援が見過ごされがちになるということもあります。

特性から読み解くことのメリットとして、診断にとらわれず子どものニーズや困りを包括的に見ていくことができるということです。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断がある人の多くは、ほかの発達障害の診断基準も満たしているという研究も出てきています。そのことから、ASDの診断だけをもとに支援を組み立ててしまうと、その子の診断名以外のさまざまなニーズや困難性を見逃してしまうというリスクや、適切な支援に繋がらないという場合もあるでしょう。

よくあるケースをご紹介すると、SLD(限局性学習症)の傾向は、学年が上がってから分かったり、困りごとが強まることもあります。
それを見過ごして、ASDの診断名があることにとらわれて、コミュニケーションへの配慮や支援はしたけれども、読み書きに対するサポートがないままで、学校や勉強が嫌いになってしまったというお子さまもいます。こうしたケースでは、診断名にとらわれて、実際のお子さまの状態や困っていること、新たに出てきた課題を見つけることが、難しくなってしまうこともあるのではないかと思います。

本人の特性を理解せずに、この診断だからこの支援法、という思い込みで支援すると、実際のお子さまの状態や困っていること、新たに出てきた課題を見つけることが、難しくなってしまうこともあるのではないかと思います。そこで、今のお子さまの状態について評価し、包括的に特性や困りごとを見ていく必要があると考えています。

LITALICO発達特性検査は、医学的な診断を意味する検査ではありません。ですが、今言ったような観点で、この「特性を検査する」ということが、一つの方法として選択できるということは、大きな意味があると思います。

もちろん、心理検査や知能検査、診断、医学的な支援の重要性は、しっかりお伝えしたいです。LITALICO発達特性検査はそれらを否定するものではありませんし、それぞれのよさや目的、できることがあるので、必要に応じて、それぞれ、あるいは併用して使っていただくことが重要だと思います。


いずれにしても、今、支援から取り残されている人を、特性というモデルで考えることで、境目をつくらずに支援の対象としていけることを願っています。そのために、診断の有無にかかわらず、その子にどんな特性があるのか、保護者さまの視点で今どんなことに課題や困りごとがあると感じているかに気づき、理解できるというのはとてもいいと思います。

特性を具体的な行動に読み直していく

「特性を検査する」ってどういうこと?【LITALICO発達特性検査監修者・井上雅彦先生インタビュー】

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特性に着目することの意味は、それを「具体的な行動に置き換えて支援の対象にできる」ということにあります。

よく保護者さまからの相談で、「うちの子は、わがままなのか障害なのか、どちらでしょう」と聞かれることがあります。「わがままだったらやめてほしい」と感じていることがあるけれども、「特性による障害だったら仕方がないかな」と考える保護者さまも多くおられます。わがままなのか、障害なのか、はっきり分けることが難しいと関わり方もそれでいいのか不安になることもあるでしょう。そうやって迷いながらお子さまと接することはかなりストレスになったり、うまくいかなかったりでつらい状況になることも多いでしょう。

でも、「こういう特性があるな」ということに気づいて、それが出やすい状況を客観的に捉え直し、改善することで、その子が困る状況を減らし、結果的にできることが増えていきます。
一つひとつの行動は環境との兼ね合いで変わっていくからです。

一つひとつの困りごとは、その特性やどんなことに困っているかということについての気づきがあって、環境とのマッチングを修正することで改善することも多いのではないかと考えています。

このような環境の調整は、最初の取り組みとして大切です。

もう一つ、「特性だったら、変えられないのでしょうか」と言う疑問や、「特性より何より、今困っているんです」と言う保護者さまの声もよく聞きます。変わらないのであれば、検査をする必要があるのか?あるいは、改めて今のつらい状況を確認する必要があるのか?悩まれる方もおられるかもしれません。

特性というのは、確かに持って生まれた場合もありますし、特性自体は変わらないこともあります。本人にとっては特性自体をコントロールすることが難しいというものも確かにあると思います。

でも、先ほどお話したように、特性は変わりにくくても、そこから生じる行動や環境にアプローチしていくことができます。
そのためには、特性という概念の中から、一つの行動に着目していくことです。特性を具体的な行動に読み直していくといいと思います。

困っている行動や、その子の行動傾向を一つ見つけたら、その行動に対して適切な対応方法を考えてやってみる。ちょっと例を挙げて考えてみましょう。

【特性】眩しさを感じやすい感覚過敏の特性がある
【困りごととなる行動】教室で窓側の席に座ると、顔を伏せて授業に参加できない
【原因】窓側の席の光の差し方が強すぎて、教科書を開いたり、前を向いて長時間過ごすことが苦痛

【行動と環境への働きかけ】
・授業に参加するという行動に変えるため、席を光の入りにくい内側にする
・授業中はカーテンを引く
・サングラスをかけるなど

なくなってほしいのは、「授業に参加できない」という困りごとであって、特性ではないという考え方もポイントですよね。

個人的には、「障害」という概念を、個々の環境と個人との相互作用である「行動」を単位として捉えることで、「障害者」「~障害のある人」というラベルづけから脱却できると思います。

特性から生まれる困りごとや障害自体を具体的行動に落とし込むことで、環境や対応を変化させ、解決していくことはできるのではないかと思います。一つひとつの行動が変わっていくことで、最終的に、特性や困りごとについても、変わったり薄まったりしていくことはあると思います。

LITALICO発達特性検査で分かること


「特性」を知るための検査として、LITALICO発達特性検査で具体的に分かることをあらためてまとめると、以下が挙げられます。

1. お子さまの特性や困りごとの傾向
まずはお子さまの特性や困っていることの行動傾向に気づく
2.お子さまの特性や困りごとの背景要因
いくつかの背景要因が提示されることで理解がより進む
3.特性や困りごとに合った対応方法やサポートの方向性
サポートを試して本人に合うものを探していく

この3つのステップをセットでやってみることで、特性理解をスタート地点にして、行動に働きかけることができるのではないでしょうか。もちろん家庭でできることには限界もありますし、できることからやってみるだけでもいいので、提案された支援の中から試してみてください。お子さまに合っていたサポートなどを抽出してサポートブックなどに記録したり、プリントしてまとめたりしていくといいですし、もしうまくいかなかったとしても、専門家や周りの人に相談する材料にしたり、より本人や状況に合わせてカスタマイズする方法はないか、考えるのもいいと思います。
「特性を検査する」ってどういうこと?【LITALICO発達特性検査監修者・井上雅彦先生インタビュー】

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特性理解のための最初のツールとしてのLITALICO発達特性検査


保護者さまや本人が特性を知り、それに適した対応法を知ることで、周りもサポートがしやすくなり、困りごとが減らしていける。特性が障害になるかどうか、環境に働きかけることで障害や困りごとがなくなる・軽減されることがある。LITALICO発達特性検査はそのような立ち位置から出発しています。

私は、特性を検査すること、特性をスタートにして支援をすることは、お子さま自身が自分の特性について自己理解をすることがゴールではないかと考えています。もちろん、お子さまに検査結果を見せるという意味ではないですが、保護者さまや周りが特性を理解し、困っている行動に着目して、それを減らしたり変えたりするにはどうしたらいいか、と考えて対応していく。支援や学校での合理的配慮などを行っていくためのツールとして使っていただきたいと思っています。

診断のあるなしによらず、特性が分かるということが本人に合わせた支援のカスタマイズに繋がることを、LITALICO発達特性検査の監修者の一人として、願っています。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。

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