「手遊び歌」が子どもにもたらすもの――楽しく歌うことが「学びの姿勢」につながる
ただ、残念ながら、現状ではそういう実証的な研究結果は得られていません。でも、だからといって手遊び歌になんの意味もないのかといえば、そうではないとわたしは考えています。先に挙げた『ひげじいさん』のような歌なら、間違いなく子どもたちの想像力を伸ばし、感性を育てることにも大いに役立つでしょう。
そして、手遊び歌とは、わたしは「文化を学ぶ」ものだとも思っています。ひとつ例を挙げましょう。『ピクニック』という比較的新しい手遊び歌があります。手をお皿に、指をようじやお箸、フォークに見立てて、たこ焼きや焼きそば、スパゲティを食べるという内容です。
この手遊び歌を通じて、子どもたちはお皿に乗っている食べもののイメージを膨らませつつ、自然に食べものの名前や食器の使い方を学ぶ。
これは、文化を学んでいることに他なりませんよね。また、この歌では、人差し指がたこ焼きを食べるためのようじと「1」という数字のふたつを表します。国によっては親指で1を表すなど、指での数の数え方はまったく異なります。それこそ、日本の文化を学んでいるのです。
加えて、手遊び歌のいいところは、基本的に親やまわりのお友だちと一緒に歌うところ。それこそ、呼吸を合わせなければうまく遊ぶことができません。ひとつ、面白い遊びを紹介しましょう。みなさん、有名な『あんたがたどこさ』はご存知でしょう。
誰かと一緒に向かい合って歌いながら、歌詞の「さ」の部分で互いの両手を合わせてみてください。
さて、うまくできたでしょうか?「さ」を意識するあまり、意外にタイミングが合わなかったという人もいるのではないですか?それでは、今度は曲のリズムに合わせてふたりで体を揺らしながらやってみてください。どうでしょう、今度はきっちりタイミングが合ったのではないでしょうか。これは、ふたりの呼吸、リズムをきちんと合わせられたからです。
子どもは、このように他人と同じことをすることを好みます。おもちゃなどの取り合いになるのはそのため。お友だちと同じものを持ちたい、同じことをしたいという欲求があるからです。そうして他人と同じことをすることによって、子どもたちは「人とつながっている感覚」を育み、社会の一員として育っていくのです。
はっきりとした研究結果としては示されていないものの、手遊び歌には、コミュニケーション能力や言語能力などさまざまな力を伸ばすという側面も確かにあるでしょう。