ももいろクローバーZのイエロー担当の玉井詩織さん。普段から身につける機会が多いメンバーカラーにちなみ、“今っぽ“イエローメイクに挑戦。玉井詩織さん×最旬イエローメイクいつもとは違ったイエローを纏い、クールな表情で大人な雰囲気を醸す。「私にとって馴染みのある色ですが、少し前まではイエローを主役にしたメイクってあまりなかったですよね。でも最近は、流行色として注目を集め始め、コスメの種類も増えてきているので、やっとイエローの時代が来たぞと、うれしく思っています(笑)」これまで仕事でイエローメイクを施すことはあったが、プライベートで取り入れることはなかった。「目立つ色なので、日常使いするのは難しそうと思っていたんですけど、そうではないんだなと。今回、抜け感のあるイエローを目元に重ねたのですが、日本人の肌に馴染みやすく、使い勝手がよい色みだということが判明!印象深い目元で顔の印象がパッと明るくなり、新鮮さも一気にアップしました」ももクロで玉井さんは右側が定位置なので、左から撮られるアングルが多いため、今回の右からのカットも新鮮!20代後半になり、様々な変化もあるが、楽しく年を重ねていきたいと話す。「いくつになってもチャレンジ精神って大事。グループでの活動も長くなり、これまでのようにわちゃわちゃとみんなで楽しむスタンスも大切にしつつ、自分の年齢を受け入れて、変化を楽しみながら新しいことに挑戦していく姿を見せていきたいです」Makeup PointAなめらかなタッチで、鮮やかに発色。アディクション ザ アイシャドウ マット 022M¥2,200(アディクション ビューティ TEL:0120・586・683)Bぴたっと馴染むリクイドアイシャドウ。来年1/6限定発売。RMK リクイドアイズ EX‐01¥3,850(RMKDivision TEL:0120・988・271)C肌と調和するクリアな発色。来年1/6限定発売。RMK インフィニットシングルアイズ EX‐02¥2,750(RMKDivision)Dカプチーノを思わせるベージュブラウン。アディクション ザ ブラッシュ マット 006M¥3,300(アディクション ビューティ)Aをアイホールからはみ出るくらい広めに入れる。その上から目頭側にBを、目尻側にCを二重線より少し上のあたりまで重ねてグラデーションに。下まぶた全体に、Aをチークのように広めに入れて、Dを重ねてぼかすことで、立体感と抜け感のある仕上がりに。ベージュブラウンによって、目元の黄色みを引き立てながら、顔全体の印象を引き締める。Shiori’s Beauty Rules1、メイクは丁寧に落とすのがこだわり。美容への意識が年々高まっているという玉井さん。素肌力を上げるために、メイク落としは念入りに行う。「顔用とアイメイク専用の2種類を使ってオフします。時間がある時は、スチーマーをしながら、美顔器のクレンジング機能で、メイクをしっかり落とします。いたわってあげた分、化粧ノリが一気に変わります」2、1日1Lは水を飲みます。1~2年前から水を意識的に飲むように心がけている。「昔はお茶派でしたが、水の美味しさを知ってから、水をよく飲むようになりました。ステージドリンクも水一択。喉が渇いていなくても、内側は乾いている場合が多い。1L以上飲むようになったら、全身の細胞が活性化されたのか、肌の潤い不足も解消されました」3、体内美容はキノコに注目!最近のお気に入りはキノコ鍋。「昔はキノコが大嫌いだったんです(笑)。でも食物繊維を多く含み、腸活やお通じ改善にもなるキノコパワーのすごさを知ってから、よく食べるようになりました。ハナビラタケ、タモギタケなど、様々な種類があり、鍋にして食べます。デトックス効果も高く、カラダがスッキリします」たまい・しおり「ももいろクローバーZ」のメンバーで、イメージカラーはイエロー。12/24(土)、25(日)にさいたまスーパーアリーナでのライブ「ももいろクリスマス2022 LOVE」を開催。シャツ¥36,300ベスト¥47,300スカート¥45,100(以上フミエタナカ/ドール TEL:03・4361・8240)ピアス¥24,200(イー・エム/イー・エムアオヤマ TEL:03・6712・6797)※『anan』2022年12月21日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・仮屋薗寛子ヘア&メイク・伏屋陽子(ESPER)取材、文・鈴木恵美
2022年12月19日女優の芳根京子、ももいろクローバーZの玉井詩織が出演する、ジュン・ROPE PICNICの新WEB動画「だれ と どこ いく?」編が、22日に公開された。新CMでは、同ブランドのイメージキャラクターを務める芳根に加え、プライベートでも親交のある玉井が登場。2人がリンクコーデに身を包み、ドライブをしたり、公園で遊んだりしながら飾らない笑顔を見せている。また、あわせて撮影中にお互いにスマートフォンで撮り合った写真と映像を使用した「撮りあいっこ」編も公開された。■芳根京子&玉井詩織インタビュー――本日の撮影はいかがでしたか?率直な感想をお聞かせください。芳根:もう、楽しかったね。玉井:楽しかった、ほんと!芳根:プライベートでもすごく仲が良いので、プライベートかな? と思うような、私たちが普段遊んでいるのを切り取ってもらったような感じがして、自然体でいられたので、すごく楽しかったです。玉井:確かに、遊びの延長線上みたいな感じで、いつ撮られてたのかな? って思うくらい、自然な会話とか笑顔が見れるんじゃないかなと思います。――お二人の初対面の時の、お互いの印象はいかがでしたか? また今とのギャップがあれば教えてください。芳根:謎になってること、もう一回聞いてもいい?玉井:えっ、なんだろう。芳根:一回ももクロちゃんの番組にお邪魔させてもらった時に、何で仲良くなったかみたいな話をした時にね。私は、「わたあめを一緒に作って、その機械を一緒に洗ってたら仲良くなった」っていう話をしたんだけど、誰一人覚えてなくて!玉井:えっ、舞台のときってこと?芳根:そう! 覚えてる?玉井:あぁ~……覚えてない(笑)。正直、きょんちゃん(芳根)の第一印象がどこなのかがいまいちわからなくて。芳根:(玉井が)すごいなって思うのは、どこが第一印象かって言われると、一番初めてしおりん(玉井)を見たのって、オーディションの時のワークショップなのね。覚えてる?玉井:あぁ~! うんうんうん。芳根:(玉井さんとは)映画と、その後舞台で共演させてもらってて、その映画のオーディションの時、ももクロちゃんたちは主演です、ってなってて、同じ部員役のオーディションがワークショップ形式で。一緒に何かをやるっていう機会があったから、そこで見た時に……髪短かったよね、まだ。玉井:短かったね。芳根:すごい顔が小っちゃくて、手足が長くて、やっぱりすごいなぁ~と思って見てたのよ。玉井:恥ずかし……(笑)!芳根:人見知りもないから、すごく楽しく、こっちが緊張してても話しかけてくれて、すごい素敵な方だなって思った印象が今も変わらなくて。それがすごいなぁって。もちろん、仲良くなったから色んなことがざっくばらんになったりとか、良い意味での雑さっていうのは仲良くなってあるけど、でも根の部分は何も変わらないのが、しおりんの魅力だなぁと私は思ってます。玉井:ヤバい。すごい語ってくれてるけど、私がきょんちゃんの第一印象全然覚えてない(笑)。でも、人見知りなのかなって私は思ってました。すごく積極的に喋ってくるわけでもなく、いつもみんなの端っこでニコニコしている子、みたいな。私結構、メンバーの中でお喋りなほうだって言われるんですけど、私よりも喋るんですよ、一緒にいるときに。8割くらいきょんちゃんの方がずっと喋ってるから、それは印象が変わりましたね。すごい喋るじゃん! みたいな(笑)。芳根:すごい喋るね、確かに(笑)。玉井:最初の印象と、親しくなってからの印象は変わりました。――動画で様々なパターンの衣装を着用されていますが、お二人の普段のファッションへのこだわりを教えてください。芳根:すごいことに、被るんですよ。玉井:服がね。服とか、持ってる物とかが。芳根・玉井:(顔を見合わせて)ね~。芳根:怖いんだよね(笑)。「遊びに行こう。どこどこ待ち合わせね」って(約束をして)着いたときに、何かしら被ってたりとか。玉井:テイストが一緒だったりとかね。芳根:そうそうそう。「それ持ってる!」とか、同じ服を持ってたりもするよね。玉井:あとは、お互い着ている物が気になって、私がデニムのセットアップを着て行ったら、きょんちゃんが「かわいい!」って、それを買いに行きたいって言って。私はデニムのセットアップを着て、それを売っているお店に一緒に買いに連れて行かれるっていう(笑)。芳根:あったあった。何年も前にね。割と好みは同じなのかなって思ってて、「流行!」っていうよりも、長く着れるもの?玉井:自分の“好き”を貫いてるかもね。あまり「流行りに乗ってるな」っていう感じはないね(笑)。芳根:でもお互いがそうだから、一緒にいて心地いいのかなって思ったりしますね。――お仕事でお忙しい時、動画で描かれているような「お出かけ」は息抜きにもなるかと思います。お二人はリフレッシュしたいとき、お出かけ以外だと何をされますか?玉井:最近は、アニメとかドラマを見る。ずっと。芳根:私が出てるドラマとかいつも感想言ってくれたりとか、嬉しいですね。玉井:一視聴者として……友達だっていう特権を利用して、犯人を聞き出そうとしたりとかしてたんですけど(笑)。あんまり教えてもらえなかった(笑)。「それは楽しみなさい」って。あと何してるかなぁ。食べてるかな。芳根:そうだね。玉井:でも、お仕事の合間のリフレッシュだったら、シュワシュワした物を飲むのは多いかもしれないですね。芳根:炭酸?玉井:炭酸。なんでも良いんだけど、大体お茶、水を飲んでるじゃん。だけど、冷たい飲み物、ジュースを買いに行くのは一つのリフレッシュかも。何してる?芳根:私休みの日は、基本的にずっとお風呂にいるのね。玉井:あぁ~。そうだ。それびっくりした。芳根:そう。台本を読むのはもう、お風呂なんですよね。でもずっと入ってるとのぼせちゃうから、出て、ちょっとリフレッシュしてからもう一回入って……。「台本を覚えるんだ」っていう日は一日で5回くらいお風呂に入ったりして、ずっとお風呂にいるってこともあるくらい、お風呂かなぁ。食べることも私も大好きだけど。玉井:浸かってるの?ずっと。芳根:うん。半身浴?玉井:えぇ~。すごいね。芳根:「うわぁ~!」とかなると、一回髪洗おう! と思って、髪を洗ったりするのね。(頭が)いっぱいになると。だから3回くらい頭洗う時もあるの(笑)。それはやめたほうが良いなと思うから、ちょっと気を付ける。玉井:良いね。良いリフレッシュ。――一日中お風呂で過ごすとき、お食事はどうなさっているんですか?芳根:ちょっとお腹が空いたら出て、何か食べて……でも割と、台本と、お水と、なにかちょこっと食べられるようなものとかを一式持って、お風呂に行ったり。玉井:(指先が)しわしわに……(笑)。芳根:もう、ひどいひどい(笑)!玉井:ね(笑)! しわしわになっちゃいますよね?芳根:そう、ひどいの。でもすっごい(台本が)めくりやすいよ。玉井:良いんだ。しわしわになっても良い。芳根:もう、良い! 覚えられれば良い、みたいな(笑)。――今回の動画のコピーは「だれ と どこ いく?」ですが、お二人はもし明日一日お休みになったら、だれとどこに行きたいですか?玉井:この場合の「だれと」ってさ……(笑)。芳根:よく、このお仕事してると「仲良い芸能人のお友達誰ですか?」って聞かれる質問の中で、本当にこの人(玉井さん)しかいなくて(笑)。玉井:ちょっと心配になるくらい(笑)。私もそんなに(友達)いないけど。芳根:あんまり友達の輪が広くないんですよね。だから、この世界のお友達でどこか遠出したりとかは、本当にしおりんくらいかもしれない。旅行に行ったりとかね。玉井:この場合に「だれと」でちょっと、きょんちゃん以外を出すときょんちゃんが悲しみそう(笑)。芳根:仲間に入れてくれるならいいよ(笑)!?玉井:嘘嘘(笑)。でも、家族と出かけることがどうしても最近多くなってるから、何も気にせず遊べるってなるとやっぱり友達と……友達とね。(芳根さんも)入ってるよ(笑)。芳根:家族ぐるみでも私、参加しちゃったりするんですよ(笑)。玉井:あ、そうだね! 確かに確かに。芳根:家族でお買い物行くってときに車に同乗させてもらって、一緒に……(笑)。ちゃっかり玉井さん家のプライベートにズカズカ足を踏み入れている気がします。玉井:誘ったら来るもんね(笑)。芳根:明日お休みって言われたら……。玉井:何したいかなぁ。一緒に行くとして……。芳根:一緒に行くとしたら……温泉行きたいなぁ、やっぱり。玉井:あぁ~、良いね。芳根:前に一回行ったんですよ、一緒に。最高だったなぁと思って。玉井:温泉、いいね。温泉だな。芳根:ちょっと(東京から)離れてね。玉井:それこそ、ドライブしながら行きたいね。――お二人で遊びに行く時は、アクティブに出かけることと、のんびり過ごすこと、どちらが多いですか?玉井:どっちもありますね。アップルパイを作るためだけにリンゴ狩りから行ったこととかもあって。結構思い付きで行動しちゃうから。芳根:前日に決めてね。玉井:これは初出し情報なんですけど、前日に決めて大阪に行ったりとかもしました。芳根:そうそうそう(笑)! 二人でね、行ったね。玉井:結構パッと思いついたときにスケジュールが合えば、なんでもやっちゃうね。のんびりもするし。――フットワークの軽さも似ているからこそ、お二人は気が合うのかもしれませんね。玉井:そうかもしれない。でもたまに強引なところがあって、私がやりたいことは絶対に私はやりたいはずだ、みたいな (笑)。たまに「私はそれやりたくないよ」ってときもあるんですけど、そんなに自信を持って提案してくるから「やろうやろう」って言って、一応乗ったりはしてる(笑)。芳根:ごめんね、気付いてなかった(笑)。玉井:たまにね、あるよ、そういうところ(笑)。芳根:ほんと? 言って言って(笑)。なんでも楽しくついてきてくれるので、私がやりたいことはやりたいんだろうなって思ってました。違いました(笑)。玉井:私も優しくしすぎたかもしれないですね(笑)。芳根:甘やかしてね(笑)。そっかぁ、気を付けま~す。――先月、お誕生日を迎えられた芳根さん(撮影は3月)。25歳の目標を教えてください。芳根:25歳になりまして。しおりんと出会った時が17とかだったかな。高校生だったから、あっという間に時間が経ったなという感じで。でも、どんどん役の幅が広がっている気がするので、25歳、もっともっと色んなことに挑戦していきたいなと思っています。20代前半は、「無理って言わない」って決めてたんです、自分の中で。「とりあえずやってみよう」って、まずはやってみる精神で、20代前半過ごしてきて、いろいろ経験させてもらって、ここからさらにステップアップしたチャレンジを心がけていきたいなっていう風には思ってますし。もう女性の歳なのでね、女性らしさというものを忘れずに、たくさん食べて寝ようと思います(笑)。玉井:良い目標です。――玉井さんは芳根さんの出演作品をご覧になっていると仰っていましたが、今後芳根さんが挑戦される役柄も楽しみですね。玉井:そうですね(笑)。また次のドラマもなんとかしてその先を聞き出せるように(笑)。良くないね、それは。一視聴者として楽しみたいと思います。芳根:ありがとう~。――動画をご覧の皆さんにメッセージをお願いします。芳根:今まで一人でしたが、お友達のしおりんが来てくれました。撮影、とっても楽しかったので、自然体な私たちを見てくださったら嬉しいなと思いますし、こういう、リンクコーデって言うんですか? 今回こうやってオレンジ色だったりとか、(リンクしているところが)やっぱりかわいいなと、見ていて思いました。是非仲の良いお友達と一緒に、リンクコーデしてみてください。玉井:なかなかね、お友達と会ったりするのも難しい日々が続いていますけれども、こうやって改めて友達と同じ時間を過ごせる喜びとか、「次会ったらこれしたいな」っていうアイデアとかが浮かんでくる映像になっていると思うので、是非、オシャレして出かけたい気分になっていただけたら嬉しいなと思います。
2022年04月22日凸凹中学生コンビが挑む謎解き青春アドベンチャー映画『都会のトム&ソーヤ』に市原隼人、本田翼、森崎ウィン、玉井詩織(「ももいろクローバーZ」)が出演していることが明らかに。合わせて、本予告映像と本ポスタービジュアルも公開された。新たに発表された4名が演じるのは、街中にリアルRPGゲーム<エリアZ>のゲームを仕掛け、主人公たちの前に立ちはだかる正体不明の天才ゲームクリエイター集団“栗井栄太”。市原さんがゲーム作りに命をかけるリーダー・神宮寺直人、本田さんが表向きは売れっ子冒険作家、怒らせたら誰にも止められない最恐のシナリオ担当・鷲尾麗亜、森崎さんが喧嘩と料理は最強の美大生、音楽・グラフィック担当の柳川博行、玉井さんが最も負けん気が強い天才プログラマーのジュリアス・ワーナーを演じる。そしてポスタービジュアルは、内人(城桧吏)と創也(酒井大地)の前に立ちはだかる栗井栄太からの挑戦状ともとれるコピーが添えられ、本格的な謎解きアドベンチャーの世界が表現されている。さらに、創也がゲームを作っている砦に内人がたどり着くところから始まる今回の予告編では、栗井栄太が作った新作ゲーム「エリアZ」に2人が招待されるシーンが登場。美晴(豊嶋花)と共にゲームの会場に入った内人と創也は、街が「エリアZ」として封鎖され、出現した「Z」が人々を襲う姿を目の当たりにし、街を時間内に救うため、壮大な冒険へと走り出す。謎の数列、タロットの秘密、封印されし匂玉と、次々と難解ゲームに挑む様子や、栗井栄太のメンバーの危険な雰囲気も感じ取ることができる。また映像にも挿入されている本作の主題歌は、若者からの熱い支持を集める男女混合4ピースバンド「緑黄色社会」の書き下ろした楽曲「アーユーレディー」に決定。映画主題歌は『初恋ロスタイム』に続く2作目となる「緑黄色社会」は、「曲タイトルになっている『アーユーレディー』は映画から引用したものですが、曲に込めた『アーユーレディー』は他の誰でもない"自分自身への問いかけ"です。なかなか一歩が踏み出せずどこか悶々とした日々を過ごしている人が、いま一度自分の夢ややりたいこと、生きがいと向き合うきっかけになったら嬉しいです」と思いを明かしている。新キャストコメント市原隼人とても楽しい現場で、もっとこの現場でお芝居をしたいと物足りなさを感じるほどでした。夢に向かって努力し、仲間が出来ることの素晴らしさや、誰もが思うまたあの時に戻りたいという懐かしさのようなものが感じられる作品になっていますので、是非その世界観を味わってもらいたいです。本田翼映画を見ながら謎解きゲームに参加しているような感覚を楽しんだり、内人や創也たちの友情や成長に感動したりできる作品になったのではないかと思います。ゲームの魅力が詰まった好奇心がくすぐられる冒険のような映画になったと思いますので、是非お楽しみください。森崎ウィン監督とみっちり話ながら、見た目から役作りして臨んだ現場でしたが、とても刺激をもらいました。原作もそうですが、台本を読んでいるだけでも純粋にワクワクする作品なので、映像という立体感の中でキャラクター達と一緒に、未知なる冒険を楽しんで頂きたいと思います。玉井詩織都会を舞台に冒険が繰り広げられる本作には、何歳になっても夢を大事にしてほしいという思いが込められています。未来は無限大だし、自分の好きなように進んでいけるというのはすごい冒険だと思います。この作品に出演して、自分自身も未来に向かって冒険していきたいと思いました。『都会のトム&ソーヤ』は7月30日(金)より全国にて公開。(cinemacafe.net)■関連作品:都会のトム&ソーヤ 2021年7月30日より全国にて公開©️2020マチトム製作委員会
2021年05月24日人間は周囲の環境から影響を受けながら成長します。そう思えば、「子どもが賢く育つ家」もあれば、そうではない家もありそうです。お話を伺ったのは、2010年に上梓した著書『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)が高く評価された一級建築士の八納啓創さん。そのままずばり、「子どもが賢く育つ家というものはあるのでしょうか」と聞いてみました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)「時間泥棒」になるツールの扱いに要注意「賢い」とひとことでいっても、そのとらえ方は人それぞれでしょう。子どもが社会に出たときにストレスフリーで過ごせて、楽しく生きていくために必要な力を身につけていることを「賢い」というのなら、これまでの記事で述べてきたように、その賢さは家の使い方次第で大きく伸ばすことができます。リビング学習やダイニング学習では、社会で生きていくために重要なさまざまな社会性を伸ばせますし(インタビュー第2回参照)、子ども部屋の使い方によって、子どもに自立を促す訓練をさせることもできます(インタビュー第3回参照)。では、他に子どもの成長のためにできる家やインテリアの使い方などについて、わたしがおすすめするものをいくつか紹介しておきましょう。まずはテレビの扱いです。テレビというものは、無意識に観ているとどんどん時間を奪ってしまうものです。人生を無駄にさせるものだといっても大げさではないでしょう。ですから、本当に観たい番組だけを観るという習慣をつけることが大切です。そのための方法は、テレビを観ないときには画面に布をかけておくというもの。また、リモコンの電池をつねに抜いておいて、使うときだけ入れる。そうすると、無意識にテレビを観ることがなくなります。これらのことは、ゲーム機やパソコンなどの扱いにもいえます。ゲーム機をテレビにつなぎっぱなしにせず、遊ばないときはしまう。パソコンもタイマーをセットして決まった時間でスリープモードになるようにする。そのようにして、「時間泥棒」になるツールが子どもの時間を奪ってしまわないようにしましょう。また、ファミリーライブラリーとでもいうような、家族でひとつの本棚を共有することもおすすめです。むかしからずっとある良書はやはりいい本です。そういった、親が好きな本、あるいは子どもが大人になったら読んでほしい本を本棚の高い位置に置いておく。小さいうちは下の棚を使っていた子どもも、成長するうちにそれらの本に興味を持ちはじめるでしょう。「そろそろ読めるかな」と挑戦して「やっぱりまだ読めない」とあきらめても、またいずれ挑戦するはずです。そうした、より高みを目指す姿勢が、賢い子に育つための下地となってくれるのです。家の使い方に対する夫婦間の価値観の共有が重要そして、まずなによりも夫婦で家の使い方に対する価値観を共有することが大切であり、大前提となります。リビング学習やダイニング学習をどうするのか、子ども部屋の扱いはどうするのか、そういったことについて夫婦で話し合って、できるだけ価値観を一致させることが理想です。たとえば、母親は「わたしは小さい頃にひとり部屋で育って寂しかったから、子ども部屋はいらない」、父親は「俺はきょうだいと同部屋だったから、子どもに個室を絶対与えてあげたい」というように、両親の意見が完全にバラバラだと、子どもは混乱してしまいます。もちろん、子ども自身に注目することも大切です。夫婦で話し合って、「小さい頃はダイニングで勉強をさせて、中学生になったら個室で勉強させる割合を半々くらいにしようか」といった方針になったとしても、子どもがダイニング学習でしっかり成果を出し続けていればそのままでもいい。子どもの様子を見ながら夫婦で話し合って、家や個室の使い方の方針をつねに更新していきましょう。子育ては親が思っている以上に大変で当然それから、これは直接的に家の使い方についての話ではありませんが、もうひとつつけ加えるなら、子育てそのものに対しての認識を夫婦で改めてほしいと思います。いま、共働き家庭が増えているとはいえ、やはり家庭での子育ての中心を担うのは母親でしょう。その母親のなかには、「子育てが難しい」「きちんと子育てできないわたしは駄目な人間だ」と思っている人も多いものです。でも、きちんとできなくて当然なのです。そもそも、日本の家庭の歴史を振り返ると、戦前までは大家族で住んでいて、子育てを担うのは子どもの祖父母でした。子どもの両親は働きに出ていたわけです。しかも、心理学的にも子育てをするための最適年齢は50歳以上といわれています。そう考えると、戦前の日本では理想的な子育てができていたといえます。ところが、1950年代以降にアメリカのライフスタイルを取り入れた結果、核家族化が進んで子どもと祖父母との関係性は希薄になり、子育ては主に母親の仕事になりました。それまで祖父母のふたりでしていた子育てを、突然、若い母親がひとりで行うようになった。そのための文化やノウハウなんてできていません。ですから、うまくできなくて当然なのです。では父親のほうはどうでしょうか。いまでこそこんな夫は減ったかもしれませんが、妻に対して「俺は必死に働いているのに、家でゆっくり過ごしながらの子育てがなんでうまくできないんだ」なんて考える夫もなかにはいます。でも、しっかりやり取りができる大人を相手にする仕事と、勝手の利かない子どもを相手にする子育てでは、後者のほうが比較にならないほど難しいものです。まずは、夫婦ふたりで、子育てとは本当に難しいものだと認識することが大切です。そのうえで、どうやって子育てのサポート体制を整えるのかを考えてください。子どもが賢くすくすくと育つには、子どものいちばん身近にいるお母さんの精神状態が安定していることがなによりも大切です。『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』八納啓創 著/KADOKAWA(2015)■ 一級建築士・八納啓創さん インタビュー記事一覧第1回:子どもの人格形成への影響力大!リビングとダイニングが極めて重要な場であるわけ第2回:一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?第3回:「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは第4回:子どもが賢く育つ家はどうつくる?一級建築士がアドバイスする家とインテリアの使い方【プロフィール】八納啓創(やのう・けいぞう)1970年6月15日生まれ、兵庫県出身。一級建築士。株式会社G proportionアーキテクツ代表取締役。「孫の代に誇れる建築環境をつくり続ける」を100年ビジョンに、一般建築ではデザイン性と省エネ性能、快適性を追究。住宅設計では、「笑顔があふれる住環境の提供」をコンセプトに、年齢層は20代から80代、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。また、現在では、これまで携わってきた公共・商業建築設計の経験と住環境ノウハウを生かして、商業建築プロジェクトや建物環境再生による商業施設の活性化プロジェクト等にもかかわっている。著書に『「住んでいる部屋」で運命は決まる! 心も空間も、スッキリさせる方法』(三笠書房)、『住む人が幸せになる家のつくり方』(サンマーク出版)、『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月18日「子ども部屋」とはどんな場所でしょうか?子どもが寝たり、好きな遊びに没頭したり、それから勉強をする場所――。すぐに思い浮かぶのはそんなところかもしれません。しかし、2010年に上梓した著書『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)が高く評価された一級建築士の八納啓創さんは、「子ども部屋には、もっと大きな役割がある」といいます。子どもにとって、子ども部屋にはどんな存在意義があるのかを教えてもらいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)アメリカの子ども部屋は、自立を促す訓練をする場所いまでこそ日本の家にもあたりまえのように子ども部屋がありますが、そうなったのは1950年代以降のことです。敗戦後、アメリカのライフスタイルに憧れた日本に、当時最新のアメリカの間取りが入ってきました。それは、リビングとダイニングとキッチンがあって、個室が並んでいるもの。その個室を、アメリカではベッドルームと呼びます。つまり、アメリカでの子ども部屋は、勉強をする部屋などではなく本来的に寝室なのです。みなさんも、アメリカの映画やドラマのなかで、まだ生まれたばかりの赤ん坊が寝室にひとりで寝かされている描写を見たことがあるでしょう。それは「ピューリタン思想」の影響です。その誕生の地であるヨーロッパでは、ピューリタン思想は迫害されました。そのため、ピューリタン思想を持つ人々がアメリカに渡ったという歴史があります。ピューリタン思想とはどういうものかというと、「人間は生まれながらにしてひとりの個人として尊重されるべき」という思想です。そのため、アメリカでは生まれたばかりの子どもにもひとつの部屋を与えるわけです。そして、その個室はただの寝室ではありません。「子どもの自立を促すための訓練をする場所」なのです。たとえば、その空間を自分で片づけたり掃除をしたりする整理整頓能力や、どこにどの家具を置いてカーテンはどんな色にするかといったインテリア構築能力を鍛える。また、リビングやダイニングで家族と過ごしたあとで個室に戻ると、ひとりでいることの寂しさを体感する。そのようにして、子どもの自立を促すことが、アメリカにおける個室が持つ本質なのです。日本で偶然生まれた「子ども部屋で勉強する」習慣ところが、日本にはそういった思想は抜け落ちて個室がある間取りだけが入ってきた。そのため、個室をどう使えばいいのかわからず、当初は夫婦の寝室として使われていただけでした。そのうち、高度経済成長時代になると、「子どもをいい大学に行かせよう」という高学歴至上主義のムーブメントが起きました。親は子どもにしっかり勉強をさせたい。でも、仕事を終えて帰ってきたお父さんはビールを飲みながらテレビでプロ野球中継を観たい。そんな場所で子どもに勉強をさせるのは忍びないということで、自分たちの寝室を子どもに与えて勉強をさせた。さらに、1950年代後半に日本で学習机が生まれたことも相まって、日本では子どもは子ども部屋で勉強するという習慣が根づいたわけです。そう考えると、ここ数十年で偶然できあがったような歴史の浅い習慣を疑問視してみることも大切です。リビングやダイニングで勉強することが子どもにさまざまな力を与えてくれることはすでにお話したとおりです(インタビュー第2回参照)。だとしたら、子ども部屋は、やはりアメリカ式の自立を促すための訓練をする場所と認識を改めるのがいいのではないでしょうか。でも、とくに都市部に住んでいて子どもの数が多いという場合には、子どもそれぞれに個室を与えることができないということもあるでしょう。あるいは、子どもが高校生くらいになってふたり部屋や4人部屋の寮制の学校に行かせるといった場合もあります。そういう部屋では自立を促す訓練ができないのかというと、そうではありません。複数人で部屋を共有する寮がそうであるように、同じ部屋であっても自分のエリアを持つことができればいいのです。きょうだいのあいだでも、「ここはあなたの場所だよ」と決めてあげて、そのエリアを自分でコントロールできるようにするのです。個室を通じて、自由と責任をセットで教えるもちろん、与えっぱなしではいけません。先に述べたように、個室や自分のエリアは、整理整頓能力とインテリア構築能力といった力を身につけさせるための場所です。でも、とにかくものを出したら出しっぱなし、すぐに散らかしてしまう子どももいるでしょう。そのとき、親が片づけてしまっては、それらの力を構築するチャンスを奪うことになってしまいます。加えて重要なのは、自由になる空間を手に入れることは、責任が発生することでもあるということ。それを子どもにも認識させてほしいのです。たとえば、親子で話し合ったうえで、「自分の部屋を散らかして3回叱られたら、個室は没収」というふうに子ども本人にルールを決めさせる。自由と責任をセットで与えるわけです。自由とは、なんでも好き勝手にしていいということではありません。なぜなら、自由には必ず責任が伴うからです。その、社会に出たときにとても大切なルールを、子どもの頃から個室の扱い方を通じて学ばせることが大切です。『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』八納啓創 著/KADOKAWA(2015)■ 一級建築士・八納啓創さん インタビュー記事一覧第1回:子どもの人格形成への影響力大!リビングとダイニングが極めて重要な場であるわけ第2回:一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?第3回:「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは第4回:子どもが賢く育つ家はどうつくる?一級建築士がアドバイスする家とインテリアの使い方(※近日公開)【プロフィール】八納啓創(やのう・けいぞう)1970年6月15日生まれ、兵庫県出身。一級建築士。株式会社G proportionアーキテクツ代表取締役。「孫の代に誇れる建築環境をつくり続ける」を100年ビジョンに、一般建築ではデザイン性と省エネ性能、快適性を追究。住宅設計では、「笑顔があふれる住環境の提供」をコンセプトに、年齢層は20代から80代、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。また、現在では、これまで携わってきた公共・商業建築設計の経験と住環境ノウハウを生かして、商業建築プロジェクトや建物環境再生による商業施設の活性化プロジェクト等にもかかわっている。著書に『「住んでいる部屋」で運命は決まる! 心も空間も、スッキリさせる方法』(三笠書房)、『住む人が幸せになる家のつくり方』(サンマーク出版)、『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月17日「東大生の8割がリビング学習をしていた!」といった見出しの記事を読んだことがある人も多いでしょう。2010年に上梓した著書『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)が高く評価された一級建築士の八納啓創さんも、リビングやダイニングで子どもに勉強させることをすすめるひとりです。でも、ただ単にリビングやダイニングで勉強させればいいというわけではないようです。リビング学習、ダイニング学習が持つメリットと注意点を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)もともとなかった、子どもが子ども部屋で勉強する習慣いま、「リビング学習やダイニング学習が学習効果を上げる」といったことがいわれますが、ただ単にリビングやダイニングで子どもに勉強をさせればいいわけではありません。その本質的な答えは、「親のそばがいい」ということ。その象徴が、親、とくに母親がいることが多いリビングやダイニングというだけなのです。子どもは、親のそばでお絵描きや宿題をやりたがるものですよね。なぜなら、親のそばにいることで得られる安心感と、自分がやっていることを親に見てもらいたいという気持ちによってモチベーションが保たれているからです。みなさんも、あたりまえのように「勉強は子ども部屋でやるもの」と思っているかもしれませんが、そもそもその習慣が根づいたのはここ数十年の話。いわゆる学習机が日本で生まれたのは1950年代後半です。それまでは、他の先進国も含めて、子ども部屋に学習机を置いて子どもに勉強をさせるという習慣はなかったのです。でも、先に述べたように、宿題も子どもは親のそばでやりたがります。そのとき、親が「せっかく学習机があるんだから」と、子ども部屋で宿題をさせようとしたとします。すると、子どもは「勉強=ひとりきりでやらないといけないもの」と考えてしまう。勉強はつまらなくてつらいものと認識して、勉強に対する興味や熱意を失ってしまうのです。人とのかかわり、喧騒のなかで勉強をする重要性勉強も子どもは親のそばでやりたがるというのは、「人とつながっていたい」という人間の本能なのでしょう。そう考えると、親がいるリビングやダイニングで勉強することこそが自然であって、子ども部屋にこもってひとりで勉強することは不自然ともいえます。しかも、その後の人生を考えてみても、人とかかわりながら必要な勉強や仕事をできることが重要です。社会に出たあと、果たして本当にひとりきりでできる仕事はどれくらいあるでしょうか?仕事をして対価を得る以上、必ず他者とかかわることになる。そう思えば、将来、社会でスマートに生きていける社会性を持った人間に子どもを育ててあげるためにも、リビングやダイニングで家族とかかわりながら勉強をさせることが重要だとおわかりになるかと思います。また、リビング学習やダイニング学習には、喧騒に対する耐性をつけるという効果もあります。とくに子どもにきょうだいがいるような場合なら、弟や妹が大きな声を上げて遊んでいるような状況で勉強をするということもある。似たようなことは、社会に出たあとにも多いのではないでしょうか。オフィスの隣の席では先輩が大声で電話をしていてる。上司に呼ばれれば、すぐに仕事の手を休めて駆けつけないといけない。そういったなかでも、自分がやるべき仕事に集中できる必要があります。そういう力、喧騒に対する耐性が、リビングやダイニングで勉強する経験によって培われるのです。もし、いつも静かな子ども部屋でだけ勉強していたとしたら、どうでしょうか。その子が大人になったとき、他人がたくさんいるオフィスの喧騒のなかでは仕事に集中できないということになってしまうでしょう。このことは、大学入試などの受験のときにもいえます。試験がはじまってまわりから聞こえるカリカリという鉛筆の音が気になって、実力の半分も発揮できないといった受験生もいるのです。リビング&ダイニング学習の注意点あれこれそう考えれば、子どもの性格にもよりますが、基本的にはリビングやダイニングでの勉強がベースと考え、子ども部屋で勉強するのは特別な場合だけと考えていいでしょう。みなさんにも、本当に集中しないといけない仕事は、静かな場所で誰にも邪魔されずにやりたいということもあるでしょう。子どもの勉強もそれと同じことだと考えるべきです。とはいえ、リビング学習やダイニング学習を子どもにさせるにはいくつか注意点もあります。まずは、発達障害の傾向がある子どもの場合です。そういう子は、リビングやダイニングなどまわりにものが多い環境では、すぐに気が散ってしまいます。そのため、机のうえにパーテーションのような仕切りをつくって、勉強に集中できる環境をつくってあげてください。そういう状況でも、顔を起こせばお母さんやきょうだいがそばにいてコミュニケーションを取れますから、リビング学習やダイニング学習の効果はしっかり得ることができます。また、照明にも注意が必要。ダイニングは料理が美味しそうに見えるように、リビングはリラックスできるようにと、照明は暗く設定されていることがほとんど。そのため、調光機能のある照明にしたりスタンドライトを置いたりして、子どもの目に悪影響を与えないようにしてあげてください。それから、椅子にも要注意です。学習机の場合は天板の高さを調節できますが、一般的なダイニングテーブルはそうではありません。大人用の椅子を使わせては、姿勢は悪くなりますし、勉強にも集中できません。そこで、「ストッケ」というブランドの製品など、足を乗せる板も座面も高さを調節できる椅子を用意しましょう。そして、なにより親がリラックスしておくことが大切です。とくに綺麗好きな母親の場合、ダイニングテーブルに消しゴムかすが散らかったりすると、ついイライラしてしまうもの。でも、「そんなに散らかして!」なんて叱ってしまっては、子どもは萎縮してしまいますし、「ここで勉強したら駄目なのかな」と思ってしまう。そうしないためにも、汚してもいい子ども専用のカウンターテーブルを用意するなどして、穏やかに子どものそばにいてあげてください。子どもにとって、勉強に対する最大のモチベーションは、大好きなお父さんやお母さんがよろこぶ顔を見たいという気持ちなのですから。『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』八納啓創 著/KADOKAWA(2015)■ 一級建築士・八納啓創さん インタビュー記事一覧第1回:子どもの人格形成への影響力大!リビングとダイニングが極めて重要な場であるわけ第2回:一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?第3回:「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは(※近日公開)第4回:子どもが賢く育つ家はどうつくる?一級建築士がアドバイスする家とインテリアの使い方(※近日公開)【プロフィール】八納啓創(やのう・けいぞう)1970年6月15日生まれ、兵庫県出身。一級建築士。株式会社G proportionアーキテクツ代表取締役。「孫の代に誇れる建築環境をつくり続ける」を100年ビジョンに、一般建築ではデザイン性と省エネ性能、快適性を追究。住宅設計では、「笑顔があふれる住環境の提供」をコンセプトに、年齢層は20代から80代、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。また、現在では、これまで携わってきた公共・商業建築設計の経験と住環境ノウハウを生かして、商業建築プロジェクトや建物環境再生による商業施設の活性化プロジェクト等にもかかわっている。著書に『「住んでいる部屋」で運命は決まる! 心も空間も、スッキリさせる方法』(三笠書房)、『住む人が幸せになる家のつくり方』(サンマーク出版)、『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月16日みなさんは自分が住んでいる「家」が好きでしょうか。とくに社宅に住んでいるなど「いまの家は仮住まい」というふうに考えている人なら、「好きかどうか、考えたこともない」という人もいるかもしれません。でも、2010年に上梓した著書『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)が高く評価された一級建築士の八納啓創さんは、「親が家のことを好きかどうかが、子どもの社会性の成長を大きく左右する」と語ります。いったいどういうことなのでしょうか。家が子どもに与える大きな影響について教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)社会とのかかわり方を学ぶリビングとダイニング人類の歴史を考えたとき、「家」というものは本来的にどういう場所だったかというと、「命を守る」場所です。人類は家を持ってはじめて外敵から身を守ったり健康を維持したりすることができるようになりました。そのため、家という環境が整って以降、人類の寿命は飛躍的に伸びたのです。そして、家に住むことがあたりまえになったいまでは、家は別の働きを持つようにもなりました。その働きとは、「習慣をかたちづくる」ということ。たとえば、「テレビを観る」という行為も、ひとつの要因から生まれるものではありません。ひとつは、「テレビがついていないと寂しい」などと思って能動的にテレビを観るケース。もうひとつは、空間のつくりとしてテレビとリモコンがすぐそばにあるために無意識にテレビのスイッチを入れるケースです。前者は人の意図による行為であり、後者は空間が人に働きかけた結果の行為です。それらが総合的に作用して、その家に住む人間の習慣がつくられていきます。そう考えると、家が子どもの人格形成に与える影響も非常に大きい。なかでも、リビングとダイニングの使い方による影響はとくに大きいと考えています。家族とは、社会の最小単位です。その家族とのかかわり方は、将来、社会に出たときに出会う上司や先輩、後輩などとのかかわり方の相似形といえます。子どもにとって、社会とのかかわり方の習慣をかたちづくる場が、リビングでありダイニングなのです。社会に出た子どもがストレスフリーで過ごせるためにリビングで普段から会話が多い家庭で育った子どもは、自然にコミュニケーション能力を伸ばしていきます。そういう子は、大人になったときにも周囲といい人間関係を築けますし、ディベートやプレゼンテーションなどでも力を発揮していけるでしょう。リビングは、社会のなかでの他者との関係の築き方を育む重要な場なのです。また、ダイニングも同様に重要です。大人になれば、周囲の人と一緒に食事やお茶をするということが頻繁にあります。食事というものは、互いの心をオープンにして、より親密な関係を築いていくための重要なツールです。その方法を、子どもはダイニングでの家族との食事を通じて学んでいくのです。そうして、リビングとダイニングでしっかりとコミュニケーション能力や社会性を育んだ子どもなら、社会に出たあともストレスフリーで過ごしていくことができる。逆に、リビングとダイニングでの家族のコミュニケーションがあまりにも不足している場合、子どもは社会との接し方がわからないまま育ってしまうおそれがあります。実際、そうした家庭で育った子どもが、20代になったいまニートになっている例を耳にしたことがあります。リビングとダイニングは、それだけ重要な場所なのです。いま、中年になった子どもの面倒を高齢の親が見る「8050問題」が取りざたされますが、そのひとつの要因として、リビングやダイニングでの家族との交流を通じて大人として必要な能力を得られないまま子どもが育ったということも挙げられるでしょう。まずは家を親がリラックスできる場所にするとはいえ、ただ子どもをリビングやダイニングで過ごさせればいいというわけではありません。なにより、家がリラックスできる空間であることが大前提になります。そうでなければ、家族と楽しく会話を交わし、大人になったときに必要とされる社会性を伸ばしていけるわけもありません。では、どんな家がリラックスできるのでしょうか?それについては、決まった答えはありません。あえていうなら、「家庭それぞれ」ということになるでしょう。そもそも、みなさんは自分の家が好きでしょうか?この問いに対して、「好きではない」、あるいは「好きかどうか、考えたことがない」という人が本当に多いのです。そんな場所ではリラックスできるはずもありませんよね。では、大好きなお父さんやお母さんがリラックスできない場所で子どもはリラックスできるでしょうか?親がリラックスしてはじめて子どもも心からリラックスできるのですから、みなさんが自分の家を好きになれるように努力してみてください。まず、家のなかに好きな場所をつくっていくことを考えましょう。「キッチンのこの一角はわたしの聖域だ」と決めてもいいし、玄関でもお風呂でもどこでもいい。とにかく家のなかで好きな場所をつくりましょう。そうすれば、その親の背中を見て子どもも家のことを好きになっていく。その先にリラックスがあり、ひいてはリビングやダイニングでの過ごし方を通じて、子どもは大人になったときに重要となる社会性を獲得していくのです。『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』八納啓創 著/KADOKAWA(2015)■ 一級建築士・八納啓創さん インタビュー記事一覧第1回:子どもの人格形成への影響力大!リビングとダイニングが極めて重要な場であるわけ第2回:一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?(※近日公開)第3回:「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは(※近日公開)第4回:子どもが賢く育つ家はどうつくる?一級建築士がアドバイスする家とインテリアの使い方(※近日公開)【プロフィール】八納啓創(やのう・けいぞう)1970年6月15日生まれ、兵庫県出身。一級建築士。株式会社G proportionアーキテクツ代表取締役。「孫の代に誇れる建築環境をつくり続ける」を100年ビジョンに、一般建築ではデザイン性と省エネ性能、快適性を追究。住宅設計では、「笑顔があふれる住環境の提供」をコンセプトに、年齢層は20代から80代、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。また、現在では、これまで携わってきた公共・商業建築設計の経験と住環境ノウハウを生かして、商業建築プロジェクトや建物環境再生による商業施設の活性化プロジェクト等にもかかわっている。著書に『「住んでいる部屋」で運命は決まる! 心も空間も、スッキリさせる方法』(三笠書房)、『住む人が幸せになる家のつくり方』(サンマーク出版)、『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月15日子どものことを真面目に考える親ほど抱えがちなのが、「こうしなければならない」「こうしては駄目」という強い思いです。でも、気鋭の教育ジャーナリスト・おおたとしまささんは、「もっと肩の力を抜いていい」といいます。子ども教育において「やらなくてもいいこと」を、あえて逆説的に挙げてもらう短期連載最終回の「やらなくてもいいこと」は、「いい教育を与えなくていい」「自分で選ばせなくていい」「心配しなくていい」の3つです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)【やらなくてもいいこと10】いい教育を与えなくていいここでいう「いい教育」とは、偏差値が高いなど世間一般に「いい学校」といわれる学校に入学させるといった教育のことを指します。わたしも教育ジャーナリストという立場上、「中学受験をさせたいのですが、どの学校がいいですか?」といったことをよく聞かれます。でも、受験をしないと入学できないような中学というのは、よほどのはずれを引かない限り、どこもいいのです。また、偏差値とは別に、「モンテッソーリ教育、シュタイナー教育、イエナプラン教育のどれがいいですか?」というふうなことも聞かれます。それに対するわたしの答えは、「どこでも大丈夫」になるでしょう。そもそも、子どもには自分で学んでいく力がある。ですから、どんな学校に行ってもそのなかで自分に必要な栄養を取って成長していけるのです。また、「与える」という発想になっている時点で、その親には危険性を感じます。これは、教育虐待をしている親に多い発想です。そういう親は、子どもは真っ白なキャンバスのようなもので、いい教育を与えればいい人間に育つが、悪い教育を与えれば悪い人間に育つと信じ込んでいます。子ども自身を見つめる視線が抜け落ちいていて、教育環境に対して過剰な期待を持っているのです。もちろん、どの学校の水が合うといった相性は多少あるでしょう。でも、子どもにはそれ以上に高い適応力がありますし、教育環境のちがいがその子の人生をまったく別のものにするといったことはまずないこと。たとえば、わたしが別の高校や大学に行っていたとしても、わたしは「いまのわたし」になっていたと思います。そして、忘れてほしくないのは、「決断の良し悪しというのは、決断したときに決まるものではない」ということ。東大に入ってまったく勉強をしなかった人間と、偏差値は高くなくても入った大学で精一杯勉強をした人間なら、後者のほうがよほど多くのものを大学から得ることになります。なにかを決断したとき、その道を最善のものにする努力をいかに続けられるか、その環境を最大限に利用するかということこそが大切なのです。【やらなくてもいいこと11】自分で選ばせなくていいこれは、どんな場面でなにをするにも子どもに選ばせている、子どもに対して理解のあるリベラルな親でありたいと考えている人に向けての言葉です。たしかに、子どもが思春期に差しかかって徐々に自我が目覚めて自己主張をするようになれば、そういう考え方も大切かもしれません。でも、幼い子どもの場合ならどうでしょうか?幼い子どもにはまだはっきりした自我も判断力もありませんから、なんでもかんでも子ども自身で選ぶことはできません。幼い子どもなら本気で、「お父さんとお母さんに選んでほしい」と思っていることもあるでしょうし、子どもが「どっちでもいい」といったらどっちでもいいのです。そういうときは、ある程度、親が決めてしまっていいとわたしは考えています。子どもが自分で選びたいというときだけ選ばせてあげればそれでいい。子どもになにかスポーツをさせたいと思うのなら、周囲の環境のなかで、「ちょっと水泳教室を見てみようか」「野球チームの体験練習に参加してみる?」というふうに、いくつかの選択肢を示してあげる。それで、子どもが選べないようだったら、子どもは親を信頼しているので、「じゃ、水泳を習ってみようよ」というふうに選んであげていいのです。もちろん、無理強いしてはいけません。子どもに「お父さんとお母さんがそういうなら、やってみようかな」という気持ちがあることが大前提です。そのうち、子どもが成長して自分の意志が出てきたら、そのときは子どもの意志を尊重すればいいのです。このことには、わたしからひとつ注意してほしいことが含まれます。子どもに選ばせることにこだわる親のなかには、無理に子どもに選ばせたにもかかわらず、子どもが習い事をやめたいということになった場合などに、「あなたが選んだんでしょ!」というふうに子どもの責任にする親もいます。それでは子どもが追い詰められてしまいます。そんな事態を招かないためにも、子どもの自我が目覚めるまでは、親が選んでもいいというふうに考えてみましょう。【やらなくてもいいこと12】心配しなくていい最後にわたしから伝えたいのは、「心配しなくていい」ということ。よほど間違ったことをしない限り、子どものことを真剣に考えている親の子どもであれば、その子はちゃんと育っていきます。ですが、子どものことはどんな親でも心配してしまいますよね。そういう場合は、「心配しなくていい」なんて強く考えすぎる必要はありません。「心配しなくていい」とは、「心配しては駄目だ」というわけではないのですからね。「心配しなくていいですが、心配してもいい」。わたしはそうみなさんに伝えたいと思います。『大学入試改革後の中学受験』おおたとしまさ 著/祥伝社(2019)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:いちばんのしつけとは、子どもに〇〇を見せること。親はそんなに頑張らなくていい!第2回:いまの時代、「絵本の読み聞かせ」にこだわらなくてもいいんです。第3回:才能さがしのための「たくさんの習い事」より、もっと大事にすべきこと第4回:なんでも「自分で決めさせる」親が、子どもを追い詰めているかもしれない理由■ おおたとしまささん 過去のインタビュー記事はこちら過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある教育虐待をする親とその学歴。その教育、本当に子どものためですか?教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である失敗経験から学ぶ、学力とは異なる力がものをいう時代。受験勉強で「失うもの」とは?心が折れて立ち上がれなくなってしまう、自信家なのに自己肯定感が低い人【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。雑誌編集部を経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。『新・男子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『新・女子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』(大和書房)、『いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版社)、『中学受験「必笑法」』(中央公論出版社)、『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)、『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月09日先行きが見えないといわれるいまの時代、「子どもの将来のために」と考え、多くの「こうしなければならない」「こうしては駄目」といった思考に縛られてしまっている人もたくさんいるようです。そこで、気鋭の教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに、子ども教育において「やらなくてもいいこと」を、あえて逆説的に挙げてもらいました。短期連載第3回目の「やらなくてもいいこと」は、「習い事をたくさんさせなくていい」「子どもの疑問に答えなくていい」「未来を予測しなくていい」の3つです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)【やらなくてもいいこと7】習い事をたくさんさせなくていいいまの子どもたちは、本当に多くの習い事をしています。でも、それが子どもの大切な時間を奪っていることをどれだけ意識していますか?小さい子どもにとって必要なのは、習い事でなにかができるようになることより、「ぼーっとする時間」だとわたしは考えています。ぼーっとする時間のなかで、子どもは退屈し、「なにをしようか」と考えはじめます。その思考こそが、子どもの自発性や主体性を育むことになるのです。多くの親は、子どもにどんな才能があるかわからないからと、たくさんの習い事をさせようとします。そもそも、子どもがもっとも才能を発揮できる「ベスト」の習い事を見つけてあげたいなんて考えても、なにがベストなんてことはわかりようがありません。でも、本当に才能があることに対してなら、子ども自身が自分で反応し、「これをやってみたい!」と目を輝かせるはずです。親としての役割は、その目の輝きを見逃さないことではないでしょうか。そうして子ども自身が選んだ習い事なら、そこから子どもは、その後の人生を歩むにあたって重要なものを得ることができる。だって、「好き」ではじめたことなのですから、子どもは夢中になって取り組むでしょう。そうすれば、どんどん上達するなど成果を出すことができ、強い達成感を得られます。でも、そのうち必ず壁にぶつかって挫折を味わうことにもなる。ただ、好きなことなのですから、そこで簡単に「もうやめたい」とはいいません。そうして必死に取り組むうち、ぶつかった課題を克服して挫折を乗り越えられるはずです。その一連の経験は、生きていく過程での大きな武器になると思います。【やらなくてもいいこと8】子どもの疑問に答えなくていいかつてのわたし自身もそうでしたが、「いい親でありたい」と考える親は、子どもからなにかを聞かれると、わかりやすく教えてあげたいと考えます。でも、それでは親がただ「Google」になっているに過ぎません。いまは、なにかわからないことが出てきたら、ネット検索すればすぐに答えにたどり着く時代。親までGoogleになってしまっては、子どもが自分で考える機会を奪うことになるのです。また、「子どもが疑問に思ったことについて、親も一緒に調べてあげましょう」ということがよくいわれます。でも、多忙な毎日を送っていて、そうする時間がないという人も多いでしょう。そういう場合、子ども自身に調べさせればいいのです。子どもが庭で見つけた虫の名前を知りたいというのなら、図鑑を手渡して、「これに載っているから、調べてごらん」といえばいい。ただ、子どもに対して無関心でいてはいけません。子どもがなにかに関心を持っているということに対して親は関心を持ち、「わかったら教えてね」といってあげることも大切です。実際に子どもが教えてくれたら、「ありがとう」と伝えて、その話題をどんどん深堀りしていきましょう。また、この方法には別のメリットもある。それは、子どもが自分で疑問を解決しようと調べているうち、「寄り道」をすることです。名前を知りたい虫について調べるうちに、好奇心をくすぐられた他の虫の知識を得るといったこともあるでしょう。これは、書店で本を探すことに似ています。いまはネット通販ですぐに本を手に入れることができますが、書店に行けばお目当てのものとちがう本に興味を引かれるということもありますよね。そんな寄り道が、子どもの知識の幅を広げてくれます。【やらなくてもいいこと9】未来を予測しなくていいこれまでの人生の成功モデルが崩壊したといわれるいま、親は「子どものため」と思い、「これからはグローバル社会だから、英語力を身につけることは必須だ」といったふうに、さまざまな未来予測をしています。ですが、これだけ時代の変化のスピードが増しているのですから、正確に未来を予測することなんて不可能です。それなのに、限られた自分の知識の範囲で親が未来を予測し、「こういう力をつけておいたほうがいい」というふうに損得勘定をする。でも、そんな損得勘定に基づいて子どもを教育することは、一種のギャンブルだと思いませんか?しかも、おそらく高い確率で外れるギャンブルです。そんな危ない橋を子どもに渡らせるべきではありません。では、どうすればいいのでしょうか?それは、どんなに世の中が変わったとしても力を発揮する、汎用性の高い基礎的な力を身につけさせておけばいいのです。どんな力かといえば、それぞれの時代における自分の立ち位置やまわりの状況を観察し、「これからはこういうスキルが必要だ」と判断し、その必要なものを自分で得ていく力です。スマホにたとえれば、スマホ自体が必要なアプリを感知してダウンロードする力を持っているような状況です。それこそが、どんな時代にも通用する、「生きる力」なのではないでしょうか。『大学入試改革後の中学受験』おおたとしまさ 著/祥伝社(2019)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:いちばんのしつけとは、子どもに〇〇を見せること。親はそんなに頑張らなくていい!第2回:いまの時代、「絵本の読み聞かせ」にこだわらなくてもいいんです。第3回:才能さがしのための「たくさんの習い事」より、もっと大事にすべきこと第4回:なんでも「自分で決めさせる」親が、子どもを追い詰めているかもしれない理由(※近日公開)■ おおたとしまささん 過去のインタビュー記事はこちら過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある教育虐待をする親とその学歴。その教育、本当に子どものためですか?教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である失敗経験から学ぶ、学力とは異なる力がものをいう時代。受験勉強で「失うもの」とは?心が折れて立ち上がれなくなってしまう、自信家なのに自己肯定感が低い人【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。雑誌編集部を経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。『新・男子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『新・女子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』(大和書房)、『いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版社)、『中学受験「必笑法」』(中央公論出版社)、『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)、『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月08日過去には考えられなかったほどの大量の情報に触れる現代社会において、さまざまな教育情報に触れるうち、たくさんの「こうしなければならない」「こうしては駄目」という思い込みを抱いている人も少なくないようです。そこで、気鋭の教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに、子ども教育において「やらなくてもいいこと」を、あえて逆説的に挙げてもらいました。短期連載第2回目の「やらなくてもいいこと」は、「好き嫌いをなくさなくていい」「読み聞かせしなくていい」「子どもの問題に介入しなくていい」の3つです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)【やらなくてもいいこと4】好き嫌いをなくさなくていい小学校での給食の時間、苦手な食べ物をなかなか食べられなくて苦しんだ経験がある人は多いでしょう。もちろん、健康な体をしっかりつくるためには、好き嫌いなくなんでも食べられることが大切です。ただ、小学校で子どもたちに給食を全部食べさせようとしたのは、「なんでも受け入れられなければいけない」とか「苦手なものも我慢できないといけない」といった、精神修業的な意味合いがあったように思います。そもそも、健康な体をつくるために必要な栄養を取ろうと思えば、無理やり苦手な食べ物から取らなくても、別の食べ物からだっていくらでも取ることができますよね。たしかに、好き嫌いなくなんでも食べられるのはとてもいいことです。でも、本当に苦手なものを無理やり食べさせるようなことをする必要はないはず。というのも、そういうことを繰り返せば、子どもにとって食事の時間が楽しいものではなく、つらいものになりかねないからです。その子が、食事に対して苦い思いを持ったまま成長したとしたらどうなるでしょう?家族団らんの場の中心は食卓ですよね。でも、その子は、大人になって家庭を持っても、家族と食卓を囲む時間を楽しいと感じられない……。そんな家庭では、どこでどう家族との絆を深めるというのでしょうか。無理をして苦手な食べ物を食べることなんかよりも、「家族との食事の時間は幸せだ」と思えることのほうが、その子の人生にとってはよほど重要であるはずです。【やらなくてもいいこと5】読み聞かせしなくていい絵本や本の読み聞かせについては、教育界においていまもむかしもとても重要なものだとされています。たしかに、幼少期の読み聞かせは、子どもの世界を大きく広げる可能性が高い、親子でできるおすすめのアクティビティです。でも、なかには読み聞かせに反応を示さないという子もいるでしょう。一部には、「ディスレクシア」という識字障害の子どももいます。そういう子どもに無理やり読み聞かせをしたとしても、そこから得られるものはそう多いわけではありませんし、読書が好きになるという可能性も低いでしょう。そして、時代はどんどん変化しています。これまで読み聞かせが大きな力を発揮したのは、ペーパーテストが人生の大半を決めるという時代だったからです。文字からなんらかの情報をインプットし、文字としてアウトプットするという力が問われたのがこれまでの時代でした。しかし、2020年の大学入試改革が象徴するように、ペーパーテストで高得点を取るという能力が人生に有利に働くということは、これまでよりも減っていくとも考えられます。また、いまはインターネットの普及やIT技術の進歩により、スマホやタブレット端末用のアプリなど、これまでになかったさまざまなメディアが生まれている時代です。つまり、文字だけに頼らずとも情報をインプットできる機会が増えているのです。いまなら「YouTube」をはじめとした動画共有サイトで情報を得ることもできるでしょう。もし、子どもが読み聞かせに反応を示さないのであれば、絵本や本にこだわらず、子どもに合ったメディアをチョイスしてあげることも、これからはひとつの方法だと思うのです。あるいは、小さい子どもに対してなら、そういったメディアに頼らずともできることがあります。それは、読み聞かせではなく「語り聞かせ」です。これは、有名なシュタイナー教育で行われるものです。シュタイナー教育では、子どもたちに絵本の読み聞かせをするのではなく、先生が子どもたちの目を見ながら、物語をそらで話して聞かせるのです。そうして言葉のシャワーを浴びせることも、十分に読み聞かせの代わりになる。それどころか、絵本ではなく先生の目を見て話を聞くことで、人の話をきちんと聞く姿勢を育むことになるのです。【やらなくてもいいこと6】子どもの問題に介入しなくていい親というのは、自分の子どものこととなると、ささいなことでも心配してしまうものです。子どもが幼稚園や小学校で友だちと喧嘩したとなったら、「早く解決してあげなければ」なんて考えて、つい介入したくなるものです。もちろん、子ども同士のトラブルが長引いて、いじめにつながるような危険性があるとか、子どもが本当に深く落ち込んで心が折れているような場合であれば、親が介入することも必要でしょう。でも、そうではない多くの場合においては、子ども同士に任せておくことが大切です。というのも、それは子どもにとって大きな学びの場面だからです。コミュニケーション能力が未熟な子ども同士は、小さなことでもトラブルを起こします。そして、コミュニケーション能力の未熟さゆえに、なかなか仲直りできないということもある。でも、時間が経てば、未熟ながらも子ども同士で折り合いをつけていく。それは、社会で生きていく大人になるための大事なステップであり、コミュニケーション力を向上させるための、最良の教材です。そういった大切な機会を、「子どもが心配だから……」と、親が簡単に奪ってしまわないように気をつけてください。『大学入試改革後の中学受験』おおたとしまさ 著/祥伝社(2019)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:いちばんのしつけとは、子どもに〇〇を見せること。親はそんなに頑張らなくていい!第2回:いまの時代、「絵本の読み聞かせ」にこだわらなくてもいいんです。第3回:才能さがしのための「たくさんの習い事」より、もっと大事にすべきこと(※近日公開)第4回:なんでも「自分で決めさせる」親が、子どもを追い詰めているかもしれない理由(※近日公開)■ おおたとしまささん 過去のインタビュー記事はこちら過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある教育虐待をする親とその学歴。その教育、本当に子どものためですか?教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である失敗経験から学ぶ、学力とは異なる力がものをいう時代。受験勉強で「失うもの」とは?心が折れて立ち上がれなくなってしまう、自信家なのに自己肯定感が低い人【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。雑誌編集部を経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。『新・男子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『新・女子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』(大和書房)、『いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版社)、『中学受験「必笑法」』(中央公論出版社)、『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)、『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月07日「子どもの将来のために、いい親でありたい」と考える真面目な人ほど、「こうしなければいけない」「こうしては駄目」といった家庭教育に関する多くの情報にがんじがらめになっています。そこで、気鋭の教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに、子ども教育において「やらなくてもいいこと」を、あえて逆説的に挙げてもらいました。短期連載第1回目の「やらなくてもいいこと」は、「ガミガミ叱らなくていい」「朝は起こさなくていい」「夫婦の意見はそろえなくていい」の3つです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)【やらなくてもいいこと1】ガミガミ叱らなくていい真面目な人ほど、「きちんと子どもにしつけをしないといけない」と考えます。もちろん、それはそれで正しいことですが、注意してほしいのは「しつけ=叱る」ではないということ。どうも、厳しく叱らないと「しつけができない」と考えている人が多いようです。でも、ガミガミと叱らなくてもしつけはできる。だいたい、子どもができないことは、強い口調で伝えたからといってできるようになりません。どんなに親が「ああしなさい、こうしなさい」といってもできないのなら、「このことは、この子にはまだできないんだな」と考えるべきです。まさに成長の真っ只中にある子どもにとっては、いまはできなくても、そのうちできるようになることもたくさんあるのですから。そして、口で伝えることだけがしつけではないと思うのです。わたしが考えるいちばんのしつけとは、子どもに親が手本を見せること。あいさつなんてそれこそ手本を示しやすいものでしょう。たとえば、子どもと散歩中に幼稚園の先生など知り合いに会ったとします。子どもがあいさつをできなかったからといって、「ちゃんとあいさつしなさい」というのではなく、親が「こんにちは」と先生にあいさつをすればいい。そういう親を見て育てば、子どもは自然に「そういうものなんだな」と思ってあいさつができるようになるはずです。普段から親がそういう手本を示していれば、もし子どもがやるべきことを忘れたような場合にも、その親の手本を思い出せるはずです。あいさつのケースなら、普段からあいさつができているような子どもも、たくさんの人が集まっているような場では、その状況に驚いてあいさつを忘れてしまうこともあるでしょう。そういうときも、まずは親がまわりの人にあいさつをする。そして、「こういうときはなんていうんだっけ?」と子どもに伝えてあげれば、子どもは「そうだ!」と思い出して、あいさつできるでしょう。そういった経験の積み重ねこそが、子どもにとって最善のしつけになると思うのです。【やらなくてもいいこと2】朝は起こさなくていい「朝は起こさなくていい」といっても、誤解はしないでください。小さい子どもに、自分で目覚まし時計をセットさせ、ひとりで起きるようにしたほうがいいというわけではありません。自分ひとりで起きられるようになるのは、やはり思春期頃からのことでしょう。もちろん、小さい子どもなら親が起こしてあげる必要があります。でも、小学生にもなれば、子どもに何度声をかけても起きないのであれば、そのまま放っておいてもいいと思うのです。なぜなら、子どもに「失敗の経験」をさせることも重要だからです。ご自身がはじめて小学校に遅刻したときのことを思い出してみてください。廊下には誰もいなくて、もうすでに授業がはじまっている教室に入るだけでも緊張したものですよね。そして、教室に入ろうとしたら、友だちの注目を一身に浴びる……。その恥ずかしさといったらないでしょう。そういう失敗によって痛い目を見れば、その子は緊張感を持ってきちんと起きようとするはずです。もちろん、学校には親としてきちんと連絡しておく必要があります。まずは担任の先生に子どもが遅刻することを謝罪し、「あえて遅刻をさせるから、しっかり叱ってください」と、今後のために意図的に失敗をさせたい旨を伝えれば、先生もきっと理解してくれるはずです。【やらなくてもいいこと3】夫婦の意見はそろえなくていい夫婦というのは、とくに子どもの教育方針については互いの意見を一致させたいと考えるものです。でも、他の多くのこともそうであるように、それぞれ別の人間である夫婦の意見が完全に一致するということはあり得ないといっていいでしょう。そこで無理に意見をそろえようとすると、夫婦関係がうまくいかなくなるということにもなりかねません。もちろん、夫婦で話し合うことは大切。でも、夫婦円満のためにも、相手を論破してでも意見をそろえようとするのではなく、結論については「遊び」を持たせておくべきではないでしょうか。「こういう生き方をする人間に育ってほしい」というふうな、大まかな方向性が合っていれば十分だと思うのです。その方向性を考えるうえでのアドバイスとしては、固有名詞を使うなどあまり具体性を出さないようにすること。「東大に行くような人間に育ってほしい」「最低でも偏差値60以上の大学に行く人間に育ってほしい」といいはじめては、それこそ夫婦の意見はなかなか一致しません。そして、むしろ夫婦の意見に「幅」があることのほうが、子どもにとっては大切なことだとわたしは考えます。というのも、その幅のなかで子どもの個性が育っていくからです。実際にはあり得ませんが、仮に夫婦のあらゆる意見が一致しているという場合、子どもはその狭い価値観のなかでしか生きられないということになります。でも、夫婦の意見に幅があるほど、子どもは「このことに関しては、お父さんはこういうけど、僕の意見はお母さん寄りだな」といったふうに考えることができます。あるいは、人にはそれぞれ異なる価値観と意見があるということを知ることもできる。夫婦の意見の幅が子どもの視野を広げ、世の中の見方をつくっていくのです。そう考え、仮にシングルの人であっても、子どもの祖父母など自分以外の大人と接する機会をなるべく増やしてあげることが大切なのではないでしょうか。『大学入試改革後の中学受験』おおたとしまさ 著/祥伝社(2019)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:いちばんのしつけとは、子どもに〇〇を見せること。親はそんなに頑張らなくていい!第2回:いまの時代、「絵本の読み聞かせ」にこだわらなくてもいいんです。(※近日公開)第3回:才能さがしのための「たくさんの習い事」より、もっと大事にすべきこと(※近日公開)第4回:なんでも「自分で決めさせる」親が、子どもを追い詰めているかもしれない理由(※近日公開)■ おおたとしまささん 過去のインタビュー記事はこちら過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある教育虐待をする親とその学歴。その教育、本当に子どものためですか?教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である失敗経験から学ぶ、学力とは異なる力がものをいう時代。受験勉強で「失うもの」とは?心が折れて立ち上がれなくなってしまう、自信家なのに自己肯定感が低い人【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。雑誌編集部を経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。『新・男子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『新・女子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』(大和書房)、『いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版社)、『中学受験「必笑法」』(中央公論出版社)、『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)、『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月06日「マネー教育」が遅れていると指摘されることもある日本の教育ですが、間もなくはじまる新学習指導要領による公教育において、ようやくマネー教育が取り入れられる予定です。とはいえ、それもまだ先の話。グローバルに活躍する人の目には、現在の日本人のお金に対する姿勢はどのように映っているのでしょうか。お話を聞いたのは酒井レオさん。ニューヨークで生まれ育ち、アメリカの大手銀行であるバンク・オブ・アメリカでは歴代最年少で全米営業成績1位となった、それこそグローバルに活躍する日系アメリカ人です。酒井さんが考える、家庭でできるマネー教育とはどんなものでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)人生をうまくコントロールするにはお金の知識が必要ようやく日本でも「マネー教育」という言葉が聞かれるようになりましたが、それでもやはり日本人のお金に対する知識はまだまだ足りていないように思います。人生においてお金という存在は欠かせないものですから、もう少し自分の人生をうまくコントロールするためにも、お金や経済の勉強をしっかりしてほしいですね。これはもちろん、子どもに限った話ではありません。そもそも、親世代のお金に関する知識が乏しいのです。「あなたが加入している保険はどんなプランですか」。――そう聞かれて、すぐに答えられないという人も多いのではないでしょうか。子どもをきちんとお金とつき合える人間に育てるためにも、まずは親がお金というものに対してもっとアンテナを張る必要があるように思います。もしかしたら、子どものほうがお金に対しては敏感かもしれませんね。僕はコーチとして子どもたちにサッカーを教える活動もしているのですが、そこで教え子からこういう話をされたことがあります。「コーチ、ビル・ゲイツってどれくらい稼いでいると思う?」「1秒で5万円なんだって!」。数字というものはすごくわかりやすくて、なにかと比較するにも使いやすいものですよね?せっかく子どもがお金に興味を持って、そういったお金に関する会話を持ちかけてきてくれたのなら、「ふーん、そうなの」なんて返答で終わらせるのではなく、親もその会話に乗ってあげてほしいのです。子どものまえに親自身がお金の知識を高めるでは、マネー教育が足りないまま大人になると、どういうデメリットがあると考えられるでしょうか。それは「自分の価値を表現できない」ということです。日本では、就職活動をする求職者は「仕事をください!」「お願いします!」という姿勢で面談に臨みますよね?それに対して雇用する側の会社が「うちの給料はこうだから」と提示する。求職者はその提示をただ飲み込むだけ……。それでは、自分の人生をコントロールしているとはいえません。そうではなくて、「自分にはこういう経験やスキルがあるから、給料をいくらにアップしてほしい、こういう部署に配属してほしい」というふうに、自分の価値を売り込めなければならないのです。もしそういう売り込みがきちんとできたのなら、就職初年度から年収が550万円になったかもしれないのに、そうしないがために年収が350万円になったとしたら……悲しいと思いませんか?そういう自分の売り込みをきちんとできる人間に子どもを育ててあげるため、まずは親自身がお金の知識を高めましょう。それも、つねに最新の状況を知り、最新の知識を身につけることが大切でしょう。それはもちろん、お金をめぐる状況というものは、時代によってどんどん変わっていくものだからです。日本だけでなく世界のお金事情にも目を向ける数十年前の日本なら、普通預金でも金利が7%、8%というケースもありました。ところが、いまは0.001%といった超低金利の時代です。子どもの頃に親にいわれたそのままに、いまもただ普通預金にお金を預けているだけという人がいるなら、お金とうまくつきあっているとはいえないでしょう。きちんといまのお金をめぐる状況を知り、親自身の知識を高めるために、自分で勉強したり、あるいはファイナンシャルアドバイザーに相談してみたりすることを考えてみましょう。それも、できれば日本だけじゃなく、世界のお金事情を知ってほしい。お金をめぐる状況というのは、それぞれの国で別々のものだと思われがちですが、実際にはすごく似ているという面があるからです。そして、それぞれの国ではどんな政策を取っているのか、その国の人々はどんな資産管理をしているのか。そういったことにも興味を持ってほしいと思います。その際、海外メディアの記事を読んで勉強することになるかと思いますが、注意してほしいのは、日本人が訳した情報はあまり見ないようにしてほしいということ。翻訳するときには、どうしても元の記事が持っているエッセンスが抜け落ちてしまうからです。そういう翻訳記事を読んでいるだけでは、自分の思考を変えることはできません。思考を変えるためには、現地の思考をそのまま頭に入れることが大切です。家庭でのマネー教育では「コスト」を意識するそして、子どもに対して家庭でできるマネー教育というと、なにより「コスト」というものを教えてあげてほしいですね。そうすることで、ものの価値、お金の価値を子どもは理解していきます。たとえば、子どもがなにかを壊してしまったとします。「大丈夫?」とけがをしていないか心配し、確認してあげることは当然のこと。加えて、それがいくらしたものなのかを教えてあげるのです。小学校中学年になれば四則計算ができます。食事やおやつの時間にただ食べるのではなく、「今日のおやつはいくらかかっていると思う?」と子どもに考えさせてみてください。あるいは、普段から身につけている服や靴下がいくらなのか、そういう身近なものを通じてものの価値を教えてあげましょう。その頃になれば、子どもは新聞の求人欄を見て内容を理解することもできるはずです。アルバイトの時給は1000円程度のものでしょう。求人欄を見て、子どもは自分が欲しいものを買うにもどれだけの労働が必要かということも理解し、数字にうるさい人間に育つはずです。数字にうるさいというと、ケチというか、あまりいいイメージを持たれないかもしれません。でも、お金を適切に扱えるということを思えば、間違いなく、数字にうるさいほうが将来的にちゃんとした人間に育つと思うのです。『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』酒井レオ 著/アスコム(2019)■ 全米No.1バンカー・酒井レオさん インタビュー一覧第1回:「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの第2回:子どもの教育に「いまはまだ必要ない」は禁句。「いますぐはじめる」のが成功への道!第3回:「数字にうるさい子ども」は将来明るい!全米No.1バンカーが教える“コスト意識”の育み方【プロフィール】酒井レオ(さかい・れお)アメリカ・ニューヨーク出身。NPO法人Pursue Your Dream Foundation創業者。Advanced Millennium Consulting Inc.代表取締役。Little Monster Inc.共同経営者。ワシントン大学を卒業後、JPモルガンを経てコマース銀行にてマネージメント・デベロップメント・アソシエーツプログラム(MDA)を取得。管理職に就く。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年に歴代最年少で全米営業成績1位となる。同年、アメリカンドリームをつかむために渡米するすべての人を応援するNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立。2010年には日本にグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関PYD JAPANを設立。2018年、ニューヨークを本拠地とする、最新テクノロジーを切り口に、教育支援、メディア運営、投資事業を通して若者を応援するLittle Monster Inc.の共同経営者として始動。著書に『全米No.1バンカーが教える 最強の気くばり』(サンマーク出版)、『NY式「超一流の営業」の基本』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年09月04日子どもには大きく世界に羽ばたくような人間になってほしい――。子どもを持つ親なら、どこかでそんな期待をするかもしれません。そんなスケールが大きな人間になるには、いま、どんなスキルを身につけるべきなのでしょうか。過去にはアメリカの大手銀行で全米営業成績1位となり、現在はグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関・PYD JAPANの代表である酒井レオさんにお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)脳全体をバランス良く鍛えるSTEAM教育わたしが代表を務めるPYD JAPANでは、「STEAM教育」を推し進めることにも注力しています。STEAM教育という言葉をはじめて耳にするという人に少しかいつまんで解説しましょう。そもそも、STEAM教育以前に「STEM教育」というものがあります。STEMは「Science, Technology, Engineering and Mathematics」の頭文字。つまり、STEM教育とは「科学、技術、工学、数学の教育」であり、ITやAIがどんどん身近になっているいま、とても重視されている教育です。でも、一見してわかると思いますが、どうにも分野が偏っていますよね?すべてが理系のロジカルな分野です。そこで、STEM教育に、まったく異なる分野の「Art(アート)」を取り入れたものが「STEAM教育」と呼ばれ、注目を集めているわけです。STEM教育にアートを取り入れると、どんなメリットがあるのでしょうか。それは、使う脳の偏りをなくすということです。ロジカルな分野のSTEMに使う脳は左脳、一方でアートに使う脳は右脳です。つまり、STEAM教育は脳全体をバランス良く鍛えることができる教育といえるのです。子どもになにかを学ばせるには親が一緒に体験するわたしたちが行っているSTEAM教育をテーマにしたセミナーやイベントで重視していることは「まず親にわかってもらう」ということ。STEAM教育とはどんなものなのか、その良さはどこにあるのか、親が理解してはじめて子どもに伝わるのです。小学生の算数の勉強なら、親も教えることができますよね?でも、子どもが中学生になって、算数から数学になると……。当時の記憶があいまいで、親は「もう子どもに教えることができない」と、急に塾に頼ったり、子どもに家庭教師をつけたりするケースが大半だと思われます。これをいまのSTEAM教育に置き換えてみましょう。たとえば、子どもにプログラミングを習わせるとします。おそらく、そのスキルを身につけているという親はごく少数のはずです。そのため、子どもをプログラミング教室に通わせるにも、どんな教室がいいのか、どんな先生がいいのかという判断基準を親は持っていません。であるのならば、親もそのプログラミング教育を実際に受けてみればいい。そうして、「これだったらわかりやすい」「簡単にプログラムを書けそう」と思えたなら、親も子どもを教室へ送り出しやすくなるはずです。プログラミングに限った話ではありませんが、子どもになにかを学ばせたいと思うのなら、親自身がまずは体験するべきなのです。実際にこのような考えから、PYD Japanでは今年の4月から、FLAP&PLAYという親世代や社会人向けのプログラム講座を開講しました。わたしが耳にしてびっくりしたのは、日本では大学生の就職活動に親がついていくケースもあるという話……。そうではなくて、自分ひとりでは外に向かって出ていけない、ものごとを決められない子どものときにこそ、親がついて行って一緒に体験してあげるべきです。「いますぐはじめる」から将来に余裕が生まれる先にSTEAM教育の一例としてプログラミングを挙げましたが、これからの時代に間違いなくもっとも重要な教育のひとつになるのがそのプログラミングです。というのも、これからいわゆるエリート層のトップに立つのは、エンジニアなどプログラミング技術を身につけた人間だからです。『Google』や『Apple』が世界のトップ企業になっていることを思えば、それはすでに現実になっていますよね。わたしのまわりでも、その潮流は見て取れます。わたしが生まれ育ったのはニューヨークのタイムズスクエア地区で、そこは基本的に裕福な人たちが住んでいるエリアです。じつは、少し前にわたしが35年間住んだ家を売りに出したのですが、購入を検討するために家を見に来る人たちはエンジニアばかりでした。わたしが子どもの頃というと、そのエリアに住んでいたのは、弁護士、医師に会計士といった職業の人たちでした。それだけ、いまはエンジニアの地位が上がっているということです。でも、プログラミングを学ぶ必要があるのは、エンジニアを目指す子どもだけではありません。これからは、あらゆる分野の仕事にAIやIT技術が取り込まれます。弁護士も医師も会計士も銀行員も、どんな職業に就く人間でも、一流になろうと思うのなら、プログラミングのスキルを身につける必要があるでしょう。それはもはや時代の潮流であり、避けられない道といえます。いい見本となる人がいます。それは、わたしの母です。母はファッションデザイナーなのですが、いまから15年前の50歳のときに突然プログラミングの勉強をはじめました。2年間ほど毎晩ひたすら勉強をして、いまはそれがしっかり仕事につながっています。時代の先になにが必要とされるのか――。自分を進化させていこうと必死に考えている人には、そういうものがしっかり見えているものなのです。「いますぐには必要ないものだから」「いまはなんとかなっているから」なんていっている場合ではありません。いまからはじめるからこそ、10年後、15年後の自分にある程度の余裕が生まれる――。そういうふうな発想を持って、子どもの教育について考えてほしいですね。『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』酒井レオ 著/アスコム(2019)■ 全米No.1バンカー・酒井レオさん インタビュー一覧第1回:「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの第2回:子どもの教育に「いまはまだ必要ない」は禁句。「いますぐはじめる」のが成功への道!第3回:「数字にうるさい子ども」は将来明るい!全米No.1バンカーが教える“コスト意識”の育み方(※近日公開)【プロフィール】酒井レオ(さかい・れお)アメリカ・ニューヨーク出身。NPO法人Pursue Your Dream Foundation創業者。Advanced Millennium Consulting Inc.代表取締役。Little Monster Inc.共同経営者。ワシントン大学を卒業後、JPモルガンを経てコマース銀行にてマネージメント・デベロップメント・アソシエーツプログラム(MDA)を取得。管理職に就く。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年に歴代最年少で全米営業成績1位となる。同年、アメリカンドリームをつかむために渡米するすべての人を応援するNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立。2010年には日本にグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関PYD JAPANを設立。2018年、ニューヨークを本拠地とする、最新テクノロジーを切り口に、教育支援、メディア運営、投資事業を通して若者を応援するLittle Monster Inc.の共同経営者として始動。著書に『全米No.1バンカーが教える 最強の気くばり』(サンマーク出版)、『NY式「超一流の営業」の基本』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年09月03日島国である日本においても急激なグローバル化が進む現在、できることなら海外で力を発揮できる人間に育てたいと考え、幼いときから英語教室に通わせているという親も多いことでしょう。では、世界で活躍できる人間にはどんな力が必要なのでしょうか。お話を聞いたのは酒井レオさん。酒井さんはニューヨークで生まれ育ち、アメリカの大手銀行であるバンク・オブ・アメリカに勤めていたときには、歴代最年少で全米営業成績1位となった、それこそエリート中のエリートです。意外なことに、酒井さんによれば、「極端な話、英語力は必要ない」とのことですが、その理由はなぜでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)かつての日本人エリートは本物のエリートだったいまでこそ、日本には世界で活躍できるエリートが育たないといわれますが、以前は全く違いました。戦後、経済大国・日本の基礎をつくった70代、80代くらいの日本人エリートは本当のエリートだったように思います。彼らは、英語をしゃべることはそれほど得意ではなかったかもしれませんが、読み書きに関してはネイティブの人よりもできるほどでした。ただ、残念なのがその少し下の50代や60代の世代。年功序列制度もあったうえに、いわば上の世代のおこぼれにあずかって、大した苦労や努力をしなくてもある程度の成果を挙げられました。だからこそ、経済が低迷しはじめても立て直す手立てがわからない……。そのことが、この30年間ほどの日本経済の低迷を招き、日本という国を苦しめてきた原因だとわたしは見ています。また、その世代による不利益をこうむっているのが30代や40代の世代でしょう。50代、60代に本当の意味でのエリートが少ないがために、きちんと支えてくれ、導いてくれる上司も少ないからです。日本人は日本人の良さを忘れかけているいま、エリートといわれる人たちも含め、日本のビジネスパーソンを見ていて思うのは、「日本が大切にしてきたものや日本人の良さを忘れかけているのではないか」ということです。たとえば感謝の気持ちや礼儀がそうですよね。それこそ、日本人がずっと大切にしてきたものではありませんか。でも、いまはそれらを軽視している日本人が多いように思うのです。でも、世界のトップレベルに上り詰める人間に必要なものは、時代によって変わるものではありません。いまもむかしも、世界で活躍する人間は、生まれた国はどこであれ、きちんと感謝の気持ちや礼儀を持ち合わせているものです。それらがあったうえで、実力が問われるのですから。いま、日本人は「アメリカの個の強さ」だとか「中国のアグレッシブさ」を身につけようとしています。でも、日本の良さをなくしてしまってそれらで補おうとするのは間違いです。どんなに外国文化の長所を身につけても、日本人は日本人なのです。その事実は変えられませんし、変わる必要もない。だとしたら、「ハイブリッド」になるということを考えるべきではないでしょうか。どちらかではなく、日本の良さと他国の良さを結合することが必要なのだと思います。ニューヨーカーの目に映る日本人の長所と短所先に感謝の気持ちや礼儀を日本人の良さとして挙げました。でも、本来の日本人の良さはそれだけではありません。たとえば、「あうんの呼吸」なんて言葉があるように、なにもいわなくても目で空気を察する力は非常に優れていると思います。ニューヨークで生まれ育ったわたしからすれば、「日本人が宇宙人にいちばん近い」なんて思うほどです。それだけでなく、たいていのことの基礎能力に関しても日本人は秀でています。ただ、基礎能力が高いがゆえに、基礎に縛られているのでしょう。「ルールにのっとったこと」しかできない側面もあることが残念なところです。それこそ、クリエイティビティーという部分では、世界と比べれば見劣りするように感じます。さらには、自分なりにものごとをとらえて解釈することも苦手なようです。たとえば、「今日、日経平均株価がいくら下がった」という事実をいくら頭に入れてもなにも生まれません。「なぜ下がったのか?」ということを自分なりに考え、自分の意見を述べるということができないのです。「意見を述べる」という点では、「察する力」に長けている反面、アウトプット能力に劣っている印象です。多くの日本人に、自分が伝えたいことをきちんと伝えられないという特徴が見られます。日本の教育に取り入れるべき海外の価値観ここで、みなさんにひとつ質問をしましょう。子どもを世界で活躍するような人間に育てたいと思った場合、次のふたつの人物像のうち、どちらの人間になってほしいと思いますか?A:英語力がすごく高くて、プレゼン力がすごく低い人材B:プレゼン力がすごく高くて、英語力がすごく低い人材日本人には英語ができないことをコンプレックスに思っている人が多いですから、もしかしたら「A」を選ぶ人が多数派かもしれませんね。でも、世界で活躍するのは間違いなく「B」です。考えてみてください。周囲の誰もが英語圏出身の人たちだったとして、そのなかで秀でた存在になろうと思えば、突出したプレゼン力は大きな武器になります。英語なんて通訳に任せればいいのです。ただ英語が話せるだけの人が注目を集めるわけがありませんよね。日本人に限らないことかもしれませんが、人はつい自分のコンプレックスにばかり捉われてしまうものです。そうではなくて、子どもを世界で戦える一流の人間に育てたいと思うのなら、そういう人間に本当に必要な力はなにかと考え、ゴール設定をもっと大きくしなければなりません。そのためにも、ゴール設定が小さくなるような教育は見直すべきでしょう。日本のほとんどすべてのテストは、正解がひとつだけというものです。「1+1=□」と問題が出されれば、「2」以外の正解はありません。正しいレールから外れてはならないという教育です。一方で、海外の多くの国では「1+□=□」といった形式の出題もされます。正解はひとつではない。それだけ、「自由に考える力」を身につけられるわけです。そう考えると、子どもがお絵描きをするというときに、見本を渡して「この通りに描きなさい」なんてことは間違ってもいってはいけないとわたしは思います。自由に描かせて、それこそ紙からはみ出すようなことがあっても、「クリエイティブだね!」と褒めてあげればいいのです。日本の教育だけではなく、海外の教育にも目を向けて、日本とはちがう価値観を取り入れる――。それこそ、「ハイブリッド」の考えが教育にも必要なのではないでしょうか。『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』酒井レオ 著/アスコム(2019)■ 全米No.1バンカー・酒井レオさん インタビュー一覧第1回:「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの第2回:子どもの教育に「いまはまだ必要ない」は禁句。「いますぐはじめる」のが成功への道!(※近日公開)第3回:「数字にうるさい子ども」は将来明るい!全米No.1バンカーが教える“コスト意識”の育み方(※近日公開)【プロフィール】酒井レオ(さかい・れお)アメリカ・ニューヨーク出身。NPO法人Pursue Your Dream Foundation創業者。Advanced Millennium Consulting Inc.代表取締役。Little Monster Inc.共同経営者。ワシントン大学を卒業後、JPモルガンを経てコマース銀行にてマネージメント・デベロップメント・アソシエーツプログラム(MDA)を取得。管理職に就く。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年に歴代最年少で全米営業成績1位となる。同年、アメリカンドリームをつかむために渡米するすべての人を応援するNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立。2010年には日本にグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関PYD JAPANを設立。2018年、ニューヨークを本拠地とする、最新テクノロジーを切り口に、教育支援、メディア運営、投資事業を通して若者を応援するLittle Monster Inc.の共同経営者として始動。著書に『全米No.1バンカーが教える 最強の気くばり』(サンマーク出版)、『NY式「超一流の営業」の基本』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年09月02日「読書」が子どもにもたらしてくれるものというと、国語の文章問題に強くなるといった学習面のメリットをイメージする人が多いかもしれません。でも、「そういったこと以上に大切なものがある」と、屈指の名門校、麻布中学・高校の国語科教諭である中島克治先生はいいます。その大切なものとは、「批評する力」「自ら考える力」を養えること。その理由と併せて、子どもを本好きにする方法も教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)言葉を知ることは「考える、感じ取る」ことの下地読書はいくつになっても大切なものですが、できればなるべく幼い頃から子どもが親しむことができるように導いてあげてほしいですね。というのも、中学生、高校生になると、子どもでも忙しくなってきて本を読む時間が取れなくなってしまうからです。子どもが本当に時間を気にせず本と向き合えるのは小学生までだと考えていいでしょう。読書は子どもにたくさんのものを与えてくれます。本を読んで言葉を覚えるということは、言葉と自分の間にある壁をなくすということであり、言葉によってものごとを考える、感じ取ることの下地になっていきます。読書をして語彙が増えれば、教科書の内容や先生の話をしっかり理解できるのですから、学力の向上にもつながります。また、読書によって増えた語彙は、感情コントロールという点でも力を発揮します。というのも、言葉によって自分の感情を相対化して見つめ直すことができるようになるからです。興味があることなら「読み癖」がつくでは、子どもはどんな本を読むべきなのでしょうか。親が読んでほしい本でもいいのですが、やはり子ども自身が興味を持つものがベストでしょう。内容は問いません。誰もが物語を好むわけではないのですから、たとえば野球やサッカーが好きな子どもなら野球雑誌やサッカー雑誌でも構わないのです。そういった雑誌にはいろいろな選手のインタビュー記事が載っていて、彼らが活躍した試合やそうでなかった試合などのデータも掲載されています。子どもが興味を持っている分野の雑誌ですから、書かれていることもすんなりと頭に入ってきますし、なによりもそれらの雑誌には、選手たち、人間のドラマが描かれています。そういうドラマに触れることは、子どもたちの心のなかと外の世界を結ぶ架け橋になり、もっといえば子どもが世界とかかわっていくときの羅針盤にもなるのです。また、どんな本でも子ども自身の興味に従って読むことのメリットには、興味があるからこそ読み続けることになり、「読み癖」がつくということもあります。この読み癖がとても大切なのです。読み癖について、スポーツ雑誌の例で考えてみます。たとえば不甲斐ない成績に終わったある選手の試合後の記事を読めば、「次はどうなるだろう?」と子どもは「続編」にあたるような記事を求めるようになる。当然、次号も読むことになり、しかも、その表現にまで注意を向けるようになります。次の試合でその選手が大活躍をしたとして、「この活躍をどんな文章にするのかな?」といった思いを持っているからです。この行為は、書かれているものに対して受け身ではなくなっているということに他なりません。つまり、積極的にアクティブに活字に触れる姿勢が生まれているのです。加えるならば、「批評する力」が育っているということでもある。先の例の子どもが次号を読んで、「あれ?」と違和感を覚えたとします。そう感じるのは、書かれていることがすべて正しいのではなく、自ら考える、批評力が育っているからです。これは、いわゆる「考える力」が重要だとされるいま、とても重要なことではないでしょうか。親が書店にいる時間を増やせば子どもは本に興味を持つここまではあくまでも理想であって、「子どもが自分から進んで本を読んでくれない」という悩みを抱えている人も多いはずです。そういう場合は、やはり子ども自身が興味を持っていることを親がつかむことが大切になる。そして、それらに関する本を与えるのです。そうすれば、本によって自分が興味を持っている世界が広がるという体験を子どもにさせてあげることができます。また、読むこと自体が苦手だという子どももいます。そういう場合には読み聞かせをしてあげましょう。全部を読む必要はありません。最初の何ページかを読んであげるだけで十分です。子どもは続きが気になって自発的に読むということもあるからです。大人だってそうですよね。映画の冒頭の数分だけを観せられたら、続きを観たくなるでしょう?それから、同じ作品が映像と本の両方になっているものもおすすめです。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』なんて何度も映像化されていますし、宮崎駿監督の映画作品もいくつもノベライズされています。そういったものであれば、子どももすんなり本に入っていけるのではないでしょうか。そして、子どもに本への興味を持たせるもっとも簡単な方法は、親が子どもを連れて書店や図書館に行く時間を増やすこと。親が書店や図書館に長くいれば、子どもは大好きなお父さんやお母さんが本に興味を持っている、本を大切なものだと思っていることを体で感じ取ることができます。しかも、そういった場所には見たこともない世界を描いた本がいくらでもある。そのような場所に接することで、子どもは自然に好奇心を刺激されて本の世界に近づいていくはずです。『本物の読解力をつけることばパズル 入門編』中島克治 著/小学館(2019)■ 麻布中学・高校国語科教諭・中島克治先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「言葉の力」を伸ばすには?名門麻布の国語教師が説く“親の心得3か条”第2回:先取り学習はこんなに危険。「した子」の成績が「しなかった子」に抜かれるのはなぜ?第3回:麻布中高の国語教師が断言。「絵本の読み聞かせ」の教育効果はやっぱり絶大だった!第4回:我が子に“読書好き”になってほしいなら。ぜひ身につけさせたい「読み癖」とは【プロフィール】中島克治(なかじま・かつじ)1962年生まれ、東京都出身。麻布中学・高校を経て東京大学文学部卒業。東京大学大学院博士課程修了。現在、私立麻布学園麻布中学・高校国語科教諭。『本物の読解力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『一生役立つ! 子どもの本当の読解力をグッと引き出す方法』(PHP研究所)、『1話5分! 12歳までに読みたい名作100』(新星出版社)、『小学生クロスワードBOOK 1・2・3年生』(星雲社)、『本物の国語力をつけることばパズル 中級編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 入門編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『夏目漱石ほか文豪名著 書き写しノート』(朝日新聞出版)、『小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚』(小学館)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月27日むかしから家庭教育の大定番であるのが「絵本の読み聞かせ」です。それが子どもの成長に与える効果については、屈指の名門校、麻布中学・高校の国語科教諭である中島克治先生も手放しで絶賛します。絵本の読み聞かせは、子どもになにをもたらしてくれるのでしょうか。中島先生が「計り知れない」と語るその効果を教えてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)絵本の読み聞かせが子どもの心を豊かにする日々、進化を続ける子ども向け教材ですが、やはりむかしながらの「絵本の読み聞かせ」は、いまも変わらず最高の教育ツールといえます。お父さん、お母さんに絵本を読んでもらえる時間は、子どもにとってはまさに至福のとき。親子の強い絆を生んでくれるものです。そして、絵本の読み聞かせは子どもの心を成長させてくれます。絵本というものは、言葉の世界とイマジネーションの世界がぴたっとつながっていくものです。言葉によってイマジネーションをつくっていく、あるいは絵で表現されているものを言葉で補っていく。そのプロセスは、幼い子どもの脳にとっていちばん大切なものといっても過言ではありません。それが子どもの心を豊かにしていくのですからね。教育熱心な親であれば、絵本の読み聞かせによって「読解力」を得られるのかという点も気になるでしょう。その疑問に対する答えは、もちろん「YES」です。小学校での国語のテストでは「この場面での登場人物の気持ちを答えなさい」という問題が出されますよね?その問いに解答するために必要なものとはなんでしょうか。それは、「共感力」です。その力を絵本が高めてくれます。たとえば、みなさんにもおなじみのかぐや姫が物語の最後に月に帰っていく場面をイメージしてください。そこでは、かぐや姫もおじいさんもおばあさんも別れを惜しんで悲しんでいます。実際には別れというものの重みが子どもにはまだわからないにしても、自分から切り離された物語の世界として仮想的に別れを感じることができる。それは、ある種、社会的な常識を学んでいるともいえます。子どもはその過程を経て、「どういう世界のどういう状況に置かれた人間がどういう感情を抱くのか」ということを知っていきます。そうやって、共感力が磨かれていくわけです。いまの世界に必要な「思いやりと優しさ」その共感力は、子どもの内面にも大きな影響を与えます。絵本の世界に触れている子どもとそうではない子どもには、「思いやりと優しさ」という点で大きなちがいが出るように思います。もちろん、思いやりと優しさを持つことができるのは、絵本の世界に触れている子どものほうです。いまの世界は弱肉強食とまではいわないまでも、どこか殺伐としたところがあるものです。価値観が単純化していて、「勝つことがいいこと、強いことがいいこと」だと多くの人がとらえています。だからこそ、負けること、弱いことを見下す風潮もどうしても出てくる。そういう世界ですから、弱い子どものなかではどんどん劣等感が膨らむし、そうではない子どもは優越感を持つために差別的になることも多いように感じます。でも、絵本の世界に触れていたとしたらどうでしょうか。絵本は、そもそも作者である大人が「こういう子どもになってほしい」「こういう世界が大事だよ」と考えて、絵と文章で子どもに訴えている内容がほとんどです。そこには、子どもに対する大人の強い願い、思いが込められています。そういう絵本を親が媒介して子どもに触れさせてあげれば、殺伐とした日常生活とは切り離されたところで「心の大切さ」を感じることになり、子どもは自然と思いやりや優しさに重きを置くようになるはずです。そういう子どもなら、たとえ目の前の世界がどれだけ殺伐としていて、タフな者しか勝ち残れないようなものに見えるとしても、その競争からこぼれ落ちること、こぼれ落ちた者にも価値を見出していけるのではないでしょうか。子どもが求める限り読み聞かせをしてあげようさて、絵本の読み聞かせというと、「何歳くらいまでやってあげればいいの?」という疑問を持っている人もいるかもしれません。その答えは、「子どもが聞いてくれるうちはいつまででも」です。子どもはある日突然大人になるわけではありません。ある部分は大人に近づいても、ある部分は子どものままというふうに、凸凹した状態で成長していきます。それは大人になったあとも変わらないのではないでしょうか。誰のなかにも大人の心と子どもの心が共存しています。そして、読み聞かせを求める子どもの心があるうちは、いつまでだって絵本の読み聞かせをしてあげればいいと思うのです。子どもは絵本の読み聞かせを通じて、絵本の内容とは別のものも受け取っています。それはたとえば親が自分のそばのいてくれることだとか、親が自分のために時間を使ってくれている、心を使ってくれているということです。それらの安心できる時間の大切さというのは、小学生になる前の幼い子どもでも、小学生でも変わらないはずです。子どもが求める限り、いつまでだって読み聞かせをしてあげてください。『本物の読解力をつけることばパズル 入門編』中島克治 著/小学館(2019)■ 麻布中学・高校国語科教諭・中島克治先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「言葉の力」を伸ばすには?名門麻布の国語教師が説く“親の心得3か条”第2回:先取り学習はこんなに危険。「した子」の成績が「しなかった子」に抜かれるのはなぜ?第3回:麻布中高の国語教師が断言。「絵本の読み聞かせ」の教育効果はやっぱり絶大だった!第4回:我が子に“読書好き”になってほしいなら。ぜひ身につけさせたい「読み癖」とは(※近日公開)【プロフィール】中島克治(なかじま・かつじ)1962年生まれ、東京都出身。麻布中学・高校を経て東京大学文学部卒業。東京大学大学院博士課程修了。現在、私立麻布学園麻布中学・高校国語科教諭。『本物の読解力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『一生役立つ! 子どもの本当の読解力をグッと引き出す方法』(PHP研究所)、『1話5分! 12歳までに読みたい名作100』(新星出版社)、『小学生クロスワードBOOK 1・2・3年生』(星雲社)、『本物の国語力をつけることばパズル 中級編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 入門編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『夏目漱石ほか文豪名著 書き写しノート』(朝日新聞出版)、『小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚』(小学館)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月26日小学校入学前の子どもを持つ親であれば、いわゆる「先取り学習」を子どもにさせるべきかといちどは考えたことがあると思います。子どもが小学生になるときには、親の側もいろいろと不安を抱えているものです。それらの不安を取り除いてもらうべく、屈指の名門校、麻布中学・高校の中島克治先生にアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)就学前の「先取り学習」は必要ない有名小学校の「お受験」を考える場合は別ですが、基本的には就学前の先取り学習は必要ないとわたしは考えています。わざわざ先取り学習というかたちを取らなくても、ひらがなや数字は絵本のなかにも出てきますよね?親が絵本を読み聞かせをするだけでも、結果的に子どもはひらがなや数字がだいたいわかるようになります。また、単語についても、いろいろな出版社が出版している「ことばと絵じてん」といった本を与えるだけで十分。子どもは自分の好奇心に従って、自然と語彙を増やしていきます。それから、幼児の頃から英語を学ばせている家庭もあるでしょう。でも、ずっと続けられるならともかく、やめてしまうと学んだ英語も綺麗に忘れていくものです。わたしの子どもも幼いときに英語塾に通わせませましたが、やめたらやっぱりすぐに忘れてしまいましたからね……(苦笑)。もちろん、子どもが英語を学んでいるあいだの時間はすごく充実しているのでしょうし、それが悪い時間ということではない。「定着」ということを前提とせず「楽しむ時間」と考えるのなら、英語塾に通わせてもいいかもしれません。「知育」ではなく「体育」の先取り学習が大切そもそも、小学校に入学した時点での学力の差というものにはあまり大きな意味はありません。入学直後には、たしかに先取り学習をした子どものほうが成績は優秀です。でも、その後は成績が逆転してしまうことも珍しくありません。というのも、先取り学習をした子どもは、「これは勉強したことがある」なんて思って先生の話をまともに聞いていないことがあるのに対し、先取り学習をしていない子どもは一生懸命に先生の話を聞くからです。そうして、先取り学習をしなかった子どもが先取り学習をした子どもにただ追いつくだけではなく、加速度がついて追い抜いてしまうのです。そういう意味では、下手に先取り学習をさせることは危険だと見ることもできる。先生の話を上の空で聞くことが学習態度として定着することも考えられますし、最初に成績が良かった子どもが後からどんどん抜かれてしまうと、劣等感を持ってしまうかもしれないからです。先取り学習をさせるにしても、小学校入学後にはこれらの点に注意すべきではないでしょうか。わたしとしては、そういった「知育」の先取り学習ではなく、「体育」の先取り学習をすることをおすすめします。小学校に入学した直後は、まずは友だちと一緒に動けることが大事です。友だちから鬼ごっこやキャッチボールに誘われたらすぐに動けるか、あるいは逆に自分からなにかを提案できるか。それが、友だちと適切な関係を築き、すんなり学校生活になじんでいくことにつながるからです。大切になるのは、運動能力の高さではなくて、人に合わせられる感覚です。ですから、なにかのスポーツ教室に通わせるような必要はありません。子どもと一緒になってキャッチボールやサッカーをして遊んだり、公園で鉄棒などに触れさせたりというふうに、子どもの体の「経験値」を増やしてあげることをおすすめします。いまの親はとにかく「不安」でいっぱいそもそも、先取り学習に注目が集まるのも、いまの親の多くが「不安」だからなのでしょう。核家族化が進んだうえ、隣近所との関係性もかつてより薄まっているので、親は自分たちだけで家庭教育をしなければなりません。しかも、教育に関するたくさんの情報が入ってくるにもかかわらず、その多くは「こうしちゃいけない」「こうしなければならない」という内容のものがほとんど……。そんな時代ですから、親が不安になるのも仕方ありません。不安を抱えている親なら、小学校に上がった子どもの学校生活のことも気になることでしょう。学校から帰ってきた子どもに、学校での出来事をつい根掘り葉掘り聞きたくなるかもしれません。ただ、そういう聞き方だと子どもはなかなか話してくれないということもありますから、「待つ」ことをおすすめします。聞きたい気持ちをぐっと我慢して家事をしたりくつろいでいたりすれば、子どもは「ねえねえ」なんていって自分から話をしてくれるものですよ。そして、そんな不安に駆られている親にこそ「なにがあっても大丈夫」という気持ちを子どもに対して持ってほしいですね。『だいじょうぶ だいじょうぶ』(講談社)という絵本があります。これは、お子さんというより親に読んでほしい内容です。その絵本に登場する子どもは、自分の世界が広がるにつれて新しいことや楽しいことに出会う一方で、困ったことや怖いことにも出会います。そのたびにおじいちゃんがその子の手を握って「だいじょうぶ だいじょうぶ」とつぶやいてくれる。その瞬間は困ったり怖かったりしても、時間が経つにつれて状況が好転していくことを、おじいちゃんは人生経験を通じて知っているからです。親まで不安になっていれば、子どもも不安になります。みなさんにはそのおじいちゃんのように子どもに対して接してあげてほしいと思うのです。『本物の読解力をつけることばパズル 入門編』中島克治 著/小学館(2019)■ 麻布中学・高校国語科教諭・中島克治先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「言葉の力」を伸ばすには?名門麻布の国語教師が説く“親の心得3か条”第2回:先取り学習はこんなに危険。「した子」の成績が「しなかった子」に抜かれるのはなぜ?第3回:麻布中高の国語教師が断言。「絵本の読み聞かせ」の教育効果はやっぱり絶大だった!(※近日公開)第4回:我が子に“読書好き”になってほしいなら。ぜひ身につけさせたい「読み癖」とは(※近日公開)【プロフィール】中島克治(なかじま・かつじ)1962年生まれ、東京都出身。麻布中学・高校を経て東京大学文学部卒業。東京大学大学院博士課程修了。現在、私立麻布学園麻布中学・高校国語科教諭。『本物の読解力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『一生役立つ! 子どもの本当の読解力をグッと引き出す方法』(PHP研究所)、『1話5分! 12歳までに読みたい名作100』(新星出版社)、『小学生クロスワードBOOK 1・2・3年生』(星雲社)、『本物の国語力をつけることばパズル 中級編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 入門編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『夏目漱石ほか文豪名著 書き写しノート』(朝日新聞出版)、『小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚』(小学館)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月25日国語はもちろん、算数や理科などあらゆる教科を勉強する際にも重要とされる「言葉の力」。子どもの「言葉の力」を伸ばすためにはどうすればいいのでしょうか。お話を聞いたのは、屈指の名門校、麻布中学・高校の国語教諭である中島克治先生です。まずは、「おしゃべりな子どもと無口な子どものちがい」についてのお考えから話してもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)ドリル学習では「言葉の力」はなかなか伸びない我が子が、まわりの子と比べて無口だと心配になってしまう親もたくさんいると思います。でも、ありていにいってしまえば、それは「個性」ということなのです。親がどんなにおしゃべりでも子どもは無口になることもあるし、その逆もある。同じような育て方をしても兄弟姉妹でちがいはありますし、親のアプローチいかんで子どもが多弁になったり寡黙になったりといったことはないのではないかとわたしは考えています。子どもには親とはまったく別の人格が備わっていて、おしゃべりであれ無口であれ、それはその子の「個性」なのです。そうとらえれば、「なんとか子どもの言葉を増やそうと努力しているのに……」と、頭を悩ますというような呪縛から解放されることになるはずです。とはいえ、おしゃべりか無口かということとは別に、「言葉の力」を身につけておくことはあらゆる勉強をするにあたって重要となります。そう考える教育熱心な親であれば、子どもにドリル学習などをさせているかもしれません。でも、ドリル学習にはあまり意味がないとわたしは考えています。子どもからすればドリル学習はやらされる、仕方なくやる受け身の側面が強いものです。しかも、紙の上での学習ということで、どうしても現実世界に応用しづらいものであるため、学習した内容の定着率も良くありません。たとえ勉強した直後には身についても、1カ月、1年といった時間が経つと内容がすっぽりと抜け落ちてしまうのです。単なるドリル学習というものは、どうしてもただ覚えること、テストでいい点を取ることに重点が置かれます。そういう学習で得た知識は、子どもにとって「生きた知識」にはならないのです。親との共通体験が子どもの学習を補強していくでは、「生きた知識」としての言葉の力をどのように伸ばしてあげればいいのでしょうか。その方法は、「実生活のなかでの親とのコミュニケーション」です。たとえば、親子で植物園に出掛けたときに、以前に図鑑で見たことのある花が咲いているのを発見したとします。そして、「これ、前に図鑑で見たよね?」「どんな花だっけ?」といった会話をする。すると、実体験のなかで実物と言葉がぴたっと結びついていくので自然に言葉が子どもの頭に入っていくのです。親に教えてもらったとか、親の質問に答えられてうれしかったとか、具体的な場面のなかでの親との共通体験が学習を補強し、そのときに得た言葉はしっかりと子どもの頭に刻まれます。共通体験といっても、わざわざどこかに出掛けて特別な体験をしなければならないということはありません。それこそ家庭での日常的な会話でもできることです。会話の内容も天気のことでもご飯のことでもいいし、幼稚園や小学校での出来事、親子それぞれが観たテレビ番組の感想をいってもいい。そういった親とのコミュニケーションを通じて、子どもは満足したり、安心したり、うれしく感じたりといったポジティブな体験とともに感受性を高めながら言葉を覚えていくのです。子どもに知識をただ詰め込もうとしても、身につくものではありません。喜怒哀楽などの気持ちが伴わなければ、学習したことが子どもの糧にならないからです。たとえば、子どもがはじめて真っ赤な美しい夕焼けを見たとき、「綺麗」という言葉を知らなくとも子どもの心はすでに震えています。そして、そばにいる親が「綺麗だね」とつぶやいた。自分の心の震えと「綺麗」という言葉が重なり合う。そんな言葉を忘れるわけがありません。親子のコミュニケーションにおける3つの注意点子どもとコミュニケーションを取る際の注意点もお伝えしておきます。ひとつは、子どもから「これ、なに?」というふうに質問をされたときに、すぐには答えないほうがいいということ。答えられることでもあえて答えず、「なんだろうね?」「うちに帰ったら調べてみようか」というふうに答えるのです。どういうことかというと、子どもに立ち止まる時間を与えるということです。そうすることにより、子どもは手探りで考えることになる。その時間が、その後の学習で得た知識の定着を高めることになります。次の注意点は、子どもの言葉を頭から否定しないということ。子どもは大人が忘れてしまったような感覚を持っていて、大人が考えもしなかった側面から考えることもあるものです。大人になってしまった親からすれば、子どもの言葉が間違っていると思っても否定してはいけません。また、子どもの言葉に親が本当に驚かされることもあるでしょう。そういうときは否定せずに「そんなふうに考えるんだね」といったリアクションをしたり、素直に驚きを伝えたりしましょう。子どもからすれば、自分より言語能力が長けていると思っている親にちょっと先んじることができたという優越感を得ます。その優越感によって、子どもは言葉に対してよりポジティブにかかわっていくようになるのです。そして最後のアドバイスとしては、なにより親自身が子どもとのコミュニケーションを楽しむことが大切だということ。子どもは「教えてもらっている」と思うと受け身になってしまい、学びに対する積極性を失います。でも、親自身が楽しんでいれば、それは親が子に教えるという姿勢ではありませんよね。子どもも親の楽しむ姿勢に引っ張られてコミュニケーションを楽しむようになる。そうして、親子のコミュニケーションによって言葉を得る効果も高まるわけです。『本物の読解力をつけることばパズル 入門編』中島克治 著/小学館(2019)■ 麻布中学・高校国語科教諭・中島克治先生 インタビュー一覧第1回:子どもの「言葉の力」を伸ばすには?名門麻布の国語教師が説く“親の心得3か条”第2回:先取り学習はこんなに危険。「した子」の成績が「しなかった子」に抜かれるのはなぜ?(※近日公開)第3回:麻布中高の国語教師が断言。「絵本の読み聞かせ」の教育効果はやっぱり絶大だった!(※近日公開)第4回:我が子に“読書好き”になってほしいなら。ぜひ身につけさせたい「読み癖」とは(※近日公開)【プロフィール】中島克治(なかじま・かつじ)1962年生まれ、東京都出身。麻布中学・高校を経て東京大学文学部卒業。東京大学大学院博士課程修了。現在、私立麻布学園麻布中学・高校国語科教諭。『本物の読解力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『一生役立つ! 子どもの本当の読解力をグッと引き出す方法』(PHP研究所)、『1話5分! 12歳までに読みたい名作100』(新星出版社)、『小学生クロスワードBOOK 1・2・3年生』(星雲社)、『本物の国語力をつけることばパズル 中級編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 入門編』(小学館)、『本物の国語力をつけることばパズル 初級編』(小学館)、『夏目漱石ほか文豪名著 書き写しノート』(朝日新聞出版)、『小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚』(小学館)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月24日なにかと忙しい朝……。ついつい朝食づくりは手抜きになってしまいがちです。ただ、オリジナルの育脳レシピ開発で子どもを持つ親御さんのファンも多い管理栄養士・小山浩子さんは、「子どもの脳は朝食で決まる」と語ります。時間が限られるなか、どんな朝食を用意すれば子どもを賢く育てられるのでしょうか。そのための秘訣を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)朝起きたときには「脳のガソリン」は空っぽの状態健康のためには「朝食が重要だ」という話はほとんどの人が聞いたことがあるはずです。そして、「脳のため」という観点からすれば、その重要性はさらに高まります。なぜなら、朝は脳を動かすガソリンが空っぽの状態になっているからです。朝食を食べさせずに子どもを学校に送り出してしまうと、給食までの午前中の授業では、子どもはガソリンが切れた自動車と同じ状態にあるということ。そんな状態でしっかり勉強をすることなんて、できるわけもないのです。その脳のガソリンにあたるのはブドウ糖で、主に炭水化物が分解されてできるものです。ブドウ糖は、グリコーゲンというものになって肝臓にためられるのですが、じつはこの貯蓄量がすごく限られています。最大限にためたとしても、12時間後には空っぽになる量しかためられません。夜の7時に夕食を食べたとして、12時間後の朝7時には完全に空っぽです。つまり、ご飯やパン、麺類などの炭水化物は、朝食に必須のものだというわけです。でも、ただ食べればいいというものではありません。炭水化物を一気に大量に摂ると、血糖値が急上昇しインスリンが分泌されます。すると、子どもが2時間目の授業を受ける頃には低血糖気味となり、眠気を催すことになってしまうのです(インタビュー第2回参照)。そのため、ブドウ糖をゆっくりと脳に送る作用があるカリウムや食物繊維を一緒に摂取できる食事を心がけましょう。また、玄米や胚芽米、全粒粉のパンなど、もともと食物繊維など血糖値の急激な上昇を妨げる成分が豊富な炭水化物食品を選ぶのもいいですね。最近のシリアルは手抜き朝食などではないまた、脳を働かせる神経伝達物質の材料となるレシチン、脳の材料となるDHA・EPAは、炭水化物とともに、「育脳」のための3大栄養素と言えます。レシチンは主に卵や大豆製品、DHAとEPAは魚に含まれるもの。これらの3つを必ず朝食で摂る習慣をつける、これがとても重要です。子どもの昼食は給食ということが多いでしょうから、親御さんがコントロールできるものではありません。もちろん、夕食で摂取してもいいのですが、朝食とちがってメニューが変動的ですから、脳のための栄養素を摂ることも入れ込んでしまうと献立を考える難易度が上がってしまいます。であれば、朝食を「育脳のためのもの」と決めてしまうのがおすすめですね。とはいえ、難しく考える必要はありません。シリアルに牛乳をかけて、エゴマ油ときな粉をかけてあげるだけでも十分。これには、炭水化物にカリウム、食物繊維、レシチンが含まれていますし、エゴマ油は体内でDHAやEPAと同じ働きをしてくれます。シリアルというと「手抜き朝食の代表格」のように思っている人もいるでしょう。でも、最近のシリアルはとっても優秀です。パッケージの栄養成分表示を見て、必要な栄養素が入っているかを確認してみてください。なかには、炭水化物や食物繊維はもちろん、3大栄養素以外にも脳に有効なビタミンB群や亜鉛などを含むものもありますよ。脳細胞の働きを邪魔する塩分に要注意!それより、手抜き朝食といえば、ふりかけご飯だけというものはやめたほうがいいですね。おそらく共働き家庭などで親御さんも忙しいのでしょう。ご飯さえ炊いておけば、家族それぞれが好きなふりかけをかけて食べてくれる。それが毎日の朝食だという家庭が意外に多いようなのです。もちろん、ふりかけにも含まれる栄養素を強化したものもありますが、多くの製品は塩分が強過ぎる傾向にあります。塩分は脳のなかの血流を悪くしてしまうもの。つまり、脳細胞の働きを邪魔してしまうものなのです。ただでさえ、日本人は塩分が強い食事を好みます。幼い頃から塩辛いものばかり食べていると、子どもは「これが美味しいんだ」と思ってしまいます。そして、そういう食事を続ければ、当然、将来的に大きな病気を引き起こすことにもなる。子どもの腎臓は小さいので、たくさんの塩分を処理することができません。脳のためだけでなく、子どもの健康を保つために食事の塩分量には気をつけてあげてほしいですね。黄色アイテムと噛むことが目を覚まさせるそれから、食事の内容以外の部分でいえば、よく噛むことも大切です。朝食だけに重要なことではありませんが、特に朝食ではしっかり噛むことを子どもに教えてあげてください。朝に目が覚めたときには、脳はまだ寝ぼけている状態です。噛むという行為が脳を目覚めさせてくれるうえ、脳の神経細胞の発達も促してくれるのです。また、ランチョンマットやマグカップなど、朝食に使うアイテムにいくつか黄色いものをチョイスすることもおすすめです。これには、朝日を見ることと同じ効果があります。黄色を目にすることが、しっかりと脳を目覚めさせるのです。逆に、紫や濃紺は脳を休ませてしまいますから要注意。ちょっとした工夫でできることですから、子どもの脳をスタンバイ状態にして学校に送り出してあげてください。最後にお伝えしたいのは、とにかく愛情を持って料理をしてあげてほしいということ。料理には、脳や体に有効な栄養素といった知識も必要ではありますが、子どもにとってはなによりも母親の愛情を感じられることが最重要です。親に愛されて育ったかどうかで、大人になったときの笑顔ひとつもちがってきます。賢い子どもに育てたいというのは親として当然の願いでしょうけれど、まずは料理を通じてしっかり愛情を注ぎ、人の気持ちを感じられる健全な人間に育ててあげることを意識してほしいと思っています。『かしこい子どもに育つ! 「育脳離乳食」:脳をはぐくむ食事は0歳から』小山浩子 著/小学館(2018)『こどもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』小山浩子 著/小学館(2015)■ 管理栄養士・小山浩子さん インタビュー一覧第1回:子どもの脳は“親の愛情”と“食事”で育つ!「育脳」に効く食材の選びかた第2回:“パン&〇〇”で最高の朝食になる!脳が育つ食べ合わせ「5つの黄金ルール」第3回:“美味しい”か“美味しくない”か。結果がすぐにわかる料理は、子どもがPDCAを学ぶのに最適第4回:「お米さえ食べさせておけば大丈夫」が危険な理由。手抜きでも脳に効く朝ごはんとは【プロフィール】小山浩子(こやま・ひろこ)1971年9月5日生まれ、愛知県出身。料理家、管理栄養士、フードコーディネーター。大手食品メーカー勤務を経て2003年にフリーに。料理教室の講師やコーディネート、メニュー開発、健康番組への出演など幅広く活動する。料理家としてのキャリアは20年以上。これまで指導した生徒は5万人以上に及ぶ。著書『目からウロコのおいしい減塩「乳和食」』(社会保険出版社)で、2014年グルマン世界料理本大賞イノベイティブ部門世界第2位を受賞。健康とつくりやすさに配慮したオリジナルレシピにファンが多い。2015年には日本高血圧協会理事に就任。また、日本ではじめて育脳をコンセプトにした離乳食を監修()。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月20日「賢い子どもに育てたい」と、子どもが幼い頃からさまざまな習い事に通わせている親御さんも多いでしょう。でも、「自宅でできる『育脳法』があるのに」と少し残念がるのは、オリジナルの育脳レシピ開発で子どもを持つ親御さんのファンも多い管理栄養士・小山浩子さん。その育脳法とは、なんと「料理」なのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)料理にはPDCAサイクルのすべてが含まれている子どもをより賢く育てたいと思えば、子どもであってもPDCAサイクルをまわせるような人間にしていく必要があります。なぜかというと、結局、勉強ができる子どもというのは、自分で勉強の計画を立て、実行し、自分の問題点を見つけ、それを改善してくことができる人間だからです。まわりの優秀な子どもを観察して、どういう勉強法がもっとも無駄がなく効果的なのかということを導ける観察眼も必要とされるものでしょう。もちろん、こういった能力は大人になれば仕事などその他のことにも応用できるもの。人間としての成長を大きく助けてくれるものです。子どもにPDCAサイクルをまわさせるというと、驚く人も多いはずです。でも、じつは5歳くらいまでの間に大人の脳の9割ができあがるとされています。つまり、5歳児の脳は、その能力でいえば大人の脳とそれほど変わらないということ。もちろん、知識や経験は圧倒的に足りませんから、子どもがPDCAサイクルをまわせるようになるには、大人がそのやり方を教えてあげる必要があります。そして、そのやり方を教えるために最適なものが、「料理」なのです。なぜかというと、料理にはPDCAサイクルのすべてが含まれるからです。レシピという計画書があり、実際に調理をして、美味しくできたのかを確認して、失敗すれば改善点を探す。まさに、PDCAサイクルそのものですよね。それに、お母さんの料理の仕方を観察して、うまく取り入れるということもできます。料理は脳を育てるためのメリットだらけ!また、料理には他にも「育脳」に適した点がたくさんあります。まずは、「指」をいっぱい使うこと。脳の発達には指を動かすことが効果的だという話は耳にしたことがある人も多いでしょう。料理は、どんなプロセスも指を使うものばかりです。また、「五感」のすべてを使う点でも料理は育脳に効果的です。料理をするには、指でさまざまな道具や食材に触れることはもちろん、音の変化で火の通り具合をたしかめたり、匂いを嗅いだり、美しく盛り付けようと視覚を働かせる必要がある。そして最後は美味しい料理をしっかり味わう。料理をして食すという過程で、五感のすべてを使い、脳をたくさん刺激することができるのです。さらには、「結果」がすぐにわかるということも料理のメリットです。小さい子どもの場合、はっきりした結果がすぐにわからないと、なかなか次へのやる気にはつながっていきません。じつは、こういう脳に対するメリットを持った行為は、ありそうでなかなかないもの。お絵描きも育脳にはいいとされますが、明白な結果が見えるかというと、ちょっとちがいますよね。子どものお絵描きコンクールで受賞などすれば話は変わりますが、それも受賞発表までには時間が必要です。それに、アートの世界ですからその評価は見る人によってまったくちがってきます。その点、料理の結果は美味しいかどうか。子どもであっても、美味しいものは美味しい、美味しくないものは美味しくないときちんと判断できます。それが、「次はもっと美味しくしたい」「今度こそ頑張る!」というやる気につながるのです。母親との料理体験は子どもの一生の宝もの料理に育脳効果があることを知ってか知らずか、子どもに料理の手伝いをさせているという親御さんは少なくないでしょう。ただ、そのやり方には問題があるというケースが多いようですね。カレーをつくるにも、米をとがせたり、ジャガイモやニンジンの皮むきだけをやらせたりしていないでしょうか。それは、ただ親の指示に従ってやる作業、つまり、下働きです。残念ながらそれでは脳はまったく育ちません。そうではなくて、皮をむいた材料を切る、炒める、味つけをする、味をみるといった、レストランでいえば料理長がやるようなメインのプロセスを子どもにやらせてあげてください。そのときは、一切、指示を出してはいけません。責任を子どもに持たせるのです。そうしてできた料理を家族みんなで食べる。たとえばニンジンが硬かったとしましょう。そうすると、子どもは「次はもう少し小さく切ってみよう」「煮込む時間を長くしてみよう」と自分で考えるようになる。なぜかというと、そのプロセスを子ども自身がおこなったからです。そうして、子どもは徐々にPDCAサイクルのまわし方を身につけていくのです。そして、美味しく料理ができたのならうんと褒めてあげてください。そうすれば、子どもは自信を持ち、料理以外のことにも意欲的に取り組める人間になっていくはずです。できれば、10歳頃までの間にこういう料理の経験をたくさんさせてあげてほしいですね。10歳を過ぎると、子どもの行動範囲や興味の範囲は大きく広がります。でも、それ以前の子どもにとっては、お母さんがこの世界のすべて。大好きなお母さんから教わったり、褒められたりしたことは、子どもの一生の宝ものになるのですからね。『かしこい子どもに育つ! 「育脳離乳食」:脳をはぐくむ食事は0歳から』小山浩子 著/小学館(2018)『こどもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』小山浩子 著/小学館(2015)■ 管理栄養士・小山浩子さん インタビュー一覧第1回:子どもの脳は“親の愛情”と“食事”で育つ!「育脳」に効く食材の選びかた第2回:“パン&〇〇”で最高の朝食になる!脳が育つ食べ合わせ「5つの黄金ルール」第3回:“美味しい”か“美味しくない”か。結果がすぐにわかる料理は、子どもがPDCAを学ぶのに最適第4回:「お米さえ食べさせておけば大丈夫」が危険な理由。手抜きでも脳に効く朝ごはんとは(※近日公開)【プロフィール】小山浩子(こやま・ひろこ)1971年9月5日生まれ、愛知県出身。料理家、管理栄養士、フードコーディネーター。大手食品メーカー勤務を経て2003年にフリーに。料理教室の講師やコーディネート、メニュー開発、健康番組への出演など幅広く活動する。料理家としてのキャリアは20年以上。これまで指導した生徒は5万人以上に及ぶ。著書『目からウロコのおいしい減塩「乳和食」』(社会保険出版社)で、2014年グルマン世界料理本大賞イノベイティブ部門世界第2位を受賞。健康とつくりやすさに配慮したオリジナルレシピにファンが多い。2015年には日本高血圧協会理事に就任。また、日本ではじめて育脳をコンセプトにした離乳食を監修()。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月19日脳の発達を促し、しっかり働かせるための栄養素を知れば、あとはそれらを食事で摂取するだけ。それで十分だと思ってしまいますが、じつは「それでは不十分」なのだそう。そう語るのは、オリジナルの「育脳」レシピ開発で子どもを持つ親御さんのファンも多い管理栄養士・小山浩子さん。小山さんによると、それぞれの栄養素が最大限に力を発揮するための「食べ合わせ」こそがもっとも重要なのだそうです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)ブドウ糖を持続的に脳に送るカリウム・食物繊維健康な脳をつくりしっかり働かせるには、脳に必要な栄養素がしっかり力を発揮することが大切です。まず、わたしが提唱している、脳に効く食べ合わせルールを紹介しておきましょう。【脳に効く食べ合わせ「5つの黄金ルール」】1:炭水化物×カリウム・食物繊維2:レシチン×ビタミンC3:DHA・EPA×ビタミンE4:ビタミンB12×クエン酸5:ビタミンB群×亜鉛×色素成分このうち、脳に絶対に欠かせない炭水化物、レシチン、DHA・EPA(インタビュー第1回参照)が含まれる1番から3番までのものが特に重要なものです。では、一つひとつ解説していきましょう。まずは1番目の「炭水化物×カリウム・食物繊維」。炭水化物(ブドウ糖)は脳を動かすガソリンの役目を果たします。ダイエットの敵だとして避けられることも多い炭水化物ですが、脳をしっかり動かすためには欠かせないもの。ご飯やパン、麺類など、なんでもいいので特に朝食できちんと子どもに食べさせるようにしてください。ただ、注意してほしいことがひとつ。炭水化物ばかりを大量に摂取すると、血糖値が急激に上昇してしまいます。すると、インスリンが分泌され、子どもが学校に行って2時間目の授業の時間くらいには低血糖状態に……。眠気を誘って集中力が削がれてしまうことにもなってしまいます。これでは授業をきちんと受けられませんよね。それを避けるため、炭水化物と一緒にカリウムや食物繊維を摂取しましょう。これらを含むのは、野菜や果物、ヨーグルトです。カリウムと食物繊維の働きにより、脳にガソリンであるブドウ糖をゆっくりと持続的に送ることができるのです。少しの工夫が重要栄養素の働きを助ける2番目の「レシチン×ビタミンC」は、脳の神経伝達物質をつくるレシチンとおすすめの食べ合わせです。レシチンは卵や大豆製品に含まれる栄養素。ただ、このレシチンはそんなに吸収率がいい栄養素ではありません。なぜなら、汗や尿と一緒に流れ出やすいものだからです。その流出を抑え、吸収を助けるのがビタミンC。もちろん、大豆にもビタミンCは含まれていますが、他の野菜や果物でさらに効果を高めようというわけです。たとえば、お豆腐を食べるにしても、プチトマトなどの野菜を添えるような工夫をおすすめしますね。続いては3番目「DHA・EPA×ビタミンE」。ここでの主役はDHAとEPA。これは脳をつくる材料となる栄養素です。これらは油ですから、空気に触れただけで酸化がはじまり、体内に入ってからも酸化は進みます。酸化してしまうと、DHAとEPAは十分な働きをしてくれません。この酸化を抑えるのが、ビタミンEなのです。含まれるのはブロッコリーやサニーレタス、カボチャなど、いわゆる緑黄色野菜です。ビタミンEには、DHAとEPAの酸化を抑えることだけでなく、脳に持続的にDHAとEPAを送る働きもあります。また、緑黄色野菜を取るのが手間だというなら、オリーブオイルを使ってもOK。オリーブオイルも豊富にビタミンEを含むものですからね。調理に使う他、調理後の魚にかけるだけでも十分です。ふたつの補助的ルールで完璧「育脳」食に「5つの黄金ルール」のうち、3番目までは「3本柱」とも呼ぶべき重要なものなので、できれば毎日の食事に取り入れてほしいですね。そして、残る4番目、5番目は補助的なものとなります。余裕があるようなら、これらも踏まえてもらえれば脳にとって完璧といえる食事になりますよ。4番目は「ビタミンB12×クエン酸」。ビタミンB12は「血液のビタミン」とも呼ばれ、血液の状態を良くする働きがあります。血流が良くなければ、炭水化物にしても、レシチン、DHA、EPAにしても、脳にしっかりと届けることができませんから、ビタミン12の働きも大切なものなのです。ビタミンB12は豆製品にも入っていますが、豚肉やレバーなどに含まれる動物性のものがその働きが強く、特におすすめです。そして、その吸収を高めるのがクエン酸。レモン汁やお酢などを豚肉やレバーと一緒に食べる工夫をしてみてください。最後は「ビタミンB群×亜鉛×色素成分」です。これらは脳全体の活性化を図る栄養素。この食べ合わせは代謝を高める働きがあるので、炭水化物など、摂取した栄養素の働きの即効性が上がるのです。ビタミンB群を取るには、胚芽米や玄米がいいですね。あるいは、シリアルにもビタミンB群が強化されたものがありますので、そういう商品を使うのも手です。亜鉛はワカメやヒジキ、カキなど海産物に多く含まれます。手軽に摂取するためにわたしがおすすめしているのがアサリの水煮缶。カレーやクラムチャウダーに入れるなど、使い勝手がいいですよ。最後の色素成分は、トマトのリコピン、ナスのナスニンなど、緑黄色野菜が持っているものです。おすすめ「育脳朝食メニュー」最後に、わたしがおすすめする「育脳朝食メニュー」を少しだけ紹介しましょう。(画像提供:小学館)【育脳朝食メニュー】材料(4人分)■シリアルフルーツグラノーラ 200gミックスナッツ 30gバナナ 2本プルーン 4粒豆乳 600ml(つくり方)① 器にシリアル、プルーン、バナナを入れて豆乳をかけ、刻んだミックスナッツをかける。■もみもみソーセージ豚ひき肉 200gハーブソルト 小さじ2こしょう 少量牛乳 60mlオリーブオイル 小さじ2チャック付きビニール袋 1枚(つくり方)① チャック付きビニール袋に豚ひき肉を入れ、ハーブソルトとこしょうを混ぜて牛乳を加えてよくもみながら混ぜ合わせる(前日に仕込みをしておく)。② フライパンにオリーブオイルを熱し、①の袋の先を2cm切り、約6cmの長さで絞り出す。③ 表面を焼いてフライパンのふたをし、なかまで加熱する。④ お皿に盛り、お好みでケチャップと粒マスタードを添える。(画像提供:小学館)■カボチャのツナサラダ(常備菜)カボチャ(冷凍品) 400gタマネギ 1/4個※みじん切りツナ缶 小1缶(80g)マヨネーズ 大さじ4こしょう 少量(つくり方)① カボチャは凍ったまま耐熱容器に入れて電子レンジに7~8分かける。② 熱いうちに、タマネギとツナを混ぜてこしょうをかけ、マヨネーズであえる。※サンドイッチのフィリングにしても美味しい。(画像提供:小学館)■グレープフルーツグレープフルーツ 1個(つくり方)① グレープフルーツを8等分のくし型に切り、切り込みを入れておく。シリアルに含まれる食物繊維によって血糖値を安定させ、集中力をアップさせます。また、プルーン、バナナ、牛乳の食べ合わせにより脳に栄養がスムーズに送られ、神経細胞の動きも活発になり、脳全体が活性化。さらに、豚肉のビタミンB12で記憶力がアップ。カボチャのビタミンEでDHAの酸化を抑え、グレープフルーツのビタミンCで豆乳のレシチンの吸収を助けるというメニューです。『かしこい子どもに育つ! 「育脳離乳食」:脳をはぐくむ食事は0歳から』小山浩子 著/小学館(2018)『こどもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』小山浩子 著/小学館(2015)■ 管理栄養士・小山浩子さん インタビュー一覧第1回:子どもの脳は“親の愛情”と“食事”で育つ!「育脳」に効く食材の選びかた第2回:“パン&〇〇”で最高の朝食になる!脳が育つ食べ合わせ「5つの黄金ルール」第3回:“美味しい”か“美味しくない”か。結果がすぐにわかる料理は、子どもがPDCAを学ぶのに最適(※近日公開)第4回:「お米さえ食べさせておけば大丈夫」が危険な理由。手抜きでも脳に効く朝ごはんとは(※近日公開)【プロフィール】小山浩子(こやま・ひろこ)1971年9月5日生まれ、愛知県出身。料理家、管理栄養士、フードコーディネーター。大手食品メーカー勤務を経て2003年にフリーに。料理教室の講師やコーディネート、メニュー開発、健康番組への出演など幅広く活動する。料理家としてのキャリアは20年以上。これまで指導した生徒は5万人以上に及ぶ。著書『目からウロコのおいしい減塩「乳和食」』(社会保険出版社)で、2014年グルマン世界料理本大賞イノベイティブ部門世界第2位を受賞。健康とつくりやすさに配慮したオリジナルレシピにファンが多い。2015年には日本高血圧協会理事に就任。また、日本ではじめて育脳をコンセプトにした離乳食を監修()。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月17日筋肉をつくるにはタンパク質、骨をつくるにはカルシウムが必要という具合に、食事と体の関係に関しては多くの人が少なからず知識を持っているはずです。でも、いい脳をつくるために必要な栄養素、食事といったら……?詳しく知っているという人は、そう多くはないでしょう。そこでお話を聞いたのは、オリジナルの「育脳」レシピ開発で子どもを持つ親御さんのファンも多い管理栄養士・小山浩子さん。脳に欠かせない栄養素を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)脳を「つくる」材料となる栄養素子どもの頭が良くなるかどうかは、遺伝の影響が大きいと考えている人も多いでしょう。もちろん、頭の良し悪しには遺伝も大いに影響を与えます。ただ、その影響がはっきり表れはじめるのは、13歳くらいから。それまでは、赤ちゃんの頃からの脳への刺激や本人の好奇心といった外的要因、それから「食事」が大きな影響を与えます。食べものによって体がつくられることは、多くの人がイメージするものでしょう。でも、脳も体の一部ですから、当然、食事による影響を大きく受けます。子どもをかしこく育てたいのなら、食事にきちんと気を配る必要があるのです。脳のなかではいろいろな栄養素がチームとなって働いています。そこでまず意識してほしいのは、脳を「つくる」栄養素、「働かせる」栄養素、「動かす」栄養素をしっかり摂るということです。脳を「つくる」栄養素を紹介するにあたって、ひとつ質問をしましょう。脳はなにでできていると思いますか?じつは、脳の6割は脂肪でできているのです。そして、いい脳をつくる材料が、有名なDHA、それからEPAという油状物質。特にDHAは脳にとっての最重要栄養素と言えます。DHAをきちんと摂取しないと、脳の発達障害を起こしてしまうことも……。DHAの摂取量が十分な子どもとそうでない子どもでは、脳の神経回路の発達の度合いはい大きくちがいます。ただ、これは後からでも取り戻せるものです。オックスフォード大学の実験では、3カ月間、DHAを投与された子どもは、脳の神経回路がしっかりと改善されました。親の愛情が子どもの脳の発達を促すこのDHA、EPAの特徴として、体のなかでつくることができないことが挙げられます。つまり、食べものからきちんと摂取する必要があるということ。青魚に多く含まれることが知られていますね。ただ、意外にも、サバやイワシなどの青魚より多くのDHAを含むのがマグロのトロの部分。でも、お値段も高いですし……毎日のように食卓に出すのは難しいですよね。日常的に食べられるものとしては、サバの水煮缶や魚肉ソーセージ、それからツナ缶をおすすめしています。もちろん、魚が大好きなお子さんになら、ときには奮発してマグロのトロを食べさせてあげてください。その際、「頭が良くなるからね」と言ってあげましょう。子どもは100人いたら100人が「頭が良くなりたい」と思っています。そして、大好きなお母さんが自分の応援をしてくれていると感じるだけで、子どもは「頑張ろう」と思うもの。その気持ちが、脳の発達も促すのです。お子さんが魚嫌いという場合も安心してください。じつは、アマニ油とエゴマ油が、体内でDHAやEPAと同じ働きをするということがわかってきたのです。これらをドレッシング代わりに使うだけで、魚を食べるのと同じくらいの効果を発揮してくれます。脳を「働かせる」「動かす」栄養素IQが高い子どもの脳には、脳を「働かせる」アセチルコリンという神経伝達物質が多いという特徴があります。じつは、このアセチルコリンは、生まれたときには誰もがいっぱい持っているもの。神様は本当に平等に人間をつくっているんですね。ただ、その量は5歳くらいまでの間に徐々に減っていくのです。つまり、アセチルコリンをなるべく減らさないようにキープできた子どもがかしこくなる。5歳くらいまでの間に将来の脳の土壌ができるというわけですね。それだけ、幼い頃の食事が脳の発達には重要だということを意味します。このアセチルコリンの材料となるのが、卵や大豆に含まれるレシチンという栄養素。卵は1日に1個は子どもに食べさせてほしい。また、豆が苦手だという子どもには、きな粉をうまく使うことをおすすめします。朝食なら、「きな粉トースト」なんていいですよね。きな粉とはちみつと練乳を混ぜると、自家製のきな粉ジャムになります。これをトーストに塗るだけ。すごく手軽ですよ!それから、脳を「動かす」ガソリンとも言えるのが炭水化物です。脳が消費するエネルギーは、体全体の消費量のなんと20%に達します。低炭水化物ダイエットがはやっていますが、脳のためには、ご飯やパン、麺類をしっかり食べさせることが必要です。牛乳は体にも脳にも効く完全栄養食品そして、脳にいい食事のカバー役として欠かせないのが「牛乳」です。ここで、牛乳の偉大なパワーを紹介しましょう。これは、ここまで紹介したDHA、EPA、レシチン、炭水化物以外に脳が必要とする栄養素、そしてそれらを含む主な食べものです。【牛乳は万能育脳食材】ここで挙げた栄養素の多くを含むのが牛乳なのです。牛乳というと完全栄養食品とも呼ばれ、健康な体をつくるために欠かせないものですよね。学校給食でも何十年にもわたって出されてきました。その理由を裏付けるように、脳にとっても牛乳は完全栄養食品になっているのです。『かしこい子どもに育つ! 「育脳離乳食」:脳をはぐくむ食事は0歳から』小山浩子 著/小学館(2018)『こどもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』小山浩子 著/小学館(2015)■ 管理栄養士・小山浩子さん インタビュー一覧第1回:子どもの脳は“親の愛情”と“食事”で育つ!「育脳」に効く食材の選びかた第2回:“パン&〇〇”で最高の朝食になる!脳が育つ食べ合わせ「5つの黄金ルール」(※近日公開)第3回:“美味しい”か“美味しくない”か。結果がすぐにわかる料理は、子どもがPDCAを学ぶのに最適(※近日公開)第4回:「お米さえ食べさせておけば大丈夫」が危険な理由。手抜きでも脳に効く朝ごはんとは(※近日公開)【プロフィール】小山浩子(こやま・ひろこ)1971年9月5日生まれ、愛知県出身。料理家、管理栄養士、フードコーディネーター。大手食品メーカー勤務を経て2003年にフリーに。料理教室の講師やコーディネート、メニュー開発、健康番組への出演など幅広く活動する。料理家としてのキャリアは20年以上。これまで指導した生徒は5万人以上に及ぶ。著書『目からウロコのおいしい減塩「乳和食」』(社会保険出版社)で、2014年グルマン世界料理本大賞イノベイティブ部門世界第2位を受賞。健康とつくりやすさに配慮したオリジナルレシピにファンが多い。2015年には日本高血圧協会理事に就任。また、日本ではじめて育脳をコンセプトにした離乳食を監修()。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月16日「遊び」というと大人にとっては悪いこととも思われるものですが、子どもを健やかに育てるためにはとても重要なもの。そして、子どもがしっかり遊べるように、遊びを大事にする大人を増やそうと活動しているのが、2010年に設立された「一般社団法人TOKYO PLAY」。その代表理事・嶋村仁志さんは、当然ながら「遊びの達人」。子どものときにどんな遊びを経験しておくべきなのか、その遊びへの親の関わり方も含めて教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)冒頭写真提供:嶋村仁志子どもを遊び場の「つくり手」にしてあげる遊びが子どもにもたらす効果を最大限に引き出すために、どういう遊びをさせればいいかということも親御さんたちは気になるところでしょう。でも、そもそも遊びは子どもが主体的におこなうものです。であれば、子ども自身の発想や想像力に委ね、自由にやらせるべきものです。つまり、「どういう遊びをさせればいいか」というのは、ちょっとナンセンスな疑問とも言えるかもしれません。ですが、大人がちょっとしたきっかけを与えることはできます。子どもが楽しく感じる、ドキドキする要素というものがあるのです。家庭では難しいものですが、例を挙げましょう。わたしも関わっている川崎市子ども夢パークの滑り台は38度という角度にしています。これは一般的な滑り台に比べて、ちょっと急な角度です。わたしの考えでは、滑り台にはドラマを生む角度というものがあるんです(笑)。その角度は、登れなくはないけど、普通に登ろうとしても簡単には登れない角度。失敗した子どもは、今度は後ろのほうから助走して挑戦する。あるいは、滑り台の上にいる子どもに引っ張り上げてもらおうとする。そういう角度が子どもにとって面白い。しかも、川崎市子ども夢パークの場合は、「つくるプロセス」も子どもたちと一緒に進めました。遊具をつくる作業をしていると、近所の子どもたちが「なにやってるの?」と見に来ます。「一緒にやろうか!」と、子どもたちと手づくりしました。そういう過程を経ていますから、子どもたちはただのサービスの受け手ではなく、遊び場自体のつくり手でもあるわけです。そんな遊び場が、子どもたちにとって面白くないわけがないですよね。こんな大掛かりなものではなくても、子どもと一緒に遊び場をつくってみればいい。そういうことなら、家庭でもできるものかもしれません。写真提供:嶋村仁志子どもが体験すべき「小さな危険」と「小さないたずら」また、「どういう遊びをさせればいいか」ということなら、幼いうちから「小さな危険」を伴う遊びをきちんと体験しておくことも大切。なぜなら、そうすることで実感を持って危険を知り、成長した後により大きな危険を招かないようになるからです(インタビュー第2回参照)。わたしが代表理事を務めるTOKYO PLAYでは、一般の人たちへのアンケートで「10歳までに経験しておきたい危険なこと」を集めました。栄えある第1位は「高いところ」。木登りや塀昇り、階段からジャンプといったことですね。それから、アイロンやライターを使う、たき火といった「火を使う」こと。また、包丁やナイフを使う、鉛筆を削るといった「刃物を使う」ということもランクインしました。わたしの子どもも、2歳のときに包丁で手を切ってしまったことがあります。2歳児に刃物を使わせるというと、「早過ぎるのでは?」と思う人もいるでしょう。でも、早いからいい。2歳児なら、2歳児の力なりの怪我しかしないのです。これが、中高生になって大人同様の力を持ってからはじめて刃物を使ったとしたら……それこそ危険ではありませんか。また、小さな危険の体験と通じるものとして、「小さないたずら」も経験しておいてほしい。大人としては大手を振っておすすめするわけにもいきませんが、いわゆるピンポンダッシュのようなものです(苦笑)。そういったいたずらに対し、他人がどう反応するのか。面白いと思うのか、あるいは怒られるのか……。その反応を感じるなかで、子どもは「しゃれでは済まされないこと」を体感的に知るようになる。いってみれば、一度は振り切ったいたずらをやってめちゃくちゃに怒られるという経験をしたほうがいいのです。それを5歳でやるか、中高生になってやるかで社会へ与える影響も、自分が受ける罰もちがってきます。幼い頃に「しゃれでは済まされないこと」を知った人間ならば、いたずらと称して誰もが眉をひそめるようなことをやったうえ、それを得意げにSNSにアップして非難されるようなことにはならないのです。子どもの興味関心の「ツボ」を感じるその他、子どもが体験しておくべきこととして、自分が「やりたい」「好きだ」と思うことをいちばん身近な大人に受け止めてもらう体験というものもある。つまりこれは、大人側が取る姿勢が重要ということになります。子どもって、「見て見て!」とよく言いますよね。それをいちばん身近で大切な大人に見てもらって「すごいね!」なんて言われることが、どれだけその子の力になるか。間違いなく、その子は自分に自信を持ち、自己肯定感を高めることができます。逆になにかに失敗して落ち込んだり、怒られてしょげてしまったりしているときも同様です。その気持ちを受け止めてもらうことで感じる安心感が、次なる力を生んでいく。立ち直り、「また挑戦しよう」という気持ちにさせてくれるのです。そういう意味では、遊びは子どもが主体的におこなうものとはいえ、子どもの遊びへの大人の関わり方はとても重要なものということになる。親御さんは、第一に、子どもが「なにをしたいのか」ということに気づくことが重要です。子どもには、それぞれに興味関心の「ツボ」があります。普通は親が子どもをどう育てるかというふうに考えるものですが、子どもは子どもなりに「自分がどう育ちたいか」ということがわかっているのです。そういったことが、子どもの遊びのなかに見えてくる。目の前のものでなにをしたいか、どうしたいのかというところに表現されるのです。たとえば、長靴をはいて水たまりでバチャバチャと延々と遊んでいる子どもがいたとしましょう。その子は、自分の行動によって目の前のものが変化することに面白さを感じています。もしかしたらその行動は、自分の手で目の前のものを変化させて作品をつくり出すアートといった方向への興味関心の表れなのかもしれません。そういう目線を持って、世間でいいとされている教育を闇雲に与えるのではなく、その子のツボの延長線上にあるものを用意してあげれば、子どもの世界が一気に広がることもあるでしょう。子どものツボを感じられるようになれば、子育てがもっともっと楽しくなってくるはずです。『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』嶋村仁志 他 著/学文社(2017)■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧第1回:遊具なし、プログラムなし。異例だらけの“ガラクタ遊び”が欧州で大人気の理由第2回:大切にしたい遊びの“リスク”。子どものチャレンジを支える遊びのルールとは?第3回:子どもの工作が“失敗作”でも、親はアドバイスしてはいけない第4回:中高生では遅い。子どもが体験すべき「小さな危険」と「小さないたずら」【プロフィール】嶋村仁志(しまむら・ひとし)1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月15日「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトに、2010年に設立された「一般社団法人TOKYO PLAY」。その代表理事・嶋村仁志さんは、子どもが子どもらしく遊び、心身ともに健全に成長できるようにと、遊びを大事にする大人を増やそうと奮闘しています。そんな嶋村さんは、遊びが子どもにもたらしてくれるもっとも重要なものは、「自主性と安心感」だと語りますが、それを得る機会を奪われている子どもも少なくないのだそう。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)冒頭写真提供:嶋村仁志遊びで子どもが得るのは「自主性」と「安心感」遊びのなかで子どもが得られるものとしては、まず「体力」が挙げられるでしょう。最近は、体力は「行動体力」と「防衛体力」にわけて考えられています。行動体力とは、行動を「起こす」筋力などの能力、行動を「持続する」持久力や柔軟性などの能力、行動を「調整する」素早さや器用さ、バランス感覚などの能力のことです。一方、防衛体力は、寒さや暑さ、振動、化学物質など「物理化学的ストレス」に対する抵抗力、細菌など「生物的ストレス」に対する抵抗力、空腹や口の渇き、疲労といった「生理的ストレス」に対する抵抗力、不快、苦痛、恐怖など「精神的ストレス」に対する抵抗力が挙げられます。これらが強くなれば、当然、子どもは健康に育つと期待できます。とはいえ、わたし自身は、遊びが子どもにもたらすものとして、なにより「自主性」と「安心感」が重要だと思っています。遊びとは、自分がやりたいと思うことを主体的にやること。やりたくないことは絶対にやらなくてもいい。遊びとは、そういう「自主性」の塊なのです。でも、いまの子どもは自主的に遊ぶ権利を奪われつつあると見ています。幼い子どもでも、毎日がスケジュール漬けになっていることも少なくないですよね。何時に起きて保育園に行き、午前はなにをしてお昼ご飯を食べて、お昼寝をして迎えに来てもらってあれこれ習い事をして、家に帰ったらご飯を食べてお風呂に入って歯を磨いて……。やることもやる時間も決まっています。そういう生活のなかで、子ども自身が「いま」を決めている時間ってどれくらいあるのでしょうか?本来、それは遊びの時間として残されていた部分です。そういう時間を積み重ねて大人になれば、たとえお金持ちにはならなかったとしても、本人が面白そうだと思ったことは積極的にやるし、ひとりでやるのは難しいことなら遊びのなかで培った力によって他人を頼って協力することもできる。それこそ、自ら考えて行動できる「21世紀型」といえる人間になれるのではないでしょうか。「面白そうだからやってみる」というマインドが人生を豊かにする他人と比較されない、他人に評価されない、自分で決めて、失敗も含めて「自分で自分の人生を手づくりできる時間」が生活のなかで確保されている。その「安心感」が、チャレンジ精神にあふれ、適応力や柔軟性や発想力を備えた人間に子どもを育ててくれます。遊びというものは、じつはここでいう「安心感」を得るためにあるものだと思っています。ところが、いまの子どもの多くは自分自身でやることを決められず、大人の誰かが決めた基準で比較、評価され続けられています。すると、子どもはその基準に自分が見合っているか、他人に劣っていないかと気になり成果ベースでものごとを考えるようになる。そうなると、本当なら持っているはずの力を十分に発揮できません。できることはやるけれど、できないかもしれないことはやらないという選択肢をチョイスするようになるからです。それでは、将来社会に出て仕事をするにも、ちょっと問題がありますよね。できないかもしれないけれど、やっていくなかでなんとかする。そういうことも仕事には必要な力です。仕事に限らず、やってみたことはないけれど面白そうだからやってみようというマインドを持っているほうが、きっと豊かで楽しい人生を送れるはずです。失敗する経験を奪われつつある子どもたち大人って、つい子どもに口を出してしまうものですよね。でも、それではよくない。子どもの自主性を尊重し、大人が口をつぐむ。まずはそこからはじめてはどうでしょうか。わたしがあるプレーパークで見た子どもたちは、ベンチを一生懸命につくっていました。使っていたのは薄っぺらの廃材だし、足は細くて長さもバラバラで心もとない。それでも、子どもは「完成した!」と、平気で座るわけです。どうなるかはわかりますよね?当然、グラグラと揺れるし、すぐに壊れてしまいそうになる。でも、それでいいんですよ。子どもたちにとってのドラマと学びはそこにあるわけですから。ところが、大人によっては「ここに筋交いを入れよう」なんてアドバイスをする、さらには「貸してみろ」なんて道具を取り上げてしまうような人もいます。また、プレーパークとちがって、すでに立派な工作キットが用意されている「ベンチをつくろう」というような体験プログラムの場合は、ただ説明書のとおりにつくらされるだけ。絶対に失敗しない代わりに、子どもには面白くもないし、なにももたらしてはくれません。いまは、一度の失敗もなく最短の時間で「体験」できるパッケージ化された商品があふれています。子どもが思ったとおりにやって、失敗する経験を手に入れる機会が本当に少ないのです。この時代に生きる大人の役割は、そのような機会を子どもに保障してあげることなのではないでしょうか。失敗も含めた「偶発的な学び」を得る機会を大切にしてあげてください。『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』嶋村仁志 他 著/学文社(2017)■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧第1回:遊具なし、プログラムなし。異例だらけの“ガラクタ遊び”が欧州で大人気の理由第2回:大切にしたい遊びの“リスク”。子どものチャレンジを支える遊びのルールとは?第3回:子どもの工作が“失敗作”でも、親はアドバイスしてはいけない第4回:中高生では遅い。子どもが体験すべき「小さな危険」と「小さないたずら」(※近日公開)【プロフィール】嶋村仁志(しまむら・ひとし)1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月14日都会では子どもたちの遊ぶ場がどんどん減っているなか、さまざまな「遊び」をしかけている人たちがいます。それが、2010年に設立された「一般社団法人TOKYO PLAY」。活動の主な目的は、子どものために遊びを大事にする大人を増やすこと。お話を伺った代表理事・嶋村仁志さんは「プレーパーク」のエキスパートでもあります。プレーパークで遊ぶことが、子どもにどんな影響を与えるのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)冒頭写真提供:嶋村仁志モットーは「自分の責任で自由に遊ぶ」デンマークで生まれ、イギリスで発展した冒険遊び場(インタビュー第1回参照)は、日本でも「プレーパーク」という名称で徐々に広がりつつあります。公園の一角や河川敷、里山など私有地を使わせてもらって不定期で設置する、あるいは月に1回、年に数回といった具合に定期的に設置するものについてはだいたい400カ所くらい。常設のものは20〜30カ所といったところでしょうか。国内初の常設プレーパークが、東京・世田谷の羽根木プレーパークです。開園は1979年。そこで、プレーパークについての重要な考え方が根づくきっかけとなった出来事が起こりました。開園間もない羽根木プレーパークで子どもが怪我をしてしまった。運営者と地域住民の話し合いのなか、ルールをきちんと看板にして掲げようという話になりました。当初は「自由に遊ぶ」ということだけを掲げるという案もありました。でも、本当に自由に遊ばせるためには、大人から子どもに「責任」を返してあげないとならないのです。大人の世界でもそうですが、なにかにチャレンジするというときに「失敗したら責任は誰が取るの?」なんて言われたら、それは「チャレンジするな」と言われていることとほとんど同じですよね。そうなると、チャレンジしたい、「やってみたい」という気持ちが奪われてしまうのです。であるなら、子どもに責任を返していこうという表現をした方がいい。そういう経緯があり、「自分の責任で自由に遊ぶ」という看板を掲げました。これこそ、プレーパークのモットーです。自由な遊びで「責任」を学んだ子どもたち「責任」についての話をもう少ししましょう。あるプレーパークによく遊びに来ていた小学生の兄弟が泥だらけになって帰ったときのこと。お母さんが帰宅したら、ふたりで仲良くお風呂に入っていたのだそう。しかも、洗濯機には脱いだ服がちゃんと入っている。いつもはお風呂にはなかなか入らないし、服は脱ぎっぱなし。でも、このときはちがった。兄弟は、泥だらけになって服を汚してしまったことに対して、小学生なりに「責任」を感じたようだということを、次の日になってお母さんが教えに来てくれたことがあります。別のプレーパークでは、ちょっとした怪我をした子どもがいた。「念のため、おうちの人に連絡しようか?」と聞くと、「嫌だ」と言う。これはよくあるパターンなんです。怒られたくないとか、「もうプレーパークに行っては駄目」と言われるかもしれないとか、子どもはそう思うんですね。でも、あまりにも頑なに拒絶するので、その子に理由を聞くと、「僕がやりたいことをやって怪我をしたのに、プレーパークの人に謝らせたくない」と言うではありませんか。ちょっとびっくりしましたね(笑)。自分のやったことを人のせいにせず自分で責任を持つというのは、あたりまえですが、大人になったときにすごく大事な価値観ですよね。でも、それは誰かに言われてできるようになるものではありません。遊びを通じて実際に泥んこになったり、怪我をしたりするなかで、実感として感じることで「責任」がどういうものかを学ぶわけです。遊びは、体力や発想力、想像力といったものを育てるものでもありますが、もっと「心の奥行き」みたいな部分を深めるものなのだと思います。写真提供:嶋村仁志子どもと一緒にリスクを考えるもちろん、「子どもに責任を返す」とはいえ、本当の危険は取り除いてあげないといけません。そこでわたしたちは「リスクとハザード」という考え方を基本にしています。リスクは、挑戦につきものの危険です。株投資はリスクを伴うものですが、そのリターンはお金ですよね。子どもの遊びの場合、リターンは達成感や友だちと協力した思い出などになるでしょう。それらは大いに味わわせてあげなければなりませんが、一方でハザードという危険もある。これは、子どもの目には見えない隠れた危険、子どもが自ら選びようがない危険のこと。たとえば、子どもがいかにも走り込みそうな場所にある柱から飛び出ている釘などです。そういったものは、大人がきちんと排除しなければなりません。また、「リスク・ベネフィット・アセスメント」という考え方もあります。リスクに対してベネフィットとは「利益、効果」といった意味。いわゆるデメリットとメリットと考えてもらったほうがわかりやすいかもしれませんね。いま、目の前で子どもがある遊びに挑戦しようとしている。それに伴うリスクはどれくらいのものなのか、どんな工夫をすればどれだけ減らせるのか。そして、子ども自身がどれだけ「やりたい」と思っているのか、やったことでどんなものを得られるのか。それらを総合的に判断し、子どもにチャレンジさせるかどうかを決めるのです。もし、本当にやめたほうがいいものであれば、子どもと話をしながら「今回はあきらめよう」と伝える。ある程度の年齢になれば、子どもでもしっかり話せばわかってくれるものです。本人抜きで大人が一方的に判断するのはやっぱり良くありません。写真提供:嶋村仁志遊びを大事にする大人を増やさなければならない子どもにとっての危険という点では、いまは高まっている時代だと感じますね。それは、危険な場所が増えたというような外因的なものではありません。あるプレーパークで出会った子どもなのですが、段ボール箱に入って、なんと7、8メートルもある急斜面の崖から滑ろうとしていたのです。なぜそんなことをするかといえば、もっと小さい頃から、より軽い危険を伴う経験を積み重ねていないからなんですね。いわゆる「恐怖心」が育っていないのです。高さの感覚は5歳までに80%が育つのだそうです。公園に登り棒などの遊具があるのも、高さという感覚、高いことが怖いという感覚を育てるためです。でも、そういう感覚を持てないまま中高生になったとしたらどうでしょう?幼い子どもより力があるだけに、悪ふざけのつもりで命が危険にさらされるようなことをやりかねません。ところが、いまは子どもからどんどん危険を遠ざける傾向にありますよね。放課後児童クラブなどの子どもを預かる場では、とにかく危なそうなものはすべて「なし!」。「ジャングルジムは2段目まで」「ブランコの立ちこぎは2年生から」といったルールがいくつもある。これは、雇用の問題も関係しています。職員は嘱託社員やパートなど雇用形態がバラバラですから、子ども教育に対するモチベーションもバラバラ。結果、親御さんからクレームを恐れて、少しでもリスクがあれば「やめておきましょう」ということになってしまうのです。そんな環境で育った子どもは、チャレンジできないまま体だけが成長し、本当の危険や恐怖を実体験のなかで得ることができない。そうなると、自分の痛みを知らないばかりか、他人の痛みにも共感することができないのです。それは、子ども自身はもちろん、その周囲の人間にとっても危険なことでもあります。子どもたちだけでしっかり遊べる世のなかであれば、わたしたちのような大人は必要ありません。ただ、これだけ子どもが遊べない社会になると、遊ぶことを大事にできる大人を増やさなければなりませんね。そして、大人たちには、遊んでいる子どもの表情にぜひしっかり注目する目線を持ってほしい。子どもはなにか面白いものを見つけると、口を開けたまま顔が固まります。これが最大の関心を示している表情なのです。この表情こそ、挑戦したい気持ち、失敗してもへこたれない気持ち、発想力、集中力といった、遊びをとおして得られるものの原点です。その芽生えを見逃してしまうのは、親としてすごくもったいないことですよ。『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』嶋村仁志 他 著/学文社(2017)■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧第1回:遊具なし、プログラムなし。異例だらけの“ガラクタ遊び”が欧州で大人気の理由第2回:大切にしたい遊びの“リスク”。子どものチャレンジを支える遊びのルールとは?第3回:子どもの工作が“失敗作”でも、親はアドバイスしてはいけない(※近日公開)第4回:中高生では遅い。子どもが体験すべき「小さな危険」と「小さないたずら」(※近日公開)【プロフィール】嶋村仁志(しまむら・ひとし)1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月13日2010年に設立された「一般社団法人TOKYO PLAY」。「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトに、東京でさまざまな「遊び」を仕掛けています。今回取材を受けてくださった代表理事・嶋村仁志さんは「プレーパーク」のエキスパート。TOKYO PLAYの活動、そして、「プレーパーク」とはどんなものなのかを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)主な活動は「遊ぶことの大切さ」を伝える啓発「TOKYO PLAY」は、もともとわたしが2007年に立ちあげた「子どもの遊びと大人の役割研究会」というものがベースとなっています。それを発展解消させるかたちで、2010年に設立しました。主な活動は、「遊ぶことの大切さ」を伝えていく啓発にあります。いま、いちばん力を入れているものが、都内のあちこちで仕掛けている「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト」。地元地域に暮らす人たちが町会や商店街と協力し、使用許可を取った道路で多世代の人が楽しみ、交流する場所をつくることを支援するというものです。普段ならお互いにすれちがうだけの関係の人たちが、「遊ぶ」というキーワードによって交流する。近所の子どもたちの育ちの場、世代を超えた交流の場にしたいと考えています。ただこれは、むかしであればどの地域でもあたりまえにできていたことかもしれません。でも、いまはなかなか難しい。車の交通量は増え、社会の少子高齢化が進むなかで静かに暮らしたい人たちも増えています。その結果、住民同士のコミュニケーションは、都会に限らず、田舎でもなくなりつつあります。そうした傾向が影響しているせいもあるのか、子どもが道で危ないことやご近所に迷惑がかかることをしているのをそばで見ているにもかかわらず、注意できない親や、夜中まで家の前でバーベキューをして、注意されても「え?なにが悪いの?」といわゆる逆ギレするような人もいます。「将来の大人」をきちんと育てなければならないこういう人たちは、「道路族」として呼ばれることもあるようですが、その背景として、子どもの頃に近所の人にかわいがられたり、逆に迷惑をかけて怒られたりしたような、ご近所の他人とのコミュニケーション経験がないまま大人になってしまったのかもしれません。本来、家のすぐ近くの環境というのは学びの宝庫でした。そこで遊んでかわいがられたり怒られたりして学んだ経験があり、近所に断りを入れる、気を使うといったあたりまえのことができれば、本来はこんな問題は起きませんよね。せっかくいい大学、いい会社に入ったにもかかわらず、近所の人たちと必要最低限のやり取りもできないような大人を再生産しないためにも、家のすぐ近くの環境の使い方を見直さないといけない時代になってきているのです。わたしたちのプロジェクトが公園ではなくご近所の道に着目していることには、そうした理由があります。そういう意味では、「将来の大人」をきちんと育てなければならないということになる。2060年の日本では、子どもと大人の数の割合が1対9.96になるという試算があります。ひとりの子どもを約10人の大人たちがどんな目線で見るのか、それが重要です。子どものことを、邪魔なものであったり「自分には関係ない」と思ったり、あるいは子ども教育の専門家などが自分のサービスの「お客」として見る。そういうものばかりだとしたら、その社会では子どもをきちんと育てることができないのではないでしょうか。そうではない、ご近所できちんと子どもを育てられる環境を確保したいのです。デンマーク発祥の「冒険遊び場」わたしが子どもにとっての遊びの役割に興味を持ったのは、「冒険遊び場」との出会いがきっかけでした。冒険遊び場が生まれたのはまだ第二次世界大戦中だった1940年代のデンマーク。コペンハーゲン郊外で住宅地を造成しているなか、新しい公園をつくることになった。その都市計画に関わっていたソーレンセン氏は、大風の日に倒れた木に子どもたちが群がって遊んでいる姿を見たことがありました。また、廃材置き場にも面白さを見出していたそう。その構想を生かして生まれた新しい公園が、「廃材遊び場(Junk Playground)」です。そして、第二次世界大戦が終わったイギリスのロンドンでは、がれきのなかで子どもたちが遊んでいました。「大人よりも早く子どもたちはがれきのなかで復興をはじめている」と言われるなか、今度はイギリスの都市計画家、アレン・オブ・ハートウッド氏がデンマークの廃材遊び場を見て、「これだ!」と思ったのだそうです。ただ、そのままの名称ではイメージがあまり良くない。そこで、当時、子ども教育に熱心だったイギリス王室関係者が「いま、子どもたちが必要としているのは『冒険』だ」として、「冒険遊び場(Adventure Playground)」と名前を変えてイギリスに広まることになりました。現在、イギリスでは250カ所くらい、ドイツでは400カ所くらいの冒険遊び場があります。これが、日本では「プレーパーク」という名称でも広まっているのです。写真提供:嶋村仁志子どもの発想と想像力によって変化する遊び場プレーパークは、一般的な公園とはまったくちがうものです。大人が完成品として用意した遊び方も決まっている遊具やプログラムのようなものはありません。あるのはいわゆるネコ車やのこぎり、金づち、シャベルといった道具に木、土、水、火など、それからさまざまなガラクタです。それを、子どもたちが「やってみたい」と思ったふうに使って遊ぶ。大人が遊び方を指示するなんてことはありません。子どもの発想と想像力によってつねに変化していく遊び場というわけです。もちろん、置かれているガラクタもつねに変わっていきます。たとえば、ある日突然、古タイヤが置かれるといった具合です。写真提供:嶋村仁志先日わたしが視察したロンドンの冒険遊び場では、ロンドンオリンピックのときに公園で使われ、廃棄予定だった大きな滑り台が設置されていましたね。こういうふうに、海外ではけっこう大規模なものもあります。ドイツには、プレーパークで働くプレイワーカーの指導を受ければ、子どもたちだけで高さ4メートルまでの建物をつくってもいいというルールがあるところも。中高生くらいになると、自分たちでスケボー用のランプをつくったという例もありますよ。写真提供:嶋村仁志当然、危険はつきものです。ただ、子どもたちは小さなけがから学ぶことも多い。ですから、危険をどう判断するかが重要です。冒険遊び場では、子どもの目が届かないような本当の意味での危険は排除し、大事故につながらないための介入はします。でも、チャレンジという意味での危険は残すことを大切にしています。なぜなら、それらは子どもたちの「心の冒険」だからです。生活のなかでドキドキ、ワクワクすることが、子どもにとってなによりも大きな学びになるのです。『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』嶋村仁志 他 著/学文社(2017)■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧第1回:遊具なし、プログラムなし。異例だらけの“ガラクタ遊び”が欧州で大人気の理由第2回:大切にしたい遊びの“リスク”。子どものチャレンジを支える遊びのルールとは?(※近日公開)第3回:子どもの工作が“失敗作”でも、親はアドバイスしてはいけない(※近日公開)第4回:中高生では遅い。子どもが体験すべき「小さな危険」と「小さないたずら」(※近日公開)【プロフィール】嶋村仁志(しまむら・ひとし)1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年01月12日「シェアリングネイチャー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本でも徐々に広まりつつある思想ですが、初耳だという人もいるでしょう。そこで、「自然体験が子どもの発達に及ぼす影響」を研究テーマにする心理学者であり、日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員という顔も持つ石﨑一記先生に、シェアリングネイチャーとはどんなものかを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)アメリカ生まれの自然から学ぶ思想シェアリングネイチャーという考え方が生まれたのは1979年。アメリカのナチュラリスト、ジョセフ・コーネル氏が『Sharing Nature with Children』という著書で提唱したものです。これは画期的なものでした。それまでは、子どもを自然に触れさせるにも、「教えましょう」「体験させましょう」という考え方が中心でした。でも、そうではなくて、自然のなかで見たり聞いたり感じたりしたことを、「すごいね」「綺麗だね」と共有するだけでいいじゃないか、と。それで十分に子どもたちは自然の楽しさを味わい、自然の恩恵を享受できると提唱したのです。日本では1990年頃から広まりはじめました。すると、林業関係者や自然環境保全団体、幼児教育や学校教育従事者、福祉関係者、カウンセラーなど、多くの人がその考え方に賛同した。それからは、日本でも着々と浸透しています。国内における活動は、ジョセフ・コーネル氏とライセンス契約を結んでいる日本シェアリングネイチャー協会が中心となっておこなっています。ジョセフ・コーネル氏自身がネイチャーガイドとして活動するなかで発案した「ネイチャーゲーム」をはじめとした自然体験プログラムを通じて、自然を楽しみ、自然と遊び、自然から学ぶよろこびに満たされた生活を送る人々を増やす活動を続けています。おすすめネイチャーゲーム5選ここで、わたしがおすすめするネイチャーゲームをいくつか紹介しておきましょう。1:大地の窓これは、木の葉っぱが落ちる秋から冬の時期にできるもの。全身を落ち葉のなかにすっぽり埋めて、顔だけを出します。すると、自分がどんどん地面の一部になっていく感覚になる。「大地の窓」から森を見ると、普段とはまったくちがった森に見えてきますよ。(画像提供:日本シェアリングネイチャー協会)2:落ち葉キャッチ同じ落ち葉の季節なら、これもおすすめ。落ちてきた落ち葉をキャッチする。それだけの遊びです(笑)。でも、これがなかなか面白い。落ち葉って地面に落ちているところは見ても、落ちる瞬間はなかなか見ないものですよね。なんとか捕まえようと、じーっと木を見上げていると、不思議なことに風の通り道も見えてきます。3:木のシルエットこれは、葉が落ちて木の幹や枝のかたちがよくわかる冬にいいですね。全身を使って木のかたちを真似して、どの木を真似したのかをまわりの人に当ててもらうというもの。木の樹形を観察することにもなるし、親子でやればその絆を深めることにもなります。(画像提供:日本シェアリングネイチャー協会)4:ミクロハイクこれは年間を通じてできるものです。ところで、みなさんは虫眼鏡って見るものを大きくするものだと思っていませんか?じつは……虫眼鏡は「自分を小さくする」ものなのです(笑)。虫眼鏡を使って自分が小人になった気分で探索をするのですが、これにはコツがあります。上からのぞくのは巨人の視点です。そうではなくて、地面に横になって見る。そうすれば、自分が小人になって、巨大なアリに遭遇したり、コケの大森林を歩いたりできますよ。(画像提供:日本シェアリングネイチャー協会)5:フィールドビンゴこれも年間を通じて楽しめますね。日本シェアリングネイチャー協会でつくっているカードもありますが、家庭ではビンゴカードのような3×3マスか4×4マスのカードを用意すればOK。そのカードに、グループで「近くにありそうな自然のもの」を書き込み、見つけた項目に丸をつけていくというゲームです。自分のカードのどのマスに書き込むかも重要ですよ。誰かが「白い花」という項目を言ったとして、すでに白い花を見つけているのなら、ビンゴを出すために重要な真ん中のマスに書いちゃうとかね。さらに面白いのは、グループ全員が納得しないと丸をつけられないところ。たとえば「いいにおい」という項目があって、ママが「いいにおいがする」、子どもが「ほんとだ!」と言っても、パパが「ええ?いいにおいじゃないよ」と言ったらそれはNG。だから、親子のコミュニケーションを育むことにもなる。ちなみに、普通のビンゴでは1列が埋まれば終わりですが、これはたくさん見つけてビンゴをいくつもつくります。(画像提供:日本シェアリングネイチャー協会)ネイチャーゲームがなくなることが理想!?真面目な親御さんなら、これらのネイチャーゲームが子どもになにをもたらしてくれるかといったところも気になることでしょう。日本シェアリングネイチャー協会でも、「自然や他者への共感や思いやりが生まれる」「自然や環境への理解が深まる」「自然の美しさや面白さ、不思議さなどを発見できる」「いのちを大切にする心が育まれる」といったことを、その効果として挙げています。たしかにそのとおりでしょう。でも、わたし個人としては、「なにかのためにやる」ものではないと思っています。そうではなく、親子が「共通の体験をする」こと自体に意味があるからです。だからこそ、子どもにやらせるのではなく親自身が楽しむことが大事になる。親子向けのネイチャーゲーム体験イベントでは、最初はだいたい親御さんは子どもにやらせて自分は後ろで腕組みをしている。でも、そのうち親御さんが子どもを押しのけてやるようになる(笑)。こういうイベントは大成功だということです。そして、もっと言えばこういうイベント自体がなくなってもいいのかもしれません。以前、ある地域のネイチャーゲームに欠かさず参加してくれていた家族がいたのですが、しばらくすると来なくなってしまった。でも、あるとき、ネイチャーゲームをおこなっていたところでその家族に偶然出会った。当然、わたしは「よかったら参加しますか?」と声を掛けました。そうすると、お母さんがこう答えたのです。「うちの近くにこんなにすてきな自然があることを知って、日曜日には家族で散歩をしたり食事をしたりしているので、もうネイチャーゲームはいらないんです」と。子どもと一緒に自然を楽しむことをライフスタイルに組み込むことができて、ネイチャーゲームを卒業したというわけですね。誰かがシェアリングネイチャーの普及を推進せずとも、誰もが自然に寄り添って暮らしている――。それが、わたしたちが目指すものなのかもしれません。『人と自然をつなぐ研究 ネイチャーゲーム大学講義録』石﨑一記 他 著/日本シェアリングネイチャー協会(2016)■ 心理学者・石﨑一記先生 インタビュー一覧第1回:「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」第2回:「公園遊び」に道具は必要ない――外遊びは「なにもないところ」から始めよ第3回:意外すぎる自然遊びで一番大事なこと――“外遊び”の専門家が語る「シェアリングネイチャー」入門【プロフィール】石﨑一記(いしざき・かずき)1958年7月18日生まれ、埼玉県出身。東京成徳大学応用心理学部教授。専門領域は発達心理学、カウンセリング、環境教育、キャリアコンサルティング。動機づけ、自然体験が子どもの発達に及ぼす影響、キャリア発達を研究テーマとする。日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員でもあり、目指す指導は「体験した人が活動を振り返ったとき、そこの自然や参加者同士の表情は覚えているのに、指導者の印象はない」というもの。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月27日子どもに外遊びをさせる身近な場所としては、まず公園が挙げられるでしょう。とはいえ、最近の公園は禁止されている遊びも多いもの。そんななかで、どのような遊びをさせれば、子どもの成長を促すことができるのでしょうか。アドバイスしてくれたのは、「自然体験が子どもの発達に及ぼす影響」を研究テーマにする心理学者・石﨑一記先生です。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)「なにかで遊ばせる」という発想をやめる公園遊びをするにも、最近の公園ではいろいろと規則が多くてできない遊びも多いですよね。であれば、「なになにで遊ぶ」という考え方をなくせばいい。そもそも、外遊びは基本的になにもないところからはじめるほうがいいのです。いまの子どもの多くは、「なになにで遊ぶ」に慣れてしまっていて、「どこどこで遊ぶ」ことが苦手です。なにもない公園に行ってもなかなか遊べない。でも、放っておけばいいんですよ。そうしたら、子どもは自分で遊びを見つけますから。そういうときに、親がなにかを用意してしまうと、結局は「なになにで遊ぶ」を助長することになる。だって、子どもなら、葉っぱ1枚あればずいぶん遊べるものですよ。それなのに、親が「公園に行くんだったらフリスビーがいいかな、バドミントンがいいかな」なんて言い出すから、子どもが遊べなくなる。子どもが「ボールがほしい」なんて言っても、そこらにある松ぼっくりでも与えればいいんですよ。そうしたら、子どもはキャッチボールなんかよりよっぽど面白い遊びを考え出します。親は子どもに「なにかで遊ばせる」という発想をまずやめること。そんなことよりも、子どもと一緒にその場にいてあげることに、すでにものすごく価値、意味がありますから。生き物を殺した罪悪感がもたらす道徳性遊具なんてなにもなくても、花を摘んだり、四つ葉のクローバーを探したりするようなことだってできる。アリの行列をずっと眺めているような子どももいるでしょう。子どもにとっては、それは大冒険なのです。そして、なかにはアリなどの生き物を殺してしまう子どももいる。親御さんのなかにも、虫眼鏡でアリを焼いたり、他の虫や生き物を殺してしまったりした経験を持っている人もいるはずです(苦笑)。でも、この残酷さにも意味がある。生き物を殺した後の罪悪感が、やがて小学生以降に発達する道徳性の基礎になるのです。「かわいそうだからやめなさい」と頭から禁止してしまうと、子どもは実感としての「かわいそう」という感覚がわからないまま育ってしまう。ただでさえ、いまは家のなかでおじいちゃんやおばあちゃんが亡くなるといった死に触れる機会がすごく少ない時代です。だからこそ、生き物の死はとても貴重なものとなる。子どもがせっかく捕まえたクワガタが死んでしまったとしましょう。「なんで死んじゃったんだろう」と、子どもはショックを受けてボーッとしてしまう。この体験は、「命は大切だ」と100万回聞かされることよりもよっぽど意味があるものなのです。もちろん、積極的に子どもに生き物を殺させなさいというわけじゃありませんが、生き物を殺した、ペットが死んでしまったというような経験をしている子どもの場合、生き物の死に直面するとそのときの胸の痛みがよみがえってくる。その感覚は、子どもにとって財産と言っていいものですよ。親が与えるべきものは環境と安全話が少し脱線してしまいましたね。公園遊びの話に戻しましょう。幼い子どもの場合、それこそ公園に遊び道具を持っていく必要なんてありません。幼い子どもは、知能の原型となる「感覚運動的な知能を使う」段階(インタビュー第1回参照)。感覚を使って公園の環境自体を味わうことが大切です。たとえば、風や光、植物。あるいは硬さ、柔らかさ。歩くにしても、地面と砂場、落ち葉がたまっているところではその感触がちがいますよね。それから、遊具などに登ったときの視点のちがい。いわゆる、高さですね。そういう豊かな感覚をつかむことがポイントとなります。もう少し大きくなって小学生になると、「目標を決めて挑戦する」とか「目標達成のために工夫する」ということにテーマが変わってくる。でも、この年齢になれば、子どもは自分で自分にいちばんふさわしいテーマを選びます。親が与えるような必要はありません。親が与えるべきは環境であり、安全です。環境という意味で他に親ができることといえば、子どもに合わない公園だと思ったら、別の公園に連れて行ってあげるということ。自分の子どもより大きなお兄ちゃんたちが自転車でワーッと遊んでいるようなところなら、子どもは落ち着いて遊べませんからね。「遊ぶ」ということのイメージを広げるまた、「遊び」という言葉に縛られず、イメージを広げてみるのもいいと思いますよ。たとえば、家のなかでやっていることを外でやる。日曜の朝、ちょっと遅めに起きて冷蔵庫の残り物をバスケットに詰めて持って行って、外で食べる。それだけでも、子どもにとってはすごくスペシャルな体験です。遊ぶと言ったときに、遊び道具を持って行ってレジャーシートを広げて、「さあ、遊ぶわよ!」というのではなく、もっと気軽に考えていいのです。「面倒くさいな」なんてぼやいているパパと、張り切っているママと、はしゃいでいる子どもが一緒にご飯を食べる。その後は夫婦で会話しながら、すぐそばを子どもがたったか走りまわっている。こういうものも含めて、外遊びと考えたらどうでしょうか。そして、なによりも親が子どもと一緒に楽しんであげることです。親が楽しんでいる姿を見て、子どもは「こうやって楽しむんだな」「こういうものに価値があるんだな」と感じる。体験の共有には、話を聞いてもらうことと同じ意味があります。人は誰かに認められたり受け入れられたりしないと生きていけません。子どもの発達には、認められる、受け入れられる体験が絶対に必要なのです。それから、親が楽しむことで親自身のストレス解消にもなる。当然、子どもに優しくできる。そして、「公園に行ったときのママ、大好き」なんて子どもに言われる(笑)。最高じゃないですか。『人と自然をつなぐ研究 ネイチャーゲーム大学講義録』石﨑一記 他 著/日本シェアリングネイチャー協会(2016)■ 心理学者・石﨑一記先生 インタビュー一覧第1回:「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」第2回:「公園遊び」に道具は必要ない――外遊びは「なにもないところ」から始めよ第3回:意外すぎる自然遊びで一番大事なこと――“外遊び”の専門家が語る「シェアリングネイチャー」入門(※近日公開)【プロフィール】石﨑一記(いしざき・かずき)1958年7月18日生まれ、埼玉県出身。東京成徳大学応用心理学部教授。専門領域は発達心理学、カウンセリング、環境教育、キャリアコンサルティング。動機づけ、自然体験が子どもの発達に及ぼす影響、キャリア発達を研究テーマとする。日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員でもあり、目指す指導は「体験した人が活動を振り返ったとき、そこの自然や参加者同士の表情は覚えているのに、指導者の印象はない」というもの。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月25日家に引きこもっている子どもより、自然のなかを元気いっぱいに駆けまわっている子どものほうが心身ともに健全に育つということは、子育ての専門家でなくとも想像できます。事実、「自然体験が子どもの発達に及ぼす影響」を研究テーマにする心理学者・石﨑一記先生も、「外遊びは子どもの成長に大いに影響を与える」と語ります。ただ、外遊びの効果を引き出すには、「親の関わり方がすごく大事」とも。それはどういうことなのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)親は考え過ぎず、ただそこにある「環境」と関わればいい外遊びについてお伝えする前に、まずは多くの親御さんが持っている誤解を解いておきたいですね。ひとつ、例を出しましょう。以前、親子で参加するサマーキャンプを開催したときのことです。子どもたちが川遊びをしていると、ニジマスが泳いできました。なぜかというと、わたしが事前にニジマスを用意して放流したからです(笑)。それで、子どもたちはどうするか。当然、一生懸命に捕まえますよね。じゃ、なぜ捕まえるのか。ニジマスが泳いできたからですよ。そこにもっともらしい理由なんてありません。でも、教育熱心な親御さんたちほど、ただの遊びに対しても「なぜこれをやるの?」「なんのためにやるの?」と、考え過ぎてしまう。そうではなくて、ただそこにある「環境」と関わればいいのです。まずは親御さんが意識を変えないといけない。この話には続きがあります。ニジマスを捕まえた子どもはどうなるか。困るんです(笑)。経験がないから、どうしたらいいのかわからないんですね。でも、まわりを見渡してみると、魚をさばいている大人がいる。子どもはその人のところにニジマスを持っていき、一緒にさばいてもらう。さらには、たき火をしている人もいる。子どもはさばいたニジマスを焼いて食べる。子どもにとっては最高の遊びです。ところが、「今日の昼食はニジマスですよ、ひとり1匹ずつ捕まえて焼きなさい」と告げられたとしたらどうでしょうか?子どもたちはお昼ご飯を食べるためにニジマスを捕まえなければならない。同じことをやっているようでいて、これはもはや作業です。まったくもって遊びではないですよね。生きること自体もそうですが、子どもにとっての遊びは、つねに自分から環境に対して働きかけないといけないものなのです。そして、それに応じて環境が変化する。それを受けて、また子どもの行動が起きる。つまり、遊びとは行為の連鎖として起こるものです。ところが、親御さんは「外遊びが子どもの情操にいい」などと考えて、いい子に育てるために、子どもの意志とは関係なく外遊びをさせようとする。それでは、単なる作業、あるいは課題ではありませんか。そんなものが面白いわけがない。子どもにどんな遊びをさせるのがいいか——そんな発想をまずやめましょう。外遊びが「知能の原型」をつくるもちろん、結果として、外遊びは子どもの成長に大いに影響を与えます。大きくは4つ。まずは「感覚運動的な知能を使う」こと。これは知的発達段階のいちばん最初のレベルにあたります。イメージや言葉を使わず感覚で外界を受け取って、それに対して運動的に働きかける。これが知能の原型です。これに体験が積み重なることで、やがて、実物がそこになくとも頭のなかでイメージできるようになっていく。そうすると、今度はファンタジーの力を身につけることになる。空想であるとか、絵本の世界を楽しめるようになるのです。リアルの世界に対して自分の体を使って反応する体験が豊かであればあるほど、イメージしたり、ファンタジーを楽しんだり、あるいは目標や夢、理想というものを決めるにも、よりリアリティーを持ってできるようになるのです。それから、2番目には「自律性を育てる」こと。公園の遊具は別ですが、自然というものは子どもが遊びやすいようにできていないですよね。木は子どもの都合を考えて枝を伸ばしているわけではありません。当然、木登りをするにも工夫をしないとならない。頭を使って、試行錯誤し、トライアル・アンド・エラーを重ねることとなる。遊びという場面において試行錯誤できるということ、つまり、やってもやらなくてもいいし、やるにしてもどのようにやってもいいということは、自己決定の要素、自分の意志を活用する場面がすごく多いということです。自分の意志を活用するというのは、人が生き生きとするためのひとつの大きな源泉です。そういうふうにして自分の意志でその遊びに関わったから、木のいちばん上まで登れた子どもは誇らしく感じる。これが3つ目で「有能感を育てる」こと。そして、子どもはその誇らしさを誰かに伝えたい。「ママ!上まで登れたよ!」と言って、ママが「すごいわね」と反応してくれたら、他者との「関係性が養われる」ことになる。これが4つ目。外遊びは、これらの4つがすごく豊かに含まれるものなのです。もっとも重要なことは親が一緒に楽しむこともちろん、外遊びは、みなさんにとってもっと耳慣れた力を伸ばすことにもつながりますよ。自分で決めたことだから夢中になってやり続ける——集中力。試行錯誤しながらいろいろと工夫する——発想力。やり遂げたことで自分を好きになる——自己肯定感。親など他者との関係性を保つために情報や意志の交換をする——コミュニケーション能力、といった具合です。外遊びの効果は枚挙にいとまがない。逆にいえば、こういうものをちゃんと育ててあげないと、せっかくの外遊びももったいないとも言えます。子どもの自律性の発達を妨げるのなんて簡単ですよ。「ああしなさい」「これしちゃ駄目」「こうしたほうがいいんじゃない?」と言うだけでいい。子どもが「やったー!見て!」と誇らしげに言ってきたときに、「そんなの大したことないじゃない」と言えば有能感は育たないし、「後でね」と言ってスマホをいじっていれば関係性が育たない。つまり、子どもに外遊びをさせるにあたっては、「親の関わり方」がすごく大事なのです。それ次第で、同じことをしても、子どもの成長という観点からすれば、まったくちがうものになってしまう。とはいえ、先にお伝えしたように、考え過ぎる必要はまったくありません。外遊びの効果を最大限に子どもにもたらすには、あれやこれやと言わず、子どもと一緒になって親御さんもただ楽しめばいい。それに尽きます。『人と自然をつなぐ研究 ネイチャーゲーム大学講義録』石﨑一記 他 著/日本シェアリングネイチャー協会(2016)■ 心理学者・石﨑一記先生 インタビュー一覧第1回:「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」第2回:「公園遊び」に道具は必要ない――外遊びは「なにもないところ」から始めよ(※近日公開)第3回:意外すぎる自然遊びで一番大事なこと――“外遊び”の専門家が語る「シェアリングネイチャー」入門(※近日公開)【プロフィール】石﨑一記(いしざき・かずき)1958年7月18日生まれ、埼玉県出身。東京成徳大学応用心理学部教授。専門領域は発達心理学、カウンセリング、環境教育、キャリアコンサルティング。動機づけ、自然体験が子どもの発達に及ぼす影響、キャリア発達を研究テーマとする。日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員でもあり、目指す指導は「体験した人が活動を振り返ったとき、そこの自然や参加者同士の表情は覚えているのに、指導者の印象はない」というもの。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月24日現在、白梅学園大学子ども学部の教授として、子ども教育のプロフェッショナル養成に携わる増田修治先生。その名を教育界に広めたのは、小学校の教員だった時代にはじめた「ユーモア詩」というものでした。その独特の試みは、2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』で取り上げられ、大きな反響を呼びました。「ユーモア詩」とは一体どんなもので、子どもたちにどういう影響をもたらすものなのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹(ESS)写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)学校にこそ「笑い」が必要みなさんは、学校とはどういうものだと考えていますか?教師も子どもも真面目で一生懸命に勉強をするべき場所――そんなふうに思っていないでしょうか。教師を長くやっていると、教師こそそのように思い込み、「学校はこうあるべきだ」「子どもはこうあるべきだ」という考えにとらわれてしまいがちです。かつてのわたしもまた、そういう教師になってしまっていました。でも、その思い込みを完全に打ち破ってくれたのが「ユーモア詩」だったのです。じつは、これは偶然に発見したもの。わたしがある小学校で4年生の担任をしていた頃、ひとりの男の子が書いた詩を学級通信に載せたのです。それは、「おなら」という詩でした。おなら国広伸正(4年)だれだっておならは出る。大きい音のおならを出す人もいれば小さい音のおならを出す人もいる。なぜ、音の大きさが違うのだろう。きっとおしりの穴の大きさが違うんだ。わたしはこの詩を見たとき、正直、「ばかじゃないのか」「くだらないことを書いて」と思いました(笑)。でも、事前に「どんな内容でも学級通信に載せる」と約束していたため、載せないわけにはいかない。そして、どうなったかというと……この詩を見た子どもたちは15分も笑い転げているんです。じつはこの頃、わたしのクラスは子ども同士の関係があまりうまくいっていませんでした。でも、この詩でみんなが笑い転げている。なかには、「マヨネーズの星型の部分をお尻にはめたらどうなるのか」なんてばかなことを言う子どももいました(笑)。そのとき、気づいたわけです。「子どもたちは笑ってつながりたいんだ」「学校にこそ笑いが必要なんだ」と。子どもはうんちやおしっこ、おならの話が大好きですよね。その子どもたちの「面白い」「楽しい」という感覚に教師が近づかなかったら、彼らといい関係が築けるわけがありません。そうして、はじめたのがユーモア詩でした。ルールはありません。なにをどう書いてもいい。そして、そのうち、ユーモア詩がびっくりするような出来事も引き起こしました。そのきっかけとなったのが、この詩です。弟ってすごい?並木勝也(4年)こないだ弟が外を走っていました。弟が「ぼく、すごいのできるよ!」と言いました。弟は走りながらぼうしやクツもぬぎました。そしてクツ下もぬげてズボンもぬげました。それから弟はぼくに「まっ、お前じゃできねーな。」と言いました。そんなのやりたくねーよ!これを見て、わたしは並木君に「面白い、見てみたい」と言いました。並木君の弟は当時、年長さん。服を全部脱いで裸になって「すごいでしょ?」と自慢げに言う彼を、わたしは「すごいね、たいしたものだね」と褒めまくりました。その2週間後、並木君が「弟が技に磨きをかけたから、また見てほしいそうです」と(笑)。もちろん、見に行きましたよ。今度は服を全部脱ぐまでの時間が大幅に短縮されていた。わたしは「もう名人芸だね」と大絶賛しました。じつは、並木君の弟は、保育園ではちょっと問題がある子どもでした。ところが、小学校に入学したらきちんと座って真面目に授業を受けている。「僕は小学校の増田先生に褒められた、できるはずだ」と思ったそうなんです。そうして、6年生になったらなんと児童会長になっちゃった。わたしは、ただ裸になることが早いと褒めただけ。それなのに、子どもにとってはそれが自信になる。どんなにばかばかしいことでもいいんですよ。「いいよね、面白いよね」と言ってあげることが、その子どもを認めてあげることになる。大人は、子どもがいわゆる「いいこと」をしたときにだけ褒めますよね。そうすると、子どもはその「枠」のなかにしかいられなくなる。自己肯定というのは、「いいこと」のようなプラスのことだけに働くものではいけません。マイナスのことも含めて、「あなたはそのままでいいよ」と言ってあげなければ、本当の自己肯定感は育たないのです。子どもの本音を知り観察眼や表現力を伸ばすユーモア詩が影響を与えるのは、子どもだけに限りません。親同士、親子の関係も変えていきます。たとえば、この詩もそういうきっかけになりました。ボディービルダー長川翼(3年)この前テレビで、ボディービルダーの大会をやっていた。さっそくぼくとお兄ちゃんは、服をぬいでパンツ1枚になり、ボディービルダーのまねをした。それを見ていた父ちゃんは、「それじゃダメダメ!」と言いながら、けつにパンツをくいこませて歩いていた。おかしくておかしくてみんなで大笑いした。でもこれで終わるわけがない。最悪なのは母ちゃんだ。とても人に見せられないパンツ1枚のかっこうで、ボディービルダーのまねをしていた。あれでも一応女なんだろうなー。すごい家族ですよね。でも、内容が内容だけに、掲載前にお母さんに掲載の許可をもらいにいったんです。すると、「先生、うちはもう確認はいりません、あきらめました」と。このあとの長川君の言葉の輝きといったらなかったですね(笑)。そして、あるとき、父兄にユーモア詩の感想を寄せてもらったのです。すると、なんと7人ものお母さんが長川君の詩に言及しているではありませんか。「わたしは長川君のお母さんを尊敬しています、あんなことを書かれたらわたしなら生きていけない……」と(笑)。こうして、親同士のつながりも深まることにもなりました。さらには、お父さんと子どもの関係も変わった。共働き家庭が増えているとはいえ、仕事に忙しいお父さんはどうしても子育てはお母さんにまかせがちです。たまに子どもに学校の話を聞くにしても、「どうだ?頑張っているか?しっかり勉強しているか?」というような内容になってしまう。もちろん、子どもからすれば面白くありません。でも、ユーモア詩を目にすれば変わる。「●●君って面白いな、どんな子なの?」「ところで、おまえはどんなことを書いているの?」と、お父さんが子どもの友だち関係を知り、親子のコミュニケーションをしっかり取れるようにもなるのです。もちろん、「ちゃんとしたもの」を書こうとしなくていい自由な表現のなかで、言葉による表現力も格段に上がっていきます。わたしは作文の指導なんてしませんでしたが、作文の全国コンクールで優秀賞を取る子どもも出てきたくらいです。ユーモア詩は、家庭ですぐにでもできるものです。ここにあるような詩を例に見せて、子どもに自由に書かせればいいだけ。ただ、「なにを書かれても絶対に怒らない」と約束してあげることがルールになる。普段の会話ではなかなか出てこない子どもの本音を知り、観察眼や表現力を伸ばすことにもつながるはずです。『遊びにつなぐ! 場面から読み取る子どもの発達』増田修治 著/中央法規出版(2018)■ 子ども教育のエキスパート・増田修治先生 インタビュー一覧第1回:クイズで育む!?子どもの「人生を決める」非認知能力の伸ばし方第2回:非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆は――?第3回:子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」第4回:“おなら”に“裸”、なにを書いてもOK!?「ユーモア詩」が伸ばす子どもの力【プロフィール】増田修治(ますだ・しゅうじ)1958年3月8日生まれ、埼玉県出身。1980年、埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として埼玉県朝霞市内の小学校に勤務。「ユーモア詩」に取り組み、子どもたちのコミュニケーション能力の向上を図るとともに、楽しい学級づくり、保護者とのコミュニケーションづくりをおこなう。2002年にはNHK『にんげんドキュメント 詩が躍る教室』が放映され反響を呼んだ。2008年3月末で小学校教諭を退職し、同年4月より白梅学園大学准教授。現在は同大学子ども学部子ども学科教授。『小1プロブレム対策のための活動ハンドブック』(日本標準)、『「いじめ・自殺事件」の深層を考える—岩手県矢巾町『いじめ・自殺』を中心として—』(本の泉社)、『先生! 今日の授業楽しかった!—多忙感を吹き飛ばす、マネジメントの視点—』(日本標準)など教育関連の著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2018年12月04日