音や文字に「色」を感じる!? 「共感覚」は何がスゴいのか
その結果、多くの赤ちゃんは自分がくわえていたほうのおしゃぶりをじっと見つめていたといいます。このことから、赤ちゃんは口からの触覚情報から視覚情報を得ており、2種類の感覚を共有している共感覚者だといえます。
脳が成長するとともに、それぞれの感覚野をつないでいた経路が遮断されて共感覚を失うことがほとんどですが、中には経路が遮断されることなく大人になっても共感覚を持ち続ける人もいるのです。
共感覚を持っていることのメリット
文字に色がついて見えたりする共感覚は、物事を記憶する手助けになることが多いそうです。そのため、共感覚がある人は記憶力が良い傾向にあります。
前出の長田教授は、歴史の年号や電話番号を数字から感じる色の配置で覚えていたそう。たとえば、「1192」は「白・白・赤茶色・オレンジ」なのだとか。また、「いいくに」としてしまうと、平仮名から感じる色の配色が「白・白・白・黄色」になってしまい混乱するため、語呂合わせは好まないのだそう。
また人の名前も、文字から感じる色を手がかりに覚えられると言います。
ちなみに、暗算や暗記、言語習得能力に非常に優れていることで有名なダニエル・タメット氏も共感覚所持者です。彼は、色を使って円周率を22,514桁まで暗記しているのだそう。
共感覚者ならではの悩みも
共感覚がある人のことを、「数字や文字が楽に記憶できてうらやましい」と感じた方も多いかもしれません。しかし、共感覚者ならではの悩みもあるのだそう。
東京大学大学院教授で共感覚研究の第一人者である横澤一彦氏いわく、数字に色がついて年号が覚えやすいとしても、たとえば5と8が同じ色に見える人の場合は「358」と「355」を混同してしまうことがあるのだそう。このようなデメリットがある点から、共感覚を持っていることは特段大きなメリットにもデメリットにもならないだろうと言われています。共感覚が記憶力をサポートすることは確かにありますが、逆に邪魔してしまう場合もあるのです。
横澤氏によると、かつて共感覚者は10万人に1人という珍しいケースで、芸術家や天才に多いとされてきたものの、最新の研究では100人に1人程度の割合で存在することがわかってきたのだそう。しかし、共感覚を持っている本人が「自分は人と違うのではないか」「なぜ自分だけが文字に色がついて見えるのだろう」と悩み、共感覚を持っていることを隠すケースが珍しくないため、共感覚者への理解や周知は進んでいないのが現状です。