生徒への質問までマニュアル化された教育法「ディレクト・インストラクション」の驚くべき効果
この調査では、DIのような教育法から、子どもが自主的に学ぶようにつくられた授業モデルなど、17種類の授業パターンを比較しました。すると、ほかの授業モデルに比べて、DIで学習した子どもの学力が圧倒的に上回る結果となりました。しかもそれは、基本的な読み書きにとどまらず、思考力や高度な数学的能力にまで及んでいたのです。驚きますよね。僕も、最初にこの結果を見たときは驚きました。この調査からわかったことは以下です。
・優れた内容のマニュアルのもと、教師がそのマニュアル通りに教えることで、子どもの成績は圧倒的に伸びる。
・読み書きなどの基本的なリテラシーだけでなく、「思考力」や「類推能力」(ある事柄から物事を推測する力)に関しても、マニュアル通りに教えたほうが、成績がよくなる。
教師のオリジナリティあふれる授業こそ優れた教育だと思う人からすると、信じがたい結果かもしれませんが、これがデータから得られる「画一的であること」のプラスの側面なのです。
先生個人の経験則とデータに基づいた知見を
もちろん、この結果を受けて「なんでもかんでも画一的にすればいい」と思うのは早計です。そもそも子どもは千差万別。全員が同じような授業でいいはずがありません。
重要なのは、このDI教育マニュアルがたいへん優れているということなのです。DIの教育法では、「少人数」で「学力が同程度」の生徒たちに授業を行ないます。それぞれの発達に合わせた教育マニュアルがあるわけですね。
そして、そのマニュアルをつくるときに重要なのが「エビデンスベースド」という考え方です。
これは文字通り、そのマニュアルが「エビデンス(=証拠)」に基づいているということ。さまざまな実験で統計的に得られた結果をしっかりと受け止め、それに基づいて生徒たちの学習カリキュラムを形成するわけです。
最近ではこの考え方もだんだんと教育界に浸透してはきましたが、ひと昔前であれば、先生個人の経験が学習カリキュラムに影響を及ぼすことが多く、統計学的に実際の効果があるのか保証されてはいませんでした。もちろん、先生の経験をすべて否定するわけではありませんし、それぞれの先生の経験も貴重なデータのひとつです。
ただし、「個々人の経験則ではなく、横断的なデータに基づいた知見を入れて教育をとらえ直そう」というのがエビデンスベースドの基本的な考え方。