理不尽なリスクを背負う? 恐るべき“いじめ後遺症”の実態と向き合い方
こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。
みなさんは『海底の君へ』というドラマをご覧になったでしょうか。NHK総合テレビで2016年2月20日に放送され、好評のため同年5月8日にNHK・Eテレで再放送された単発ドラマです。
29歳になった現在でも、中学時代に受けた犯罪的ないじめの後遺症に苦しむ青年・前原茂雄の姿を藤原竜也さんが好演している、とても考えさせられる物語でした。
物語では、いじめ被害から15年の時が流れても引きこもりが続き、定職に就くこともできない茂雄が、弟がひどいいじめにあっている23歳の女性・手塚真帆(成海璃子)と出会うことによって立ち直りの兆しを見せます。
しかし、真帆の弟で14歳の瞬(市瀬悠也)の自殺未遂をきっかけに、「いじめる者たちを自分もろともこの手で葬り去らなければならない」と考えるようになり、手製の爆弾を体じゅうに装着して15年ぶりに中学校の同窓会会場へ向かうという、衝撃的な内容となっています。
●渦中にいた期間が過ぎてもその後何年にもわたってその人の人生を奪う“いじめ”
『海底の君へ』の物語では、茂雄の異変に気づいた真帆が同窓会の会場に駆けつけ、間一髪のところで最悪の事態は回避されますが、茂雄は爆破未遂・殺人未遂の罪で5年間服役することになります。
出所後、茂雄が塀の外で待っていた真帆に「生きなきゃね」と言って手を携えて歩き出したときにはすでに34歳になっていました。
前原茂雄というこの物語の主人公は、中学時代に受けた残虐ないじめが原因で、20年という年月を奪われた わけです。
そして、いじめ被害者がその後の人生において、いじめを受けなかった人に比べてあまりに理不尽なリスクを背負うことになってしまうという『いじめ後遺症 』の問題は、実は最近の精神医学の分野ではエビデンス(根拠)が確立された大問題になりつつあります。
今回はそれをテーマに、筆者の旧知の精神科医の話なども参考にしながら筆を進めて参りたいと思います。
●『いじめ後遺症』には信頼のおけるエビデンスがある
『ヤンキー化する日本』の著書で知られ、『海底の君へ』の医事監修も担当された精神科医の斎藤環さんによると、少年期にいじめ被害を経験した人が、その後長きにわたって社会的・経済的・精神的・身体的にリスクを抱えることになってしまうという『いじめ後遺症』は、滝沢龍という日本の精神科医が筆頭著者となっている2014年の『American Journal of Psychiatry』掲載の研究論文で、精神医学的なエビデンスを確立したとされています。