理不尽なリスクを背負う? 恐るべき“いじめ後遺症”の実態と向き合い方
滝沢龍博士が中心となり、バーバラ・モーガン博士らとともに英国キングスカレッジで推し進めた『要因対照研究(コホート研究)』を見てみましょう。
イギリスで7歳から11歳までのあいだにいじめ被害を経験した7,771名に対して追跡調査を行ったところ、いじめ被害を受けなかった群に比べて、『うつ病』になるリスクが1.95倍、不安障害を発症するリスクが1.65倍、自殺傾向については2.21倍という由々しき結果に。
いじめは、社交関係の欠如や経済的困難・健康面での問題など、いじめ被害を受けた後40年を経た50歳時点での生活満足度・生活水準の低さに関連している ことが判明したとされています。
●何十年にもわたって人の人生を奪ういじめ加害者を処罰(処分)する必要はないのか
滝沢博士らのコホート研究でそのエビデンスが確立したといえる『いじめ後遺症』。
しかし、いじめやハラスメントからの後遺症を残さずに、“いじめを受けてしまった人たち”に人として当たり前の日常を取り戻してもらい、いじめられた後の数十年間が“失われた数十年”“海底の数十年”にならないようにするためには、“いじめ加害者”に対する処罰(処分)というものについてもっと厳罰化を検討する必要はないのでしょうか。
『個人的にはいじめ加害者に対する処罰は厳格になされるべきかとは思います。が、その前に、いじめ加害者が自分の犯した罪の重さを自覚し謝罪する ことの方が優先されるべきです。
加害者が「本当に申し訳なかった」と心から思い被害者に謝罪することがなければ、どのような罰を与えたところで意味がありません。
加害者が罪を自覚し謝罪して、その気持ちを具体的に表現する手段として罪を受け入れる。そういった過程があって初めて被害者は納得することができるのです』(50代男性/都内メンタルクリニック院長・精神科医師)
『海底の君へ』で中学時代に茂雄をいじめつづけた加害者たちの中でも主犯格だった立花は、その後若き気鋭の弁護士となって、何の罰も受けずにぬくぬくと生きています。
集団で茂雄を海底へ放り投げ、ミミズを食べさせ、カバンやノートをビリビリに引き裂き、体じゅうに油性ペンで「死ね」「クズ」と書く。
そんな犯罪を実行しているというのに、立花たちのそういった行為を告発する勇気を持ったクラスメイトさえ、茂雄の周囲にはいなかったのです。そのような環境では、それこそ茂雄の親などが直接行動に出るか茂雄を休学させたり転校させたりしてやらない限り、どうにもならなかったでしょう。