独立に思わぬ落とし穴が!? “美容師”に多い法律トラブル事例集
【ママからのご相談】
夫は美容師なのですが、子どもが幼稚園に入ったのをきっかけに独立し、小さな美容院を二人で始めました。 以前勤めていたお店で、それなりに顧客がついていたので、一人ずつ丁寧にお話をし、大半のお客様は新しいお店に来てくれるようになりました。
すると先日、そのお店から「顧客情報を持ち出すのは違法なので、訴える」と連絡が来たのです。
夫は、顧客リストを持ち出したりしたわけではなく、口頭で事情を説明し、連絡先を教えてもらって新しいお店の案内をしたのですが、勤めていたお店で出会ったお客様である以上、顧客情報を不正に取得したということになってしまうのでしょうか?
●A. 「営業秘密」にあたるかどうかがポイントです。
ご相談ありがとうございます。アディーレ法律事務所弁護士の正木裕美です。
今回は、美容師業に関する法律問題についてご説明します。
●機密情報の不正持ち出しになる?
不正競争防止法では、事業者間での公平な競争を保護するため、「不正競争」 すなわち、他社の商品をまねたり、他社の情報を不正利用する等の行為 が禁止されています。
顧客情報は、会社の宝で、持ち出されると会社は大きなダメージを受けますから、「営業秘密を盗まれた!」と言われるかもしれません。
しかし、不正競争防止法でいう営業秘密とは、『秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの』とされています。
顧客情報は有用ですし、一般人に公然とは知られたものではないとはいえます。
しかし、従業員の中でも一定の限定された者しかアクセスできず、パスワード等で管理されている、秘密保持契約が結ばれるなどの厳重な管理がされていない場合は、秘密として管理されているとはいえない、つまり営業秘密にあたらず不正競争防止法違反とはならない、とされることもありえます。
今回はデータの勝手な持ち出しというわけではないですし、会社の了承を得て連絡先を教えてもらって案内をした結果、顧客がついてきたということですから、問題にはならないでしょう。
●「誓約書」にサインさせられていたら?
労働者は、使用者に対して誠実に労務提供する義務を負っています。その義務の一つとして、使用者と競合する企業等に就労しないといった競業避止義務 があり、在職中の競業行為は認められません。