ドリブルで相手の逆を作る動きが苦手な子どもたち。相手の動きを予想できるようにするお勧めの練習は?
1対1を仕掛けるとき、相手の逆をつくのが苦手な子どもたち。低学年なのでまだまだ自分で仕掛けることも多いけど、動きが素直ですぐ取られる。
「相手の動き意識する」「相手の動きを予想する」動きを身につけさせるためにはどんな練習をすればいい?とのご相談をいただきました。
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、お勧めの練習法とその根拠などを教えます。
(取材・文島沢優子)
池上正さんの指導を動画で見る>>
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<「うちの子はMFに向いている」など親が子どものポジションに口出し。様々なポジションをさせる重要性をどう説けばいい?
<お父さんコーチからのご質問>
スポ少で指導をしています。指導年齢はU-8です。
サッカーはチームプレーで、仲間との連動が大事ですので、個人技の質問はあまりよくないかもしれませんが相談させていただきたくご連絡しました。
普段の練習では、数的優位を作って連携することを意識させているつもりですが、行けそうなときは1対1をしかけることも教えています。
その際に、相手の逆をつく動きがまだまだ苦手な子が多いように見えます。
年齢的に相手を意識するより一人でドリブルを仕掛ける方が多いので、「相手の動き意識する」「相手の動きを予想する」ことができないのだと思います。
足の速さや体の強さがなくても相手を交わすことができるよう、相手の逆をつく動きを身につけさせたいと思っているのですが、どんな風に教えたらいいでしょうか。
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
三つアドバイスさせてください。
まずは練習メニューを工夫することをお勧めします。
例えば、この連載の前回でポジションの話をした際にお伝えした「フニーニョ」の話を覚えていますか?ドイツの小学校低学年の子どもたちが行う3対3のミニゲームのことで、同国サッカー協会が小学生の指導者に推奨しています。このメニューの何が良いのかといえば、攻める際ゴールが左右に1つずつあるので、まるで右のゴールを狙っているかのように見せて、左に行く。そのように相手の逆をとるプレーをすると相手をかわせるし、だませるので数的優位がつくりやすい。ゴールにつながる体験を一度でもすれば、子どもたちは逆をつくプレーをやり始めます。
また、そのように攻撃の自由度というか、選択肢を広げてあげられるのが、このフニーニョの良さです。右に行く恰好をして、左に行く。そういうことが試せる練習環境を作ってください。
2年生レベルですから、いっぱいミスは出るかと思います。でも、たくさんミスすればいいのです。そのなかで「右も左もみてごらん。君がドリブルしながら右を向くと、相手はどう?」と問いかけてください。子どもたちは「右に行く」と答えるでしょう。私はそこで「そうそう。そういうことを考えてサッカーすればいいよね」と声掛けをします。
ふたつめ。
さらにいえば、わざと一対一を仕掛けるような恰好をして、反対側の味方にパスできる。そんな選手を目指してほしいと思います。一対一で行くようなふりをして、逆ゴールに向かっていく選手にパスを出そうとしたら、相手守備がそのパスを察知したとします。
過去よく行われてきた一対一をしてボールを失ったらそれで終わりといった練習では、上述したような選手は生まれません。メニューや指導の仕方を考え直しましょう。1~3年生ならば、4対1でゆっくりと問題を解決しながら、子どもにサッカーのやり方を伝えてください。
自分がボールを持っている。自分がどこに行くとパスができますか?両サイドにいる味方の選手が前に広がったスペースに走ってくれると、守備がボールを取りにくくなりそうだし、チャンスが生まれそうだ。
そういったことを少しずつ丁寧に教えます。
先日も、ある県で行った講習会で、4対1を行いました。コーチの方にいろいろな練習を見せたいので、いつも短い時間で区切ってさまざまなメニューをやります。でも、その時は4対1を珍しく時間をかけて子どもたちにやってもらいました。完全にできるようになるために時間をかけたわけではありません。子どもたちの「変化」をコーチの皆さんに見てほしかったのです。
練習を進めていくと、子どもたちの頭の中に少しずつ攻撃のイメージができてきたようで、最後に3対3をしたら、逆サイドで「パス!」と呼ぶ子どもがどんどん増えてきました。そして、ボール保持者も、自分で一対一で行くよりもパスを選択する変化が見られました。
つまり、子どもたちが変わったのです。見学されていた指導者おひとりが「こうやって時間をかけるんですね」と感想を述べておられました。私の意図が伝わったのだと思います。「慌てずにゆっくりやることが大事」と理解してくださったようでした。
三つめ。
逆をとる動きを磨くためにできることはほかにもたくさんあります。鬼ごっこなどの遊びでも養われます。二対一で、わざとドリブルをしてひきつけてからパスをするという動きも同じですね。
低学年の上手な子の多くは相手の逆をとれますが、パスを出せばいいところでパスしません。自分で行ってしまいます。3対2、4対2とか4対3になると次のカバーの子がきますが、その子もかわそうと無理やり自分で行ってしまいます。
そういう子には「いま、相手をかわしたね。次に何をしたいからかわしたの?」と尋ねてあげてください。そして、そのようにごぼう抜きを目指すプレーは「うまいけど賢くはない」ということを教えてあげましょう。
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(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
大人にも、この「うまいけど賢くはない」ということはなかなか理解してもらえません。「池上さんはパスサッカーなんですね?」と言われます。でも、私は「パスしかダメ」とは言ってません。「パスしたほうが簡単でしょ?」ということを伝えたいのです。ひとり抜いても、次の相手(カバー)が来たらどうするか? を考えて工夫してほしいのです。
低学年でも同じです。したがって、「そんな年代でパスを教えるんですか?」と言われたりします。でも、「サッカーってそういうものですよね?」と言います。
そうすると「でも、この子達は止めて蹴れないんです」となる。では、止めて蹴られるようになるまでその練習ばかりしていたらゲームになりません。まわりをみて判断してプレーするのがサッカーなのに、止める蹴るばかりやってしまうといつサッカーを覚えるのでしょうか。
1年生でも判断や考える要素が入ったメニューをしてもらいます。考えなくてはいけないけれど、一方で技術練習にもなっています。やり続けると、いつの間にかパスが巧くなっていきます。
「ミスパスが多いから止めて蹴る練習を長くする」という考えはやめましょう。
そうしなくては、試合で味方やスペースを見つけて判断することを覚えない、経験しないまま上のカテゴリーにいってしまう。それは、今の日本の育成の大きな課題だと感じています。
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池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
「相手の動き意識する」「相手の動きを予想する」動きを身につけさせるためにはどんな練習をすればいい?とのご相談をいただきました。
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、お勧めの練習法とその根拠などを教えます。
(取材・文島沢優子)
池上正さんの指導を動画で見る>>
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<「うちの子はMFに向いている」など親が子どものポジションに口出し。様々なポジションをさせる重要性をどう説けばいい?
<お父さんコーチからのご質問>
スポ少で指導をしています。指導年齢はU-8です。
サッカーはチームプレーで、仲間との連動が大事ですので、個人技の質問はあまりよくないかもしれませんが相談させていただきたくご連絡しました。
普段の練習では、数的優位を作って連携することを意識させているつもりですが、行けそうなときは1対1をしかけることも教えています。
その際に、相手の逆をつく動きがまだまだ苦手な子が多いように見えます。
年齢的に相手を意識するより一人でドリブルを仕掛ける方が多いので、「相手の動き意識する」「相手の動きを予想する」ことができないのだと思います。
足の速さや体の強さがなくても相手を交わすことができるよう、相手の逆をつく動きを身につけさせたいと思っているのですが、どんな風に教えたらいいでしょうか。
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
三つアドバイスさせてください。
■「逆を突くといいことが起きる」状況をつくる
まずは練習メニューを工夫することをお勧めします。
つまり、「相手の逆をつくといいことが起きる」状況をつくるのです。
例えば、この連載の前回でポジションの話をした際にお伝えした「フニーニョ」の話を覚えていますか?ドイツの小学校低学年の子どもたちが行う3対3のミニゲームのことで、同国サッカー協会が小学生の指導者に推奨しています。このメニューの何が良いのかといえば、攻める際ゴールが左右に1つずつあるので、まるで右のゴールを狙っているかのように見せて、左に行く。そのように相手の逆をとるプレーをすると相手をかわせるし、だませるので数的優位がつくりやすい。ゴールにつながる体験を一度でもすれば、子どもたちは逆をつくプレーをやり始めます。
また、そのように攻撃の自由度というか、選択肢を広げてあげられるのが、このフニーニョの良さです。右に行く恰好をして、左に行く。そういうことが試せる練習環境を作ってください。
2年生レベルですから、いっぱいミスは出るかと思います。でも、たくさんミスすればいいのです。そのなかで「右も左もみてごらん。君がドリブルしながら右を向くと、相手はどう?」と問いかけてください。子どもたちは「右に行く」と答えるでしょう。私はそこで「そうそう。そういうことを考えてサッカーすればいいよね」と声掛けをします。
■一対一で行けそうかどうかは子ども自身の判断による
ふたつめ。
このコーチの方は「一対一のときは仕掛けて」と伝えている、とおっしゃっています。それはいいのですが、あくまで行けそうかどうかはその子の判断です。コーチが判断するものではありません。実際に相手と対峙している子どもたち自身が「相手のほうが強いな」と思えば、一対一でいかないほうがいいでしょう。逆に「僕はこの子を抜けるかも!」と思うかもしれない。
さらにいえば、わざと一対一を仕掛けるような恰好をして、反対側の味方にパスできる。そんな選手を目指してほしいと思います。一対一で行くようなふりをして、逆ゴールに向かっていく選手にパスを出そうとしたら、相手守備がそのパスを察知したとします。
そうなったら瞬時にプレーの選択を変えて自分で行く。もしくは、まったく別の選手がスペースに走り込んでいたのなら、その選手を生かす。そんな判断ができるようにしてほしいのです。
過去よく行われてきた一対一をしてボールを失ったらそれで終わりといった練習では、上述したような選手は生まれません。メニューや指導の仕方を考え直しましょう。1~3年生ならば、4対1でゆっくりと問題を解決しながら、子どもにサッカーのやり方を伝えてください。
自分がボールを持っている。自分がどこに行くとパスができますか?両サイドにいる味方の選手が前に広がったスペースに走ってくれると、守備がボールを取りにくくなりそうだし、チャンスが生まれそうだ。
だとしたら、ボールを持った自分はどこにどんなふうにドリブルを運んで、どこを見ればいいのか。味方を助けるにはどうしたらいいか。
そういったことを少しずつ丁寧に教えます。
■慌てずゆっくり理解させることが大事
先日も、ある県で行った講習会で、4対1を行いました。コーチの方にいろいろな練習を見せたいので、いつも短い時間で区切ってさまざまなメニューをやります。でも、その時は4対1を珍しく時間をかけて子どもたちにやってもらいました。完全にできるようになるために時間をかけたわけではありません。子どもたちの「変化」をコーチの皆さんに見てほしかったのです。
練習を進めていくと、子どもたちの頭の中に少しずつ攻撃のイメージができてきたようで、最後に3対3をしたら、逆サイドで「パス!」と呼ぶ子どもがどんどん増えてきました。そして、ボール保持者も、自分で一対一で行くよりもパスを選択する変化が見られました。
つまり、子どもたちが変わったのです。見学されていた指導者おひとりが「こうやって時間をかけるんですね」と感想を述べておられました。私の意図が伝わったのだと思います。「慌てずにゆっくりやることが大事」と理解してくださったようでした。
■普段の遊びの中でも「逆を取る」動きを磨くことができる
三つめ。
逆をとる動きを磨くためにできることはほかにもたくさんあります。鬼ごっこなどの遊びでも養われます。二対一で、わざとドリブルをしてひきつけてからパスをするという動きも同じですね。
低学年の上手な子の多くは相手の逆をとれますが、パスを出せばいいところでパスしません。自分で行ってしまいます。3対2、4対2とか4対3になると次のカバーの子がきますが、その子もかわそうと無理やり自分で行ってしまいます。
そういう子には「いま、相手をかわしたね。次に何をしたいからかわしたの?」と尋ねてあげてください。そして、そのようにごぼう抜きを目指すプレーは「うまいけど賢くはない」ということを教えてあげましょう。
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■「うまいけど賢くない」子が少なくない
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
大人にも、この「うまいけど賢くはない」ということはなかなか理解してもらえません。「池上さんはパスサッカーなんですね?」と言われます。でも、私は「パスしかダメ」とは言ってません。「パスしたほうが簡単でしょ?」ということを伝えたいのです。ひとり抜いても、次の相手(カバー)が来たらどうするか? を考えて工夫してほしいのです。
低学年でも同じです。したがって、「そんな年代でパスを教えるんですか?」と言われたりします。でも、「サッカーってそういうものですよね?」と言います。
そうすると「でも、この子達は止めて蹴れないんです」となる。では、止めて蹴られるようになるまでその練習ばかりしていたらゲームになりません。まわりをみて判断してプレーするのがサッカーなのに、止める蹴るばかりやってしまうといつサッカーを覚えるのでしょうか。
1年生でも判断や考える要素が入ったメニューをしてもらいます。考えなくてはいけないけれど、一方で技術練習にもなっています。やり続けると、いつの間にかパスが巧くなっていきます。
「ミスパスが多いから止めて蹴る練習を長くする」という考えはやめましょう。
そうしなくては、試合で味方やスペースを見つけて判断することを覚えない、経験しないまま上のカテゴリーにいってしまう。それは、今の日本の育成の大きな課題だと感じています。
池上正さんの指導を動画で見る>>
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。