毎年のようにプロサッカー選手を生み出す興國・内野智章監督が「ただ海外を知ればいいわけではない」と語る理由
保護者の方が働いて得た給与から遠征費を支払ってくれているにもかかわらず、忘れ物をしたり、遠征先で寝坊したりして、試合に出られない選手がいます。また、スパイクやウェアを大事にできない選手が増えているのも気がかりな点です。
僕は、高校を卒業し、社会人になってからもサッカーを続けてほしいと考えています。自分でお金を稼ぐようになってからも続けてほしいと思うからこそ、親に払ってもらった遠征費や買ってもらった用具の価値を理解してほしいのです。そのため、お金を稼ぐ意味を高校生のうちに理解してほしいのです。自分で稼いだお金は大切に使うでしょう。
■学生のうちに実社会に触れるのは、異なる世界へ旅立つ準備になる
寺田会長はお金を稼ぐことの意味を知ってほしいと考えているため、ボランティアなどではなく、「絶対にアルバイト代を払う」と言ってくれています。ただ、きつい体験をして終わるだけでは就労体験とは言えないと考えてくれているのです。
就労体験は3日以上できるようにし、まとめて預かってもらうのではなく、各選手の家の近所にある営業所に行けるようにしてもらっています。すると、少人数で働くことになったり、5人ほどで働くことになったりします。
さらに軽作業で終わる生徒もいれば、重労働になる生徒もいます。また、アルバイトでやって来た生徒に対する扱いも営業所の方々によって異なったりもします。アルバイト代は同じであっても、同じ労働、同じ扱いとは限りません。
小学校や中学校、そして高校で過ごしている平等な世界とは異なるのが実社会です。そうした現実に少しでも触れるのは「異なる世界」へ飛び立つ準備にもなるでしょう。
■遠征費を自分で稼いで価値を知る
(C)森田将義
就労体験で稼いだお金は、春休みの遠征費にあてるよう選手には伝えています。
自分が慣れない仕事で得たアルバイト代が遠征になっていると思えば、トレーニングでボールを蹴ること、あるいは1試合の価値を身に染みて感じることができます。
試合で不甲斐ないプレーに終始したとしても、不貞腐れるのではなく、今までとは違うことを考える契機にしてくれるかもしれません。何日も働かなければ手に入らないスパイクを買ってもらっていたと思えば、より大切に扱うようになるでしょう。
言うまでもなく、「お金、お金」となってほしいわけではありません。自分で稼いだお金で好きなことができる価値を考える機会を得てほしいのです。