毒物混入事件を機に平穏な町が一変…「スタンフォード監獄実験」をモチーフにしたミステリー小説
第一章で毒物混入事件は決着を見たかに思えたが、第二章で様相はがらりと変わり、怒濤のどんでん返しが始まる。
「第二章を、第一章の10年後にするのはプロットの段階から決めていました。過酷な状況で育った子どもは、大人になったときにどういう道を選ぶのかを書きたかったので」
実際、重苦しいストーリーの中で、語り手の仁美や幼なじみの涼音、修一郎が、終始、優しさや誠実さを失わないことは救いだ。
「同調圧力に屈していく大人と対照的な存在として、彼女たちが一種の清涼剤のようになってくれたらと思いました。特に仁美は、不器用な恋愛要素も含めて、一度は自分の弱さに負けてしまうのだけれど、その間違いに気づける人物でもあります」
これまでにも実在の事件を下敷きに、いわゆる悪女にフォーカスした作品を書いてきた美輪さん。
「社会を揺るがすほどの犯罪が起きると、『なぜこんな事件が起きたのか』と原因や背景が気になってしかたがない。女性が関わっているならなおさら、感情の赴くままに行動できる人物への興味は尽きないです」
『私たちはどこで間違えてしまったんだろう』主役級からモブ的な人物まで、描写のリアリティが秀逸。美輪さんがこれまで書いてきたイヤミスとは一線を画する読後感の良さも魅力だ。