ジェーン・バーキンの想いとは? カメラを通して向き合う、伝説の母と娘のドキュメンタリー
つまりカメラを媒介とすることで、普段なら面と向かって聞けないことも聞ける。少女時代の自分をどう思っていたか。娘はずっと知りたかったことを尋ね、母も誠実に答える。でも、そうした単刀直入さはカメラを向けられる側にとっては恐ろしい。実際、この対話も含む日本での撮影後、ジェーンが本作のキャンセルを申し出る事態もあったそう。
けれども、シャルロットは決してジェーンを問い詰めたりしない。彼女の人となりそのままの穏やかさで問いかけ、見つめ続けるのだ。亡きケイトへの想いを尋ねることができるのも、ジェーンが抱え続ける喪失感を話すことができるのも、同じ哀しみを抱える実の娘だからこそ。
ファンの聖地であるヴェルヌイユ通りの「セルジュ・ゲンズブールの家」をふたりで訪ねたり、コンサートで日本やニューヨークを飛び回っていたり、彼女たちが特別な存在であることを思い出させるシーンはもちろんたくさんある。でも、そんなふたりの対話を通して浮かび上がるのは、ものすごく普遍的な母と娘の想い。シャルロットがジェーンに抱く想いの数々には、セレブ育ちならぬ身でも自身の母への想いを重ねずにいられなくなる。公開目前にジェーンの訃報が届いたけれど、とりわけ、母への愛が深まるほどに増す、いつか必ず訪れる別れへの不安には激しく胸を揺さぶられたものだ。