米澤穂信「読者も考えれば真相が分かるよう、手がかりはすべて書いた」 新作は警察ミステリー
事件を解決しようと執念を燃やす葛がとにかく渋く、格好いい。
「かつてヒラリー・ウォーのミステリー『失踪当時の服装は』で、事件を解決しようとする警察署長の不屈さに魅せられました。そこが葛に反映されているかもしれません」
今回は、あくまでも捜査に焦点を当てた話運びを選んだ。
「葛の私生活などは、あえて書きませんでした。人柄は仕事ぶりから立ち上がってくるのではないかと考えたからです」
雑音を排しているからこそ読者も推理に集中できる。その際の“わかりそうでわからない”塩梅が絶妙だ。
「“自分も推理できる”というのもミステリーの楽しさのひとつです。どの短編も、読者も考えれば真相が分かるよう、手がかりはすべて書きました。
『崖の下』を発表した時、担当編集者の中で一人だけ真相を見抜いた人がいたんです。それはつまり、読者に分かるように書けたということなので、嬉しかったですね」
米澤穂信『可燃物』群馬県警捜査一課の班長、葛警部が不可解な事件の捜査にあたる短編集。葛の捜査に集中する姿、鮮やかな推理で魅了する警察ミステリー。文藝春秋1870円
よねざわ・ほのぶ2001年『氷菓』で角川学園小説大賞の奨励賞を受賞しデビュー。