【シネマモード】逆説的に追及される唯一無二のスタイルを…『トム・アット・ザ・ファーム』
そして、恋人を救えなかった罪悪感を抱えていたトムは、同性愛に不寛容で暴力的な兄に支配されていくようになり、ストックホルム症候群に陥っていくのです。
ドラン監督といえば、スローモーションを多用した映像とポップミュージックの多様が特徴のひとつでしたが、今回はその“スタイル上の癖”を一掃する狙いを持って本作に挑んだといいます。都会と農村、広告代理店のコピーライターと農夫、ホモセクシュアルとホモフォビア、支配者と被支配者など、劇中に登場する明確な対比は、これまでのスタイルと新しいスタイルとの対比を暗示し、過去の自分との違いを意識しているかのよう。
おしゃれでスタイリッシュな作家というイメージを持ちながらも、今回はあえて、ノーブランドの家具や洋服を使い、ビジュアルではなく物語により観客の注意が向くようにしたとも言えそう。先の見えないサスペンス感や、不条理から生まれるホラー感により、派手な演出はないにもかかわらず、ドラマティックでリアルな臨場感にも溢れていて、これまでの作品以上に、“引き込まれ感”が増しているのです。さらに、“リアル”についてもっと言うならば、今回はあえて洗練されていない醜悪でリアルな映像を追求したといいます。