【レビュー】色とりどりの実写『ムーラン』から放たれる、現実へのメッセージ
脚の不自由な父親に代わり、男性と偽って従軍。彼女は過酷な戦場を生き抜くことができるのか?古代の叙事詩「木蘭辞」にインスパイアされた物語の大筋はアニメーション版通りで、主人公ムーランの人物設定も概ね変わらず。しかしながら、2020年のいま目にすることになった実写版は、現代へのメッセージをより確かに放っているようでもある。
リウ・イーフェイ演じる実写のムーランは、もともと武術に長け、戦士としてのポテンシャルもやる気も十分。にもかかわらず、“女性であること”のみが彼女を押さえつけている。思わぬ状況に飛び込んだことで自覚を強めていくアニメーション版ムーランに対し、実写版ムーランはただただ自分を生かせる場所を模索。性別に関係なく、1人の人間として。ムーランの掲げる理想と葛藤が問い掛けてくるものはいまだ大きい。
出世作『クジラの島の少女』を挙げるまでもなく、ニキ・カーロ監督はこれまでも女性主人公に寄り添ってきた。「この物語で私が惹かれたのは、ムーラン自身」と監督自ら語っているように、私たちは絶対的にチャーミングで、壮大な戦いの物語をリードするのにふさわしいムーランに出会える。その分、ムーラン以外の登場人物たちの描写はややあっさりしているが、コン・リー、ドニー・イェンら存在感たっぷりのスター俳優たちに役を託すことで補完。