2023年6月6日 18:30
【第76回カンヌ国際映画祭】カンヌで躍動したアジアの新人監督たち
ティエン・アン・ファム監督 Photo by Kristy Sparow/Getty Images
義姉の事故死を知った青年が、彼女の棺を故郷の村に届けに行くことになる。その旅は、義姉の失踪した元夫である青年の兄を探す旅でもあった…。という物語。青年が都会からベトナムの辺境地へと入っていく過程を描くロードムービーであり、荘厳な景観にしばしば息を飲む。しかし、息を飲むのは景観の美しさだけでなく、義姉の故郷の村に根付くキリスト教信仰を描く際の繊細さであり、摩訶不思議な登場をする動物たちの描写であり、そして兄や昔の恋人など、失われた者たちとその理由を掴もうとする青年の心象風景を映し出すキャメラの見事な動きである。
『Inside the Yellow Cocoon Shell』(C) APOLLO
非常にゆっくりとした進行のリズムが、本作の大きな特徴となっている。ワン・ビン監督やラヴ・ディアス監督など、一般的な映画の上映時間を超越した「スローシネマ」を手掛ける監督がアジアで強い存在感を放っているが、3時間超の本作はそれら監督たちの影響下にあると見てもいいかもしれない。物語はある程度リニアな形で進行するものの、途中でベトナム戦争を戦った老兵士の語りが入ったり、主人公青年の過去の経験のフラッシュバックが一瞬それとは分からない形で挿入されたり、ドキュメンタリー的なパートや神秘的なパートなどを交えながら作品は自在に脱線する。