田中圭の多面的な演技、“目線”に注目『私にふさわしいホテル』
ではお茶目なリーゼントヘアのヤンキー役をコミカルに演じ、笑いを誘う演技も印象的である。
だが、田中の魅力はコミカルな役柄にとどまらず、『そして、バトンは渡された』(2021/前田哲監督)では愛情深く心優しい義理の父親役、『女子高生に殺されたい』(2022/城定秀夫監督)では女子高生に殺されたいという願望を持つ高校教師役、『あの人が消えた』(2024/水野格監督)では配達員で主人公の頼りになる先輩役など、シリアスな役まで幅広い役柄をこれまでに演じてきた。
本作での遠藤役も、田中の多面的な演技が光る役柄だ。遠藤は常にクールで飄々としている一方、カラオケで熱唱したり、時折見せる笑顔など人間味が垣間見えるキャラクターを演じている。彼の内に秘めた編集者としての野心が、田中の表情などから滲み出るところが見どころとなっている。
堤幸彦監督は田中について「付き合いも長く、ドラマも映画も一緒にやりましたが、昔からとにかくうまい方という印象です。遠藤には、『売れてなんぼ』という信念もあり、ヒットの力学と個人の究極の芸術である文学との狭間で生きている人。多分彼も大学の時は小説を書いていたけれども、早々に筆を折って編集者になったのかもしれない。