兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃 (5) 兼業漫画家は"大平原"の夢を見るか
よって、私は自分の作品が掲載される日まで、「載った途端、ネットで酷評、住所を即特定され、嫌がらせが山のようにくるだろう」と本気で悩んでいた。
しかし、いざ掲載され、おそるおそるネットで評価を調べて見ると、そこは静かな大平原であった。良いとか悪いとかいうレベルですらなく感想が「ない」のである。それぐらい「人の話題にのぼる」というのは難易度が高い。全国誌に一度載ったぐらいでは、誰も、一言も言及しない、なんてことはザラだ。
それから5年、大平原状態は今も続いている。30秒に1回のペースでありとあらゆるワードで検索し、たまに落ちている感想を「ありがてえ、ありがてえ」と拾い、ほぼひとつ残らずリツイートする毎日である。酷評もないが絶賛もない、ジョジョの吉良吉影が求めたような生活がそこにあり、この平和を全世界に届けたいぐらいだ。
平和は良いことだが、正直作家にとってはあまりよろしくない。賛美両論巻き起こるのは、それだけ人の目に触れているということだ。褒める感想が若干あるのみで悪評がないというのは、「変わり者のファンが3人ぐらいだけいる」という状態に等しく、その3人が全員石油王で単行本をひとり3億冊ぐらい買ってくれる場合を除き、そのうち干されてしまうだろう。