没入感がすごい……【TheBookNook #15】
ヒロインを夢見る女性たちとグロテスクな現実との落差がじわじわと心を苦しめてきます。文章の間から人間の嫌な部分がプンプンと匂う何とも言えない薄気味悪さが癖になり、怖いもの見たさにページを捲る手が止まらなくなります。
最後、“これで終わり?”と何となく呆気なさと中途半端さを覚えた後に、疑問に残っていた部分を思い返すと点と点が繋がります。誰にも共感できないはずなのに、断片的にみると他人事のように思えず、私は大丈夫……? 本当に? と自分を顧み、ゾッとしました。どうか心が元気なときに、“自分を棚に上げて”読んでみてください。単なるイヤミス(※2)を越えた作品です。
※1……文庫化の際に『みんな邪魔』に改題
※2……イヤミス:読後に嫌な気分になるミステリーの略語
2.安部公房『砂の女』
砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められ、あらゆる方法で脱出を試みる男の物語。この作品は世界20数カ国後に翻訳紹介された言わずと知れた名作です。
安部公房の圧倒的な描写力が相まって、読者自身も砂の中に閉じ込められているかのような没入感を味わえます。というか、描かれた砂の感触や匂いの描写が秀逸すぎて、読んでいるだけで体に砂が纏わりつくような、口の中がザラザラしているような不快感まであるのです。