没入感がすごい……【TheBookNook #15】
極限状態に置かれた男の心情の移り変わりが恐ろしくホラーで、文章から伝わる湿気と渇きで息が詰まりそうにもなりますが、読後には、これが真理なのかもしれない……と納得せざるを得ない状況に読者も立たされます。気がついたときにはもうどう足掻いても抜け出せなくなっているほど恐ろしい引力のある、まるで蟻地獄のような、この不条理で閉鎖的で変態的な世界観が私は堪らなく好きでした。
「砂の家」でも「砂の男」でもなく、“砂の女”というタイトルに静かな怖さも感じます。後味は悪くも面白い不思議な作品です。
3.三崎亜記『30センチの冒険』
あらすじからは予測できない、しっかりと作り込まれたタイムリープ系ファンタジー。ヘンテコ鼓笛隊が街を蹂躙したり、本が意思を持って空を舞ったり、象の鼻が物差しになったり。そんな意表を突く奇妙な“異世界”に苦しむ人々を救うために立ち上がった主人公。
三崎ワールド全開の“世にないもの”の設定力や、それらを縦横に活躍させるプロット、この滅茶苦茶な世界をひとつの矛盾もなく描く筆力に改めて感心しました。
ジブリアニメのような個性豊かな登場人物達が、この先の見えない物語をぐんぐんと進めてくれる頼もしさも読み進める手を止めなかった理由かもしれません。