読む前には戻れない……五感に染みる活字の恐怖。【TheBookNook #28】
突然ワッと驚かすような直接的な怖さはあまりないので冷静に恐ろしい物語と向き合うことができます。
……とはいえ、この作品はモキュメンタリー。しっかりとボディに効いてくるので、いつもホラー作品を観たあとに引きずってしまう方、とくに一人暮らしの方は要注意。読後はそれらが実体験かの如く、映像や音が脳裏にこびりついてしまいます。
穢れは感染し拡大する。そして繋がっていく。果たして、自分が今住んでいる土地には、今立っているこの場所には、どんな人や物が在ったのか……。読んでいる間よりも読み終わった後のふとした瞬間にじわじわ手を伸ばしてくるタイプの絡みつく恐怖を味わいたい方はぜひ。
こちらも自己責任でお願いします。
3.アンナ・カヴァン/山田和子訳『氷』
本作品は、巨大な氷に覆われて破滅に向かう世界で“少女”を追い求める男の物語……とでもいいましょうか。
楽しさはすぐ不和に……その逆もしかり。とにかく読み手の感情を一瞬たりとも安定させてくれません。主人公の幻覚らしきシーンがナチュラルに混ざってくるため、場面の移り変わりも多く序盤は少し迷子になるかもしれませんが、気づけば残り数ページ。こんなにも不穏で不安定な恐ろしい物語を、するすると読めてしまえた自分に読後は寒気を覚えました。