思うようにならない現実にイラッ。読んでおくべき小説3選
仕事、結婚、育児。思い描いていた理想像とかけはなれ、うまくいかない。夫や子ども、上司や同僚、周りの人にモヤモヤ、イライラして不満をぶつけたくなる。“あるもの”よりも“ないもの”を数えてしまうのはなぜ。
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今回紹介する小説には、あれこれ思い悩み、現状に嫌気がさしている人が数多く登場します。でも、なぜか読むうちに心温まってきます。
■ある共通点を持つ男女7人の物語
1冊目は、角田光代の
『ひそやかな花園』(毎日新聞出版、講談社文庫)。
子どものころ、家族ぐるみのサマーキャンプに参加して知り合った7人の男女。
数年続いたキャンプがなくなってからは会うこともなく、それぞれ成長して大人になります。あるとき、いくつかのきっかけが重なり、再会します。
ミュージシャン、フリーター、専業主婦、イラストレーター、御曹司など彼らの職業はさまざま。既婚者もいれば、未婚で恋人のいる人もいない人もいます。親との関係がうまくいっている人もいない人も。
7人の共通点である、子ども時代楽しかったキャンプの意味とは。彼らの人生に影響している驚きの宿命とは…。
この小説の魅力は、いかにして試練を乗り越えるかではなく、もう一歩先に踏み込もうとしているところにあります。
望んだものが手に入ったとしても、入らなかったとしても、その先にあるものを問いかけられます。
■悲しみをつつみこむのは、日常生活の明るさとやさしさ
2冊目は、よしもとばななの
『もしもし下北沢』(毎日新聞出版、幻冬舎文庫)。
主人公よしえの大好きな父親が、愛人との無理心中で亡くなってしまう。ショッキングなできごとから1年後、よしえは下北沢で新しい生活をスタートさせます。
よしえ以上にショックから立ち直れていない母親。二人はほっとしたり楽しい気分になるできごとを通して、悲しみを引きずりながらも少しずつ元気を取り戻していきます。
よしえはとても素直で健気で真面目。みんなに愛されます。
よしえの目線で進む物語は嫌みがなく、押しつけがましさもないので、気もちよく読むことができます。