いま子育て奮闘中の現役父母の現場の声と、乳幼児教育に関する専門家のアドバイスなどが収められているドキュメンタリー映画
『いのちのはじまり:子育てが未来をつくる』。
育児のヒントをくれるテキストとしての役割を持つとともに、重大な
未来への提言も行われています。それはこれからの社会の根本に関わること。よりよい平和な社会を築こうと思ったら、きちんと子どもたちの権利を守る社会を作らないといけないということです。
■「将来の夢がない」と答える世界の子どもたちの現実
映画の後半で、切実に訴えるのは
貧困が子どもに及ぼす影響。たとえば、ひとりで幼い妹弟のめんどうをみる小学生の少女に、「“将来の夢”は?」と聞く場面があります。少女の答えはひとこと
「夢はない」。
それを受け、作品はこう続けます。「危険な環境や厳しい状況で生きる子どもたちは、たまに悪い日があるのではなく、
年中それが続くと思う。そのような状況下ではポジティブな対話は成立せず、大きなストレスがかかる」と。さらにこうした状況下では、「うつ病や薬物乱用、深刻な精神疾患などになる
リスクが高まる」と警鐘を鳴らします。
こうした調査結果を踏まえた上で、作品が示すメッセージは「これからの未来を築くであろう
子どもたちの未来を守ることが、最終的に豊かな社会を築く礎になること」。
ある人はインタビューで訴えます。「育児をするのは政府でも施設でもない、
人間が子どもを育てるのです。大事なのは大人が子どもに必要なものを与えてあげること。ただ、いまの社会は、それを訳あってできない親を処罰することはあっても、助けようとしない」。
さらにこう続けられます。「子どもを助けるには、まず
親を助けなくてはならない。育児に仕事に頑張っている人は
不平等に思うかもしれない。“それができない人の責任まで負えない”と。
ただ、長い目でみたとき、自分の子どもが将来良い人生を送るには、
社会に尽くす人間が同世代にどれだけいるかが重要なんです」と。こういわれると思わずだれもが納得するのではないでしょうか。
■子どもへの投資は、アメリカの株式市場よりも高い
子どもの未来を守ることについて、ユニークな研究報告も。いかにもアメリカらしい研究なのですが、
乳幼児に1ドル投資した場合の利益を調べたそう。
すると結果は、1ドル投資すると生涯7ドルが戻る計算になったとのこと。これはアメリカの株式市場よりも
ずっと高いリターン率だそうです。くわえて、犯罪は減り、社会の不平等も軽減するとの結果も出ているということから、乳幼児の投資はいいことずくめ! 作品では、「子どもへの支援は、よりよい
社会への投資」と訴えます。
こうしたリポートを耳にすると、私たちを取り巻く子どもたちの環境を当てはめて考えずにはいられません。
とくに、子育て世代にとっては無視できないのではないでしょうか?
ひとりの子を持つ親として自分もこれまでの経験を振り返ると、「保育園に入れる」ただこれだけで、どれだけの労力を必要としたことか…。
待機児童問題は、相当以前からあるはずなのに、いっこうに解消されていない。最近のニュースを見ても、子どもをめぐる状況はいい方向へ向かっているとはいいがたいのではないだろうか。
日本では、毎日の食べ物がない、戦争により生死があぶない。こういったことはないかもしれません。それでも、所得格差による
教育格差問題は、社会問題となっています。
選挙で子育て支援や教育の充実はよく公約にあがる。でも、本当に実行されているかといったら、正直かなり疑問が残るのが現実ではないでしょうか。
保育園の増設を訴えて、実際に保育園の開設が予定されても、周辺住民の反対運動が巻き起こって白紙に戻ってしまう。公園で子どもがちょっと大きな声を出しただけで、区役所に苦情が寄せられる。身の危険や周囲の反感を恐れてマタニティマークをつけない妊婦が増えている現状など、日本のあちらこちらで子どもをめぐる
“現在”が次々と浮かびあがります。
もう少しだけ「子どもに理解を示す寛容な社会に日本はなれないのか?」と、考えずにはいられないのは自分だけではないはずです。この作品が
子どもの未来について考えるきっかけになってくれることを切に願います。
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