ドキュメンタリー映画「おしえて! ドクター・ルース」より
長きにわたり、クローズされてきた「性」に関する教育が、今日本では少しずつ動き出して、あちこちで取り上げられるようになってきた。SNSが発達し、「me too」運動など、隠された性に関する情報発信を女性も男性も積極的に行い、皆が関心を寄せるようになったことは、性教育活動を行なっている筆者としても、とても喜ばしいことだ。
「性教育」を行う意味は、性に対するトラブルを少なくする、回避することが大きな目的として挙げられるが、性の知識を得た上でその先に繋がるもの・・・それは、セックス(=性行為)だということを忘れてはならない。
セックスは子孫を残すために必要な行為で、愛情を確かめ合う大切な行為でもある。セックスは、LGBTのことや、避妊、中絶など、深い問題が絡み合う。
ようやく「性教育」も色眼鏡ではなく、ひとつの立派な教育だという意識を持つ人が増えたが、セックスに関してはまだまだ「下ネタ」という粋を出ない。セックスに付随する問題とは切り離し、セックスの行為そのものに焦点が当てられやすいのも事実だ。セックスの問題を声高に発信したり、人とシェアするという人は少ない。
非常にプライベートなことであり、人前で話すことなんて恥ずかしいこと、という風潮がまだまだ強い中、
セックスセラピストを主人公にした興味深いドキュメンタリー映画がアメリカから上陸。
非常に難しい問題のはずなのに、このユーモアのある主人公が、痛快に人生とセックスについて語る姿は、性教育が盛り上がり始めている今の日本には、私たちには、考える機会を与えてくれるはずだ。今回はこの映画についてご紹介したいと思う。
■性の問題に人生をかける
91歳のセックス・セラピストの生涯
その映画とは、2019年サンダンス映画祭出品作、
「おしえて!ドクター・ルース」。主人公は、ホロコーストの孤児であり、元スナイパーでシングルマザー、3度の結婚を経験しているという
壮絶な人生を歩んできた
91歳で現役のセックスセラピスト。8月末にロードショーしたが、この映画が話題を呼んでいる。
セックスに関する悩みをラジオ番組で放映するという企画をきっかけに、全米にその性について語る場が広がっていくのだが、それを聞くと、性に対する悩みに焦点を当てた映画なのかな、という印象を受けるが、この映画はそれだけではない。
彼女の生い立ちは非常に過酷で、ナチスドイツ時代にあった幼少期から映画は始まる。両親や親戚を失い、幼い頃から自立を余儀なくされたルースは、激動の幼少期、少女期を過ごしながら、国を渡り歩き、その中で恋愛を重ねながら、目の前にある問題を見過ごせず、勉強しながら自身の子どもを産み育てる。
セックスの話から始まるのかと思っていた方は、不意をつかれるだろうが、この激動の展開にグッと引き込まれるはず。
現代とドクタールース幼少期の時代とは比べ物にならないくらい、社会背景が違うし、変化しているわけだが、いつの時代においても
「ぶれずに」「物事に取り組み」「人のためになることをする」という姿は私たちに勇気を与えてくれる。
ストレス社会で悩み抜く現代人には、ぜひ観てもらいたい
「今」を生き抜くヒントがぎゅっと濃縮された壮大なドキュメントとなっているのだ。
■子育てのヒントにもなる、ルースのたくましい生き方
今、筆者はまさに性教育をしながら、娘2人を育てている。子どもの意思をもっと尊重し、
自立心を養い、
自分のことを大切に思うような子どもに育てるためには、「自分で考えて行動する」ということが重要だと思うが、これがなかなか難しい。
ウェルネス&ビューティジャーナリスト久保直子(筆者)が主宰する性教育ワークショップ『SEIJUKU』(生塾)の風景。
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ドクタールースのように、幼い頃に自分自身で立って歩くことを覚えさせられた人間は強く、転んで失敗しながらも、自分で立ち上がり、自分のやりたいことを一身に貫くという、社会で生き抜く姿は、
子育てのヒントにもなる。
ルースがとても素晴らしいのは、悲惨な生い立ちにも関わらず、恋をし、
人生を謳歌していることだ。自身で進む、歩く、ということを身につけてきた彼女は、とても魅力的に映る。しかも明るく、楽しそうに91歳を迎えた今も生きている。
当時、オープンなアメリカにおいても、性のことをはっきりと口に出す人は少なく、ルースは
性教育のパイオニアとして、81年、セックスセラピストとして開業する。
52歳の時「セクシャリー・スピーキング」でラジオデビューし、そのサバサバとした口調で悩みを解決していく姿に誰もが注目。歯に衣を着せぬ言い方が痛快で、性の問題に悩む男女の間で人気に火がつき、活躍の場がどんどん広がっていく。
きっともっと深刻な時代だったに違いないのだが、ドキュメンタリーのどの場面も、笑いに包まれていて、自分の失敗とともに愛情あふれる豊かな人生を背負っているルースの姿からは、たくさんのことを感じることができる。
性教育をがんじがらめに行うのではなく、
ユーモアとともに、あふれる愛情で行う、ということの素晴らしさを私は学んだ気がする。それが娘たちにどう受け入れられるかは別として、この映画をきっかけに多くの人が性について語れるようになったらいいなと思う。
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