2023年3月16日 21:05
チカ キサダ 2023年秋冬コレクション - 舞台、あるいは身体と幻想
したがって、チカ キサダがバレエをデザインの源泉としてチュールをふんだんに用いるのは、まさしく身体と幻想というこの二重の極を基底にすることにほかならない。身体の動きに合わせて揺らめいてはふと留まり、一瞬の余韻を残してまた動きだすチュールは、ラッフルを寄せたボリューミーなドレスやスカート、スリーブを大胆なフォルムに仕上げたコートなどに用いられている。そしてボリュームのあるフォルムを織りなすチュールがその下に素の身体の姿を透かして見せるところに、現実と幻想、これらふたつの意味で、身体の張り詰めた緊張が流れている。
いま、身体における現実と幻想の交錯と記した。これは、クリノリンを彷彿とさせる装飾にも流れ込む。19世紀のヨーロッパで流行したクリノリンやバッスルは、その骨組み状の構造でもってスカートの下に隠され、身体から遊離した曲線的で大胆なシルエットを作り出した。つまり、現実の身体に構造物を施すことで、衣服の造形を、いわば空想的な域にまでデフォルメすることになる。翻ってチカ キサダにおいてクリノリンは、ドレスの下に隠蔽されることなく、その構造を生のままで白日の下に晒す。
その骨組みが厳しい緊張を湛えるのはこのためだ。