2022年12月26日 15:50
自由に、心のままに絵筆を動かす「芸術家・蛭子能収」という原点回帰
中腰の姿勢のまま、一心不乱にキャンバスと向き合う蛭子さん
記憶力や言語能力から感情、気力、時間や季節の認識……。認知症は、健康だった人からさまざまなものを奪い去る。漫画家でタレントとして異彩を放っていた蛭子能収さん(75)からも多くの「才」を抜き去った。シュールで暴力的な不条理作品を描き「狂気を内側から描く人」と称された鋭才。空気の読めない言動をするも“どこか憎めないおじさん”としてテレビの世界で活躍した奇才も、認知症という病はかすめとっていったーー。
そんな蛭子さんが、22年12月某日、まっさらなキャンバスに向かい合っていた。右手に握るのは絵筆。目の前には色とりどりのアクリル絵の具が並ぶ。
彼が絵を描くことに目覚めたのは、生まれ故郷の長崎商業高校で「美術クラブ」に入ったとき。夢中だった。楽しかった。
「真っ白なキャンバスに赤い線を1本ひいただけでも絵として認められるのがよかった」とかつてを振り返り語っていたことがある。
その美術クラブで、ある部員が投げ出した作品を蛭子さんもふくめ仲間がいろんな絵の具を使って『テキトー』に完成させたことがある。その作品は、コンクールで評価され、ポスターとなって日本全国で使われることに。