袴田事件 袴田巖さんの姉・ひで子さん「夢は巖と海外旅行。えん罪被害に終止符を!」
目を閉じる巖さんの表情は、実に気持ちよさそうだ。
「巖はね、今でも時々トンチンカンなことを言います。出所して6年間は、『バイ菌がはびこらないようにパトロールする』と言って、休まず毎日、何時間も街を歩き回ってね。だけど、数年前に石段から落ちてケガをしてからは、支援者の方々が“見守り隊”を結成して、毎日交代でクルマを出してくれているの」
巖さんには、長期収監による“拘禁反応”がある。ひで子さんや支援者の手厚いケアによって症状は和らいでいるものの、今もなお妄想と現実の世界を行き来しているのだ。そんな巖さんは、裁判の行方を、どう感じているのか。
「巖には、裁判のことは一切、話しません。巖は“もう裁判は終わった”と思っていますから」
ひで子さんは、そう言って巖さんを気づかう。
ヒゲを剃り終えた巖さんは、次にティッシュペーパーを一枚一枚ていねいに広げ、それを再び重ねていく。これが、ドライブに行く前の準備なのだ。その様子を、急かすことなくそばで黙って見守るひで子さん。「巖は、48年間の収監で大変な苦労をしてきたわけだから、思うようにさせてやろうと思ってね。巖がローマに行きたいと言えば、『よし、ローマに行こうね』と言って、京都や東京まで足を延ばして、それらしいところに連れていくんです」