2023年9月3日 10:30
憧れの二役に初役で挑む松本幸四郎。「僕の身体を通して叔父のすごさを知っていただきたい」 歌舞伎座新開場十周年「秀山祭九月大歌舞伎」
前と後で変化するその根底にある陰の表現、そこを魅力的にお見せしたい」
もう一役『一本刀土俵入』の茂兵衛は一文無しで腹を空かせた取的。取手の旅籠でひょんなことから酌婦のお蔦と出会う。その十年後、茂兵衛は角力ではなく渡世人となって再びお蔦の前に現れる。
「純粋というか純朴というか、そんな言葉では表わせない人物です。腹をすかせていた取的が立派な人間になって再会するというのならよくあるストーリーなんですが、そうではないというのがこのお芝居の面白いところであり人間らしいところ。偉い人がひとりも出てこない、茂兵衛も含めて皆普通の人たちなんですよ」
染五郎時代には掘下根吉として、渡世人となった茂兵衛(二世吉右衛門)と対峙した。
「叔父の茂兵衛は大きさがありました。同時に、扮装はまさに渡世人ですが、ただカッコよくなった、と言うだけではない。
本当は立派な角力とりになりたかった、という気持ちをどこか引きずっている人なんです。それが叔父によってち密に構成されているように感じました」
前半と後半で茂兵衛の外見も境遇も大きく変わるが、「人としての根っこの部分は変わっていないんでしょうね」と語る。
「歌舞伎では前と後とでの変わり方が大事ですが、茂兵衛は本当に全くの渡世人になったわけではないと思うのです。